真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百八十一話

 

 

 

 

◆◇side一刀◆◇

 

 

純一さんが何者かに襲われて重体になったと夜中に叩き起こされた。

純一さんが桂花を甘やかして見ている者が砂糖を吐きそうになる光景を見せつけられた翌日の夜中に起きた出来事だった。

 

夜中の訓練場に爆音が鳴り響き、見回りの将や兵が慌ただしく向かった所、訓練場の真ん中で血だらけで倒れている純一さんを発見したのだとか。最初こそまた新技の失敗でもしたのだろうと笑っていた皆だが、本当に重傷を負っていた上に外套を纏い、城から身を隠しながら立ち去る不審者を目撃したと報告が上がって大騒ぎとなった。

一部の将の話では凄まじい気の嵐を感じたと言っていた。純一さんが本気で戦おうとした証拠だろうと言ってはいたけど本気で戦おうとした純一さんを此処まで傷付けるって何者なんだろう。

 

 

医務室では純一さん専属となった医師が傷の縫合を処置していて、それを何人かの将が見に行く流れが数回行われた後で処置が終わり、皆が医務室に詰め寄った。

 

今、此処に居るのは俺、華琳、秋蘭、華雄、凪、孫策、祭さん、孫権、甘寧、馬超となっている。

桂花、月、詠、ねねは今の傷だらけの純一さんを見て卒倒して倒れた。特に桂花と月と詠が顔面蒼白となり別の意味で医者が必要な状態となってしまった為に斗詩が隣の部屋で三人の看病を請け負っている。斗詩も純一さんの事を気に掛けていたが、三人の看病を優先した様だ。美羽は体力の限界ギリギリまで医療気功で治療を続けていたらしく今は眠っている。

 

真桜も純一さんの側に居たかったみたいだけど侵入者騒ぎの後で警備や捜索をしない訳にはいかず、春蘭や恋と共に純一さんに危害を加えた容疑者探しをしていた。

とは言っても侵入者は純一さんと見回りの兵しか見ていなかった上に見回りの兵も外套を纏っていたから顔は分からなかったと証言していたので、この段階じゃ犯人は見つからないだろう。

 

 

「今の純一を此処まで痛めつけるなんて……相当の手練れね」

「秋月から酒の臭いがしますから、酔った状態で戦ったのでしょう。しかし、それを差し引いても……」

 

 

華琳が口を開き、秋蘭もそれに同意した発言をする。そう、今の純一さんは……いや、元々の状態でも恋と戦えるくらいの力があって、相手をおちょくって、引っ掻き回してペースを乱させるタイプ。つまり力押しでも策を練るにしても春蘭や関羽とも渡り合える程の強さを持っている。それは魏の将や兵、そして魏に住む民ですら知っている事だ。自爆のイメージで実感は薄いが純一さんは強い。その純一さんを贔屓目無しで見ても此処までズタボロに出来る奴なんて早々居ないはず。

 

 

「ねえ、思春。他国の者として、純一と戦った貴女に聞きたいわ。純一を此処まで痛めつける事が出来る?」

「それは……僭越ながら申し上げますが不可能かと。私はコイツとは何度も刃を交えましたがコイツの強さは色んな意味で規格外です。仮に此処まで痛めつける事が可能だとしても、その場合は私も只では済まないでしょう。コイツと賊が戦ったと思われる時間は深夜の僅かな時間のみ。コイツ相手に短期決戦を挑むのであれば暗闇から不意打ちをする他ありません」

「そうだな。アタシも同意見だ。前に戦った時の印象だけど、秋月と戦うとしても此処までの状態にするなら、かなり時間が必要だ。騒ぎを聞きつけて兵士が来るまでの僅かな時間で倒し切るなんて無理だよ」

 

 

華琳は甘寧に意見を求めた。甘寧はチラッと俺や純一さんを心配している皆を見渡してから言葉を選ぶ様に口を開く。悪態を突くかと思ったけど思ったよりも純一さんを評価していて驚いた。馬超も甘寧に続いて純一さんを短時間で完膚なきまでに倒すのは不可能だと断言した。

二人とも純一さんに恨み骨髄かと思ったけど違うのかな?

