真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百九十四話

 

 

 

◆◇side馬超◆◇

 

 

城の医務室へ秋月を運んでから私は医務官に頼んで治療を買って出た。私の頼みに医務官は何かを察したのか、快く聞き入れてくれたので私は秋月の怪我の治療をする事にした。

 

 

「しっかし……なんだったんだよ、あの技は?頭突きを連続で当てながら宙を舞うなんて普通じゃ無いぞ」

「あの技はある国の王の候補者が使っていた技の一つだ。本来の使い手だったらこんな無様な事にはなってねーよ」

 

 

秋月の顔に付いた土を払い除けた後、私は手当して包帯を巻く。

 

 

「なあ……その……話したい事があるんだ」

「馬騰さんの事だろ?あの大戦の後、馬超とはゆっくりと話が出来なかったからな」

 

 

私が話を切り出すと秋月は悟った様なそれでいて切なそうな表情を浮かべていた。

 

 

「あの戦の最中で…‥俺は馬騰さんと会ったのに助ける事が出来なかった。馬超に恨まれても当然だ」

「ま、待ってくれ!?恨み言を溢すつもりはないんだ!」

 

 

私は慌てる。定軍山での事や呉での戦いの事を謝りたかったのに秋月は私がずっと母様の事を恨んでいるんだと思っていたらしい。

 

 

「そうなのか?だが……」

「た、確かに定軍山での戦いじゃ秋月を恨んでたけど……ああ、そう言うんじゃなくて……その……」

 

 

思い返すと定軍山での戦いの時、私は秋月と対峙して重傷を負わせていた。更に恨みを込めて思いっきり睨んでいた。

赤壁での戦いで直接的な戦いこそ無かったものの、母様の事を話したくてジッと見つめていた。もしかして秋月には私が怨恨の視線の様に感じていたのか?

蜀での決戦では会話はあったものの、その後即座に戦闘になったから会話はほぼ無い。

 

あー、駄目だ。誤解しかされてない。しかも私自身が誤解の釈明を一切してない。そりゃ恨み言を言われるとしか思えないよな。

 

 

「と、兎に角!私は秋月の事を恨んじゃいないんだ!寧ろ……感謝してる。母様からの遺言を託してくれた事や……多分だけど母様も最後にちゃんと看取ってくれた人が居てくれたから安らかに逝けたんだと思う……」

「最後に会えた事は感謝された……のかな。もう少し早くに会ってみたかったとは言われたかもしれんが。まあ、俺も馬騰さんとの出会いが早かったら……とは思うけど」

 

 

私が捲し立てると秋月は困った様に笑いながら母様の事を思い出そうとしていた。詠や華雄から聞いた話だと秋月は母様と会った事で少し変わったと言っていたけど、どういう意味だったんだろう。

 

 

「母様と……何かあったのか?魏の人達に聞いても『馬騰の最後を看取った』としか聞かされなかったから……何があったまでは知らないんだ」

「大した事は話しちゃいないさ。でも、馬騰さんに会ってから俺は自分自身の力不足を嘆いていたのかもな。あの時の俺がもっと早く城に行っていれば……もしも治療系の気を使えていれば……そんな風に思っていた。あの時程、己の力不足を呪った事はないな。それ以降も失敗ばかりだったけど気の鍛錬はし続けたし」

 

 

そう言った秋月は拳を握った。その姿は弱々しく今まで私が見てきた秋月とは別人にすら見えた。いつも自信に満ち溢れ、笑みを溢さず、悩みなんか持たず、何処か人を惹きつける男。それが私の中でも秋月だったけど……こんなにも色んな悩んで鍛錬に励んでいたなんて。それも母様が切っ掛けで。

 

 

「話をして……少し意外だったよ。噂話じゃ天の御使兄弟は女を囲って良い気になってるなんて未だに聞くからさ」

「碌でも無い噂話が飛び交ってるよなぁ。この国に帰ってきてから調べてもらったけど噂はなんか一部じゃ悪化してるし」

 

 

そう……私が意外に感じた事もそうだけど三国じゃ種馬兄弟の悪い噂話がよく流れてる。主に魏の人達によって払拭はされているが気が付けばまた悪い噂が流れているのだ。文官や軍師達の話じゃ意図的に誰かが悪い噂を流している様な話はしていたけど仮にそうだとしたら誰がやっている事なんだ?

