私の格好は結局今までの服の下に下着とズボンをはく事で落ち着いた。
本当はこの機会に私の戦闘服と言うか、ここを出てからの服の雛型のようなものにしたかったらしいのだが……
リッポーの意見とあの男の意見がかみ合わなかったのだそうだ。
リッポーの案は私の速度を生かしやすい衣装。
防御手段の少ない私の為に攻撃を受け流しやすい仕組みを仕込んだ回避しやすく動きを阻害しない感じのもの。
万一の守りに主点を置いた服とも言える。
男の案は音を生かしやすくする事を主軸に置いた衣装。
踊り子のような衣装で、各所に鈴等の音の出るものを配置する事で喉以外の場所からでも音を出す事ができるもの。
体に穴をもたない私が彼らギュドンドンド族の踊りを擬似的に再現できるものと言える。
勿論どちらの衣装にも長所短所がある。
リッポー案は私の生存確率を上げてくれるが、音に関しては全く支援してくれない為決定打にかけ。
そもそも一番の問題は私が凝を苦手としている事だろう。
いや、苦手と言ったのはある意味間違いだ。
私は凝を苦手にしていない。
現に私のオーラは足と喉に集める事にかけては一流のハンターにも引けをとらないとお墨付きを貰えている。
では何故かと言うと。
私は目にオーラを集める事ができないのだ。
正確にはいつの間にか足と喉以外の場所にオーラを集める事ができなくなっていた。
これは本当に最近になって気が付いた事でリッポーはこの私の欠点を知らないままこの衣装を考えたのだから仕方が無いのだが。
兎も角この欠点がわかったためこの案はこのままでは使用できない。
それでは男の案で決まりかと言うと、それがそうも行かない。
こちらの服は攻撃力と言う面では全く問題が無い。
それどころか私の音にさらなる可能性を見出してくれるだろう。
喉から出す音と体で奏でる音二種類を同時に扱えるようになるのは大きい。
勿論喉からの音ほどの威力は見込めないがサポート的な使用をするだけならば問題が無い。
ただ、こちらの衣装は攻撃と補助に目を向けすぎていて私の速度に多少制限を加えてしまう。
そもそも相手の攻撃を受け止める事が出来ない私では一度攻撃を食らうだけでも致命的なのに音で私の居場所を相手に教えてしまう。
仮にこの服を着て闘った場合私は遠からず命を落とす。
こちらも体の一部にしかオーラを集める事ができないと言う私の特異体質が仇となり使用できない。
結局私の服の案は棚送りとなったのだった……
「制約だな。恐らくお前は無意識のうちに作った制約で足と喉以外の場所にオーラを纏わない事で強化系にも勝るとも劣らない速度とあの攻撃力を手に入れているのだろう。貴様が強化系よりも早く動けている事がおかしいと思っていたが。最悪だ貴様の状態を監視する念を緩めていたのが仇となった」
くそっ、最悪な制約だ。
なるほどこれだけ重い制約をつけていればあの歳であれだけの事が出来るのに納得が行く。
まさしく薄氷を踏むような思いだろう。
自分の命を軽視していなければ出切る筈の無い制約だ。
一撃食らえば致命的な防御力の癖に凝が使えないだと……
まさに背水の陣だ。
常に命を危険に晒した上で闘う事になるぞあの馬鹿は。
こんな制約素直に命を対価にかけた制約の方が何倍もましだ。
確かにはまればはるかかく上にも勝てる可能性はある。
だが、逆に少し気を抜けばはるか格下にも殺される可能性がある。
しかも、事前に円で敵を察知する事も出来ない。
4大行の半分『纏』と『練』を。
応用技の内『周』『円』『堅』を自ら封印し。
『凝』と『流』に制限を欠ける。
そもそも足と喉どちらも防御には向かない部位だ。
まさしく狂気の沙汰。
俺はやつに基礎の大切さを繰り返し説いたはずだ。
基礎の大切さは骨身にしみているはずだろう。
あえてその大切な物を捨て去るか――
一応眼鏡等の道具で補助具を作る事はできる。
できるが、こんな制約を作るやつだ。
恐らく使わないだろうな。
