霧の国に響く声   作:蜜柑好き

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曲者達

リッポーさんによるとナビの方との待ち合わせ場所はここであっている筈なんですが。

 

「君かい、ハンター試験会場に行きたいってやつは」

 

「ええ、そうですが貴方がナビの方ですか?」

 

私に声をかけてきたのは小太りの小柄な中年のおじさんでした。

いぶかしげな顔をしてこちらをじろじろと眺めているが、私の格好はどこかおかしかっただろうか?

ほとんど人と会わずに五年も過ごしてきたからいまいち自分のセンスに自信が持てないんですが……

自分の格好を見下ろすが動きやすいように、かつ外からではわかり難い様にスリットの入った改造和服。

少し暑かったので扇ぐ為に手に持った扇子。

あ、帯が曲がっていますね。

 

「あ、すいません帯が曲がっていたんですね。今なおします」

 

「あ、いやそういうことじゃなかったんだが。まあいいか。だが、そのナビって言うのは少し間違いだな。俺の名前はトンパ協会に依頼されてルーキーの質を見たり適当に試練を与える仕事をしている。あんたは協会が送ってくるだけあって試練の必要はなさそうだが、まあ頑張ってくれ。それと俺が実は協会の関係者だってことは内密にな」

 

なるほどそう言ったお仕事の方ですか。

世界最難関の試験といわれるだけあって色んな人がかかわっているんですね。

 

「おっと、長々と話し込んでいる場合じゃないな。早く行かないとルーキーを見極める時間が無くなっちまう。それと、試験中にあんたに何度か頼み事をすると思うが俺の事は近所のおじさんとでも説明しといてくれ」

 

「ええ、わかりました」

 

「よし、それじゃあ早速で悪いがこのクーラーボックスを担いでくれるか? 最近歳のせいかいろいろつらくなってきてな」

 

「いいですよ」

 

その程度の事なら何も問題は無い。

多少動きづらくなるがこの程度なら戦闘にも邪魔にならない。

 

「よし、それじゃあ行くぜ。しっかり俺に捕まってろよ。ハンター協会の幹部が作った貴重なものだから一枚しかねえしな。よし捕まったな本来あんたには効果が出ないものだからしっかり捕まってろよでないと振り落とされるからな。同行(アカンパニー)オン ザパン市」

 

 

 

 

 

一体何を、と思っていたらトンパの体が何か物凄い力で引っ張られるのを感じる。

これは強力な移動系能力?

少し気を抜くと振り落とされてしまいそう。

駄目、腕の力だけだと振り落とされる。

これを作ったっていうハンター協会幹部は一体どれほどの能力者なのだろうか。

考え事に気をとられた瞬間振り落とされそうになって扇子から伸ばした糸で何とかこらえる。

 

長い時間経った様に感じたが実際には数秒だったようだ。

私達の目の前には先ほどとは違う光景が広がっていた。

 

「よし着いたぜ。もう離してくれて大丈夫だ。あんまり女の子をひっつけてるとばれた時内のかみさんが怖いからな」

 

「あっすみません」

 

「いや良いってことよ。あんたはちょっと幼すぎるが役得ってもんだしな。っと、そう言えばあんたはなんて名前なんだ?」

 

「匿名(とくな) 希望(のぞみ)です」

 

「とくなちゃん……いや、その服と名前を聞いた感じジャポン人か。ならのぞみちゃんかい?」

 

「ええ、そういう設定です」

 

「設定ってお前……まあ協会の関係者だいろいろあるんだろうから気にしないほうが懸命か。ただな、一応のぞみ=とくなと名乗ったほうが良いぜその方が一般的だからな。よし、名前も一応聞いたし行くぜ着いてきな」

 

 

 

 

私の言葉に苦笑したトンパさんは微妙そうな顔をしたまま歩き始める。

暫く歩くと定食屋に入った。

試験の前に腹ごなしでもする気でしょうか?

 

「へい、らっしゃい。って、トンパさんじゃねえか待ってたぜ。いつものでいいんだろ? 奥の部屋に用意したからへえんな。って、一人じゃないのかあんたのガキかい?」

 

「いや、近所の子供だよ」

 

「ああ、近所のガキか。それなら何の問題もねえやおい案内してやれ」

 

「いらねえよ、それじゃあ失礼するぜ」

 

常連なんだろうか?

でもそれにしては店員の態度に少し違和感を感じたけど。

首をかしげながら着いていくと小部屋の中にステーキが二人分用意してあった。

 

「のぞみちゃんも何か感じたようだが、ここがハンター試験の入り口よ。俺はここに来たのは初めてだが関係者は無条件で案内される事になってる。それとさっきの会話の中にもいくつか符合があったんだが、ガキって言うのは弟子って意味だ。さっきの会話はあんたの弟子か? っていう質問に協会関係者の弟子だって答えたことになるな」

 

トンパさんは早速ステーキにかぶりつきながら暇だったのか私に少し説明してくれる。

そのまま会話を続けながら私はあまり肉が好きではないので付け合せのご飯とサラダに口をつける。

 

「おいおい、肉も食わなきゃ大きくなれないぜ? これから暫くまともな飯も食えなくなるしな」

 

「いえ、お肉はあまり好きじゃないんで」

 

「好き嫌いは良くないぜ。まあ、あんたはその血のにおいの関係だと思うから強くはいわねえけどな。よし、そろそろ着くな。ここを出たら俺は仕事用の態度に切り替えるからなくれぐれも俺の正体を匂わせるような事を言うなよ。何人かは気がついてるんだろうが公言するこっちゃねえからな」

 

それから丁度食事が取れそうなくらいの時間が経つとドアが開く。

目の前には閑散とした広い部屋が広がっている。

 

