時空管理局本局で機体の調整を終えた巡航艦ア―スラは、無事第97管理外世界の近くにある次元領域に到着した。
輸送艦隊が襲われ、ジュエルシードが地球に落ちてからかなりの時間が経ってしまったが、今現在の地球の様子を見る限り最悪の事態にはまだ至ってはいない。それに対してアースラの隊員達は胸を撫で下ろしたが、その代わりに地球の一部地域から偵察型ドローンを介して送られた衝撃的な映像がアースラの艦内に映されていた。
「おいおい嘘だろ?」
ヴァイス・グランセニックはまるで自分の目を疑っているようにパチパチと瞼を瞬かせる。
狙撃手である彼は自身の目に映るもの全て信じる性分ではあるのだが、それでも今モニターに映されている非常識な映像を信じることが中々できないでいたのだ。
「あの二人の子供の魔力値……クロノ君と同等のレベルだよ。ううん、白い子はもしかするとクロノ君を越えているかもしれない」
「………凄い素質ね。あの外見からするとまだ8~10歳くらいかしら」
エイミィとリンディも口を揃えて驚嘆する。
現在ア―スラのブリッジに映されているのはジュエルシードを賭けて戦闘を繰り広げている二人の少女だ。計測値からの測定だと両者ともかなりの魔力を有している。特に白い少女は執務官のクロノと同等か、それ以上の魔力。戦い方こそ荒があったり隙が多かったりするが、それを差し引いても魔導師ランクAAAはある。
あの年なら、本来であるのならCランクがそこらでも上等と言える。それがエース級のAAAランクに迫る勢いとなるとは普通ではない。
「あの二人のどちらかが次元犯罪者の仲間、か」
「だろうね。まったく、本当に嫌になるよ」
皆が彼女らの戦闘力に驚いて見入っている中、エミヤとクロノは別のことが気がかりで、憂鬱な気分になって見ていた。
今は彼女らの戦闘力など二の次だ。肝心なのは彼女たちがジュエルシードを奪い合っているという状況にある。
輸送艦隊を壊滅させた犯罪者は必ずジュエルシードを回収しに来るはず。そして今、
つまり、あの二人の少女のどちらかが輸送艦隊を襲った犯罪者の一人ということになる。
そんなことはあまり考えたくはないものだが、彼らは実際に少年兵というものを嫌なほど見てきたし、自分達もその少年兵に属している。エミヤ達は彼女らが子供だからといって潔白だと言えるほど甘い考えなど持っていない。
「もしくは両者とも犯罪者の一員で、ジュエルシードを眼前にして仲間割れが起きた可能性だって出てくるな」
「………行くぞクロノ。ここは管理局員らしく、彼女達の事情を直接聞けばいい」
「それもそうだな。じゃあ僕は白い少女を抑える。君は黒い少女を」
「了解した」
どちらにせよ、あの戦闘力を取り押さえるとなると自分達が直接出張った方が良い。そう判断した執務官と三等陸尉は地球へと繋がるアースラのゲートに向かって歩き出した。
◆
「バルディッシュ!!」
「レイジングハート!!」
空を舞い、宙を駆け交差する白と黒の少女は互いに一歩も譲らない“名”勝負ともいえる激闘を繰り広げられていた。
白い少女は自身の周りに桜色の魔法弾を形成し、弾幕を張り黒い少女へと向けて掃射する。それに対し黒い少女はまるで重力を感じさせないような体さばきで次々と飛来する魔法弾を回避し、最後の一発を回避し終えたところで四発のフォトンランサーをすれ違いざまに発射する。誘導性のない直球魔法弾ではあるが、その代わり正確性と弾速を重視しているフォトンランサーは術者の力量が大きく反映する。フェイトが扱えばかなりの脅威を生む魔法弾だ。
しかし白い少女は急加速で上昇しそれをギリギリではあるが回避した。
「くっ、なんて無茶な機動を……!」
バリアジャケットの対重圧緩和効果があるからこそ為せる荒業だ。普通の服であれほどの急加速を行なえば全く鍛えられていない幼い身体は強烈なGに耐えきれず車に引かれた蛙のようになっていただろう。
「本当に、強くなってる………!!」
黒い水着にマントを羽織ったバリアジャケットを着用しているフェイト・テスタロッサは白い少女、高町なのはの急激な成長ぶりに舌を巻く。
初戦ではあれほど力の差があったというのに今ではこれほどの熱戦を繰り広げられている。才能という部分が多いのだろうけど、それだけではこの短時間でこれほどの力は身に付けれない。
ここまでされては、認めるしかない。
高町なのはは『強くなりたい』という思いと『日々の努力』を惜しまなかったからこそ、今自分と対等な戦いが出来ているのだと。
“でも…それでも私は負けられない!!”
