霧の国に響く声   作:蜜柑好き

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赤いドレス

「さて、まずは一月何も考えずにただ体で覚えろ」

 

リッポーはそう言うと私を裸にしてあの時のナイフで私の体中に神字とか言うものを刻み始める。

羞恥心で一瞬叫びそうになるが言葉を出すことが出来ない。

そんな私の反応など全く気にせずにただただ作業を進めていく。

やがて私の全身が文字でいっぱいになった時私は完全に私の知覚の外に居た。

 

「こんなものか。では行って来い」

 

私の足は私の意識の外で動き始めた。

もちろん服すら着させてもらえないまま。

 

 

 

 

やがて私がたどり着いた場所は広い独房。

その場に居る大勢の男たちの視線が私に突き刺さる。

 

「おいおい裸の女の子が来たぜ。なんだこりゃ収容所のやつらのサービスか? 幼すぎる気もするがこんな事をしてくれるとはな。新しくきたやつは飛んだ腑抜けやろうだぜ。俺たちの事を恐れていやがるみたいだ」

 

「いやいや、俺はこれくらいのやつのほうが好みだな。お前が要らないんなら俺がもらうぜ」

 

「好きにしやがれ。ただ、新しいやつとは仲良く出来そうだな。お前ら無茶しすぎるんじゃねえぞ。壊しちまったら楽しみが減るからよ」

 

え、まさか本当に……

自分の体が動かせない中で裸で大勢の荒くれ者達の中に放り込まれるなんて。

でも、これが私にはお似合いなのかも。

私みたいな化け物には……

 

 

 

 

でも、そうはならなかった。

最初の男が私の体に触ろうとした瞬間私の体は動き始める。

あの時の様に足と喉に力が集まるのを感じるやいなや目の前の男は真っ赤な噴水に。

男達は何が起こったのかまだ理解していないようだ。

その隙をついて私の体は勝手に次の男に向かう。

 

気がついた時には裸だったはずの私は男達の血を纏いまるで赤い服を身に纏っている様だった。

 

そして、私は最初の一月の間犯罪者達の血以外を身に纏う事は許されずにただただ私の意識の外で犯罪者達の粛清を続けて行く。

老若男女かかわらず私の体はあらゆる血で彩られる。

犯罪者達も私を殺せば減刑されると言われたらしく本気で私を殺そうとしてくるが、私の体を動かすリッポーの腕が確かなのかその一月で私は自分の血を纏う事は無かった。

ただただ私の体には犯罪者との戦いの経験値だけが積み重ねられて行く。

 

 

 

 

 

「お前の体がどれだけ動くのかのデータ取りは終了した。次は貴様の体の耐久力を調べる」

 

月日の感覚が無くなった頃私の耳にリッポーの声が届く。

私の意識の中では永遠にも感じられる長い時間だったのだがこれでやっと最初の一月がたっただけだったらしい。

 

「それでは1時間だけおまえに体を返してやる」

 

私は久しぶりに体を動かす感覚を味わった。

最初はひどく不安定で落ち着かなかったが、たったの1時間しかないのだと思い直しひとまず体を洗う事にする。

一月もの間常に身に纏っていた犯罪者の血は簡単には落ち無かったが私は全ての血を落とす事に成功した。

ナイフで切り刻まれたはずの肌には傷一つ無くなっている。

でも、よく目を凝らすと私の体は赤い線で隙間無く覆われている。

それはあの湯気(リッポーがオーラと呼んでいたもの)のようにも犯罪者達の血が固まったもののようにも見えた。

 

そんな私をカメラで見てリッポーは笑みを浮かべていた。

勿論性的な意味での笑みではない。

と言うよりもリッポーは彼女を人として認識はしていないのだから当然ともいえるのだが。

リッポーは彼女が体を動かす時の動きを見て笑みを浮かべていたのだ。

そう、それはすでに何も知らない7歳の少女の動きではなく熟練のハンターの動きのそれであった。

勿論体のサイズのせいか違和感はあるのだが、その動きはリッポー自身が犯罪者達との戦いの中で磨いて行った動きのそれである。

 

「ふむ、これで基礎は叩き込めたか。次は耐久力を測った後にこれの能力の動きに最適化した物に変えるか」

 

 

 

 

 

次の一月は意識はあるのだが動く事を禁止された。

延々とあらゆる角度から衝撃を加えられる。

そして私以上に私の限界を把握している男が限界を見極め私の体に時折注射を打ちそしてまた衝撃を与えられる。

犯罪者達の血を落としきった筈の私の体は再び犯罪者の血に染まっていく。

ただし、今度は他人の血ではなく全て自分の血であると言う差はあったが。

そんな事を続けているうちに私は湯気で覆われた部分のダメージが少ない事に気がつく。

私の体は基本的に足と喉に湯気が多く絡み付いていて他の部分は少ない。

これはお父さんお母さんおばちゃん……親しい人達を殺したのが手に纏ったオーラだったから手に集まるのを嫌ったのか。

それともおばちゃんの遺言に従って叫びながら逃げた時に足と喉に力を集中した癖が残っているのかはわから無いけど、他の部分に集めるのよりここに集めるのが自然に基本になっていた。

話を元に戻すと同じもので叩かれても足と喉周辺とその他の部分では私の体へのダメージが違うのだ。

現に身に纏った血と痣で体中が紫色に変わっている中、その二つの部分だけは私の体は赤い色をしている。

もうすっかり服を着ていない状態に慣れた私にとって自分の体の状態を知るのに逆に都合がよかったのかもしれない。

 

「ほう、まだ拙いながらもオーラでの防御を覚え始めたか。理屈で説明してやっても良いのだが、この手の事は体で覚えたほうがより自分の体に身に付き血となり肉となる。ふん、やつの貧相な醜い体を見るのにも飽き飽きしていたところだが。これで来月からは見なくても済みそうだな」

 

眼前の全ての囚人を写すカメラのひときわ見やすい場所に設置したカメラを眺め呟く。

0番の能力について念能力だけでなく全ての方面から移したカメラによる視覚からの情報を加味し育成計画を練る。

それはまるでモルモットを扱う科学者のような雰囲気を漂わせていた。

そして、少女の対応がレベルアップしたのを確認し彼は機械のメモリを上げる。

彼の目にはもう少女は映っていなかった。

 

 

 

 

 

「貴様の耐久力はわかった。次は貴様の能力の基礎となる部分足と喉について調べる。まずは足からだ。また一時間の自由を与える。それと、これからは服を与えてやる。その醜い体をこれ以上見ていたくも無いしな」

 

どうやら一月が過ぎたらしい。

不意に事件から二ヶ月ならそろそろ私の誕生日だなと平和だった頃の記憶が頭をかすめる。

去年の誕生日お父さんお母さん、そしてまだお姉ちゃんが居た。

プレゼントで綺麗なお洋服を貰った。

でも、今はもう誰も居ない。

お姉ちゃん以外は皆私が殺した。

すでに過ぎ去ってしまった日々。

私が消して望んではいけない日々。

だってもう私は人間じゃないんだから――


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