真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百七十九話

 

 

 

 

◆◇side詠◆◇

 

 

 

 

夢を見た……月が何進や十常侍の謀略に巻き込まれる前……まだ洛陽で都を良くしようと奔走している頃の夢。涼州で部隊を率いていたところを張譲に引き入れられ働いていた。

僕達は街の視察に行ったり、街の周辺に異常がないか警戒をしたりと忙しかった。特に月は善政への憧れもあり、見かけによらず民の情勢を知るため頻繁に城を抜け出す行動派だった。でも月は非力なのに単独行動をしたりしてしまう悪癖もあり今回はそれが悪い方向へと行ってしまった。

 

月が行ってしまった村は狼が多数出没する報告があった村だった。報告を聞いた僕や華雄、霞は焦った。あの子に何かあったら……そんな最悪な結果を頭の片隅に追いやりながら僕達は月が向かったと言う村へと急いだ。

そこで僕達は驚きの光景を見る事となる。

 

 

「痛ってえな!なんでこんなに野犬が居るんだよ!?明らかに日本じゃない地形だし!」

「へうう〜」

 

 

見た事ない服を着た男が月を小脇に抱えて野犬の群れから逃げ惑う。そんな光景に僕は勿論、華雄、霞も呆然としてしまい兵士達も呆気に取られていた。正気に戻った僕達は月と男を助け出し、事情を聞く事に。

月は予想通り、民の様子を見に行く為の視察であり、兵士達と共に行くと民がいつも通りの生活が見れない事に不満があり、今回もそれで単独で視察予定だった村へと行こうとしたらしい。その道中で狼の群れに襲われ絶体絶命の所を、先程の男に助けられたらしい。

 

男の方は見た事も無い服装で先程まで走り回っていた為か今は疲れ切って地べたに座り込んでいた。この男にも月を救ってくれた事に感謝しようとした所でこいつはとんでもない事を口にした。

 

 

「あー、まさかあんなに野犬が出るとは驚いたな。月……だっけ、キミも災難だったな」

「へうっ!?」

「なっ!?」

 

 

男は僕達の会話を聞いた中で月の真名を聞いたのだろう。でも、知ったからと言って真名を口にするのは許されない事だ。しかも男は口に咥えた物に火を灯す。ちょっと待って、こいつは今この細い木の枝みたいな棒から火を起こしたの?火を灯してから煙が出た事で咥えた物が煙草だと理解した。

 

 

「死ねぇ!」

「危なっ!?」

 

 

僕が問い詰める前に華雄が大斧で男の首を切り落とそうと横薙ぎに振り抜くが男は寸前で上体を反らして避けた。ぎりぎりの所で避けたのか咥えていた煙草の先端が華雄の大斧に斬り取られた。

 

 

「ぷっ……殺す気か!?」

「他人の真名を勝手に呼ぶ無礼者を殺して何の問題がある?」

 

 

咥えていた煙草を吐きながら華雄に悪態をつく男は本気で焦っている様だ。華雄は必殺の一撃を避けられたからなのか殺気立ちながら構えている。そんな緊迫した空気を破ったのは月だった。

 

 

「か、華雄さん……この方は私の命の恩人です。真名を呼ばれたのは驚きましたけど」

「し、しかし……真名を勝手に呼ぶ様な無礼者は」

「いや、さっきから言ってる真名って何!?」

「え、真名を知らない?」

 

 

月が男を庇いながら力説し、華雄は戸惑っていた。僕はこの男が真名の意味を理解していない事に疑問を抱いた。

この後、月の恩人と言う事で城に連れ帰った。

 

男の名は秋月純一。この男の話を聞けば聞く程、頭がおかしくなりそうだった。この男は秋月は未来……先の世から来たのだと言う。でも月は助けられた恩義からなのか秋月の話を楽しそうに聞いていた。

最初は秋月に反発していた華雄も秋月の人柄に少しずつ気を許し、霞は飲み仲間が増えたと喜んでいた。恋やねねもかなり早い段階で秋月に懐いており、なんやかんやで僕も秋月と共に過ごす時間が楽しくなっていた。

 

秋月が僕達と過ごす様になる前に噂に聞いていた乱世を鎮める為に天から遣わされる天の御使兄弟の噂……その片割れが秋月じゃないかと言うか噂が洛陽に広まっていた。本人はそんな訳無いじゃんと笑っていたが華雄や霞から武道を習い始めてから、どんどん強くなっていった。

 

 

「ちェりああああッ……ぐはっ!?」

「甘いでぇ!」

「妙な構えだったがどんな武術だったんだ?」

 

 

妙な構えから拳を放った秋月だったけど霞に返り討ちにされていた。華雄はどんな武術だったか気になっていたみたいだけど。

 

 

「剛体術って言う一撃必殺の奥義みたいなもんなんだけど」

「秋月は本当に色々な事を知っているのだな」

「どんな技でも当たらな、意味無いで」

 

 

倒れた秋月を華雄が起こして霞が笑いながら指摘していた。そんな姿に僕も笑ってしまう。こんな日がいつまでも続いて欲しいと願っていた。

でも、それは儚い願いだった。袁紹をはじめとする諸侯のでっち上げの結果、月は暴君呼ばわりされて反董卓連合を組まれ諸侯と対立する事になってしまった。

一部の兵や民が洛陽から逃げ出す最中、僕や華雄、恋、ねねは月を守る為に残った。そして秋月も……

 

 

「秋月……お前は元々無関係なのだから無理に我々に付き合う必要はないのだぞ?」

「惚れた女の為に……って奴だな。とことん付き合うよ」

 

