バカとE組の暗殺教室   作:レール

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好奇心の時間

〜side 渚〜

 

波瀾万丈だった修学旅行二日目の夜。

班員の拉致という大きな危機をなんとか乗り切った僕らは、旅館へ帰るとすぐに疲れた身体を癒すためお風呂へと直行した。高校生に殴り倒されたり埃っぽい廃屋に出入りしたりして汚れてもいたので尚更である。

因みに吉井君達は茅野と神崎さんを助けた後、平安神宮に向かうといって僕らとは別れていた。聞けば倉橋さんと中村さんには黙って助けに来てくれたらしく、誤魔化すために残った木下君と観光している二人に謝らないといけないらしい。不良五人を相手に喧嘩した後で駆けつけてくれたとは思えない軽快さだ。

 

「うぉぉ‼︎ どーやって避けてんのかまるで分からん‼︎」

 

「なんだか恥ずかしいな」

 

そしてお風呂上がり。旅館に設置されていたゲームコーナーで神崎さんの絶技が披露されていた。杉野のリアクションに対して神崎さんはお淑やかに微笑んでるけど、その仕草とは裏腹に手つきはプロのそれである。

 

「凄い意外です。神崎さんがこんなにゲーム得意だなんて」

 

「……黙ってたの。遊びが出来ても進学校(うち)じゃ白い目で見られるだけだし」

 

奥田さんの感心するような反応に、神崎さんはゲームをしていた手を止めて自身の想いを僕らに話してくれた。

周りの目を気にして自分を隠したまま過ごし、それ故に自分から行動してこなかったため自信が無かったそうだ。

そういう自分の考え方が殺せんせーの言葉で間違っていたのだと気付いたらしい。大切なのは自分がどう在りたいかだと言っていた。

なるほど、それで拐われた後に迷いが吹っ切れたような顔をしてたのか。

 

「……あれ?神崎さんがゲームしてるなんて珍しいね」

 

そこに僕らと同じくお風呂上がりらしい浴衣姿の吉井君がやってきた。

旅館に帰ってきた時にあの後どうなったのか話を聞いたけど、倉橋さんと中村さんには特に怒られたりとかはなかったそうだ。

というか烏間先生が四班(僕ら)のトラブルで暗殺は中止って連絡を次の五班にメールで伝えていたらしく、三人が消えたタイミングと合わせて木下君が問い詰められて白状していたらしい。

 

「神崎さん、よかったら僕と対戦してよ」

 

吉井君はゲームをしている神崎さんへ近寄ると対戦を申し込んできた。

確かに吉井君もゲームが得意そうなイメージはあるけど、今の神崎さんの実力を見せられたら勝つのは難しいと思うなぁ。

その吉井君の申し出を、神崎さんはなんだか嬉しそうな様子で受け入れていた。

 

「うん、いいよ。対戦しよっか」

 

「いいの?やった‼︎ 一年振りのリベンジマッチだ‼︎ 前の僕とは違うってことを見せてあげる‼︎」

 

神崎さんが了承してくれたことで、吉井君は嬉々としながら隣のゲーム台へと座り込んだ。更に浴衣の袖を捲って凄く張り切っている。

……ん?()()()()()()()()()()()()

その言葉に引っ掛かったのは僕だけじゃなかったらしく、他の皆も吉井君と神崎さんに疑問の視線を向けていた。

でも僕ら以上に驚いた様子の神崎さんが吉井君を見つめており、そんな僕らの様子に気付かず意気揚々と小銭を取り出している吉井君に神崎さんが問い掛ける。

 

「……吉井君、私のこと気付いてたの?」

 

「え?…………あ」

 

言われて何かに気付いたのか、呆然としていた吉井君が急に慌てた様子で神崎さんへと謝り始めた。

 

「ご、ごめん神崎さん‼︎ 皆にはゲームのこと黙ってたのに、やってる姿を見たらまた対戦したくなってつい口が……‼︎」

 

「……ううん、こっちこそごめんね。なんだか気を遣わせちゃってたみたいで……もうゲームのことは隠してないから気にしなくていいよ」

 

なんだか二人の間では話が進んでるけど、事情を知らない僕らでは何となくでしか想像することができない。

えぇっと……吉井君は神崎さんのことを知ってたけど、神崎さんは吉井君が知ってたってことを知らなくて……でも二人は前から知り合ってて……うん、どういうことなんだろう?

