バカとE組の暗殺教室   作:レール

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まさかの時間

〜side 渚〜

 

イトナ君が転校してきて初日の夕方、彼が暗殺の時間として指定した放課後の時を迎えていた。それに合わせて教室の様子も変化しており、教室にある机を移動させて殺せんせーとイトナ君を取り囲むようなリングが作られている。これじゃあ暗殺じゃなくて試合だ。

 

「ただの暗殺は飽きてるでしょ、殺せんせー。ここは一つ、ルールを決めないかい?リングの外に足が着いたらその場で死刑‼︎ どうかな?」

 

シロの提案は余りにも単純明快で、それでいて冗談のような内容だった。そんなルール、普通なら受け入れるわけがない。皆もそう思ったようで否定的な声が聞こえてくる。

 

「……なんだそりゃ。負けたって誰が守るんだ、そんなルール」

 

「……いや、皆の前で決めたルールを破れば()()()()()の信用が落ちる。殺せんせーには意外と効くんだ、あの手の縛り」

 

杉野の呟きに、しかしカルマ君はシロの提案を認めていた。確かにそう言われると殺せんせーにルールを守らないという選択肢はないし、これまで僕らの暗殺を受け入れてきたようにルールを拒否するということもないだろう。

その予想通りに殺せんせーはシロの提案するルールを受け入れていた。

 

「……いいでしょう、受けましょう。ただしイトナ君、観客に危害を与えた場合も負けですよ?」

 

上着を脱ぎ捨てて身軽になったイトナ君は、殺せんせーの追加ルールに黙って頷く。これでお互いに同意したルールが出来上がった。いよいよイトナ君の暗殺が始まると思うと、教室内を彼の登場時以上の緊張感が包み込む。

そんな中、リング内で対峙する二人の様子を確認したシロが片手を上げる。

 

「では合図で始めようか。暗殺……開始‼︎」

 

 

 

その言葉とともにシロの片手が上から振り下ろされた瞬間、殺せんせーの腕が斬り落とされた。

 

 

 

誰もがその光景を前に唖然として目を離すことが出来なかった。先生の斬り落とされた触手ーーーではなく、その触手を破壊したイトナ君の信じられない変化に。

そして()()を見て最も動揺していたのは恐らく対峙する殺せんせーだろう。先生はあり得ないものを見たような驚愕の表情を浮かべながら、呆然とした様子で()()を見据えて呟いた。

 

 

 

「……まさか…………触手……⁉︎」

 

 

 

そう、殺せんせーの触手はイトナ君が頭から生やした触手によって斬り落とされたのだ。

でもこれでイトナ君の疑問に色々と納得がいった。触手を生やすためか触手が生えたためか、どちらかは分からないけど触手を手に入れる段階で壁に打ち勝てるほどの肉体強化をされたのだろう。一滴も雨に濡れていなかったのは触手で雨粒を全部弾けるからだ。坂本君の仮説だと触手の弱点である水も粘液である程度は防げる可能性が高いらしい。

 

「ーーーこだ」

 

そんな風に驚きながらも何処か客観的な部分で疑問を晴らしていると、殺せんせーから低い声音の呟きが聞こえてきた。

その呟きに不穏な気配が混じっているのを感じ取った瞬間、殺せんせーの顔色が真っ黒に染まる。

 

「何処でそれを手に入れたッ‼︎ その触手を‼︎」

 

小さな呟きから激しい怒号となって先生の怒りが二人にぶつけられた。

こうして殺せんせーが顔色を黒くするほど怒っている姿を見るのは三回目だけど、生徒(僕ら)に関係なく怒っている姿を見るのはこれが初めてだ。いったい何が先生をそこまで怒らせているのか、僕らには想像することも出来ない。

だけどその怒りを直接向けられているイトナ君とシロは動じた様子もなく平然としている。

 

「君に言う義理はないね。だがこれで納得しただろう。両親も違う。育ちも違う。だがこの子と君は兄弟だ」

 

そんなシロの言葉を聞いた殺せんせーは顔色を黒く染めながらも落ち着いたようで、斬り落とされた触手を再生させて冷静な声音で問い返した。

 

