真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第九十二話

 

 

 

 

◇◆side一刀◇◆

 

 

数え役満姉妹の大型ライブ。

本日は視察も兼ねて華琳達も見学に来ている。一番良い席を確保して楽しんでもらう&今後の予算をもぎ取る算段だと純一さんらしい意見を出していた。

三姉妹……特に天和と地和には今回のライブの重要な事だから調子に乗らない事と釘を刺しておいたし、純一さんからも気を付ける様にと言われていたから大丈夫。因みにその純一さんは仕事で徹夜だから終わり次第合流するって言ってた。

準備は万端。これで大丈夫。

そう……大丈夫だと思っていたんだ……

 

 

『あれれ~?声を出さない子達が居るぞ~!』

 

 

マイク越しに地和が此方を指差している。そう、貴賓席に案内された華琳達だがライブの熱に押され気味でファンがする叫びをしなかったのだ。その結果、盛り上がらないと地和が文句を付けて、ファンクラブの連中が血走った目で此方を睨んでいた。

暴走したアイドルのファンって怖いよね。

 

 

「貴様らぁぁぁぁぁっ!烏合の集まりだと思って堪えていればいい気になりおって!下がれ下がれ下郎ども!このお方をどなたと心得る!」

 

 

遂にファンの行動にキレた春蘭が大声で叫ぶ。その姿はご老公の付き人の如く。いつもなら純一さんがやるポジションだけど今日は居ないから……

 

 

「畏れ多くも先の副将軍………」

「……副将軍って誰よ」

「……空気読め、北郷」

「お前は少し黙っていろ」

「………うぅ、すまん」

 

 

ボケたら華琳達からの総ツッコミで黙らされた。この状況下で、いつもボケられる純一さんが改めてスゴいと思わされるよ。

 

 

「このお方をどなたと心得る!畏れ多くも魏国国主、曹孟徳様にあらせられるぞ!」

「頭が高い!控えおろう!」

 

 

春蘭と秋蘭が華琳の両サイドに控えて叫ぶ。いや、だから水戸のご老公なんだってそれは。兎に角、この流れはマズい。なんとか話を静めないと……

 

 

『ええい!皆の者、出合えっ、出合えぇぇぇい!』

「「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

「地和のバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

地和の叫びに呼応したファンが一斉に押し寄せる。だから純一さんにも釘を刺されたけど華琳達相手に騒ぎはマズいんだってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!。だが俺の叫びも虚しく華琳達もノリノリで対応を始めていた。

 

 

「ふん。この曹孟徳に楯突こうなど、何という身の程知らず。春蘭、秋蘭。構わないから、やっておしまいっ!」

「はっ!」

「はっ!」

 

 

華琳の号令の下、その場に居た武将達は武器を構えて……ってヤバいって!?

俺が頭を抱えてどうしようと思った、その瞬間だった。

俺達の背後から円盤形の気弾が飛んできて、迫り来るファンの足元に突き刺さった。気弾は地面を抉り、俺達とファンの間に溝を作った。って……この気弾は、まさかっ!?

 

 

 

 

 

 

「随分な騒ぎだな……手伝ってやろうか?ただし真っ二つだぞ……」

「純一さんっ!?」

 

 

火の灯した煙管を吸いながら此方に歩み寄る純一さん。

着ているスーツは着崩れてワイシャツとスラックス。そして緩めたネクタイで怠そうにしていた。

そうか……仕事が終わったら来るって言ってたけど、そのまま来たんだな。

 

 

「急いで仕事を終わらせて……徹夜明けで来てみれば……なんだ、この騒ぎは?」

「あ……いや、その……」

 

 

純一さんの問いに答えられない。と言うか、眠たいのか目が座ってる純一さんが怖すぎる。

会場も水を打ったみたいに静かになっている。

 

 

「地和……盛り上がるのは結構だが騒ぎにはするなと言った筈だが?」

『あー……えっと……盛り上がって……つい』

 

 