そんなものを使ったら命の危機が遠のき、やつの発の制度は下がるだろうから。
まあ、一応作っておいて損は無いから用意だけはしておくか。
「だが、俺はこいつを本当に育てていいのか? こいつは心底化け物だ。十中八九早死にする。だが、もし生き延びてしまった場合こいつは一体どうなるんだ」
師匠……俺は俺は……
その日彼はうなだれたまま顔を上げることは無かったと言う。
リッポーの苦悩を知らぬ私は今日も男にしごかれていた。
早朝は音と言うものについてリッポーの用意した資料で学ぶ。
音の速度、原理、物体ごとの伝導率。
気温の変化での伝わり方の差。
果ては音を伝えるための機械である電話や増幅するマイクなんてものの原理まで。
資料を見終わった後は朝食を食べ今度は声を商売にする者達のビデオを見る。
宗教家、噺家、政治家、講師、アナウンサー……
様々なものを見て行き、自分に合わないと直感したものを外して行き徐々に数を減らす。
そして残ったもののより専門的な映像を見る。
こうして自分に向いた言葉を絞っていく。
最初は音楽に関する映像も見ていたのだが、何となく言葉を使う方が相性が良い気がしたのだ。
勿論時間的に余裕が無い私がただ映像を見るだけなんていう効率の悪い事をするわけが無い。
これらを見るための機械は私が走る事で電気を生み出した物を使用して動いている。
ただ、これには問題があってわざと旧式の効率の悪い発電機を選び。
オーラを察知すると映像が止まる仕様だ。
これにより午前中は足の基礎能力と知識の両方を鍛える。
そして、午後からはいよいよ男との戦闘訓練が始まる。
知識として頭に叩き込んだ物を実際に試してみるのが一つ。
これにより頭だけで無く体に叩き込んでいく。
自分にあった言葉、話し方、威力のこめ方、感情ののせ方。
これを自分の直感と音のプロである男の二つの視点で試していく。
一通り試してみたら実際に戦闘中にそれが使えるのか。
また今までと違い足と喉を別々に使用するのではなく両方の同時発動を体に慣らして行く。
同時に使用すると今までよりどちらも弱くなってしまうが、知識を得たことでの能力の効率化で同時に使用しても今までに近づけ。
そして、最後にはどちらも今まで以上の威力で使用できるようになるのを目指す。
勿論切り札としての片方のみの使用訓練も忘れないが。
戦闘訓練の締めとして一度模擬戦を行い食後の練……正確には凝と言うべきだが。
ともかくそれの持続時間を延ばす訓練。
常に足と喉にオーラをまとう纏もどきを常に展開する訓練へと移行する。
これに加えて3日毎に体に重りを一つずつつけていく。
最終的には約3週間の訓練であるので7つの重りが体に付く事になる。
これが男が私に与えたメニューである。
今までの私にかけていた音の知識と効率的な使用方法とその実践に重視を置いたメニューと言えるだろう。
戦闘技術に関しては結局男と私ではタイプが違いすぎて教わる事は出来なかったが。
こちらはおいおい言葉の使い方を決めてからそれにあった方法を選択すればよいという結論で落ち着く。
そして今日男と会ってから一月。
ついに男との契約終了の日がやってきた。
「ついに今日で終わりか。俺達ギュドンドンド族の男の誇りに踏み入った貴様の事は今でも思う所はあるが……もう言うまい。貴様の一月この俺に見せてみろ。もし俺に勝てたのなら貴様を立派な女戦士と認め、今までのことを謝罪しきさまに名乗らせてもらおう。だが、音特に言葉を武器に選んだ貴様なら既に相手の名前をつかむ事の意味を知っていよう。俺の名は安くない事を貴様に教えてやる」
「一月の間お世話になりました。あなたがそうおっしゃるのなら私は貴方に勝ちそして貴方の名を勝ち取るまでです。貴方の誇りが安く無いと言うのなら、私が貴方から教えてもらった事、貴方に見せていない事それで貴方の誇りを買い取るまでです」