彼女がどれだけ強くなろうと、成長しようと自分は負けられない。
ジュエルシードは母を救うために必要不可欠なもの。そして母が救われたとき、昔のような優しく、楽しかった日々が戻ってくる。彼女とは背負っているモノの大きさが違いすぎる。
フェイト・テスタロッサは―――――こんなところで、負けるわけにはいかない。
“フェイトちゃんは本当に速い………!!”
足に生やした桜色の翼を全力で羽ばたかせながら、なのはは悔しそうに顔を歪める。
あれほど特訓したというのにまだあの速度についていけない。それはフェイトがスピード型の魔導師であることと、魔導師として訓練してきた歴の差が出ているからだ。
所詮なのはは才能があるとしてもまだ魔導師になって一か月も経っていない。それならば当然の力量差だと言える。だがそんなことはなのは自身が一番理解している。経験の差、実力の差を。
“でも…諦めない!!”
それでもなのはは着実にフェイトとの差を詰めてきている。
諦めない限り負けではない。
「いくよ………フェイトちゃん」
「…………」
なのははフェイトの紅い目を見つめ、レイジングハートを強く握る。彼女の「いくよ」という言葉は次の攻撃でケリをつけるという決意が込められていた。それに対してフェイトは無言で頷いた。
二人の少女は体から溢れ出る魔力を己のデバイスに注ぎ込み、宙に足をつき、腰を低くし、体勢を整える。
白と黒の魔導師は全力でライバルに向かって空を駆けた。そして――――
「お楽しみのところ失礼する」
「割り込み御免……というやつかな」
「「―――――え?」」
彼女らの全力の魔法は……虚空の空間び描かれた魔方陣から現れ乱入してきた二人の少年の手によって塞がれてしまった。
紅いマフラーを首に巻き、黒いコートを着ている白髪の少年はフェイトのバルディッシュの魔力刃をショート・ソードで受け止め、黒い法衣を身に纏う黒髪の少年はレイジングハートの柄を銀の籠手で握り止めている。
なのはもフェイトも一切手加減していなかった。それをこうも簡単にあしらわれるなど、圧倒的実力差がなければ不可能だ。
「成程大した魔力だ。これ程の力をこんなにも幼い少女が持ち合わせているとは驚嘆に値するな。クロノの幼少期を思い出す」
空中に浮かせている幾つもの剣を足場にし、バルディッシュの魔力刃を受けて止めている白髪の少年は感心しながら呟いた。
「ジュエルシードは既に封印済みか。しかし、封印しているからと言ってこんなバカ魔力を危険物の近くで発散させるのはどうかと思うよ。危険極まりない行為だ」
溜息を吐きながら黒髪の少年はなのはに呆れたように忠告する。
「え、あ、あの…………」
いきなりの事態に困惑するなのはは何を言えばいいのか分からず硬直する。
「………貴方たちは、一体何者ですか」
警戒心剥き出しのフェイトは白髪の少年を睨みつける。それに対して白髪の少年は慣れた様子で自己紹介をした。
「時空管理局・次元航行部隊アースラ所属のエミヤシロウ三等陸尉だ。詳しい話は艦内で聞かせてもらう………お約束の言葉だが、まぁ……御同行願おうか」
「時空管理局の魔導師…………ッ!」
フェイトはショート・ソードと攻めぎ合っていた魔力刃を引いて一定の距離を取る。
時空管理局。多くの次元世界の治安と世界情勢を担う一大組織。リニスの授業で度々出た組織名だ。
「………ッ」
フェイトの中にある最優先順位が即座に更新された。今自分が為すべきことはジュエルシードをこの二人よりも早く回収し、この場を全力で離脱すること。交戦? 不可能だ。この二人は、なのはと違って歴戦の魔導師に違いない。戦ったところで、まず負ける。二体一な時点で絶望的だ。
