霧の国に響く声   作:蜜柑好き

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本来こういう場で語るのは好きではないのですが。やっと明日資格試験が終わるのでまた投稿を再開したいと思います。
一月の間特に連絡もなく休んでしまい申し訳ありませんでした。
今日は息抜きがてらですので誤字脱字のチェックや推敲をしていないためいつも以上に見にくいかもしれませんが後日出来る限り訂正したいと思います。
なお、その時にこの前書きについては削除する予定です


14話

「中々興味深いお話でしたわ。もう少し聞かせてもらいたいのだけれど……このあと少し時間よろしいかしら?」

 

「あ、先程私の話を聞いてくださっていた方ですね? 先程はあんなにたくさんのおひねりをありがとうございました」

 

私は礼を言うと頭を下げる。

しかし、どうやって声をかけようかと思っていましたが。

広場から帰る途中に向こうから話しかけてくるとは少し意外でした。

 

「いえいえ、私も楽しませていただいたのだからあれくらい構わないわよ。むしろ周りの目が無ければもう少し出すべきかと悩んだくらいだもの」

 

「いえ、私はまだまだ未熟ですから……そんなにいただくことは」

 

「そう? 私は桁からして間違ったと思うわよ。ねえ、霧の魔獣さん?」

 

「貴様っ」

 

予定変更です。

この女はここで何としてでも消さなければ。

先程の念能力者二人がまだ近くにいる?

そんなのは関係ありません。

しかし、とっさに声にこめ放ったオーラなど容易く防がれてしまった。

 

「あらあら、そんなに怖い顔をなさらないで下さいな。私は本当に貴女のお話を聞かせていただきたいだけですのに。きっと貴女に損はさせませんわよ?」

 

「戯言を。私の過去をどこで知った! いえ、関係ありませんね。貴女はここで死ぬのですから」

 

「これは怖いわね。でも、私を殺してしまったら私にこのことを教えてくれた人について……とか色々とわからなくなるのではなくて?」

 

「必要ありませんね。最も貴女が喋りたいと言うのならば別ですが『ね』」

 

私はあまり感覚が鋭いほうではありません。

それに、音を操るといっても私が強化するのはあくまでも喉のみ。

耳を強化しているのではない以上虚偽の見分けなどつきません。

ならば、言葉など不要。

最後の言葉に乗せた特殊なオーラをソナーとして自ら周囲を探るだけのことです。

周囲に情報提供者がいる確率は高くは無いでしょうけどね……

 

「あらあら、おいたはダメですよ?」

 

オーラを放出するのと同時に、扇子を取り出そうとした私の右手を後ろからつかまれる。

いつの間に後ろに?

私よりも早く動く?

いえ、それは考えにくい。

いくら純粋な強化系ではないとは言え。

私以上に純粋な速度を上げるにはこの女のオーラ量から言って不可能。

では何らかの能力?

瞬間転移? 念獣?

いえ、まだるっこしい。

それならば周囲すべてをなぎ払えばいいだけのこと。

そして、それはまさしく私の十八番です。

 

「吹き飛びなさ……」

 

「全く、それほどのオーラを集める必要なんて無いでしょうに? 貴女は第二のニブルヘイムでも作るつもりなのかしっ……ら!!」

 

この女っ。

今確かに私の後ろに居たはず。

なのになぜ今私のあごを蹴り上げている。

とっさに後方に身を引きその足を避けるが、先程まで腕をつかまれていたため完全には避けられなかった。

いや、この場合は感謝するべきでしょうか。

確かに先程の頭に血が上った状態ではここを私の故郷と同じにしてしまう所でした。

もしそうなっていた場合今度こそ私は抹殺されていただろう。

勿論故郷を弔うのなど夢のまた夢になる。

 

「感謝すべきなのかしら? 普段は抑えているのですがどうも私は頭に血が上りやすくていけませんね」

 

「全く、噂なんて当てにならないものね。放出系らしからぬ性格をしていると聞いていましたが。むしろここまで放出系らしい性格をしているのは珍しいのではないかしら?」

 

すでに私を蹴り上げた位置ではない。

その女がいたのは最初に私に声をかけてきた場所。

それだけではない。

私の目でも追えない速度で移動したのではどんなに気をつけても地面に何らかの痕跡が残るはず。

しかし、その女の足元にはそれが無い。

いえ、おかしい痕跡が無さ過ぎる。

彼女は先程私に一度は蹴り技を放った筈です。

そして、それは確実に私の体にダメージを与えた。

では、なぜその足に血の跡が無い!!

 

「ええ、全く持ってその通りな様ですね。冷静さを欠いたのでは見えるものも見えなくなるというもの。リッポーから散々言われた事でしたわね」

 

「ふふふ……で、貴女は見えてきたのかしら?」

 

今度の声は私の上空、先程の蹴りで飛ばされた建物の屋根の上から聞こえてくる。

その姿は私の位置からは見ることが出来ない。

 

「いえ、貴女のからくりについてはまだ見えてきません。そもそも私は見るものではないのですから『ね』」

 

ああ、そういうことですか。

全く、鴨が葱をしょってきたと思ったらこのお嬢様とんだ食わせ物ですね。

今度は先程とは違い私の索敵を邪魔することは無い。

なるほど、こんなからくりでは私の先程の索敵を邪魔してくるわけですね。

 

「ふふ、少しは楽しめましたかしら?」

 

そう言って私に声をかけてきたのは、3度最初の位置に立った女性。

いえ、この表現はおかしいですね。

彼女はそこから一歩たりとも動いていないのですから。

それどころか彼女は私を攻撃すらしていなかったのですね。

 

