真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第三十話

 

 

 

 

正直驚かされた。これが素直な感想だ。

今の世を騒がせていた黄巾党の首領があの三姉妹だったとは。

 

長女の張角が天和。次女の張宝が地和。末っ子の張梁が人和。確かに可愛いがこの三人で大陸を揺るがせた暴動が起きたのか……詳細を聞けばこの三人の『人を集める力』に目を着けた大将は三人を生かす代わりに名を捨てさせ、自身に尽くせと取引を持ちかけ、末っ子の人和がそれを承認した。しかし大将は三人の今後を一刀に丸投げしたのだ。そして俺にもお鉢が来たって訳か。

まあ、今日の所は単なる顔見せだけだったが後日、仕事の話をしなければならない。

さて、今俺が何をしてるかと言えば厨房で料理を作っていた。黄巾党壊滅に至っての宴会をするというのだが、荷手解きや事後処理を考えると恐らく夜になる。

 

 

「……………」

 

 

ならば食事を先に食べさせ、夜に宴会にするのが一番かと思って一刀や凪達に作っていたのだ。

 

 

「………………」

 

 

俺は独り暮らしをしていたから料理の腕には自信がある。

 

 

「………………」

 

 

と言うかさっきから視線を感じる様な……

 

 

「………………お腹すいた」

「うおわっ!?」

 

 

気が付けば背後に人が居た。全く気が付かなかったんだけど!?

振り返るとそこには赤髪の女の子がこっちを見ていた。城の中じゃ見かけない子だな。

 

 

「…………」

「………腹減ってんのか?」

 

 

暫し無言で見つめあったのだが俺の炒飯の匂いに女の子の腹が『ぐぅ~』と鳴る。

 

 

「………食べるか?」

「…………っ!」

 

 

 

俺の問いに、こくこくと首を縦に降る。余程腹が減っていたのか四人前はある炒飯をパクパクと凄いスピードで食べていく。

ま、悪い子じゃなさそうだし、食べ終わったら話を聞いてみるか。

 

 

「秋月副長」

「ん、どうした?」

 

 

なんて幸せそうに炒飯を食べる子を見ていたら城の兵士が姿を現した。

 

 

「曹操様がお呼びです。謁見の間に来るようにとの事です」

「謁見の間に?わかった……えーっと……」

 

 

事を告げると兵士は行ってしまうが……この子どうしよう?俺が視線を向けると頭に?を浮かべて小首を傾げてるし。

 

 

「俺はもう行くけど食べてていいからな」

「…………ん」

 

 

俺は赤髪の子の頭を撫で、謁見の間に急いだ。

謁見の間に到着すると既に他の面子は招集をかけられたいた様で全員揃っていた。俺が最後か。なーんか皆、不機嫌そうだけど?

 

「華琳。今日は会議はしないはずじゃなかったのか?」

「私はする気はなかったわよ。貴方達も宴会をするつもりだったんでしょう?」

 

 

そう今日はお疲れ様って感じで解散したのに直ぐに集められたから皆が不満そうにしている。一刀の問いに答えた大将も不満気な顔だ。

 

 

「宴会……ダメなん?」

「バカを言いなさい。私だって春蘭や秋蘭とゆっくり閨で楽しむつもりだったわよ」

 

 

真桜の言葉にサラリと予定を話す大将。『流石、大将。そこに痺れる、憧れるぅ』と舌の先っぽまで出かかった冗談を引っ込めた。今、冗談を言ったら八つ当たりをされると感じたからだ。

 

 

「すまんな。疲れとるのに集めたりして。すぐ済ますから、堪忍してな」

 

 

と其処へ真桜と同じく関西弁の女性が謝罪しながら広間に現れる。サラシに袴って凄い格好だな。

 

 

「貴方が何進将軍の名代?」

「や、ウチやない。ウチは名代の副官の張遼や。よろしゅうな」

 

 

張遼ってまた有名なのが来たな……

 

 

「なんだ。将軍が直々にというのではないのか」

「アイツが外に出るわけないやろ。クソ十常侍どもの牽制で忙しいんやから」

 

 

春蘭の疑問に答える張遼。十常侍って確か三国志の中でも結構な悪役だったよな……うろ覚えだが十常侍の後に董卓の暴政だったかな?

