真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百九十六話

 

 

 

 

 

◆◇side雪蓮◆◇

 

 

 

「おい、コイツが天の御使いとやらだそうだ。呉にコイツの血を入れるからテメェ等で種を絞れ」

「ちったあ、表現を控えろよ!しかも俺にも説明無しかよ!」

「ちょっと母様!?」

「いきなりですな、大殿」

 

 

母様が生きていた頃、城に連れてきたのは胡散臭い男だった。母様によると、この男は噂になっている『天の御使い』らしい。しかもこの男の血を呉に入れるという事は私達が閨の相手をしろと言う事だ。

他の将が慌てている最中、祭や母様に長年仕えてる将は半分、諦めている様な顔になっている。

 

 

「ごちゃごちゃ五月蝿えぞ。俺が決めたんだから決まりだ。それとも娘や婆共じゃテメェは不満か?」

「いや、こういうのは本人の気持ちが大事なんじゃ?」

 

 

呉にいる将ならしないであろう母様への反論をする男に母様は鼻で笑った。

 

 

「そんなんで世が太平になるならやってやるよ。そうじゃないから俺達がこうしてんだろうが。それと種馬が嫌ならまた荒野に放り出してやろうか?」

「いだだだだだっ!?」

 

 

母様に反論した男は母様の握力で額を締め上げられて身動きが取れなくなっていた。あれって地味に痛いのよねぇ。

 

 

「まあ、だがテメェの言い分も少しはわかる。だからコイツ等に籠絡しろと言ったんじゃねぇか」

「ほぼ強制じゃないですか……まあ、このタイミングで放り出されるのも勘弁なんで従いますけど」

 

 

母様の拘束から解放された男は私達に向かい合うと手を差し伸べた。

 

 

「俺の名は秋月純一。天の御使いとやららしい……種馬云々は兎も角、仲良くしてくれたら嬉しいかな」

「孫策伯符よ。母様の娘よ」

 

 

私と秋月は握手をして挨拶を交わす。これが天の御使い秋月純一との出会いだった。胡散臭いけど面白そうな男、それが私が純一に最初に抱いた感情だった。

 

 

「それなりに動ける様じゃが実戦でそんな武が通用すると思うてか!」

「呉の名将とマトモに戦える訳ねーだろ!?ぎゃーっ!?」

 

 

祭に鍛錬と称して叩きのめされては鍛え直すを繰り返していた。なんか最近、気の力を得たとか言ってたけどなんだったんだろう?

 

 

「天の知識とやらはそんなものか?だとすれば期待外れじゃな」

「頭の良い奴ならホイホイと知恵を出すんだろうが、俺は頭が悪いんでな。まあ、思い出したら少しずつ話すから」

「だけど秋月の考え方は面白いわね。閃きがあるならもっと言ってくれるかしら?」

 

 

冥琳や雷火からお叱りを受けながら勉強をしつつ軍師や内政に関わり始めている純一。なんやかんやで真面目に取り組んでるのよね。

 

 

「純一、遊ぼう!」

「ちょっと、小蓮に何をする気!?」

「斬りますか?」

「思いっきり冤罪だろうが!」

 

 

小蓮に抱き付かれ、蓮華や思春に誤解をされながらも笑っている純一。物凄い速さで呉に馴染んでいった純一はもう昔からずっと一緒に居たみたいに居るのが当たり前になっていた。

 

 

「はぁー、はぁー。純一さんのお話面白いです。もっと聞かせてください。出来たら本にしてくれるともっと……」

「昂り過ぎだって……ちょ……あ、柔らか……」

 

 

天の国の話をして琴線に触れたのか興奮した様子で純一に迫る穏。純一は簡単に報告書風に書いたらしいけど書物を読むと興奮する穏には効果的だったらしいわね。しかし、穏に迫られて鼻の下伸ばしてるわね。ちょっとムカつく。

 

 

「かめはめ波っ!」

「うっひゃあ!?」

「す、凄いです純一様!」

 

 

気の力を高めた純一は気弾を放つ様になった。鍛錬の相手をしていた明命は驚いて、それを見学していた亞莎は腰を抜かすんじゃないかって程に狼狽していた。そりゃあんな気弾を放てる様になれば驚くわよね。

 

 

「雪蓮、またサボってたわね!」

「見つかちゃった。逃げましょ、純一」

「俺を体良く巻き込むなよ。ま、良いけど」

 

 