同じく頭を捻っていた茅野が二人に疑問を投げ掛けていた。

 

「吉井君、神崎さんがゲーム得意ってこと知ってたの?というか二人って前から顔見知りだったんだ」

 

「うん、まぁね。神崎さんと顔見知りだったかって言われると少し微妙なんだけど……取り敢えずゲーマーとして勝負を競い合った仲ではあるよ」

 

「一年くらい前にゲームセンターで初めて会ったんだけど、確か戦績は十三勝一敗で私が勝ち越してたかな」

 

「競い合ったっていうか惨敗してた⁉︎」

 

ちょっと吉井君が一勝したゲームがなんだったのか気になるところだ。神崎さんがゲームで負けている姿を想像できない。

 

「……ねぇ、吉井君。今更だとは思うんだけどさ、前みたいに名前で呼んでもいいかな?」

 

「え?うん、別にいいけど……だったら僕もユッキーって呼んだ方がいい?」

 

「……ううん。“ユッキー”はあの時だけの渾名だから……私のことは今まで通りでいいよ。改めてよろしくね、明久君」

 

……うん。これまた何となくだけど、二人の会話を聞いて想像することはできた。

どうやら神崎さんは吉井君と会った時に渾名ーーー偽名を使って接していたようだ。もしかしたら変装とかもしていて、自分だとは気付かれていないって思ってたのかもしれない。それだったら最初のリアクションにも辻褄が合う。

色々と複雑な事情が二人にはあったみたいだけど、今回のことを切っ掛けにして少しでも解消できたのなら悪いことばかりじゃなかったなって思うよ。まぁ決して良いことだったとは言えないけどね。

 

何やら良い雰囲気になっている吉井君と神崎さんだったが、一通りの話を終えるとゲームの対戦を始めていた。既に二人ともゲームへと入り込んでおり、それでいて楽しそうにボタンとレバーを駆使して画面上の自機を操っている。

やっぱり神崎さんの方が上っぽいけど、吉井君だって負けじと食らいついていた。白熱する対戦に茅野と奥田さんも熱中して見入っており、僕も二人の対戦を観戦する……けどその前に、

 

「杉野、しっかりして。二人の対戦が始まっちゃったよ」

 

吉井君と神崎さんの会話を聞いて正気を失っている杉野を起こすとしよう。神崎さんが“明久君”って呼んだ辺りから目の焦点が合っていない。

杉野の神崎さんへの片想いは前途多難っぽいけど頑張れ。僕は友達として応援してるからね。

 

 

 

 

 

白熱したゲーム対戦は予想通り神崎さんの勝利で幕を閉じた。負けて悔しがる吉井君とその様子を懐かしそうに眺めていた神崎さんであったが、またの再戦を約束して今回のところはお開きである。

それから寝室に戻って駄弁っていた僕らだったが、トイレに行きたくなって杉野と岡島君とともに大部屋を出た。個室じゃなくて大部屋だから共有のトイレを使わなければならないのだ。

と、そこで男湯の前で何やらコソコソしている中村さんと不破さんに出会(でくわ)した。

 

「中村さん達、何してんの?」

 

「しっ‼︎」

 

気になって声を掛けると、中村さんから静かにするように指を口の前で立てられる。本当に彼女達は何をやってるんだろうか?

その疑問はすぐに中村さんから得られた。

 

「決まってんでしょ……覗きよ」

 

「覗きィ?それって男子(俺ら)仕事(ジョブ)だろ?」

 

いや、仕事(ジョブ)ではないよね。まぁどっちの役割かって訊かれたら、確かに女子じゃなくて男子の役割なんだろうけどさ。

 

「…………呼んだか?」

 

「土屋君は何処から出てきたの⁉︎」

 

音もなく急に土屋君が出てきたから普通にビックリした。さっきまで周りには僕ら以外いなかったっていうのに……これはもう地獄耳ってレベルじゃないと思う。

 

「でも土屋、覗くのは男湯らしいぞ?」

 

「…………犯罪行為、良くない」

 

岡島君の言葉を聞いた土屋君は目に見えて感情が冷めていった。もし男湯じゃなくて女湯の覗きだったら率先して行動していたに違いない。これで本人はエロを隠してるっていうんだから驚きだよね。

 

「いいえ、犯罪にはならないわ。アレを見てもそれが言える?」

 

暖簾を分けて中村さんが示した先には、アカデミックドレスに三日月が刺繍された巨大ネクタイなどの衣服が置かれていた。

……ってことは今お風呂に入ってるのって殺せんせーなのか。これは興味が惹かれないって言ったら嘘になる。

 

「首から下は触手だけか、胴体あんのか、暗殺的にも知っておいて損はないわ。もしかしたらお湯を吸ってふやけてるかもしれないし」

 