「ふむ、言葉に力が乗るようになったか。面白い今の貴様の力見せてもらうぞ!!」
男が槍を構えもう見慣れた踊りを……
いや、見慣れた踊りとは違う。
聞こえてくる音に籠められたオーラが私にはっきりとした違いを教えてくる。
「どうした、来ないのならこちらから行くぞ」
私が一瞬目を奪われた隙を付いて男の居た辺りでひときわ大きな音が鳴り響き、私ははるか後方へと弾き飛ばされる。
目に見えない衝撃は二度三度と追撃を仕掛ける。
だが、いくら音が見えなくともいくらオーラが見えなくとも、それが音である以上油断してない私を害する事は不可能だ。
懐からリッポーに用意してもらった扇子を取り出すと私の言葉の発動を知らせぬように口元を隠す。
そして、私は力を籠め話を始める。
私が始めて男にあった時と立場を逆にする為に。
効果は劇的であり私に迫った音にぶつけ干渉しその音を乱した。
「まあこの程度はやってもらわないとな」
彼にこの扇子を見せたのは初めての筈なのだが、やはり音の専門家か。
この程度の小細工では聞くわけが無いわね。
でも、私は相変わらず扇子で口元を隠したまま今度は私から攻撃を始める。
いつかのように私は自慢のスピードを生かし突撃を仕掛け――
交錯は一瞬だった。
私は風になりかつての最高速を遥かに凌駕するスピードの蹴りを放つ。
男も迎撃に移るが、もう遅い!!
刹那の後二人が出会った場所で轟音と共に赤い大きな花が咲き誇る。
お互い場所を入れ替えて立っているのは私。
かろうじて槍を構えることが出来た男だが、スピードでは私の方が圧倒的に上だった。
そう、スピードでは……
今倒れているのは男だが床に赤いしみを広げているのは私の足元。
男がかろうじてわずかなオーラしか籠められなかった槍をもろともせず、私の蹴りはその槍を破砕した。
私の優位だったのはそこまで。
彼の音に操られた槍の欠片はオーラで守る事のできない無防備な私の体に襲い掛かった。
かろうじて腕で防ぐ事が出来たが、私の血で赤く染まったその欠片に籠められたわずかなオーラを防ぐ事は出来なかった。
結果私の腕はこの試合中動かす事は不可能となり私に襲い掛かった槍の欠片はその場に広がり赤い花を咲かせる。
一応衝撃で男を弾き飛ばす事は出来たが、堅によって守られた彼にダメージは無い。
与えた衝撃は私の方が圧倒的に上だが、食らったダメージは私の方が圧倒的に多い。
「素晴らしい攻撃だった。自身の移動を妨げる空気を音で攻撃し眼前の邪魔物をどかし最低限の空気抵抗での突進。よく考えたものだ。もし貴様にもう少し経験があれば逆の結果になっていただろうな」
これも通じませんか。
次からは対策されるでしょうし。
戦闘経験の差というものは厄介ですね。
ですが、まだ勝負はついていません。
「ほう、その傷で勝負を諦めないか。だが、さっきと比べるとだいぶ速度が遅くなっているぞ」
確かに私の足に籠められたオーラは先ほどとは比べ物にならない。
それでも、それでもまだ私の方がスピードは上です。
それに、そろそろ私の話は終盤に入りました。
私の最後の攻撃耐えられるものなら耐えてみせて下さい。
最後の攻撃を放つ隙をうかがうためにけん制を行うが。
私が何かを狙っていることに気がついているのだろう中々隙を見せない。
なら隙が無いなら隙を作るまで。
私はその場で彼のほうに向かって突如蹴りを放つ。
彼との距離は3m普通ならば届く距離ではない。
だが、私の足は届かなくとも、私の足元にちばばる赤く染まった槍の欠片は別。
思わず腕で目をかばった彼を見て今度こそ私は勝利を確信すると奥義のモーションに入る。
それまで口元を覆っていた扇子をパチンと閉じ男に向かって軽く振る。
そして私は締めの言葉を紡ぐ。
「おあとがよろしいようで」
その言葉を口に出した瞬間莫大なオーラが今までの私の音とは違う動きを見せた。
それは拡散することなく一点に集約し男に向かって突き進む。
私は勝利を確信し笑みを浮かべた。