「……どうやら貴方にも話を聞かなきゃいけないようだ」

 

「聞けないよ。死ぬからね」

 

殺せんせーの威圧を物ともせずにシロは何処までも淡々と答え、自身の左腕を持ち上げて先生へと向ける。

その白装束の袖口から光が放たれると殺せんせーの身体が硬直した。これには殺せんせーも驚きを隠せないでいる。

 

「この圧力光線を至近距離で照射すると、君の細胞はダイラタント挙動を起こして一瞬だけ全身が硬直する。全部知っているんだよ。君の弱点は全部ね」

 

「死ね、兄さん」

 

よく分からない現象によって先生の動きが止められた隙を逃さず、その場で跳び上がったイトナ君が幾本もの触手を殺せんせーへと叩き込んだ。更にその一度だけでは終わらず連続して自身の触手を叩きつける。

 

「殺ったか⁉︎」

 

「……いや、上だ」

 

殺られたかのように見えた殺せんせーだったが、寺坂君の言葉で視線を上へと向ければ蛍光灯に絡み付いている先生の姿があった。

そしてイトナ君の触手の先には殺せんせーの形をした薄い膜ーーー先生の脱皮した皮が貫かれている。月一でしか使えない殺せんせーのエスケープ技をこんなにも早く使わせるなんて……

 

「脱皮か……そういえばそんな手もあったっけか。でもね殺せんせー、その脱皮にも弱点があるのを知っているよ」

 

それでも手を緩めることなくイトナ君の触手は殺せんせーに猛威を振るう。

シロの解説によれば触手の再生も脱皮もエネルギーの消耗が大きいらしく、その直後は先生自慢のスピードも低下するというのだ。相手が人間ならばいざ知らず、触手同士による戦いでの影響は決して小さくないだろう。

加えて触手の扱いは精神状態に左右されるそうで、予想外の触手による奇襲と立て直す暇もない狭いリングという環境が殺せんせーを確実に追い詰めていた。

あの殺せんせーを殺せるかもしれない。そのために作られた暗殺教室で、それで地球は救われる……なのにこの状況で僕が感じていたのは嬉しさではなく悔しさだった。

後出しのように出てきた殺せんせーの弱点。その情報を集めるのにどれだけの暗殺を繰り返してきたことか。これでは今まで何のために頑張ってきたのか分からない。地球がどうとか関係なく、殺るんだったらE組(僕ら)が先生を殺したかった。

そんな僕の個人的な感情など関係なく、緻密に計算されたイトナ君の暗殺は止まらない。

 

「この時点でどちらが優勢なのかは生徒諸君の目にも一目瞭然だろう。さらには献身的な保護者のサポート」

 

シロが再び左手を掲げて殺せんせーに特殊な光線を浴びせようとしーーーその光線が先生に浴びせられることはなかった。

別に機械の故障とか殺せんせーが何かをしたわけじゃない。それは僕のような何も知らない素人であっても断言できる。じゃあどうして光線が浴びせられなかったのかというと、

 

「……これは何の真似かな、吉井君?」

 

「いやぁ……そっちが献身的な保護者のサポートだっていうなら、こっちは自己中な生徒の我が儘ってところですよ」

 

殺せんせーへと向けられていたシロの腕を、吉井君が横から抑え込んでいたからだ。

リング内で殺せんせーとイトナ君の触手による高速戦闘が激化する傍ら、リング外で吉井君とシロの視線が静かに交錯する。

 

「……君は地球が救われなくてもいいって言うのかい?まさかとは思うが、このやり方が卑怯なんて言うつもりじゃないだろうね?」

 

「まさか。卑怯汚いは敗者の戯れ言。触手を持っていようが不思議な光線を使おうが僕に文句はありません」

 

ただしお互いに静かなのは声音だけで、交錯する視線は強くぶつかり合っていた。どちらにも引く気配は全くと言っていいほどない。

 

「……理解できないな。ではどうして邪魔をするんだい?」

 