「……この世にこんな色気ない覗きがあったとは」

 

男としてそこは岡島君にちょっと同感だ。土屋君も横で首を縦に振っている。

そうして中村さん先導の下、ある意味で緊張しながら僕らは脱衣所に侵入して浴室へと繋がるドアに手を掛けた。果たして殺せんせーの服の下はどうなっているのか……

音を立てないようにして慎重にドアを開けたその先にはーーー泡風呂に浸かった殺せんせーが触手()を持ち上げて洗っている姿が。

 

「女子かっ‼︎」

 

覗き込んだ中村さんも思わずといった様子でツッコんでいた。それによって僕らに気付いた殺せんせーも顔をこっちへと向けてくる。

 

「おや、皆さん」

 

「なんで泡風呂入ってんだよ」

 

呆れたように杉野が指摘していた。そういえば入浴剤って禁止じゃなかったっけ?

 

「これは先生の粘液です。泡立ち良い上にミクロの汚れも浮かせて落とすんです」

 

「ホント便利な身体だな‼︎」

 

ここまで来ると殺せんせーっていったい何ができて何ができないのか、ほぼ万能だから可能と不可能を絞り込むことができない。まだまだ情報を集めていかないとな。

と、そこで殺せんせーの頭目掛けて対先生ナイフが飛んでいった。浴槽に浸かったまま容易く躱した殺せんせーに対し、対先生ナイフを投擲した土屋君は観察するようにその結果を眺めている。

 

「…………動きに変化なし。これは雄二に報告する必要がある」

 

「そういえば水が弱点なのに余裕で躱したわね。身体がふやけてる様子もないし」

 

殺せんせーの粘液風呂によって注意が逸れていたけど、確かに坂本君達が水風船で暗殺を仕掛けた時のような変化は見られない。

どういう原理なのかは分からないが、取り敢えずお風呂に入っていても身体がふやけることはないようだ。

 

「これじゃあ殺すことは出来そうにないわね……。でも浴槽から出る時に裸くらいは見せてもらうわ」

 

そう言って中村さんも懐から対先生ナイフを取り出した。浴槽を出てから僕らの後ろにある出口を抜けるまで、少しでも邪魔をして殺せんせーの全身を確認するつもりらしい。

 

「そうはいきません」

 

しかし殺せんせーも僕らに裸を見られるつもりはないようで、浴室から逃走しようとその場で立ち上がった。ーーー浴槽を満たしていたお湯ごと。

 

「煮凝りかっ‼︎」

 

何故かお湯が浴槽の形を保ったまま殺せんせーに張り付いていた。しかも粘液でお湯が泡立っているのでお湯を通して見ることもできず、僕らの視線から上手く身体を隠している。

更には僕らが塞いでいる出口ではなく反対側の窓から逃げていく始末……修学旅行で皆のことは色々と知れたけど、殺せんせーの正体には全然迫れなかったなぁ。

全員が虚しい気持ちを抱えたまま覗きは終了し、トイレに行く途中だった僕らはトイレに行ってから大部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

〜side 明久〜

 

「何?殺せんせーは風呂に入っても問題なかっただと?」

 

「…………(コクリ)」

 

大部屋で話していたらムッツリーニが突然いなくなり、しばらくするとトイレに立った渚君達とともに戻ってきた。いったいどうしたのだろうか。

そのことをムッツリーニに訊いたら、さっき行われたという覗きの一部始終について話してくれた。なるほど、コイツが消えるには納得の理由だ。

でもどうせ覗きに行くなら僕も一緒に誘って欲しかったよ。女湯ーーーじゃなくて、殺せんせーのことは皆で共有するべきである。

 

「う〜ん、どういうことなんだろう……お湯は大丈夫ってことなのかな?」

 

「水と湯に成分的な違いはないはずじゃが……もしかすると温度によって差があるのかもしれん」

 

しかしその覗きによって新たな疑問が出てきたな。殺せんせーの弱点は水のはず……これはどう考えるべきなんだ?

