真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第五十四話

荀彧……いや、桂花から真名を許された次の日。月に起こしてもらった俺はある一つの危機に陥っていた。

 

 

「桂花さん……これは私の役目です」

「そうね。でもコイツの怪我を悪化させたのは私よ。責任をとるわ」

 

 

俺の目の前では用意された朝食を前に静かに、それでいて気迫に満ち溢れた桂花と月が睨みあっている。二人はどちらが俺に食べさせるのかを争っていた。

事の始まりは朝食が用意されてからだった。いつもの様に俺に朝食を食べさせようとした月だが桂花が持っていた食器を奪ったのだ。本人曰く、『その手を使えなくしたのは私よ。だ、だから……私が食べさせてあげる』と宣言。これに月は『最初に怪我をさせてしまったのは私です。最後までやります』と食器を奪い返した

月は顔は笑っているが一歩も退く気は無さそうだ。俺が口出しをすると更に悪化しそうだし……どうしたら……

 

 

「二人とも秋月が困っているだろう。仕事の時間も差し迫ってるんだぞ」

「……華雄」

「華雄さん……」

 

 

二人が取り合っていた食器をヒョイと取り上げると諭すような口調で華雄は語り掛ける。桂花は指摘された事にも自覚があったのか『仕方ないわね』と退き下がった。月は……あれ?なんか泣きそうに……華雄も既にいないし。

 

 

「華雄なら月から逃げる様に食堂から出ていったわよ」

「大将……ってなんでまた逃げるとか……」

 

 

いつの間にか食堂に来ていた大将が俺に話しかける。

 

 

 

「華雄さん……私達とこの国に来てからズッとなんです……避けられてて……」

「ああ、もう……月、泣かないで……」

 

 

華雄に避けられてる事に涙を流す月。あ、そうか……反董卓連合の時の事が未だに尾を引いているんだ……

月はもう許したつもりなんだろうけど、華雄は任された関所を二つも落として董卓軍を敗北させたとの罪悪感がある。それだから月に会わせる顔が無いって所か?

 

 

「ふむ……これ以上、関係改善が望めないと仕事にも支障をきたすわね」

 

 

大将は月を慰める詠から視線を俺に移す。

 

 

「頼めるかしら純一」

「えーっと……何故俺に?」

 

 

大将の言い出した事だ。拒否なんか出来ないのはわかってるが、何故俺に白羽の矢が当たったのかだけ聞いときたかった。

 

 

「あら、華雄はアナタの部下なのよ。部下の様子を見るのは上司の勤めでしょ?それに……」

「そ、それに?」

 

 

大将の言い分はわかる。一応、俺の補佐として頑張ってくれてるんだから……

 

 

「それに桂花から自力で真名を預かれたんだもの、きっと華雄も立ち直らせてくれるわ」

「「っ!?」」

 

 

俺と桂花は同時に顔を見合わせた後に大将に視線を戻す。あ、超がつくくらいニヤニヤしてる。これは……マズい!

 

 

「じゃ、俺は警邏に行くと共に華雄の様子見てくるわ!」

「あ、ちょっと、私を置いて逃げるな!」

 

 

俺は朝飯もろくに食わずに警邏に出ることにした。俺が食堂を後にしたと同時に桂花宛の質問疑問が飛び交っていた。 すまん、桂花。後でなんか奢るから。つーか、なんで大将は俺が桂花から真名を預かれたの知ってんだよ。昨日の話だってのに。

 

さて警邏に出たは良いが華雄は俺の前じゃいつも通りだった。いや、いつも通りの様に振る舞ってるのかな……あれだけの事があって『もう忘れた』なんて事はないだろうし。

仕方ない……今日の夜にでも酒に誘うか。今のまんまじゃ何を聞いてもマトモに答えるとは思えないし。

仕事の事だろうが、プライベートな事だろうが愚痴を溢せば

多少なり楽になるだろう。ふと思ったが、これって飲みニケーションになるのだろうか……俺は会社でしょっちゅう参加させられていたが……いや、飲みニケーションではなく普通の酒の誘いと言う事にしとこ。

 

警邏の途中で華雄に夜の酒の話をしたらアッサリと受けてくれた。華雄も話したい事があるのだとか。

その話を聞くためにも今日は酒盛りしなければならない。

因にだが城に戻ると同時に今朝、一人で逃げた事で桂花に30分ほどの説教を受けた。『ま、まあ……華琳様からお褒めの言葉を頂いたから良しとするわ』と顔を赤らめていた。本当にお褒め『言葉』だったのかも怪しいが踏み込むと面倒な事になりそうなのでスルーしよう。

 

なんやかんやで夜になり、華雄と酒を飲むことに。因みに飲む場所は俺の部屋でだ。

最初は飲みながら仕事の話。次に俺が天の国に居た頃の話。話をしていると会話も弾むし、酒も進む。さて、華雄の悩み相談を受けようか……………と思ってたんだけどな。

 

 

「う……ぐすっ……」

 

 

突如、華雄が涙声で啜り泣く様な状態になった。え、俺がまた何かしちまった!?