仕事をサボってお酒を飲んでたら冥琳に見つかってお説教されそうになったので私は純一の手を引いて逃げる。純一は笑いながら一緒に逃げてくれた。握り返してくれた手は暖かくて私は指を絡めて離さない様にギュッと握る。この手を離したくない。

 

純一が居て、皆が居る。毎日が楽しくて……そんな日がいつまでも続くと思ってた。

 

 

そんな日々は突然終わってしまう。母様が戦の乱戦の最中、敵将に討たれてしまった。母様は元々大怪我をしていた事や乱戦の隙を突かれた事で不覚を取ってしまったらしい。

 

皆が涙を流す中、私は涙を耐えた。私は次の呉王となるのだ。涙なんて流しちゃいけない……そう決意を固めていたのに……

 

 

「雪蓮……泣きたいなら俺の前でだけ泣け。と言うよりも泣いてくれ。ほら、他の人達には見えない様にするから」

「う、あ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

 

純一は正面から私を抱きしめるとその胸に私の顔を押し付けた。王としての覚悟を決めた私の心を崩した純一の胸の中で私は泣いた。純一の前だけでは王じゃくても良いと言われて嬉しかった。

私はこの人が好き。そんな思いと共に私は口付けをして手を握る。もう離したくない。

 

でも、私の思いは呉に侵略してきた魏の曹操に打ち砕かれてしまう。

 

 

「母様、私は純一と一緒に呉を守っていくわ……だから、安らかに……きゃん!?」

「避けろ、雪蓮!」

 

 

母様の墓参りに来ていた私と純一の所へ私を暗殺しようと刺客が現れたのだ。母様の墓の前で気を緩めていた私は刺客に気付かず、純一は私を突き飛ばして左腕に矢を受けてしまう。

 

 

「じゅ、純一!?」

「暗殺とは……中々狡い手を使ってくるじゃないか曹操……ぐうっ……」

 

 

刺客の数人を気弾で仕留めた純一だったけど数人は逃げてしまった。追いかけたかったけど純一が受けた矢には毒が塗ってあったらしく、純一は苦しんでいた。更に蓮華や思春からの報告で魏の大部隊が呉に迫ってる状況でそれどころじゃないと思い私は純一を本陣に運んで治療を命じさせた。

私や純一を暗殺しようとした曹操を許さない。私や呉の将達の思いは一つになっていた。

 

そしてこれから魏を滅ぼそうと戦の開戦を開こうとした時にあり得ない報告を聞いてしまう。

 

 

「ご報告申し上げます!秋月様の姿が見えません!?」

「な……秋月は毒に侵され動けない筈じゃ、そんな訳なかろう!」

「あの状態じゃ動くのも苦痛な筈……いったい何処に?」

「ま、まさか……っ!」

「姉様、何処へ行くのですか!?」

 

 

秋月を任せていた部下からの報告に私達は動揺する。あんな状態で何処に……祭や冥琳が悩む最中、私は純一の行き先に心当たりがあって本陣を飛び出した。背後から蓮華の叫び声が聞こえたけど私はそれどころじゃなかった。

 

 

「やっぱり……ここに居たのね」

「おう、雪蓮。雪蓮も飲むか?」

 

 

純一は呉と魏が睨み合う戦場の先頭に居た。しかもお酒を飲みながら煙草を吸う仕草はいつも通りすぎて逆に不安になる。

 

 

「何をしてるのよ!?そんな体で動いちゃ……」

「眉間に皺がより過ぎだ。可愛い顔が台無しになってんぞ」

 

 

純一は指で私の眉間を突く。キョトンする私に純一は言葉を繋げた。

 

 

「俺が好きな雪蓮はさ……いつも笑顔だぜ。最後に見る顔がそんなんじゃ俺も悔しくて天の国に返り辛くなるだろ」

「え、じゅん……いち……?」

 

 

純一の言ってる意味が理解出来ず私は彼の名を呼ぶ。

 

 

「あの矢は毒だったんだろ?しかも天幕で医務官が話してた内容からもう手遅れと来たもんだ。だったら最後に呉の……いや、雪蓮の為に戦いたくなってな」

「いや……駄目……」

 

 

私は純一の言葉を聞いて彼の手を掴む。こうしないと彼が遠くへ行ってしまうと確信してしまったから。

 

 

「だから毒が回り切る前に呉に迫る脅威は…‥俺が取り除く」

「馬鹿言わないで!本当に死んじゃうわよ!?」

 

 

純一はもう助からない。その事を自身が察してるから最後に大暴れをしようとしているのは明白だ。必死に彼を止めようとして手を離そうとしない私の頬を純一は空いている反対の手で拭う。そこで私は自分が泣いている事に気付いた。

