霧の国に響く声   作:蜜柑好き

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音の戦士

『幻影旅団』

 

5~6年程前に結成された盗賊集団。

10人程の人数で前衛後衛中衛バックアップと多岐に渡る分野の一流の念能力者集団。

戦闘民族として有名なクルタ族を襲い『緋の眼』を奪う。

『緋の眼』は世界七大美色の一つに数えられる等コレクターの間では有名。

オークションへの多数の出品を不審に思ったハンターの確認により今回の犯行が判明する。

クルタ族を虐殺出来るほどの犯罪者集団を危険に思ったハンターが既に数人返り討ちにあっている。

 

 

 

「なるほど。また新たにA級賞金首が追加されたか……だが、今はそれはおいておこう。重要なのはこいつだ」

 

『ボノレノフ』

 

系統は不明。

戦闘時に確認できる体中に開いた特徴的な穴からギュドンドンド族の舞闘士と思われる。

詳細は不明。

 

『ギュドンドンド族の舞闘士』

 

舞う事で体中に開けた穴から音を出し精霊を体に降ろす歌を奏でながら闘う戦士。

少数部族な上に住処を追われた存在である為に詳細は判っていないが数人所在は確認できている。

彼らの言う精霊とは念能力の事であると考えられる。

 

 

 

「居る物だなこいつと同じ音と体術を選んだ上で一流の念能力者まで上り詰めた存在が」

 

ギュドンドンド族か……参考になるかはわからないが接触してみる価値はあるか。

やつの戦いに行かせるものが無くとも音の専門家だ。

あいつの闘い方の参考になるアドバイスがもらえる可能性もある。

私は管理を配下に任せると単身牢獄を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「喜べ、貴様の戦い方を見てくれるかもしれないやつとつなぎが取れた。一月と短い間の契約だが参考になる事は多いだろう」

 

リッポーは唐突に何かを告げてくる事が多いが、今回はいつにもまして唐突だった。

だけど、もしそれが本当ならとてもありがたい。

私の闘い方はリッポーの能力で操作された時の動きを元にしている。

でも、私と彼の戦い方は全く違う。

犯罪者達と戦ってもそろそろ限界を感じていた所だ。

 

 

やってきた男は異様な姿をしていた。

体中に開いた穴。

かついだ槍に原始的な服装。

服装については穴を開けた布を身に纏っただけの私が言えた義理ではないが。

ともかく異様だった。

しかし私は教えてもらう身だ。

まずは礼儀をわきまえないと。

 

「一月の間よろしくお願いします」

 

男は私の方をちらりと一瞥すると不満そうな態度を隠そうともしなかった。

 

「ふん、貴様か俺達の舞を学びたいという者は。俺達の舞は神聖なギュドンドンド族の精霊に捧げる選ばれた男だけのものだ。俺は女戦士を否定しない。だが、俺達の舞を女戦士に教える気は無い」

 

そう言うと目を閉じて座り込んでしまう。

やっと私に闘い方を教えてくれる人が来たというのに……

リッポーは言っていた私の様な音と体術で闘う念能力者は少ないと。

この機会を逃したらもうチャンスは無いかもしれない。

私は必死で怒りを抑えもう一度頼み込む。

 

「お願いします。そういわずにせめて私の闘い方にアドバイスを下さるだけでも良いですから」

 

私は土下座をして頼み込む。

一時間二時間……時はどんどん流れていく。

男と私の根競べだった。

私の意地と男の意地。

先に折れたのは男の方であった。

 

「仕方が無い。俺は金を貰っている身であるし。ハンター協会とのつながりを失ってはギュドンドンド族の再興に問題がでるか。俺の舞は教えられぬが一度貴様の闘い方を見せてみろ」

 

男はやおら立ち上がると背負った槍を構え、奇妙な舞を踊り美しい音色を奏で始めた。

音に乗って強大なオーラが男の周囲に集まるのを感じる。

私は今の自分の全てを出し切ろうとその男に向かい走りだす。

 

「ほう……だが、お前は音よりも遅い」

 

今の私に出せる最高の速度であった筈。

防御を捨て足に全オーラを集中させた私は速度だけならそこいらの能力者に負ける事は無い。

こと速度だけならば普通の強化系能力者にも引けをとらないと自負している。

しかし私の突進は難なく回避された。

向きになって突進を繰り返すが同じことの繰り返し。

 