 

 

「私は……なんでこうなんだ……任された関所で敗北し……董卓様を……守れなかった……」

「華雄……」

 

 

華雄の思いは俺の想像以上だった。反董卓連合の時の事は華雄にとって最大級のトラウマとなっている。

 

 

「董卓様の……皆の笑顔を見る度に思うのだ………私が強ければ……私が孫策に負けなければ……」

「………」

 

 

そっか、真面目で融通が効かないけど責任感が強くて勝ち負けに拘り過ぎてるんだな、華雄は。

 

 

「それに……貧乳って……言われて……」

 

 

あ、気にしてたのかアレ。でも華雄は貧乳って感じじゃ……まあ、孫策と比べると流石に負けてるか。

それにそれを言ったらウチの大将や軍師は……やめとこ。考えただけで殺されかねない。

兎に角、泣いてる華雄をどうにかしないとな。

 

 

「華雄……月も詠も霞も恋もねねも誰も華雄のせいで負けたなんて言ってなかっただろ?今、皆は華雄がそんな調子だから心配してるぞ。今の華雄は気負いすぎだ」

「……わ、私は……」

 

 

俺は治りかけの左腕で華雄の頭に手を伸ばす。華雄は俯き気味で顔は見えない。

 

 

「華雄も一兵卒からやり直したいって言ってたんだろ?償いをするつもりで。確かに立場は出来ちゃったかもだけど……俺も手伝うし、色々教えるからさ。自分から孤独になろうとなんかするな」

「………」

 

 

俯いたままの華雄の髪を撫でる。あ、凄いサラサラで良い香りが……

 

 

「皆、勿論俺も……華雄が心配だから」

「あき……つき……」

 

 

髪を撫でていたのだが華雄はやっと顔を上げた。その瞳に溜った涙が溢れ出していた。

 

 

「……優しく……するな!」

「わっ!華雄!?」

 

 

華雄は俺を押し倒し、抱き付いてきた。両手を俺の背中に回して泣いている。ヤバい、華雄って意外と華奢で柔らかい……

 

 

「優しくされると何もわからなくなる!私は……私はどうしたらいいんだ!教えてくれ秋月!」

「華雄……言ったろ。色々教えるからって。慌てなくても良い」

 

 

俺は泣き崩れる華雄をなるべく優しく抱き返した。華雄は驚いた様子だけど少し落ち着いてくれた。

 

 

「皆も……俺も華雄と一緒に居るんだ。焦らなくたっていい……何をするにしても……一人で抱え込まなくていい。二人いれば楽しい時は二倍楽しめる。そして苦しい時は半分で済む」

「そう……だな……」

 

 

華雄は冷静さを取り戻したのか大人しくなっていた。俺の言葉を聞いて静かに顔を上げた。

 

 

「なら……ずっと一緒に居てくれる証がほしい」

「証……どうすれ……むっ」

 

 

俺の言葉を遮って華雄が顔を近づけて……そのままキスされた。先程まで飲んでいた酒の匂いと華雄の香りがした。

 

 

「ふふっ……証だ」

「か、華雄……」

 

 

悪戯な笑みを浮かべた華雄はポフッと俺の胸に頭を乗せる。その直後にスースーと寝息が聞こえ始めた。もう寝たのか……張っていた気が緩んで疲れが一気に来たのか……それとも酒の飲みすぎか。

俺は眠ってしまった華雄を起こさないように抱き上げると寝台に寝かす。華雄との距離が近くなり思い出すのは先程のキス。柔らかかったなぁ……俺は思い出す様に指で自身の唇に触れた。

さて……華雄も寝ちまったし俺も……あ、寝る場所がない。俺の部屋で飲んでいて華雄に寝台を譲ったら俺の寝る場所ないじゃん。

…………仕方ない、床で寝るか。俺はスヤスヤと眠る華雄に『オヤスミ』と小さく言ってから瞼を閉じて……俺の意識は直ぐに沈んだ。


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