「さっき言ったじゃないですか。これは僕の我が儘なんですよ。だってこの暗殺はイトナ君の暗殺であって、シロさんの暗殺じゃないでしょう?ルールを決めておいてルール外から貴方だけ一方的に、なんて勝負に水を差してるっぽくて好きじゃないだけですから」

 

地球の危機を救えるかもしれないという状況で、それでも自分の感情を優先して動く。大多数の人間から見れば愚かな選択にしか映らないそれは、E組(僕ら)望み(殺意)を代表するようでいて実に吉井君らしい選択だった。

だけどそれはあくまで僕らの望みであって、大多数の人間には望まれない選択であることも分かっている。当然ながら戦っているイトナ君や暗殺を計画したであろうシロにまで届くような感情じゃない。

 

「……なるほど、だったら問題ないよ。サポートしてる時点で私は観客じゃないからね。殺せんせーも私が邪魔なんだったら先に排除すればいい」

 

「ハッ、ここまで周到に用意してきた奴が何言ってやがる。その辺の対策も万全だから堂々としてんじゃねぇのか?」

 

どこまでも飄々とした態度を崩さないシロに対して今度は坂本君が横から口を出す。

確かに坂本君の言う通りだ。殺せんせーのことを全部知っているという彼の言葉が本当ならば、あの光線のような攻め手だけじゃなくて何かしらの防ぎ手があってもおかしくないだろう。

その推測を肯定するかのように吉井君の手を振り払ったシロは肩を竦めて笑みを漏らした。

 

「……フッ、ご名答。実はこの白装束、対先生繊維で編み込まれているから殺せんせーには触れることすらできない。排除しにきてくれたら逆に触手を破壊できたんだが……私の発言を聞いた瞬間に攻撃してこなかったところを見るにその展開は望み薄だろうね」

 

もしシロの展望通りになっていたら殺せんせーは意図せず触手を破壊され、動揺している隙を突かれてイトナ君が暗殺を成功させていたかもしれない。

吉井君の発言を受けて瞬間的にそこまで思考したのだとしたら凄いけど、その吉井君はシロに利用されそうになったことを知るとピクッと小さく反応を示した。

 

「……つまり僕の行動も暗殺に組み込もうとしたってことですか。だったら僕がこんな行動に出ることは予想できましたか?」

 

そう言うと吉井君は懐から対先生ナイフを取り出して構える。この流れで吉井君が殺せんせーの暗殺に加わるとは思えない。となるとその使い道は……

 

「……正気かい?割り込んだら君もイトナの攻撃対象になるよ?そもそも君が殺せんせーに加勢する理由はないように思うが」

 

「まぁそこはなるようになるでしょ。理由なんてもんは気持ちの後付けですよ。僕はやりたいようにやります」

 

やっぱり……吉井君の狙いは殺せんせーじゃなくてイトナ君だ。確証はないけど対先生ナイフが先生の触手に対して有効なんだったら、イトナ君の触手に対しても同じく有効である可能性はかなり高い。

今もなお触手同士の高速戦闘は続いているけど、それは触手の速さであってイトナ君の動き自体はまだ目で捉えられる速さだ。吉井君は対先生ナイフを構えたまま真剣にリング内を観察し、

 

「殺せんせーッ‼︎」

 

腕を振りかぶって放たれた対先生ナイフが綺麗な直線を描いてイトナ君の頭部から生えている触手へと狙い違わず放たれる。コントロール・スピードともに申し分のない一投だった。

でもイトナ君の目は少なくとも高速で動く触手を捉えられる程度の動体視力を備えていることは間違いない。視野も広いのか気配で察知したのか、迫り来るナイフに見向きもせず最小限の頭の動きだけでそれを回避し、

 

 

 

 

 

次の瞬間にはイトナ君の触手が根元から斬り落とされていた。

 

 

 

 

 

初めてイトナ君の顔に驚愕の表情が浮かぶ。それはそうだ。確実に対先生ナイフを躱したと思っていたのにそれが直撃すれば誰だって驚く。いや、それ以上に殺せんせーと同じく触手を破壊されたことでの動揺も大きいのだろう。

