真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百七十七話

 

 

甘寧の鋭い一撃に気絶させられた俺は医務室に放り込まれていた。

 

 

「いやー……流石、甘寧。手加減無しの鋭い一撃だった」

「今回は顎への一撃でしたから脳が揺れた様ですね。本日は安静になさって下さい」

「なんで将の一撃を食らって平然としてるんですか、この人……」

 

 

目が覚めた俺は痛む顎を撫でていたら医務室の先生と助手に呆れと驚愕の視線を浴びていた。助手君もそろそろ慣れて欲しいもんだ。

しかし半分本気のジョークだったんだが甘寧には通じなかったらしい。だけどまあ……気絶する前に見た甘寧の顔は真っ赤だった。あの手の話には慣れていないのだろう。そんな事を思いながら医務室を出るとすっかり日暮れになっていた。

 

 

「っと、もう夕刻か。随分長いこと寝てたみたいだな。まだちっと寝足りない気もするが」

「気絶と睡眠を同列に考えないで下さい」

 

 

最後に助手君のツッコミを背に浴びながら医務室を後にする。さて、仕事を途中で放棄した形になったから栄華が怒ってないか心配だな。俺は取り敢えず、北郷警備隊おしゃれ同好会の会議室になってる部屋へと向かう。

 

 

「おーい、仕事は……」

「ですから、この服を薦めるべきです!」

「違うの!こっちの方が良いの!」

「いえいえ、今の流行りを考えるならば……」

「だからこそ、こちらを流行らせるべきなのでは!?」

 

 

会議室の戸を開くと熱風が……いや、そう感じる程に熱い空気が漂っていた。中では栄華、沙和を筆頭におしゃれ同好会の主要な人間が揃って熱い討論を繰り広げていた。これは落ち着くまで待った方が良さそうだな。俺は静かに戸を閉じた。

 

 

「あのまま会議に加わると朝まで討論会になりそうだからな。俺はごめんだ。後で結果を知らせてちょーだい」

 

 

以前、あんな感じの会議に口出しをしたら朝まで付き合わされた。しかも、その後で春蘭と鍛錬と言う名の拷問の憂き目にあった。俺は会議室を後にしながら、その時を思い出す。タバコに火を灯しながら廊下を歩き、警備隊の詰所へと向かう。今日の報告書に軽く目を通すと今の警備隊の良くない部分がちょいちょい浮き彫りになっていた。

 

 

「街の大きさに対して警備隊の練度が低いな……やっぱり警備隊の指導を強化していかないと……」

 

 

今の警備隊は新参の警備隊がミスをして古参の警備隊がフォローしてる感じだ。俺が最初にこの街に戻ってきた時もそうだった。天下一品武道会の参加者の強者とは言っても酔っ払いにのされてしまう程に今の警備隊は弱い。トラブルへの対処も遅い。平和になった弊害なのかね。

血風蓮と同じ鍛錬させれば自ずと強くなるとは思うが、それじゃ根本的な解決にはならない。かと言って俺が毎回指導していたんじゃ手間が増えるし、指導体制を整えていかないと。

 

 

「やる事、いっぱいだよなぁ……他国への遠征話も出てるし」

 

 

俺としては魏の事を一番にしたいのだが、他国へ遠征し技術提供を求める意見が出てるそうだ。大将もその事を受け入れて遠征を検討をしているそうだが……それはつまり、遠征が始まる前に警備隊を整えろって事だ。やれやれ警備隊の事で頭がいっぱいだってのにな。遠征の事も考えなきゃだ。

 

 

「やれやれ……明日はからくり同好会も見に行かないとな。真桜も何を開発してるかチェックしとかないと」

 

 

まだ全部把握はしていないが、からくり同好会の事も見なきゃならない。あの頃でさえ予算を馬鹿みたいに割いていたんだ。あの頃でさえ、ストッパーの役割をしていたのは俺と栄華の二人だったが、その俺が居ない間に予算をどれほど消費していたか考えたく無い。栄華がストッパーになったとは思うが、まさかの展開もありそうだからな。

そんな事を思いながら俺は警備隊の詰所を後にした。

 

 

夕食を前に一旦自室に戻ると……桂花が俺の部屋のベッドで寝ていた。猫の様に疼くまり、布団に包まっていた。俺は声を出さずに悶えていた。

いや、マジで猫みてぇじゃん。まるで飼い主が戻らなくて寂しさに構ってちゃん全開の猫じゃん。さて、この可愛い子猫ちゃんをどうしてやろうか。

 

 

「まあ、でも……起こすのも忍びないが……」

「……ん、う……」

 

 

悪戯したい欲求にめっちゃ駆られたが疲れてるみたいだし、寝かせておいても良いかなって思ってる。これは桂花の寝顔を肴に一杯飲むしかあるまい。そう思って食堂に酒でも取りに行こうとしたらクイッと袖を引かれる。振り返ると桂花が俺の袖を掴んでいた。その瞳は焦点が合っておらず寝惚けてる感じだ。しまった、起こすつもりは無かったのに。

 

 

「いか……ないで……」

「起こしちゃったか……桂花、ちょっとだけ待って……」

 

 

ボソリと呟いた桂花の一言に謝罪をしながら起きたのなら酒を一緒に飲もうと思って待っててもらおうと思ったら袖を引く力が強くなった。

 

 

「いや……いや……いかないで!」

「お、おい。落ち着け桂花」

 

 

目に涙を溜めて必死に訴える様な仕草に違和感と言うか……驚かされた。こんなに取り乱す桂花は久しぶりに見る。

 

 

「いっちゃやだ……いかないで……私を置いて……逝かないで……」

「………桂花」

 

 

涙を流しながら弱々しく呟いた桂花の言葉が俺の頭を殴った様な気分にさせられた。俺は帰って来てから荀家で世話になり、この世界の今の現状に馴染んでから魏に戻った。だが桂花は違う。俺が突然帰って来て、あの頃のままの様に振る舞って帰って来てからも愛し合ったけどゆっくりと過ごす事が思えば無かった。だから桂花は不安だったんだ、俺がこの世界から消えた時の事を悪夢として思い出す程に。

 

俺は桂花の手を握る。そして、そのまま布団に入って桂花を抱きしめた。

 

 

「ゴメンな、桂花。自分の事ばかりで……桂花を安心させてやれなかった」

「……ひぐっ……ううっ……」

 

 

俺が抱きしめると桂花は喉を鳴らして泣き始めた。起きているのか、眠りながら俺の言葉に反応しているのか……俺は泣いている惚れた女の子を放っておく気にはならなかった。

桂花は俺が消えた日から安心出来なかったのだろう。起きていても眠っていても悪夢に悩まされて続けたのだろう。擦り切れそうになる心を立場的に桂花は弱い所を見せようとしなかった筈。まあ、性格的に他人に弱いところを見せないからな桂花は。

 

 

「桂花……大丈夫だ。俺は此処に居る。もう何処にも行かないよ」

「……うっく……ひっ……」

 

 

まだ泣き続ける桂花を泣き止んでくれ、安心して欲しいと願いながら髪を撫でる。張り詰め続けた心を緩めても良いんだよと言い聞かせる様に力強く抱いた。

段々と震えていた桂花の身体から力が抜け、俺に身を預ける様になってきた。

 

それに安心してしまい……俺の意識も気が付けば遠くなっていた。俺と桂花はそのままの体勢で朝を迎える事になっていた。

 

 


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