 

 

「だとすれば……城に侵入した賊は思春や翠よりも実力が上で僅かな時間で純一を倒しちゃう手練れって事よね?そんな奴、アタシが思いつく限りでも恋くらいじゃない?」

「恋は間違いなく違うわね。仮に恋と戦ったなら一撃で沈められた筈よ。でも今の純一は怪我の度合いから察するに相当鋭い刃で切り刻まれているのよ。恋の場合、此処まで細かな傷をつけるのには向いていないわ」

「それに恋は秋月に懐いている。鍛錬で戦う時は本能的に手加減をするだろう……此処まで酷い状態にはしない筈だ」

 

 

孫策さんが純一さんを短時間で此処までの状態に出来るのは恋くらいだろうと推測するが、華雄が否定をする。俺も同じ考えだ。恋は昨日、ねねと一緒に居たし純一さんを此処まで痛めつけるなんて絶対にしない筈だ。

 

 

「それに副長の気の力を感じてから私はすぐに現場に走りましたが、その時に感じた闘気は恋の物ではありませんでした。まったくの別人だと思います」

「凪が感じた事の無い闘気の持ち主か……益々分からないな。他に手掛かりでもあれば良いのだがな」

「そればかりは秋月が目覚めるのを待つしかないわね……祭?」

「ん、ああ……いえ。少々考え事をしておりましてな」

 

 

凪が今まで感じた事がない人の闘気だと告げると益々捜査は難航する事となる。孫権が純一さんが目覚めるまで待とうと告げ、祭さんの態度に首を傾げた。祭さんはこの場には居たものの何も言わない事に疑問を持ったらしい。でも祭さんは考え事をしていただけだと告げた。

 

 

「ぐ……あ……?」

「純一、目が覚めたのね?此処が何処だかわかる?」

 

 

医務室で話をしていた為か、純一さんの意識が戻った様だ。身じろぎをして重そうな瞼が開き始める。その場を代表して華琳が純一さんの顔を覗き込む様にしながら質問をする。

 

 

「どうやら天国から追い返されたらしいな。禁断の石臼を回してたんだが……」

「どう考えても超人墓場でしょ、其処は」

 

 

こんだけボロボロになってるのに寝起きでボケれるなら大丈夫だな、と思ってしまうあたり純一さんらしいと思ってしまう。でも今はそんなふざけた問答は許されなかった。

 

 

「寝起きでそれだけ口が達者なら大丈夫そうね。殺されかけたのは理解してる?」

「ああ……だが、下手人の顔もわからんぞ。声からして女性だったがそれ以外はわからなかったし」

 

 

華琳は呆れた様子だったけど少し安心した様な口調になっていた。今まで何度も死にそうになった事のある純一さんでも今回のは特にヤバいと皆が感じていたからだ。その証拠に純一さんは起き上がろうともしない。つまり起き上がる気力も無いと言う事なんだから。

 

 

「純一さん……無理しないでくださいね?純一さんって結構、我慢しちゃうタイプじゃないですか」

「心配すんなよ、弟よ」

 

 

俺は純一さんが心配だった。前にこの世界に降り立った時も、現代に帰ってからも、またこの世界に来た時も純一さんは何かと俺や周囲を気遣っていた。常に我慢を重ねている様に見えたからだ。

そんな俺に純一さんはニッと笑みを浮かべた。いつもの皆を安心させる笑い方で。

 

 

「大丈夫だよ。俺は長男だからな……我慢できるさ。次男だったら耐えられなかったかもしれんが」

「それはアンタと竈門家の長男だけです」

 

 

笑みを浮かべた純一さんに俺はいつも通りのツッコミを入れた。本当にこっちが心配しても笑いで返してしまうんだから、この人は……

 

 

 





『超人墓場』
キン肉マンに登場する地名。ぶっちゃけ地獄である。
戦いに敗れ命を落とした超人が落ちる墓場で其処で超人達は超人閻魔と墓守鬼達から強制労働を強いられ事となる。この労働により、命の球を授かり超人閻魔の審査の上で一部の超人が生き返る事が可能となっている。


『禁断の石臼』
同上。超人墓場に設置されている石臼。
複数の超人が己の超人パワーを込めて回す石臼で、この労働により命の球を生み出すとされており『超人パワー人工発生装置』である事がキン肉マン新章で明かされた。


『長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった』
鬼滅の刃の主人公・竈門炭治郎のセリフ。ある意味、炭治郎の生き様を象徴する言葉の一つとなっている。

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