真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百九十八話

 

 

 

 

「この鍼を打って……よし、袁術の気を込めてくれ。これで痛みが引いていく筈だ」

「う、うむ!主様、行くのじゃ、!」

「鍼を刺した痛みなのか、腹への一撃の余韻なのか分からない……痛たたたたっ……」

 

 

華佗の鍼治療で俺は腹部に大量の鍼を刺されていた。そして刺した鍼を通して美羽が気を送り込む事で治癒能力が増すのだとか。これは気を使う事が出来る俺や凪、大河向きの治療であり気を使う事が出来なかったり気の扱いが不得手な者には効果が無い治療なのだとか。

寝台に寝かされて身動きが取れない状態で鍼刺されるとか超怖い。「止めろ、ジョッカー!ぶっ飛ばすぞ〜!」とか叫びたくなる。

 

 

「元気になぁれぇぇぇぇぇっ!」

「にょわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「美羽、掛け声を出すのは良いけど妙な声は出さない。華佗の悪い影響が出てんな」

「無駄口が叩ける程度には良くなったみたいね」

「良かったです……」

「流石に今回は肝が冷えたわよ……」

 

 

華佗の叫び声に呼応する様に美羽も叫ぶ。でも、その掛け声だけはやめなさい。そんなツッコミを入れたら馬超の一撃を喰らってからずっと手を握り続けていた桂花が口を開く。付き添ってくれていた月や詠も深い溜息を溢した。

 

 

「流石は五虎大将軍。俺もある程度、強くなった筈なのに自信無くすぜ」

「馬超の一撃を防御せずにこの程度で収まってる方が驚きなんだがな。恐らく、咄嗟に内気功で自身の体を強化したんだろうな。でなければ粉砕骨折もありえたぞ」

 

 

自虐ネタで笑って見せたが色々と笑えない状態になりかけてたらしい。そんな話を華佗としていたら桂花と詠が睨む様に俺を見て月は涙目になっていた。

 

 

「ねぇ……なんで、怒らないのよアンタ。今回の一件は正式に抗議していい内容よ。蜀との同盟に亀裂が入っても可笑しくない程の事なのよ」

「そうね。他国の将の部屋に勝手に入った挙句、身動きの取れない者に危害を加えるなんて外交問題よ」

「私達としても純一さんが傷付けられたのは悲しいんです……」

「種馬扱いは今更だし、実質的な被害が俺だけだからな……ま、その辺りは大将が考えるこったろ」

「やれやれ……下手をすればその種馬にも支障をきたしていた可能性もあるんだがな。袁術、気を送り込むのはここまでだ。一気に注ぎすぎるのも良くないんだ。明日にでももう一度施術するぞ」

「わかったのじゃ」

 

 

桂花、詠、月から俺が怒らない事への不満が溢れる。確かに怒るべきなんだろうけど、怒られる事をしたのも(今回に限り誤解ではあるが)俺だ。

華佗や美羽は淡々と俺の治療を続けていたが一先ず終了らしい。一度にやりすぎちゃ駄目なんだな。

 

 

「ねぇ、前に秋月を罵倒した僕が言うのもなんだけど……純一ってちゃんと怒れるの?そりゃ仕事で真桜とか警備隊の部下を叱っているのは見た事あるけど本気で怒ってる所を見た事が無いんだけど」

「フ……俺程になると明鏡止水の境地に……痛っ!?」

「我慢強いのと明鏡止水の理は違いだろう。医者からの目線でも言わせてもらうが心労を溜めすぎるのは良くないからな?」

 

 

詠の言葉に髪をかきあげながらコメントしたら華佗が鍼を抜いて激痛が。ご意見ごもっとも。ストレス溜めすぎるのは良くないのは良くわかる。現代でも上司のお小言や取引先とのトラブルで胃がヤバい事になりかけたしな……少し発散させる事を考え……あ。行き着いた答えに笑ってしまう。だから種馬って呼ばれるんだろうな俺は。

 

 

「俺の心労は……桂花達がいるから軽減されてるんだな、俺は」

「ば、馬鹿……」

「……発想が種馬よね」

「へう……」

 