 

 

「ほれ、陳宮。さっさと用件を済ませんかい」

「分かっているのです。でも……」

 

 

なんて、考え事をしていたら話が進んでいた。張遼が陳宮という少女に話を促すがなんとも歯切れが悪い。

 

 

「何か問題でも?」

「そ、それが…….呂布様が居ないのです」

 

 

大将が問い掛けると陳宮の口からとんでもないビッグネームが飛び出した。思えば張遼、陳宮と来ているのだから、その繋がりで呂布でも可笑しくはない。でも居ないってどういう事だ?

と思っていたら謁見の間の扉が開き始める。呂布のご登場か?

 

 

「……………」

「れ、恋殿ーっ!?」

 

 

何故か先程の赤髪の少女が来ていた。しかも炒飯を盛っていた皿を持って。いやいやいや、ちょっと待て。まさかあの子が呂布?全然、そんな風には見えなかったんだけど!?なんて思っていたら赤髪の少女は俺の所まで来て皿をスッと差し出した。ってあの炒飯は軽く四人前はあったのに全部食べたのか!?

 

 

「………ご馳走さまでした」

「………はい、お粗末さまでした」

 

 

俺は皿を受け取ったが皆の視線が痛い。

ついでを言えば俺の頭の中で『秋月アウトー!』っと妙に間の抜けたアナウンスが流れた気がした。

呂布はそんな空気をものともせず張遼と陳宮と共に並び立つ。

 

 

「曹操殿、こちらへ」

「はっ」

 

 

陳宮に促され、大将は呂布の下まで歩み寄ると、片膝を着いて頭を垂れた。あー……相手の方が地位が上なんだな。

 

「……………」

「えーっ呂布殿は『此度の黄巾党の討伐、大儀であった!』と仰せなのです!」

「……………は」

 

 

呂布は一切口を開いていないが陳宮が代弁をしている。大将はそのままの姿勢で返事をした。

その後も陳宮が呂布の代わりに大将に質問と非難を浴びせていた。その度に大将のこめかみがピクリと動いているのを見ると冷々するんだけど……

 

 

「『今日は貴公の功績を称え、西園八校尉が一人に任命するという陛下のお達しを伝えに来た』と仰せなのです!

「は。謹んでお受けいたします」

 

 

そして一通り、話が済むと大将に新たな地位が与えられた。

つーか、陳宮が代りに代弁してるが、ホントに呂布の言葉なのか正直疑問だ。呂布なんか明らかに、ものぐさな顔してるし。

 

 

「『これからも陛下のために働くように。では、用件だけではあるが、これで失礼させてもらう。』と仰せなのです!」

 

 

やっと終わった。帰り際に呂布がチラリと俺の方を見た気がしたけどなんだったんだろう?

しかし呂布達が帰ったけど場の空気は重たい。ふと気が付けば皆の視線は俺と一刀に。

『どうしましょう?』と一刀がアイコンタクトしてきたけど、『頼む』と俺は顎で大将を指した。一刀は諦めた様に大将に歩み寄る。

 

 

「なぁ、華琳……」

「話し掛けないでっ!」

 

 

謁見の間にビリビリと大将の声が響く。やっぱスゲー怒ってんな。

 

 

「ああ、もう……腹が立つわね……」

 

 

ヤベェよ大将の回りに『ゴゴゴッ』って文字が見える。その雰囲気に誰もが圧倒されていたのだが、ふと大将と目があった。大将の目はこう語っていた『一発殴らせろ』と。

俺は覚悟を決めて上着を脱ぐと一刀に預け大将の前に立つ。そして体に気を張り巡らせて構えをとった。

 

 

「呼っ!」

「はぁっ!」

 

 

俺の腹に大将の拳が突き刺さる……って超痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?

いや、気で体強化して三戦まで使ったのにダメージがデカ過ぎるんですけど!?

 

 

「ふぅ……少しは気が晴れたわ。皆、明日は二日酔いで遅れてきても目をつぶるわ。思い切り羽目を外しなさい。行くわよ春蘭、秋蘭」

「「御意!」」

 

 

予想外のダメージにその場に踞る俺を一瞥して大将と春蘭は行ってしまう。秋蘭だけは俺に合掌をしてくれたが。俺が呂布と会っていた為に待たせたとかを含めてもどんだけ怒ってたんだよ。

因みに次の日に『何故、呂布に食事を振る舞った』と大将に問われて正直に話したら、もう一発頂く羽目になった。




『三戦』

グラップラー刃牙で愚地独歩が使用した技。
空手道に古くから伝わる守りの型で呼吸のコントロールによって完成されるこの型は完全になされた時に、あらゆる打撃に耐えると言われる。

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