俺は今、至福の時を迎えていると言っても過言ではない。
男ならば誰もが夢見る『自分の為に料理を作ってくれる女の子』それが今、俺の前にいるのだから
「そうですよ……はい、お上手です」
「う、む……そうですか。ありがとうございます」
「華雄の上達ぶりは凄いわね……私も負けらんないわ」
厨房に立ち、料理をする月と華雄と詠。エプロン姿で台所に立つ女の子って良いね!
「なにニヤニヤしてるのよ、気持ち悪い」
そして今日も桂花の毒舌は切れ味抜群である。と言うのも、この間の胸の一件以降、言葉の端々にトゲがある。そろそろ泣きたい。
「いえ……桂花さんは純一さんが他の女の子に鼻の下を伸ばしてるのにイラついてるんじゃ……」
「シッ!言わない方が懸命だ」
向かい側の席じゃ流琉と一刀が並んで座ってる。うん、後で覚えてろよ。
「しかし意外でしたよ。華雄が料理をしてるなんて」
「ちょっと前から始めてな。最初の頃は俺が教えてたんだが今じゃ俺なんかより、よっぽど上手く作れる様になってるよ。それに天の国の料理も少しずつ覚えてきてるしな」
一刀は華雄の料理を意外と言ったがそれは間違いじゃない。それこそ最初の頃は大変だったんだから。
「でも華雄さんの手並みは凄いですよ。月さんや詠さんと同じくらい手付きが良いです」
「慣れ始めたらメキメキと上達してな……最初の頃なんかは酷かったんだぞ……例えば……」
◆◇導入編◆◇
華雄に頼まれて俺が料理を教える事になった。華雄も色々な事に目を向ける様になったのは良いことだ。張り切って教えてやろう。
「んじゃ、この包丁で野菜を切ってくれ」
「任せろ……どりゃあっ!」
「野菜ごと、まな板を切るなーっ!」
野菜もろ共に、まな板まで切れたよ。危ない……と言うかどんだけ力を入れたんだよ。
◆◇炒め物◆◇
「野菜を炒める時は油を少し鍋に……」
「む……これくらいか?」
俺の言葉を聞いた華雄はザパーッと大量の油を鍋に投入し始めた。
「鍋の淵、ギリギリまで油を流すな!少しと言っただろ!」
「量を多くすれば美味くなるものではないのか!?」
「何処から仕入れた、その知識!?」
◆◇包丁編◆◇
華雄は次々に野菜をみじん切りにしていく。最初の頃とは違って包丁の使い方もかなり上手くなってるな。
って、華雄は切る予定じゃない野菜までみじん切りにし始めてる。
「避けろ、菜っ葉ーっ!……じゃなかった。菜っ葉は切らなくて良いから」
俺は華雄が切ろうとしていた菜っ葉を横に移動させた。
◆◇材料採取編◆◇
「肉だな……よし、山に行って猪でも狩りに……」
「市場に行って買ってこような」
大斧を持って山へと向かおうとした華雄を止めた俺は間違っていない筈。
◆◇◆◇
「と……まあ、こんな次第でな」
「むしろ、その状況から良くここまでの料理を……」
俺が話をしている間に華雄、月、詠の料理は完成していた。
先程、話していた初期の華雄の駄目っぷりを聞いていた一刀、流琉、桂花は目を点にしている。
そして皆で揃って食事を頂く事に。
「うわっ、美味っ!」
「凄いです!」
「………やるわね」
一刀、流琉、桂花の順に感想が出るが三人とも驚いた様子だ。まあ、さっきまでの話を聞いた後にこんだけ美味い料理が出てくれば当然のリアクションか。
「ど、どうだ秋月?美味いか?」
「ああ、美味いよ華雄。ありがとな」
俺が素直に感想を言うと華雄はガッツポーズをした。俺も料理をするけど、やはり作ったものが美味いと言われるのは嬉しいからな。
「私も料理人として今度、華雄さんにお教えしますね」
「ああ、よろしく頼む!」
華雄の料理に触発された流琉が華雄と熱い握手を交わしていた。なんか凄いやる気だ。
「でも、まあ……さっきの華雄や月や詠を見てると……純一さんと新婚さんみたいでしたね」
「「「っ!!?」」」
一刀の何気ない一言に華雄、月、詠の顔が一気に赤くなった。ふむ、この三人が新婚か……少し想像してみると……
「悪くない、って言うか凄く良い……痛っ!?」
「………フン!」
俺の溢した言葉に桂花が俺の足を踏みつけた。しかもそっぽ向かれた。
因みにこの後だがドヤ顔の華雄と桂花で喧嘩が始まってしまう。月と詠は先程の俺の言葉が効いているのか顔を赤くしたままでマトモに俺と話をしてくれなかった。
トドメとばかりに大将から『天の国の知識を出したのに私を呼ばなかったわね?』とお叱りを受けた。