 

華雄が秋月に逃げて良いと言っても秋月は煙草を吸いながら照れ隠しをしながら答える。その発言に月は顔を真っ赤にして、華雄、霞、恋、ねねも頬を染めていた。

でも、僕はチクリと胸に痛みが走った。秋月が命懸けで守ろうとしたのは月。最初に出会ったのも月。お茶をして笑顔になるのも月。

僕は月と比べて可愛くないし、霞みたいに秋月と気が合う訳じゃない。華雄みたいに素直にもなれない。恋みたいに秋月を守れる武がある訳じゃない。ねねみたいに、親しみを持って接する事が出来る訳じゃない。

 

僕は秋月に何かしてやれる訳じゃない。それどころか、秋月とは顔を合わせれば小言ばかり言ってしまう。

 

 

「はぁ……僕ってなんで可愛い気がないんだろ……」

 

 

諸侯が迫る最中、僕は夜の城壁の上で空を眺めながら呟いた。諸侯が迫ってくるのだから、こんな事で頭を悩ませてる場合じゃないのに僕は秋月の事で頭を悩ませていた。

 

 

「自分で言う事じゃ無いだろ」

「きゃあっ!?あ、秋月!?なんで此処に!?」

 

 

突如、背後から声を掛けられて僕は悲鳴を上げてしまう。振り返ると秋月が立っていた。

 

 

「な、なんで此処に居るのよ?」

「月が詠の様子が……って気にしてたからな」

 

 

僕の質問に秋月は隣に立ちながら答える。そっか……月に言われたから……

 

 

「それに……惚れた女が浮かない顔してれば気にもなるっての」

「そう……え?」

 

 

秋月の言葉に頷いた僕は城壁の上から街を眺めようと……へ?

 

 

「ほ、惚れた女って……」

「そ、お前の事。散々、アピール……いや態度で示していたつもりなんだが」

 

 

秋月は僕の髪を弄りながら囁く……え、いや、ちょっと待って……顔が熱くなって頭がこんがらがって思考が纏まらない。

 

 

「な、なんで僕なのよ!?月の方が可愛いし、霞や華雄の方が女らしいでしょ!?恋やねねみたいに僕はアンタに懐いてないし……僕は口煩くしてばかりじゃない……」

「だからなのかな……なんの遠慮もなく言われて俺も気兼ねなく接する事ができて……いつからなのかな、いつも詠の事を目で追う様になってたよ」

 

 

隣に立つ秋月が僕の手を握る。大きくて暖かい掌に僕は落ち着くと同時に顔が熱くなる感覚に襲われる。月はいつもこんな気持ちだったのね……

 

 

「女ったらしね……他の娘にもしてるんでしょ?」

「少なくとも、この世界に来てから自分からしたのは詠が初めてだよ」

 

 

自分でも可愛げがないとは思いながらも口は勝手に動いてしまう。秋月から告げられた一言にホッとするのも束の間……『この世界に来てから』?『自分からしたのは』?

 

 

「それってつまり、前にはした事があるのよね?それに自分からって事は誰かにされた事があるって事よね?」

「ああ、うん……前に居た未、いや天の国や……月が意外と積極的でな」

 

 

僕の指摘に秋月は空いている反対側の手で自身の頬を掻く。そう、月が……あの子ってあれで結構行動力があるのよね。時折、僕も驚かされるし……

 

 

「そう……だったら、アンタからしてくれたのは僕が最初なんでしょ。大事にしてよね」

「ったりめーだろ、大事にするよ。その為には、このふざけた反董卓連合を打ち倒す」

 

 

僕の言葉にいつもヘラヘラ笑ってる秋月は凄く真面目な顔付きになっていた。その横顔にドキッとしてしまう。

 

 

「勝とうぜ、詠」

「うん。そうだね……でも」

 

 

そう……これは夢なんだ。もしも秋月が桂花じゃなくて僕達の所へ舞い降りていたら……もしもの話。もう……起きなきゃだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっばり、夢よね。なんて夢見てんだか僕も」

 

 

夢から覚めた僕は寝台から身を起こす。寝惚けた頭を奮い、先程までの僕や月にとって都合の良い夢を否定する。もしも、なんて考えるだけ無駄だとは思う。

でも、もし……夢の通りになっていたら僕や月が秋月を独占できたのかしらと思ってしまう。身支度を済ませながらそんな風に思ってしまう。

僕がこんな夢を見たのも、こんなヤキモキする様な気持ちになったのも……

 

 

「ほら、桂花」

「ば、馬鹿……恥ずかしいでしょ……」

 

 

昨日から妙にイチャイチャしてる秋月と桂花。

いつも以上に桂花に優しく甘やかしてる秋月に否定しながらも、されるがままに甘やかされてる桂花。そしてその光景をマジマジと見せつけられている秋月に惚れている女の子達。僕があんな夢を見るのも当然よね。

 

明日もこの調子なら、あの二人を引っ叩かないとダメだよね。ハァ……と溜息をつくと同時に……

 

 

「……羨ましいな」

 

 

僕が呟いた本音は誰にも聞かれる事も無く消えた。

 

 

 





『剛体術』
刃牙シリーズの技の一つ。攻撃が当たるインパクトの瞬間まで身体を硬直させ、使用する関節を固定する事で自己の体重をそのまま乗せる事が出来る技術。
これでパンチを放った場合、自身の体重が65キロだとしたら相手に65キロの鉄球を高速で当てる衝撃との事。

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