「はいどうぞ」

 

そんな声に振り返るとナンバープレートを私に差し出してくる小柄な人がいた。

気配察知が苦手とは言え、私に声をかけてくるまで何の音もたてないとは。

この人かなりの使い手ね。

 

「あ、ありがとうございます」

 

私は内心を表に出さないようにしながら一言礼を言いそれを受け取る。

 

「さて、まだ時間はだいぶあるからそこらで暇つぶしでもしてるといい。それと、そのクーラーボックスは椅子にでもしててくれていいからな。それじゃあ頑張れよ」

 

「ええ、そちらこそ頑張ってください」

 

彼と別れ適当によさげな場所を探しに歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

よさげな場所を見つけた私はクーラーボックスを椅子代わりにすると座り込む。

私は懐から取り出した小型テレビで落語のDVDを見ながら時折やってくるトンパさんにクーラーボックスの中のジュースを渡しながら暇をつぶす。

 

「おい、あの餓鬼トンパの関係者か? ほら見てみろよ番号がトンパと並びだ。今年は子供を使ってくるとか今年はずいぶんとえげつない手できやがったな。まあ、やつの関係者なら俺達にはかかわってこないと思うが、係わり合いにならないほうがよさそうだな」

 

「今年は人手が多い分俺達にも手を伸ばしてくる可能性も無いわけじゃないしな。触らぬ神にたたりなしってやつだ」

 

なるほど、あのリッポーさんが私を送り出したときの笑顔はこういうことでしたか。

トンパさんはずいぶんと職務に熱心な方のようですね。

その関係者と思わせる事で受験生の私への妨害を増やし、私を孤立させようとでもしたんでしょう。

仮に私に近寄ってくる人が居たとしても内心何かを抱えている人だけと。

地味に効果的な嫌がらせですね。

通りで簡単に試験会場につけすぎると思いました。

トンパさんに協力すると約束してしまった上に実際こうして毒入りのジュースを私が管理しているように見せる。

これではもう私が関係者ではないといっても誰も信じないでしょうし。

 

「なあなあ、俺喉渇いてんだけど。あのおっさんに貰ったジュースだけじゃたりねえんだ。少しジュース分けてくれよ」

 

へえ、この子私と同じくらいでしょうか?

念は使えないみたいなので接近には気がつけましたが音が全くしなかった。

それに、この子からは化け物のにおいがぷんぷんします。

向こうも私に何かを感じているみたいですが。

99番覚えておきましょう。

 

「ええいいですよ。どうせ余ったら邪魔ですからここにおいていく事になっていましたし持っていって下さい」

 

そう言って笑顔で私はその子に一番毒性の強いジュースを渡してあげる。

この子ならこんなもの効かないでしょうけどね。

一応挨拶ついでの牽制だ。

 

「サンキュー」

 

向こうも笑顔でそれを受け取るとその場で口をつける。

一口飲んだ瞬間何かに気がついたようだがそれ以降何の問題もないとばかりに全てを飲み干す。

やっぱり化け物の方ですか。

大方私の血のにおいを感じて私に接触してきたんでしょうね。

念は使えないみたいですが、その分素の能力が恐ろしいレベルで高い。

念無しだと勝負にすらさせてもらい無いレベルといった所でしょうか?

 

「美味かったよあんがとな」(あんたの血のにおいただ事じゃねえぜ。うちの兄貴並みのにおいだ。あんたみたいな奴がいるんならこの試験楽しそうだな)

 

「いえいえ良いんですよ。何ならもう一本持っていきますか?」(あらあら御謙遜を。貴方のにおいだって私とそう変わらないじゃないですか。私と同じ化け物のにおいです)

 

「お、いいのか。そんじゃ貰ってくぜ」(はっ、俺はあんたとは違うぜ)

 

「ええ、どうぞどうぞ」(あらそうでしたか? それは失礼しました)

 

「あんがとな。それじゃあ俺はもう行くぜ」(そうさ、俺はもうあんたらとは違うんだ)

 

内心いろいろと抱えてそうですね。

ただ、仲良くなる事は出来そうも無いです。

まああのにおいならいずれ嫌でもかかわってくるでしょうし。

今は気にしないでおきましょう。

 

「今の問題はあの子供ではありませんしね」

 

44番、トンパさんいわく奇術師ヒソカ。

今も試験会場に入ってくる人のチェックをかかさない化け物中の化け物。

幸い今の私の実力ではまだ戦うに値しないと思われたのか見逃されましたが。

あの人から目をそらさないようにしないといけませんね。

リッポーさんに頼まれた人を殺されてはたまりませんし。

ただ、今の私ではあの人と正面切って戦う実力はありませんが。

もしそうなったら彼の気まぐれに期待するとしましょうか。

 

それにしても、いつになったら始まるのでしょうか?

そろそろ私への陰口とかがうっとおしくなってきたんですが。

何より私では勝負になりそうに無い化け物と同じ空気を吸うのが……

気分転換になる事は無いでしょうかね。

 

その時丁度エレベーターから降りた忍者と目が合った。

向こうも同じく和服を着ている私に興味を持ったみたいでこちらに向かってくる。

彼が丁度言い暇つぶしになってくれればいいんですけど。

先ほどの子供よりも上、念能力者でもある程度までのレベルでも圧倒できそうな実力を感じますしね。

防御力の低い私も油断すると油断すると万に一つがありえるレベル。

彼はトンパさんの試験など必要ないでしょうね。

トンパさんに目で合図を送ると私もクーラーボックスを抱え彼に向かって歩き出した。

 

 

 

開幕のベルはいまだ鳴らず。

役者はまだ揃わない。


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