そしていつもタイトルに凄く頭を捻らせられる。
後日、アースラの計測室を使い改めてエイミィが高町なのはとフェイト・テスタロッサの魔導師ランクをより詳しく測定したところ、やはりAAAレベルであることが確定された。何度繰り返し、記録を念入りに調べてもだ。
もはや認めざるを得ない。彼女達は神に愛された天性の魔導師であると。
これはもう千人に一人の逸材どころの話ではない。天才を超越した鬼才とはまさに彼女達の為だけにあるような言葉だ。
「とんでもない子供が現れたものだな………」
二人共、魔力値が100万オーバー。さらに高町なのはの最大発揮時がその三倍。あのクロノより魔力値が少しだけだが多い。まだ二桁にもならない子供が、だ。
「そうっすよねぇ。俺なんか小さい頃から訓練してきて、武装隊の一員としても活動してきたのに魔導師ランクBですよ? 四つも歳が離れている子供に抜かれるなんて……なんつーか、彼女達の才能と基本スペックに結構嫉妬しちゃいますね、ほんと」
少しイジけたようにヴァイスは彼女たちのデータを見る。
厳しい訓練にも、実戦にも耐え抜いたヴァイスは未だBランクの枠から抜け出せない。何故なら魔力が著しく乏しいのだ。それはもう絶望的に。
バリアジャケットすら生成できない魔導師はアースラにおいてもヴァイス・グランセニックただ一人である。
そんな彼から見れば、彼女らの才能は少々眩しすぎた。自分が欲する、その全てのものを持っているのだから。
「そうイジイジしないのヴァイス君。悔しいと思うならこれからまたいっそう訓練を厳しくしていけばいいじゃない」
「エイミィの言う通りだ。訓練と経験を積み重ねていけばお前はもっと強くなれる。才能ばかりが全てではない」
エイミィとエミヤの励ましの言葉にヴァイスは分かってますよ、と言う。元から努力家が多いこのアースラの仲間達を見ていたら言われるまでもないことだ。
戦闘経験と日々弛まぬ訓練。それより手に入れた力というのは何物にも代えがたい誇りある“力”となる。クロノとエミヤもソレを人の何十倍も熟してきたからこそ、今の力があると知っている。
「……まぁ、それはもういいっすよ。問題なのは魔導師ランク云々ではなく」
「このフェイトと呼ばれる黒い少女の戦闘理由、だな」
「ええ。なのは嬢ちゃんとユーノ少年は戦闘理由から完全に白。んじゃ残るこの子は」
「“黒”と確定しているな」
ジュエルシードを回収する目的も、管理局から逃げる理由も、全て輸送艦隊を襲った人間の関係者だというのであれば説明がつく。
「考えたくないなぁ。こんな小さな子供が犯罪者の仲間っていうのも………黒い嬢ちゃんが親玉に脅迫を受けてるってことは無いっすかね、師匠?」
もし無理矢理“駒”として扱われているのなら捕まえた後に、法廷に出す際に色々と擁護ができる。少女ということもあって罪も軽くなる筈だ。
「女子供の見た目に騙されるな……と、言いたいところだが。確かに、これは脅迫の線が強いかもしれん」
エミヤはエイミィに黒い少女が映されている映像だけを厳選するように指示する。
「この少女はまともに栄養を取っていない不健康に近い状態だ。肌色も悪く、キレも本来のものより鈍っているように見える。少なくとも万全で、ベストな状態とはとても言えないだろう」
黒い少女の体の細部を見る限り、血色が普通の子供と比べて明らかに悪い。エミヤの洞察力にかかれば見抜くことは容易だ。
「そして、彼女の表情や行動には焦りがある。何かに急かされているようだ」
クロノとエミヤが彼女達の戦いに乱入した時もそうだった。あの場面で黒い少女が取るべき行動は“逃げる”ことに徹することだった。それを押し通してまでジュエルシードを確保することを率先したとなれば、