自分はこんなところで捕まる訳にはいかない。ジュエルシードも回収しない訳にもいかない。なのはとの勝負も拘っている場合ではない。
「ふっ………!!」
間髪入れずフェイトはジュエルシードに向かって駆けた。
ジュエルシードを回収したらすぐにこの場から逃げる。そうすれば―――
「ロストロギアを盗み、逃亡を企てるか………黒は君だな」
どちらが次元犯罪者なのか把握した白髪の男の判断は早かった。
「クロノ」
「任された」
白髪の少年の合図と共にクロノと呼ばれた黒髪の少年は量産型デバイスをフェイトに向け攻撃魔法を放たれる。
「ぐぅ!」
片手で撃ったにも関わらず蒼い魔法弾は寸分違わずフェイトに直撃した。なのはの魔弾は掠りもしなかったというのにこの命中精度。まるで格が違う。
「――――あ」
非殺傷設定の魔法弾を喰らったフェイトは魔力を大幅に削られ墜落する。
「フェイト!!」
主の墜落地点に狼姿のアルフが駆け寄り落ちてきたフェイトを背中でキャッチする。
「グㇽㇽㇽㇽㇽ………」
低い唸り声を上げながら距離を開けていくアルフ。
当然、それで見逃すようなことを管理局員がする訳がない。
◆
「投降の意思は無しか。仕方がない。手荒な真似はしたくないのだが………クロノ。捕縛を頼む」
エミヤの持つ魔術は基本相手を殺す類のモノが多い。無傷で捕まえるにはそれなりのリスクが伴う。デバイスを破壊し戦闘力を半減させることはできるのだが黒い少女の持つデバイスにどんな情報が入っているか分からない上に、もしかしたら残りのジュエルシードが回収されている可能性もある。迂闊な行動は出来ない。
故にエミヤは魔導師であり捕縛に長けているクロノに任せることにした。
なに、いつも通りだ。こういった割れ物注意な慎重を要する件ならばクロノ・ハラオウンの専売特許なのだから。
「悪く思わないでくれよ。手加減はする」
クロノは再度S2Uを黒い少女と狼の使い魔に向ける。
そして詠唱を唱えようとしたその時―――
「撃っちゃだめぇぇぇぇ!!」
突然、白い少女がクロノの前に立ちはだかった。クロノが握りしめていたデバイスを魔力で強化した腕力で強引に振り解き、驚くべきスピードで射線上に割って入ってきたのだ。
「――――ッ!?」
白い少女の行動に驚いたクロノだが、執務官である彼であればすぐに対処できる許容範囲内のトラブルだった。
公務執行妨害という名目上で彼女を捕縛し、さらに続けてフェイトと呼ばれていた黒い少女を捕縛すれば上手く事が進む。
だが、この時クロノは撃てなかった。
彼女の眩しいほど力強く、意志に満ち溢れている眼光に何処か懐かしくも、身に覚えのある感覚に陥ってしまい体が硬直してしまったからだ。
「クロノ!?」
エミヤの困惑気味な声に我に返ったクロノは白い少女を押しのけ捕縛目標を捕縛しようとするが、転移魔法で逃げられてしまった。これは―――執務官にあるまじき失態だ。
「すまない。取り逃がした」
「いや、どんな人間にもミスはある。気にすることはない」
「………そう言ってくれるとありがたいね」
「では代わりに……そこの白い魔導師と、下で此方を見ているフェレットに事情を聞かせてもらうとするか」
エミヤの剣のように鋭い眼光は、空中に浮く一人の少女と地上で此方の様子を見ていた小さな小動物に向けられる。
――――その鋼色の眼は白い少女とフェレットに逃げることを許さないと告げていた――――
内容が上手く纏まらないですね。
アニメ版でのクロなのが成立できるよう努力したいです。
ユーノの活躍も用意しなくては。あとアースラのモブ達もそろそろアップしてもらおう。