 

握られていた手を握り返しながら呟くと桂花、詠、月の顔がみるみる赤くなっていく。

 

 

「どういうなのじゃ?」

「純一のお役目って事だな」

 

 

無垢な美羽が華佗に問いかけ、華佗は医師として表情を崩さずに答えた。流石である。そんなやり取りの後に桂花が俺の寝台に身を寄せながら囁く。

 

 

「そ、その……アンタの心労をほぐそうかしら……私の役目だし……その最近……」

「俺と袁術は玉座の間に行き、治療が終わった事を報告に行ってくる。傷が開く様な真似はするんじゃないぞ」

「前にも似た様な事をして傷が開いたでしょ?自重しなさいよ」

「あうあう……」

「……ぷしゅー」

「自重はするけど少し桂花と二人きりで話はさせてくれ。少し真面目な今後の話もあるしな」

 

 

桂花の提案を華佗がドクターストップをかけ、詠は俺の頬をつねり、月と美羽は顔を真っ赤にして狼狽していた。これぞ種馬クオリティ。

指摘されて桂花も耳まで真っ赤になってるし。気分が乗って周囲が見えなくなって大胆になり過ぎた結果だな。

 

 

「わかった。では俺と袁術は席を外そう。改めてだが傷が開く真似はするなよ?」

「……秋月の治療も見届けたし僕達も仕事に戻るけど……」

「無理はしないでくださいね」

「主様、また後ほどなのじゃ」

 

 

俺が桂花の手を握りながら真面目に話すと華佗達は納得して部屋を後にした。念を押された挙句、不満そうだったけどな。

 

 

「秋月……真面目な話って?」

「前にさ……俺が天の国に強制送還された事で有耶無耶になった事を……ちゃんと言いたくて」

 

 

桂花が少し不安そうに俺の顔を覗き込む。俺はあの時、最後まで言えなかった事を伝えたかった。なんやかんやでこの国に帰ってきてからバタバタしてたし、俺と一刀はこれから蜀や呉に派遣される予定だ。その前にちゃんと言いたかった。

帰ってから話とかだと特大のフラグになりかねないし。

 

そして俺の言いたい事を察したのか、桂花は赤くなった顔から熱が引かない様だ。耳まで真っ赤のままだよ。可愛いなチクショウ。

 

 

「あの時の続き……よね。まったく、何年待たせたと思ってるのよ。待ちくたびれたわ。まあ、捻りの無い告白だったけど一応聞いてあげるわよ。ありがたく思いなさい。そりゃ期待しない訳じゃないのよ?か、母様からも……私とアンタの籍をどうするかとか最近、よく聞かれるのよ……ま、まあ……私としても満更じゃないわよ?そ、それに……」

 

 

顔を真っ赤にしたままソワソワしながら捲し立てる桂花。何この可愛い生き物。抱きしめたい。

 

 

「前にアンタみたいな種馬を好きになってくれる人が大陸に一人くらいいると言ったわよね、それがアタシよ。残念だったわね!?」

 

 

慌ててめちゃくちゃ早口になってんぞ。特に最後のは世の男子をK.O.した五っ子姉妹のツンデレ台詞だよ。天然で出るって逆にスゲーわ。




『止めろ、ジョッカー!ぶっ飛ばすぞ〜!』
仮面ノリダー冒頭で木梨猛が改造人間にされている最中に叫ぶ台詞。

『それがアタシよ。残念だったわね』
『五等分の花嫁』のメインヒロインの1人であり、中野家五つ子の次女、ニ乃の告白。
主人公・風太郎がとある事情から落ち込んでいた際に「アンタみたいなノーデリカシー男でも、好きになってくれる人が地球上に一人くらいいる筈」と励ます。
その後、紆余曲折の末にニ乃は風太郎に二度に渡り『好き』と告白し、「アンタを好きになってくれる人が地球上に一人くらいいると言ったわよね、それがアタシよ。残念だったわね」と顔を真っ赤にしながら風太郎に自身を意識させようと告白をした。

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