 

「……ムッツリーニ。殺せんせーが逃走する時、お湯が煮凝りみたいになってたって言ったな?」

 

ムッツリーニの話を聞いてから考え込んでいた雄二だったが、頭の中である程度まで考えがまとまったのか確認を取っていた。

雄二の確認にムッツリーニも黙って首肯を返す。

 

「……殺せんせーが分泌する粘液とやら、それに水分の凝固作用があるのかもしれん。推測の域は出ねぇが、少なくとも浴槽一杯分の水を無効化できるくらいには……となると水を浴びせて弱体化させるには想定より大量の水が必要だな」

 

僕らに考えた内容を話しているというよりは、自分の考えをまとめるために口に出している感じだ。今も何やら一人でブツブツと呟いている。

 

「おーい、お前らもこっち来て話に加われよ」

 

そんな放置されている僕らに前原君が声を掛けてきた。そういえばさっきから大部屋の真ん中に集まって皆で何かを話してたな。

でもまだ雄二は考え込んだままだし……と思っていたら静かになった雄二が顔を上げた。

 

「……取り敢えずこの話は終わりだ。考えたところで結論は出ねぇ。また暗殺(検証)していかないとな」

 

溜め息を吐きながら立ち上がると、雄二は集まっている皆の方へと歩いていく。なんだかんだ集中しながらも前原君の呼び掛けは聞こえていたようだ。

僕らも雄二に続いて大部屋の真ん中へと向かうことにする。

 

「やっぱ一位は神崎さんか」

 

「まぁ嫌いな奴はいないわなー」

 

円を描くように座っている皆の元へ近付くと、その円の中心に置かれている紙を覗き込んで皆が話し合っていた。呼ばれて来た僕らも気になってその紙を覗き込む。

 

「えー、何々?……気になる女子ランキング?……これはまた随分と定番な話題だね」

 

「修学旅行の夜って言ったらこれだろ。……で、お前らはどうなんだ?」

 

僕らを呼んだ前原君が顔に好奇心を浮かべて問い掛けてきた。好きだねぇ、そういうの。

まぁ確かに揶揄(からか)ったりするネタとしては丁度いいけどさ。

 

「……ふむ。この“気になる”というのは“好意を寄せる相手”という意味で捉えれば良いのか?それとも文字通りに“気になる”という意味かの?」

 

「そう難しく考えなくていいって。単純に可愛いとか性格が合うとか、木下の言う通り何となく気になるって理由でもいいからさ」

 

秀吉の疑問に磯貝君が笑いながらそう答えていた。普段は委員長している磯貝君もこういう話には興味があるらしい。どれだけしっかりしててもやっぱり中学生だね。

その返答を聞いて秀吉はすぐに答えを出した。

 

「それならばワシは茅野じゃの。理由までは言わんがな」

 

「なんか含みのある言い方だな……この際だから理由も言おうぜ」

 

「悪いの。こればっかりは秘密じゃ」

 

追求してくる前原君を秀吉は軽く躱しているが……はて、秀吉が茅野さんを気にするような出来事って何かあったかな?少なくとも僕には思いつかないけど……

そうこうしているうちに今度はムッツリーニが答えていた。

 

「…………片岡だな。俺が活動するには避けられない相手だ」

 

「土屋の“気になる”は本当に“警戒する”って意味合いがデカいな……」

 

ムッツリーニの片岡さんが気になる理由を聞いて磯貝君は苦笑している。

彼女は委員長であると同時に風紀委員的な存在でもあるため、オープンエロの岡島君はよく説教されているのだ。隠密行動重視のムッツリーニも気を抜けば現行犯で説教されてしまうことだろう。

二人が言ったことから今度は僕と雄二に視線を向けられるが……気になる女子ねぇ。

 

「んなもんに興味はねぇが……まぁ無難に神崎に入れとくか」

 

「う〜ん、僕も神崎さんかなぁ。彼女にはゲームでの借りがあるからね」

 

さっきもボコボコにされてきたし……アーケードだとブランクがあると思ってたのに、全くと言っていいほど腕に衰えがなかった。どうにかして神崎さんに勝てないものか……

 

「あん?おい明久、それ言ってもいいのか?」

 

神崎さんに勝てそうな作戦を考えていると、雄二が訝しげに問い掛けてきた。あぁ、そういえば雄二には言ってなかったな。

 

「うん、もう隠してないんだってさ。さっきも旅館のゲームで対戦してきたし」

 

「ってことは明久の敗北記録更新か。お前の無様な負け姿を拝みたかったぜ」

 

僕の負け前提で話してることがムカつく。間違ってないから言い返せないけど。

そんな僕らの会話に皆も興味が惹かれてるっぽかったが、そこへ飲み物を買いに出ていたカルマ君が帰ってきた。

 

「お、面白そうな事してんじゃん」

 

帰ってきてさっそく僕らの真ん中に置かれている紙を覗き込んでいた。まぁこんなネタになりそうな話題をカルマ君が見逃すはずないよね。

 

「カルマ、良いとこ来た」

 

「お前、クラスで気になる娘いる?」

 

「皆も言ってんだ。逃げらんねーぞ」

 

しかしそれは皆にも言えることだった。これを機にカルマ君のネタになりそうな話題も知っておきたいってところだろう。カルマ君のプライベートってあんまり知らないし。

皆から訊かれたカルマ君は少しだけ考え込む。

 

「……うーん、奥田さんかな」

 

おぉ、なんか意外なチョイスだ。僕的には二人って正反対の性格だと思うけど、修学旅行で同じ班になって気になるようになったとかかな?