「ええ、とても参考になりました。しかし、こうも容易く私に種明かしをしてもよろしかったのですか?」

 

「構いませんよ。この程度能力と呼ぶのもはばかられる程度のトリックでしかないのですから」

 

そう声をかけてくるのは私を蹴り上げた女性。

 

「本来の貴女ならばこの程度のトリックにこうも容易くかかることは無かったでしょうね。でも、言葉によって心を惑わされた貴女にはこの程度の策を見破ることは出来なかった」

 

「ええ、耳が痛いです。言葉使いたる私が逆にたったの一言にこうも容易く踊らされてしまったのですから」

 

振り返ることなく私の上空から投げかけられる声に返事をする。

彼女は他の二人とは違ってずいぶんと恥ずかしがりやな様だ。

 

「貴女の能力は瞬間移動などではなかった。それどころか念獣のようなものですらない。勿論高速移動をしているのでも」

 

「ええ、念能力者として優れて居れば居るほど不思議な事態に遭遇すると何らかの能力のせいだと考えすぎてしまう。それはおおよその場合において真実その通りなのですから。だからこそ物事を単純に考えることを放棄してしまう」

 

何のことは無い。

彼女達は最初から三人で行動をしていただけ。

恐らく真実の彼女の影武者か何かなのでしょうね。

最初の彼女、彼女については能力を見ていないのでよくわかりませんが。

二番目の彼女、彼女は恐らく純粋な強化系。

困惑した私をからかう程度の動きなどきっと容易いことでしたでしょう。

そして、私に姿を見せない三人目。

恐らくですが、彼女は周囲の認識を操っていたのではないでしょうか?

手段についてはまだ良くわかりませんが、恐らく私の認識をずらしていたのは彼女で間違いが無いでしょう。

 

「戦争なんかでよく言われることですけど。『数は力』まさしくその通りだと思いませんか? 単純に考えたってわかることです。自分一人で出来ることは自分の系統を極めることだけ。ほかの系統に手を出せば多様性は手に入るでしょう。しかし、本来の系統でない部分についてはどうしても穴が開いてしまう。よしんば何かの能力でごまかした所でそれにはどれほどの代償が必要になるか。なら、6人ならどうでしょう? それは容易くすべての系統を極めることが出来るでしょう。それもはるかに簡単に」

 

ええ、言葉でそういうのは簡単ですね。

ですが、彼女の言葉にははっきりと6人と出てきた。

それが本当かうそかは知りませんが、彼女の態度からして最低6人であることは間違いが無いでしょう。

ですが、それを実際に可能にするにはどれだけの労力と資金が必要になることか。

確かに言っていることは道理。

何一つとして間違えては居ません。

ですが、6つの系統全ての使い手を。

それも似た背格好でその上凡百で無い使い手で集めるなんて。

いえ、もしかしたら念能力によって体型を変えているかもしれませんけど……

それにしたって想像することも出来ません。

なるほど、これはトリックを簡単にばらすわけです。

このトリックを相手に知らしめることこそまさに脅し以外の何物でもない。

 

「私は予想以上の大物に目をつけられていたわけですね。降参です。これ程のことが出来る相手に勝ち目はありませんよ」

 

「あらあら、ずいぶんと賢いのね。私にはむかってきたときの態度からもう少し抵抗されると思ったわ」

 

「貴女のおかげでだいぶ頭が冷えましたからね。それで話を聞きたいんでしたか? どこにでもついて行きますよ……そう言えば、名前を聞いていませんでしたね?」

 

そう、これだけのことをしでかすのだから随分と大物の名前が出てくることでしょう。

これだけの大物につながる者の名前を知ることが出来れば……

 

「ふふ、随分と抜け目が無いこと。そうね、それじゃああなたの名前にあわせて言の葉(ことのは)とでも呼んで貰いましょうか。勿論私達の誰を呼ぶ場合でもその名前で構いませんわ」

 

「言の葉ですか。本当に私をよく知っているようで光栄ですよ」

 

その間違えてもジャポン人に見えない彼女が名乗る名前としてはいささか不釣合いだが。

それでも何故かその名前は彼女に良く似合っていた。

 

「ええ、確か東洋では名前は神聖なものとして扱われていたのだったかしら? その東洋の格好をした言葉使いに名前を名乗るなんてとてもとても」

 

そう、これが私が普段一部の例外を除いて人の名前を直接言葉にしない理由。

実際不便ではありますが、念は覚悟の力。

案外このようなこだわりは馬鹿に出来たものではありません。

それに、長年言い伝えられてきたことならばそれは先人達の意思がこめられているということ。

長い年月積み重ねられてきたそれは死者のオーラにも似て――

 

「ってもうこんな時間なのね。もう少しお話をしていたい所ではあるのだけれど。今は私についてきてくださらないかしら? 美味しいジャポン料理のお店を予約してあるの」

 

「ええ、敗者の私は意見する権利など無いでしょうしね。ついて行きますよお嬢様」

 

「あら、お嬢様だなんて。言の葉でいいわよ?」

 

「ええ、ありがとうございますお嬢様」

 

私のささやかな抵抗に苦笑を浮かべると部下に指示をして高級そうな車を呼ぶ。

そして私をその車に乗せると最初の彼女が代表して一緒に乗り込んできた。

最も、運転手が別の彼女にしか見えない以上私に隙を見せてくれる気は無いみたいですがね。

 

「やれやれ、ろくに手は無かったとは言え。こんなことになるのでしたら天空闘技場にでも行けば良かったですよ」

 

「あら、行ってみたいのならそのうち連れて行ってあげるわよ?」

 

「いえ、結構です……」


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