その躱したはずの対先生ナイフはと言えば、通り過ぎていったはずの教室の反対側には来ていない。空中で忽然と消えたのだ。ではそのナイフはいったい何処へ消えたのかというと、

 

「吉井君、意図は分かりましたが何の工夫もなく対先生ナイフを投げられると先生も掴めませんよ」

 

「あ、そこは考えてませんでした」

 

対先生ナイフの柄の部分をハンカチで包み込み、直接触れないようにした殺せんせーの触手が握っていた。イトナ君がナイフを回避するために一瞬だけ止まった攻防の隙を突き、先生は空中でナイフを掴み取って間髪入れず振り抜いたのだろう。

烏間先生の最初の体育の時間で見せた吉井君と坂本君のコンビネーション技だ。ナイフを投げる直前に吉井君が先生の名前を叫んだのはそれを伝えるためだったのかもしれない。

と、そこで動きが止まっていたイトナ君を殺せんせーは自身の脱皮した皮で包み込んで拘束していた。

 

「シロさん、貴方にとって生徒が直接介入してくることは予想外だったでしょうね。何せ先生として交流のある私でさえもちょっと予想外でしたから。予測できない相手というのはそれだけで厄介なものです」

 

殺せんせーの言う通り、地球の危機を無視してまで暗殺の邪魔をしてくるような行動をするとは誰も考えないだろう。僕も今回の暗殺を見て悔しくは思ったけど、それを解消しようとして行動に移せるような行動力はなかったからね。

 

「しかし今回はそれが私にとって吉と出ました。この暗殺は私の勝ちです」

 

先生は脱皮した皮で包み込んだイトナ君が暴れるのを無視して勢いよく振り回すと、そのまま窓の方に投げ飛ばして窓を破壊しつつ外へと放り出した。

 

「先生の抜け殻で包んだからダメージは無いはずですが、君の足はリングの外に着いている。ルールに照らせば君は死刑。もう二度と先生を殺れませんねぇ」

 

そういえばそんなルールで暗殺を始めたんだったっけ。殺せんせーは顔色を緑の縞々に変化させてニヤニヤと笑っている。

 

「生き返りたいのならこのクラスで皆と一緒に学びなさい。同じように触手を破壊されても私が君の攻撃を凌げたのは偏に経験の差です。この教室で先生の経験を盗まなければ君は私に勝てませんよ」

 

まぁ先生がE組に入った生徒を見殺しにするわけないよね。殺せんせーほど生徒と真摯に向き合っている先生なんて滅多にいないし。

さて、そんな殺せんせーの言葉を聞いたイトナ君はどんな反応をするのか……

 

「勝てない……俺が、弱い……?」

 

成り行きを見守っていた僕らだったけど、そこでイトナ君の様子がおかしいことに気付いた。

触手のつるんとしていた表面が筋張り、彼の髪色と同じ白色だったものが黒く変色していく。あれは殺せんせーが怒りを抑えきれず顔色を真っ黒に染めるのと同じ……‼︎

 

「黒い触手⁉︎」

 

「やべぇ、あいつキレてんぞ‼︎」

 

イトナ君は血走った目で外から一気に跳躍してくると、壊された窓の縁に降り立って殺せんせーを睨みつける。

 

「俺は、強い。この触手で、誰よりも強くなった。誰よりも…………ガァッ‼︎」

 

怒り任せに雄叫びを上げて突っ込んでくる彼に何を思ったのか、殺せんせーは黙ったまま静かにイトナ君を待ち構えーーーピシュンッという鋭い音とともにイトナ君は崩れ落ちてしまった。

 

「……すいませんね、殺せんせー。どうもこの子はまだ登校できる精神状態じゃなかったようだ。暫く休学させてもらいますよ」

 

あの光線とは反対の右腕の袖口から麻酔銃のようなものを突き出したシロが、二人の間に割って入って崩れ落ちたイトナ君を担いで行ってしまった。

もちろん殺せんせーもシロの暴挙を放っておけず留めようとしたが、力尽くで止めようにも対先生繊維で覆われた彼の身体に先生は触れることすら出来ない。

イトナ君を担いで立ち去るシロの背中をただ眺めることしか出来ず、触手同士の激闘による暗殺は多くの謎を残したまま失敗に終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