「よほどの理由、執念があるのだろう。ま、何はともあれ詳しいことを聞くには彼女を捕縛するしかあるまい。あの様子では、恐らく交渉は無意味だろうしな」
◆
第97管理外世界の近くの次元領域にアースラが到着して12時間ほど経過した。
そして現在アースラに所属する三等空士、三等陸士以上の地位を持つ13名の隊員達が会議室に集結している。
「今回は特例としてロストロギアの発見者であり、結界魔導師でもある此方―――」
アースラの艦長であり最高責任者のリンディ・ハラオウンは視線を二人の子供に向けた。それに釣られクロノ、ヴァイス、エミヤも含む隊員達の視線がその子供二人に注がれる。
「は、はい! ユーノ・スクライアです!」
多くの視線を受けた少年はガチガチになって席立ちし、顔を少し上に向けて名前を言う。それを全員が不謹慎ながら微笑ましいと思えた。どれだけ優秀だろうと、やはり子供であると再認識させられるのだ。
「それから彼の協力者である現地の魔導師さん」
「た、高町なのはです!」
あの子が半年足らずで推定魔導師ランクAAAを叩き出した天才か、と隊員達がざわめき出す。推定とはいえAAAのランクが如何に獲得困難かは彼らがその身をもって知っているが故に、興味を向けるなという方が無理がある。
《………結局こうなったのか》
《………すまない》
エミヤの念話を受け取ったクロノが苦虫を噛み潰した顔をする。あれだけエミヤに協力してもらったというのに、その好意を無駄にした。母に逆らってまで行動を起こしたというのに、意味を為さなかった。
彼女達を危険な任務から遠ざけたいという己の想いを、高町なのはとユーノ・スクライアが上回った結果だ。子供に言い負かされ、妥協させられるなど、執務官にあるまじき失態と言えるだろう。
「以上の二名が、臨時局員の扱いで事態に当たってくれます」
「「よろしくお願いします!」」
二人は揃えて頭を下げ、体をくの字にして綺麗にお辞儀をする。
《ほう、中々礼儀の良い子供達じゃないか》
《てかメッチャ可愛くね?》
《うちの隊長達もあんだけ愛想がよかったらな~》
《………身長が隊長と副長とあんまし変わんない件》
《おいお前ソレ絶対口に出すなよ!?》
《将来美人になるな》
《今の時点でも結構なモンだと思うよ》
《ユーノっていう子も男の娘みたいな中立的な風貌だね》
《………なんだかな、任務に手伝わさせるとなると良心が痛むな》
《俺、隊長達も子供っていうのを時々忘れかけることがあるわ》
アースラの隊員達の念話が飛び交うが、基本的に
それでもやはり子供故に危険な現場に向かわせたくないという隊員もいる。流石はエミヤとクロノの部下といったところである。
「………あ」
「………ん?」
頭を下げているなのはは少し顔を上げてみると、申し訳なさそうに此方を見るクロノと目が合った。彼女としても、前日あれだけ心配し、引き止めてくれたクロノに思うところはあるようだ。
しかしなのはは敢えて不安がるような表情をせず、敬愛を込めて頬を緩ませ、笑顔を見せた。
「―――!?」
なのはの好意的な笑顔を不意に見せられたクロノは、顔を真っ赤にして凄い勢いで顔を背けた。クロノもまだ子供、如何な小学生の好意と言えど素直に受け取れるわけもない。あと「僕は決してロリコンとかではない」と念仏を唱えて邪念を払っている。
「ほほう」
その反応を一部始終見ていたエミヤはふと、昔リーゼ姉妹がクロノに女性の好みを面白半分で聞いていた時のことを思い出した。その時クロノは確か―――年下で性格が凛々しい女の子、と渋々答えていたか。
「くくっ。年下が好みといっても、限度があろうに」
エミヤは友人の意外な一面に生暖かい笑みを浮かべる。
己に対しての恋愛的なものは疎い癖に、他人となれば妙に鋭いエミヤであった。
・クロノとなのはの関係はリリカルおもちゃ箱同様、ゆっくり縮めていきたいですね。