 

 

「あ、此処に居たんですか純一さん!って、また怪我を!?」

「これは自業自得だから気にすんな。それで、どうした一刀?」

 

 

私が少し悩んでいるともう一人の天の御使、種馬弟と呼ばれている北郷一刀や兵士達が医務室へとバタバタと入ってきた。

 

 

「そ、それが……街中で蜀と呉の兵士達の間で喧嘩があったみたいで……それで魏の警備隊が仲裁に入ったんですけど火に油状態みたいです」

「喧嘩程度なら真桜達がどうにかすんだろ?なんで俺の所に話を持ってきた?」

「そ、それが……喧嘩の内容が北郷隊長と秋月副長の事なのです」

「我等も話を聞いて腑が煮え繰り返る思いです!」

 

 

確かに秋月は警備隊の副長だ。でもだからって副長がいきなり駆り出されるのは変だろう。そんな事を思っていたら北郷と一緒に来ていた兵士達が口を開き始める。

 

 

「どうにも蜀と呉の兵士達は隊長と副長の事で陰口を叩いていた様なのです。蜀の兵士数名ががお二人の陰口を叩き、呉の数名がそれに対して半分が否定をして半分が賛同した様です」

「お二人が美女を独占しているだとか」

「権力に物を言わせて手籠にしただとか」

「給料が低いから上げろと言って断られただとか」

「散々な言われ様だな。それと最後のはお前の願望だろ。博打で損をした分は働いて返しやがれ」

 

 

報告をする警備隊の面々の報告に私はさっきまで考えていた事と話が繋がると思ってしまう。やはり蜀や呉を中心に御使兄弟の悪い噂が流れている様だ。最後の報告をした兵士の頭に拳を叩きこんだ。

 

 

「取り敢えず現場に行って話を聞くとするか。この分だと他の将も現場に行きそうだし。将同士の喧嘩になったら止められる人間は限られるからな」

「ほ、報告します!蝶々の仮面を付けた者が現れて場を諫めようとして大乱闘になっています!」

「現場は大混乱です!」

 

 

溜息を吐いた秋月に更に報告に来た兵士達の言葉に私は言葉を失う。華蝶仮面の奴、魏の地にまで現れやがったのか!?

 

 

「ったく……次々に問題が起きるな、この大陸は。でも、ま……だからこそ是非に及ばす。全力で相手してやろうじゃないの」

「楽しだそうですね、純一さん。まあ、このドタバタで、はちゃめちゃな感じが懐かしいのも分かりますけど」

「あ、おい秋月」

 

 

秋月は北郷や警備隊の兵士達と共に医務室から立ち去ろうしてしまう。私も思わず一緒に行こうとして立ちあがろうとしたんだけど秋月に肩を抑えられて立ち上がれなかった。

 

 

「馬超、ありがとうな。少しだけ話せて俺も気が楽になったよ。でも、もう少し話したいから今度ちゃんと時間を作ろう。二人っきりで話をしたいからさ」

「え、あ……はい」

 

 

そう言った秋月の言葉と自然な笑みにトクンと私の胸が高鳴ったのを感じた。何だっんだろう……今のは。

 

 

「さて、華蝶仮面か……噂には聞いているが強いそうじゃないか廬山亢龍覇を使ってでも仕留めてやる」

「もう自爆技を極めようとしてませんか、最近?」

 

 

北郷と共に去っていく秋月の背中を見つめながら私は「二人っきりで話がしたい」と言われた時の胸の高鳴りが分からず、自問自答をして……結局、答えが出なかった。

 




『廬山亢龍覇』
聖闘士星矢のキャラ紫龍が使用する技。
自身の小宇宙を極限まで高めた後、相手を羽交締め(チョークスリーパー)で捕らえた後に高速で急上昇し、その摩擦熱で相手を絶命に追いやる技。仮に摩擦熱に耐えたとしても、この技は自身を宇宙まで飛ばす技なので最終的には宇宙に放り出される為に技の攻め手も受け手も助からない自爆技となっている。

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