〜side 明久〜

 

イトナ君の暗殺が終わった後、僕らはリングとして使用されていた机を並べ直したり壊された窓際の掃除をしたりして片付けに当たっていたんだけど……

 

「……何してんの、殺せんせー?」

 

「さぁ……さっきからああだけど」

 

何故か殺せんせーは教卓の椅子に座り、顔を俯かせて両手で覆いながら“恥ずかしい恥ずかしい”と連呼しているのだ。せめて自分が壊した窓の片付けくらいは手伝ってほしい。

 

「シリアスな展開に加担してしまったのが恥ずかしいのです。先生、どっちかと言うとギャグキャラなのに」

 

「自覚あるんだ‼︎」

 

寧ろ自覚なしにやっていたら処置のしようがないけど、それはそれで自分のキャラを計算してるってことだからなんか腹立つ。しかしいったい何処までが計算で何処までが天然なのかが分からない。普段の振る舞いは馬鹿なのに……もしかしてそれもキャラ作りなのか?

しかしそんな緩い空気もイリーナ先生の言葉で一気に緊張を帯びることとなる。

 

「……でも驚いたわ。あのイトナって子、まさか触手を出すなんてね」

 

その言葉を切っ掛けに殺せんせーの恥じらいは収まった。それだけじゃなく片付けをしていた皆の手も止まり、教室全体の音が消え去って視線が座っている殺せんせーへと集まる。

 

「……ねぇ殺せんせー、説明してよ。あの二人との関係を」

 

「先生の正体、いつも適当にはぐらかされてきたけど……あんなの見たら聞かずにいられないぜ」

 

そう、ぶっちゃけ殺せんせーのキャラ作りなんてどうでもいい。聞きたいのは殺せんせーの正体という暗殺教室の根幹に関わる情報である。殺せんせーの生徒として先生のことを知る権利くらいはあるはずだ。

皆に詰め寄られた殺せんせーは暫く沈黙を貫いていたが、観念した様子でゆっくりと椅子から立ち上がって言葉を発する。

 

「…………仕方ない。真実を話さなくてはなりませんねぇ。実は先生……」

 

殺せんせーの語りが始まったことで、全員の生唾を呑む音が聞こえてくるような気がした。それほどまでに心して聞く必要のある核心に迫った話だ。一言も聞き逃すわけにはいかない。

 

「実は先生……人工的に造り出された生物なんですよ‼︎」

 

「な、なんだって……⁉︎」

 

余りにも衝撃的な情報に僕は一人で驚愕の声を上げてしまった。まさか殺せんせーが造られた存在だったなんて……

……ん?あれ、驚いてるのは僕だけ?もしかして余りにも衝撃的な情報だったから皆は言葉すら失ってるんだろうか?

不思議に思いながら視線を殺せんせーから周りに移すと、皆は目を点にさせて困惑顔を作っている。え、その反応は何?

 

「…………だよね。で?」

 

「にゅやッ、反応薄っ‼︎ これ結構な衝撃告白じゃないですか⁉︎」

 

「そうだよ‼︎ なんで皆そんなに冷静なの⁉︎」

 

皆の反応に僕と殺せんせーは訳が分からず別の意味で驚愕の声を上げてしまった。

そんな僕らの問い掛けを受けても皆の薄い反応は変わらない。

 

「……つってもなぁ。自然界にマッハ二十のタコとかいないだろ」

 

「宇宙人でもないのならそん位しか考えられない」

 

「で、あのイトナ君は弟だと言っていたから先生の後に造られたと想像がつく」

 

「分からないのは明久(馬鹿)くらいなもんだ」

 

察しの良すぎる皆が恐ろしい……じゃあ皆は殺せんせーが人間社会に慣れてる理由も含めて全て見当が付いてたってことなのか。くっ、流石は腐っても名門校の生徒。僕も劣ってるわけじゃないけど皆と比べたらほんの少し考えが足りないな。