 

 

「良い酒に…‥良い女。俺みたいな奴の見せ場にしちゃカッコ良すぎじゃない?」

「ば、ばかぁ……」

 

 

最後に吸っていた煙草を捨てて踏んで消した純一は最後に笑って……私から手を離した。この人の笑みが好きだったのに今はその笑顔が見たくない。私は純一に手を伸ばそうとしたが私の体は一歩も動けず純一を見送る事しか出来なかった。

 

 

「さぁてと……痛てて……聞けや、曹操!」

 

 

純一は私から離れ魏の陣地の前へと赴くと曹操の名を叫ぶ。その叫びに魏の陣営がざわめき、夏侯惇が陣営から飛び出してきた。

 

 

「貴様、華琳様の名を呼ぶとは不届者め!」

「孫策を暗殺しようとしておきながらよく言うぜ!俺は天の御使い、秋月純一!この身は曹操の放った刺客の毒に侵され天の国に送還されようとしているが只では死なん!」

 

 

純一の叫びに魏の陣地に更なる動揺が生まれ、夏侯惇ですら驚いている。だが、魏の陣営から兵士達が突撃してくるが純一は気を高めた。

 

 

「最後なんだ……派手にいこうか。滅殺奥義……爆竜!!」

「い、行かせるな!華琳様をお守りするんだ!」

「な、なんだコイツ!?」

「これが天の御使いの力なのか!?」

 

 

純一が全身から迸らせた気の力はまるで龍が天に昇るかの様に魏の本陣へと突撃して行った。

 

 

「姉様、兄上……いえ、秋月は!?」

「あそこよ……本当に天の国に帰るつもりなのかしら……でも、今なら魏の大部隊を食い破れるわ。総員、戦闘準備!天の御使い、純一に続くわよ!」

 

 

魏の陣営は大騒ぎになっている。これに乗じれば数で劣る呉の軍勢でも押し切れる。私は呉の精鋭に号令を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はれ?」

 

 

私は戦場から一気に引き戻された。

 

 

「い、たたた……頭痛い……」

 

 

起き上がった私は辺りを見回す。そこは見覚えのない部屋。私は寝台に寝かされていたみたいで、何故か隣には袁術が寝ていた。床には純一が寝転がっていて、寄り添う様に桂花が寝ている。部屋の壁にもたれ掛かる様に眠っている華雄も居た。

 

 

「そっか……純一と鍛錬した後で宴会をしたんだっけ……」

 

 

段々思い出してきた。純一と散々鍛錬した後でお酒を飲む事になって、盛り上がった頃に桂花と華雄が参加してきて、いつの間にか袁術も来たんだったんだ。

 

 

「でも、まあ……まさか私が華雄や袁術と同じ部屋で呑気に寝ちゃうなんてね……」

 

 

怨敵だった袁術や因縁のあった華雄と笑いあって酒を飲むなんて、あり得ないと思っていた。それが純一を通して平和に笑いあえるなんて……さっきまで見ていた夢の事を含めても面白くて仕方ない。

 

 

「でも……なんだったのかしら、さっきの夢は?いくら、酒に溺れていたといっても変な夢よね」

 

 

まるで純一が天の国から降りたったのが呉だったら……なんて都合の良い夢だったみたい。その夢の中で私は一番に純一に愛されていた……桂花じゃなくて私が。

 

 

「少しくらい……良いわよね」

 

 

私は純一の横に寝る。桂花の反対側の空いてる側に寝て純一を抱き締める。

 

 

「うふふー……」

 

 

夢の続きみたいに私は満たされた思いになっていく。それと同時に桂花や華雄から聞いていた『純一は平然と無理無茶をする』と言う言葉と夢の中で純一が私達を守る為に死力を尽くした事を思い出して私は純一の手に指を絡ませつつ握る。夢の中では離してしまった手をもう離さない。

 

 

「無理はしないでよね……今度は私が守ってあげるんだから」

 

 

そう言って私は瞳を閉じてまた眠りにつく。私は純一の一番にはなれないのかも知れないけど今は純一と共に居れる事が心地よく私はまた夢の中へと落ちていった。




『隠鬼落忍法 滅殺奥義•爆竜』
おきらく忍伝ハンゾーの主人公ハンゾーが使う奥の手の忍術。巨大な爆薬を使用して竜の形をした爆炎を身に纏いながら突進する。破壊と殺戮の為の技であり長時間使用すると自身が技の力に溺れてしまう上に、体が燃えて自滅しかねないリスクがある。

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