地和もテンションが上がった状態だったから、やってしまったけど純一さんの登場で頭が冷えたのか、今はヤバいと本能的に感じてるみたいだ。さっきまでの勢いが完全に消えていた。

 

 

「つい……ね。ついで地和は国の王に暴徒をけしかけたのか?」

『あ、その……』

 

 

フゥーと紫煙を吐く純一さん。っと言うか純一さん……真島のお兄さんみたいです。

その雰囲気に華琳達も黙っちゃってるし。

 

 

「んだとコラッ!地和ちゃんに文句あるってか!?」

『あ、馬鹿!?』

 

 

その時だった。ファンの一人が純一さんに食って掛かったのだ。地和もマイク越しに叫ぶがファンの一人は既に純一さんに向かって走っている。

 

 

「悪い子には何が有ると思う?……拳骨だ」

 

 

そう言うと純一さんは腕をグルグルと回し始めた。え、何を……?

 

 

「舐めるな!」

「食らえ……必殺!」

 

 

純一さんの相手を馬鹿にした様な行為に殴り掛かろうとファンの一人が拳を振り上げた瞬間、純一さんも間合いを詰めた。

 

 

「ア~ンパーンチっ!」

「ぶふぁっ!?」

 

 

純一さんの拳が先にファンの顔に直撃し、ファンは10メートル程、吹っ飛ばされた。いや、でも、アンパンチってアンタ……

 

 

「さあ……次は誰かなぁ~?」

「な、舐めやがって……行くぞ!」

「「おうっ」」

『ああ、皆、ちょっと待って!?』

 

 

純一さんが再度、腕を回し始めるとファンの一部が又しても暴徒と成り始めて純一さんに襲いかかる。人数としては10人程度。先程の事もあってか大半のファンは頭を冷やした様だが一部はまだ頭が熱い様だ。

人和の制止も無視して暴動が始まってしまった。

 

 

「アンパーンチ!」

「ぐぶぁ!?」

「つ、強いぞ!?」

 

 

純一さんのアンパンチによって潰されていく一部の暴動達は兎も角、大半のファンは引き気味だ。

今までで一番上手くいってる技が、アンパンチってどうなんですか純一さん……

 

 

「うぅむ……見事な技だ、あんぱんち」

「何処がだ、ただ腕を回してから殴っているだけではないか」

 

 

純一さんと暴動の戦いを見ていた華雄の呟きに春蘭は疑問をぶつける。いや、疑問は俺もあるんだけど。

 

 

「あの技の恐ろしい所は腕を回すことにある。腕を回す事で、間合いを測りづらくなり、更に遠心力で加速された拳が射程圏内に入ったと同時に襲ってくる。何とも恐ろしい技だ」

「な、なんと……」

 

 

華雄の解説に驚く春蘭。華雄の解説は凄いけどあれは、ただのアンパンチだから!

その後、春蘭や霞達も暴動鎮圧に加わり、数え役満姉妹の大型ライブは中止……と言うか延期になった。暴動を鎮圧の後に純一さんがステージの上で地和を正座させて説教をする事態となったのだ。

 

勢いに任せて馬鹿な騒動を起こすなら二度と大型ライブはさせないと怒ったんだ。確かにそれを許したら黄巾の時と同じだからね。天和と人和は地和を止められなかった事を叱られてたけど。

その姉妹が説教をされる光景を見た、ファン達も熱くなるのは良いが周囲に迷惑をかけたら暴徒と変わらんと純一さんの一声で静まり反省していた。

 

全てが終わって、舞台袖に戻った純一さんはフラりとベンチに倒れて寝てしまった。純一さんも徹夜明けのテンションで少し変になってなんだな。

 

でも、あんな状況でも妙に上手く纏めるのは純一さんらしいかな?

 




『アンパンチ』
アンパンマンの一番有名な得意技であるパンチ。片腕を振り回して力を貯め、渾身のパンチを放つ。
その威力はバイキンマンの乗る円盤やバイキンメカを山の向こう側まで吹っ飛ばし、星にする程。

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