「お前は確かに早い。だが、動きが直線的過ぎる。それにいくら素早くても蹴りしか攻撃手段が無いのでは攻撃する時に折角のスピードを一度犠牲にしなければならない。貴様の動きは音が全て私に教えてくれる。貴様はそんなものか……」

 

確かに今言われたことは全て心当たりがある。

何も言い返す事が出来ない私の欠点だ。

だったら今度は私の声を聞かせてあげる。

私は動きを止めると今度は喉に全てのオーラを集め声をあげた。

 

「なるほど威力は素晴らしい。だが、音をただ発しているだけでは何の意味も無い。この程度私の歌で干渉してやれば避ける価値すらない。音の戦士というから楽しみに来て見れば女の上この程度か。無駄足だったな」

 

男は私から興味を失ったようだ。

その後私が何度声を放っても男に届く事は無い。

やがて私のオーラが尽きるまで続けたが最後まで男がこちらを向く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「あの動き自身から発する音をセンサーにしているのか。それとあの歌で自分の動きを強化している。相手の音には自分の音で干渉して最小限のオーラ消費だけで封じるか」

 

なるほど、これはわざわざ交渉しに行ったかいがあったな。

さて、俺の苦労を無駄にしてくれるなよ。

そいつからお前の闘い方を引きずり出してみろ。

 

 

 

 

 

 

翌日以降の男の私への態度は完全な無関心であった。

槍を抱えて目を閉じて座るだけ。

昨日の事で自分の弱さを痛感した私は何としても男の教えを請おうと再び土下座での説得を始めた。

しかし今度は男も簡単には落ちない。

ただただ時間だけが流れていく。

二日経ち三日経ちついには一週間がたったが男の態度は変わらない。

考えてみれば私はこの男に名乗らせる事すら出来ていないのだ。

なんかだんだんむかついてきた。

私は知らず知らずのうちにオーラを高めていたのだろう。

私が気が付いたのは彼への説得の言葉についオーラをこめた言葉を発してしまった瞬間の事。

いくら男が私より格上の音使いであろうともこの距離であの体勢からでは……

 

慌てて立ち上がろうとした瞬間彼はその腕を一振りするとそこからの音で私の声を無効化してしまう。

おしまいだ。

私は教えを請う相手に何をしたのか?

無防備で座る相手に攻撃を加えてしまうなんて。

 

「言葉や歌は力を持つ。音は音のまま使ったのではただの雑音に過ぎない。力は言葉や歌に乗せて初めてその力を発揮させる。貴様には最低限の条件であるそれすら欠けていた。今の言葉初めて俺に届いた。良かろう明日から貴様に音と言う物を少し教えてやる」

 

「本当ですか!! それなら時間がありません今からお願いします」

 

「一週間も同じ体勢を続けた貴様に余力など残っていまい。今日は休め。ほら満足に立つ事も出来ていないではないか」

 

言われて私は今の自分の体勢を理解した。

先ほど慌てて立ち上がろうとしたが足がしびれてしまいそのまま倒れてしまってはいつくばっている。

 

「それとな、女は子を産み育てる大切なものだ。せめて下着をつけるとかもう少し自分の体を大事にしたほうが良いぞ」

 

男は私から顔を背けたしなめる様に一言付け加える。

そう、もう一度言うが私の着ている服は貫頭衣という物で布に穴を開け頭を通し腰の所で紐で縛っただけの簡単なものだ。

そんな服を着て足をもつれさせて倒れればどうなるのか?

答えは男の少し赤くなった困った感じの横顔が全てを物語っていた。

私の前に立つこの男は私が一年接してきた化け物ではない。

一人の人間なのだ。

私は人間の前でこんな服で動き回っていたのか……

一瞬で私の顔は血よりも赤く燃え上がると限界以上のオーラが喉に集まるのを感じる。

瞬間局所的な台風が私の周囲全てをなぎ倒し、限界以上のオーラを一度に使用した私はその場にくず折れる。

後には流石に竜巻に巻き込まれたのか少し傷ついた男と。

男にカメラ越しに私の服について怒鳴られ続けるリッポーだけが残ったそうだ。

 

 

 

戦士と出会い私はやっと産声を上げた。


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