真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百八十話

 

 

 

 

「か……がふっ……げほっ……」

「弱いな。顔不が気にかける程の男と聞いていたから味見をしに来たが……とんだ期待外れだ」

 

 

なんで……こうなったんだっけ?俺は血だらけで地面に仰向けに倒れながら、そんな事を思っていた。それと言うのも……

 

 

 

 

 

時間は少しばかり戻る

 

 

 

 

 

 

俺が桂花を甘やかしきった翌日。まあ、各所からクレームと同じ事をして欲しいと嘆願書が届いた。うん、他の娘達も後で存分に甘やかす予定なので許して欲しい。

まあ、でも……桂花の事は甘やかし過ぎたのかもしれん。桂花は今日は仕事を休ませている。何故ならば今の桂花の表情は人様に見せられない状態になっているからだ。

表情が緩み、頬が常に赤くなっており、トロンとした瞳になっている。

あんな姿、絶対に他の人に見せたくありませんっての。男は勿論だが、大将にも見せられんな。それこそ、覇王様が大魔王に変貌しかねん。

 

そんな事を思いながらだが俺は大将から桂花の分も仕事しろと渡された書類に目を通していた。

 

 

「しかし大将も人が悪いな……まだ魏の内部でも挨拶回りが完全に終わってないのに他国への遠征話を進めろとは……な」

 

 

その中の企画書の一つだ。そこには俺と一刀を呉や蜀へと派遣……と言うか視察に向かわせる件。俺や一刀の天の知識を率先して取り入れている魏に対して又聞きの蜀や呉は技術や知識に遅れがある。情報の差異による間違った伝わり方をしている物もあるのだとか。それを魏の人間が指摘しても『いや、こっちの方が良い』と否定される。そこで『本当の天の知識』を持つ者に指導、改善してもらおうと考えたらしい。

 

 

「多分、俺と一刀の顔合わせも考えてるな、コレは……一石二鳥って所か」

 

 

俺と一刀の派遣(視察)で間違った知識の矯正。俺と一刀を知らぬ魏を除いた蜀と呉への交流。大将達では気付かない俺や一刀の視点での他国の技術吸収。

 

あれ?一石二鳥の筈が三鳥になってた。ついでを言うなら大将の事だから俺や一刀のトラブルっぷりを笑うんじゃなかろうか……あの覇王様、何処まで予想してんだろ。

単に俺が桂花を独占した分、嫌がらせで仕事を回した気がせんでもないが……

 

 

「と……もう日が落ちてるな。すっかりのめり込んじまった」

 

 

部屋の外は既に暗くなり始めてる。俺自身の仕事もあったが、桂花の仕事も一部請け負ってたから時間がかかった上に集中し過ぎてたらしい。部屋を見れば誰かが気を聞かしたのだろう、灯が灯してある。もしかしたら夕食の誘いでもあったかもしれないが俺が書類に集中していたから深入りはしなかったのかもしれない。

 

 

「久々に街に出て一杯やるか……一人酒っても悪くないしな」

 

 

前の時に魏に居た時はこっそりと城を抜け出して下町で一杯飲んだもんだ。そんな呑気な事を思いながら城下へと繰り出す事にした。これが後に多大なる問題へと発展するとも思わずに。

 

 

「いやー、食ったし飲んだ。下町の連中は相変わらず気が良いねー」

 

 

俺は城下に行くと四年前に見知った人達と会い、笑いながら挨拶をしていき最終的には再会を祝して宴会となって大騒ぎをした。飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。すっかり遅い時間まで付き合ってしまった。

 

 

「でも、ま……帰ってきたと実感出来るのは良いこった」

 

 

俺はタバコを咥えて火を灯しながら夜の町を歩く。なんか、こう言うのも久しぶりだな。魏の街は警備でも休みでも歩き回った。こうして紫煙を燻らせながら街を歩くのは何気に好きなんだ。未来じゃ歩きタバコ禁止の場所が増えたから出来ないけど。

そんな事を思いながら城に到着。真っ直ぐ部屋に戻ろうかと思ったが少しだけ気が乗った俺は訓練場に足が向いていた。

 

 

「こうして街に出てフラッと訓練場に来ると本当に、あの頃だよな……今の俺は懐かしむ……っ!」

 

 

物思いに耽っていると全身に冷や水を掛けられたかの様な感覚に陥る。その瞬間、ヒュンと風切り音が背後から聞こえ、俺は素早く身を翻しながら振り返ると白刃が目の前を通り過ぎていた。咥えていたタバコの先端が持っていかれ火が消える。元々無いに等しい灯が完全に消えてしまい、今あるのは僅かな月明かりだけだ。

 