 

「だって彼女、怪しげな薬とかクロロホルムとか作れそーだし。俺の悪戯の幅が広がるじゃん」

 

「……絶対にくっつかせたくない二人だな」

 

これについては完全に同意である。カルマ君の悪戯の幅が広がる = 被害者の増加 or 被害の拡大ってことだからね。……っていうかどっちにしても僕に被害が来そうな気がする。

男子の投票結果が集まったところで磯貝君が真ん中に置かれている紙を回収していた。

 

「この投票結果は男子の秘密な。知られたくない奴が大半だろーし、女子や先生には絶対にーーー」

 

と、そこで話をまとめていた磯貝君の言葉が途切れる。見れば何やら視線が何処かへと逸れており、磯貝君の視線を辿って皆もその方向へと顔を向けるとーーー襖の隙間からこっちを覗き込んでいる殺せんせーの姿が。

その手には手帳が構えられており、何かを書き込んだ後にそっと襖を閉めて先生は大部屋から立ち去っていった。

 

「メモって逃げやがったっ‼︎ 殺せっ‼︎」

 

即座に対先生ナイフや銃を取り出した皆は、殺せんせーを殺すべく一斉に大部屋を飛び出していく。

更に少しすると女子の声も聞こえてきて、ドタバタと結構な大騒ぎになっていた。女子部屋でも何かあったのだろうか。

 

「……先に布団でも敷いてようか」

 

「そうだな。騒ぎが収まるまで煩くて寝れねぇだろうが」

 

大部屋に残った僕らは皆が騒いでる間に寝る準備をすることにした。いやだって殺しに行っても殺せないだろうし、どうせなら夜くらいはゆっくりしたいじゃん。

取り敢えず静かになるまでまた駄弁ってようかな。修学旅行の夜はまだまだこれからなんだしさ。




次話 番外編
〜私と彼とゲームセンター〜
https://novel.syosetu.org/112657/15.html

次話 本編
〜転校生の時間〜
https://novel.syosetu.org/112657/16.html




茅野「これで“好奇心の時間”は終わりだよ。皆も楽しんでくれた?」

秀吉「楽しかった修学旅行もこれで終わりじゃな。残念ながら殺せんせーは殺せんかったがの」

奥田「き、木下君の班は暗殺自体できなかったんですから仕方ありませんよ。……そ、それより私なんかが後書きに呼ばれて大丈夫でしょうか?」

茅野「奥田さんは卑屈になり過ぎだよ……」

秀吉「そう緊張せずともよい。茅野とは親しくなったことじゃし、お主が肩肘を張る理由もなかろう。……それともワシが苦手か?」

奥田「そ、そんなことありません‼︎ 木下君は可愛らしくて物腰も柔らかいですし、怖い感じもなくて苦手ではないです‼︎」

秀吉「う、うむ……苦手意識のないことを喜ぶべきか、可愛らしいと言われて嘆くべきか、複雑なところじゃな」

茅野「あはは……奥田さん、ちょっと天然なとこあるから流してあげて。ツッコミも強いと怖がっちゃうし」

秀吉「そうじゃな、気をつけるとしよう」

奥田「そういえば、木下君は吉井君と神崎さんの関係は知ってたんですか?坂本君は知ってるみたいでしたけど」

秀吉「いや、ワシも初めて知ったな。お主らが殺せんせーを殺しに行っている間に話を聞いたがムッツリーニも知らんかったらしい」

茅野「クラスじゃ全然そんな素振り見せてなかったもんね。あ、でもテスト前の登校中にそれを匂わせる台詞はあったっけ」

秀吉「明久は顔見知りかどうか微妙と言っておったから、ただの知り合いというわけではないのじゃろう。渚も色々と推測しておったしの」

奥田「それが坂本君も言ってた番外編で分かるってことですね」

茅野「だね。次の話はその番外編の予定だから楽しみだよ」

秀吉「後書きで語り合っておっても分からん。今回はこの辺りでお開きにするとしよう。皆も次の番外編を楽しみにして待っておれよ」





杉野「くそっ、俺に番外編を白紙にできる力があれば……‼︎」

渚「杉野、番外編を白紙にしても過去は白紙にならないからね?」

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