そうなると皆からしたら当たり前の疑問が分からないってことで恥ずかしくて質問できないぞ。こうなったらこの疑問については自分で答えを導き出すしか……まぁ我が事ながら明日には気にしてなさそうだけどね。

一通りの反応が薄かった種明かしを終えた後、E組を代表して渚君が皆の前に出てきた。

 

「知りたいのはその先だよ、殺せんせー。どうしてさっき怒ったの?イトナ君の触手を見て……。殺せんせーはどういう理由で生まれてきて、何を思ってE組(此処)に来たの?」

 

今度こそ誤魔化しの利かない問い掛けで殺せんせーの核心に迫る疑問をぶつける渚君。

だけどその問い掛けに殺せんせーが答えを返すことはなかった。返ってきたのはいつもの陽気な笑みではなく、周りを威圧するかのような獰猛な笑みである。

 

「…………残念ですが、今それを話したところで無意味です。先生が地球を爆破すれば、皆さんが何を知ろうが全て塵になりますからねぇ」

 

確かに先生を殺せなかったら正体を暴いたところで意味はない。これは暗殺をしている僕らの純粋な疑問であって、その疑問を晴らしたところで何がどうなるわけでもないのだ。殺せんせーが地球を破壊するんだったら僕らはどうあっても殺すしかない。

 

「逆にもし君達が地球を救えば、君達は後で幾らでも真実を知る機会を得る。もう分かるでしょう。知りたいならば行動は一つ……」

 

こんな時に殺せんせーが言うことは大抵決まっている。いつもの表情に戻った先生は皆を見回し、

 

「私を殺してみなさい。暗殺者(アサシン)暗殺対象(ターゲット)。それが先生と君達を結びつけた絆のはずです。先生の中の大事な答えを探すなら、君達は暗殺で聞くしかないのです」

 

そう言って教室から出て行ってしまった。

要するに僕達のやることは何も変わらない。全力で殺せんせーを殺しにいく。だけど今回のイトナ君の暗殺を機に皆の意識が変わったのも事実だ。これからはより一層暗殺にも力が入ることだろう。




次話
〜球技大会の時間・一時間目〜
https://novel.syosetu.org/112657/21.html



殺せんせー「これで“まさかの時間”は終了です。皆さん、楽しんでいただけましたか?」

渚「今回は殺せんせーの秘密の一端を知ることのできた話だったね」

雄二「まぁ一端っつっても触手が利用されていることに酷く感情的だったってことしか分からなかったがな」

殺せんせー「それは忘れて下さい……先生にシリアスは合わないんです」

雄二「間抜けな(ツラ)してるもんな」

殺せんせー「間抜けではありません‼︎ 親しみやすい見た目の愛されキャラです‼︎」

渚「あはは……それにしても、まさか吉井君が暗殺に割り込むとは思わなかったよ」

雄二「アイツは良くも悪くも馬鹿だからな。直情型すぎて損得なんざ考えてもねぇだろうよ」

殺せんせー「だからこそ誰も思わぬような行動を取れるんです。とはいえ触手のような危険に相対する際のリスクくらいは考えてほしいものですが」

渚「下手をすればイトナ君の触手が吉井君に向いてたかもしれないしね」

雄二「そうなったら殺せんせーが意地でも守っただろ。下手をすればっていうなら、明久の介入が失敗に終わって殺せんせーの隙になる可能性があったってところか」

殺せんせー「まぁ仮にそのような展開になったところで殺されるつもりは微塵もありませんですけどねぇ」

渚「本当に殺せんせーって先生としては頼もしいよね」

雄二「逆に暗殺対象(ターゲット)としては厄介極まりないがな」

殺せんせー「ヌルフフフフ、これからも先生を殺せるように精進して下さい。それでは今回はこの辺りでお開きにしましょうか。皆さん、次回も楽しみにしておいて下さい」





明久「非常識な殺せんせーの存在を常識に当てはめて推測するのは駄目だと思うんだよね。だから常識で考えて推測せずに驚いた僕の反応が正しいと思うんだけど……そこんところどう思う?」

律『機械的に考えて明久さんの頭が駄目だと思います(ニッコリ) 』

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