その僅かな月明かりの下で見える姿は外套で身を包み、剣を握る存在。その剣の先には俺のタバコの火種が乗っていた。俺の咥えていたタバコの火種だけを切り落として、しかもそれを落ちない様に振るったのかよ……どんな芸当でそんな事が出来るんだ?暗くてよく見えないが声からして相手は女性だな。

 

 

「街から跡をつけたが……どうやら誘い込んだんじゃなく、本当にオレがつけてる事に気付いてなかったみてぇだな」

 

 

はい、完全に気づきませんでした。酒に酔って、雰囲気に酔って、桂花との余韻で腑抜けてました。いや、でも待て……いくら俺でも城内に侵入されるまで気付かないのは異常だろ。俺は即座に気を溜めて構える。

 

 

「ほぅ……やっとオレと相対する意味に気付いたか?」

「ヤバめな相手ってのはよく分かった」

 

 

ヒュンと剣を振る侵入者。ヤバいな……振るった剣の動きが見えない。夜で月明かりが弱いのもそうだが、侵入者は相当の手練れだ。俺の直感だが春蘭や華雄並みの強さを持ってると思った方が良いな。

 

 

「良い面構えだ……なら行くぞ!」

「ちっ……波っ!」

 

 

侵入者は一気に俺との距離を詰めて手にした剣を振るおうとする。俺は貯め無しのかめはめ波で僅かに距離を稼ごうとしたが侵入者はそれを事なげもなく避けると剣を横凪に振るい、俺の腹へと一閃。ヤバいと直感で感じた俺はバックステップで一閃を避けながら侵入者の足下へと気弾を撃ち込んだ。

 

 

「ふっ!」

「小賢しいやり口だ。これが噂の天の御使いか?」

 

 

僅かに足を止めた侵入者に俺は相手のヤバさをヒシヒシと感じていた。振るう刃に迷いが無かった……コイツは確実に俺を殺す気で来ている。さっきの冷や水を掛けられた様な感覚は殺気だったんだ。だからこそ俺も感が働いて避ける事が出来たんだろうし。

 

 

「生憎と生きる為に小賢しく動いてたんでね」

「ちっ……ちまちました戦しか知らぬ阿呆か。敵に殺気無く、戦場に危険が無ければ生きる意味が無味乾燥になるのも当然か」

 

 

侵入者の物言いに流石にカチンと来た。確かに小賢しくは生きて相手のペースを乱す戦い方しかしてこなかった。だが、仮にもあの戦乱を生き残り、大将達と戦ったプライドがある。

酔いもあるし、コンディションは最悪だろう……だが!

 

 

「こぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「ほぅ……気が膨れ上がっていくな」

 

 

今の俺の最大限と言える程に気を高めた。短期決戦で仕留める!コイツの正体とかはノシた後で確かめれば良い!

 

 

「ずあっ!」

「少しはマシになったか……だが、遅ぇ!」

 

 

俺の拳を剣を握っていない側の手で受け止めた侵入者はそのまま俺を潰そうと圧を掛けてきたが俺は即座に足に力を込めて左膝を侵入者に見舞おうとする。侵入者はそれを即座に察知し距離を空けた。

 

 

「ふっ!」

「甘いっ!」

 

 

俺は速攻で追撃に転じ、飛び蹴りを放つが侵入者は剣の腹でガードした。剣を足場に距離を空けた俺は右拳を侵入者に突き付けると気を一気に注ぎ込みながら左手を右腕に添えた。

 

 

「超魔光……があっ!?」

「秘められた気の力はそこそこだが……技も速度もまだまだだな」

 

 

何が起きたか理解出来なかった。気を放とうとした瞬間に全身を切り刻まれたみたいで全身が熱を帯びるのが分かる。嫌な斬り方しやがったな……浅い傷と深い傷が半々くらいになってやがる。俺はそのまま力が抜けて仰向けに倒れた。その衝撃で全身から血が噴き出るのを感じる。

 

 

「か……がふっ……げほっ……」

「弱いな。顔不が気にかける程の男と聞いていたから味見をしに来たが……とんだ期待外れだ」

 

 

わざと浅手と深手の箇所を多く作って相手の自由を奪う。どんだけ力量差があればこんな芸当が……あ、ヤベぇ……いし……きが……とおの……

 

 

「まあ、いい……オレの……は……堅……だ。テメェ……死な……忘れ……な……」

 

 

意識が飛びそうになり侵入者の言葉も途切れ途切れに聞こえる。そしてなんとか見上げた時だった。月明かりに僅かに照らされた、その顔と桃色の髪色は……誰かに似ていた。

 

 

 

 

 




『超魔光閃』
ウルトラマン超闘士激伝のメフィラス大魔王の必殺技。突き出した右腕に左手を添えて右拳から直線、または螺旋状の光線技を放つ。

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