真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百六十八話

 

 

「おー、おー……随分、揃ったな」

 

 

紫煙を吐きながら空に消えていく煙を見ながら黄昏れる。俺が今、立っているのは鍛錬場。その鍛錬場で俺と相対する北郷警備隊の若者役20名。

 

 

「さぁて……やるか」

「副長……お気を付けて」

 

 

煙管を吸い終えた俺は灰をトンと落とすと、戦国武将の刀持ちみたいに俺の傍に控えていた警備隊の一人に渡す。彼は古参の警備隊の一人で俺を慕ってくれていた内の一人だ。

 

さて……どうして、この様な状況になったのか。それは数日前、俺が一刀に対して恋する乙女となった大将達の世話焼きをしてやろうと画策していた時まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

「警備隊内部で分裂が起きている?」

「はい……お恥ずかしい話なのですが……」

「うむ……このニ年程で警備隊に起きた一番の問題だ」

 

 

一刀の執務室で俺と一刀と凪、華雄で揃って会議がおこなわれていた。

そこで語られたのは今の北郷警備隊の現状だ。四年前に俺と一刀が消えてから北郷警備隊は奮起して街の安寧に努めた。その努力の甲斐もあり、街の平穏は保たれた。華雄の頑張りで警備隊も存続が許されていた。

しかし、三年目で問題が起き始めた。街の賑わいに比例して警備隊の増員がされた頃、つまり若者が警備隊に入り始めてから歯車が狂い始めた。

 

俺と一刀に会った事のない若者達は俺達の噂だけで判断をして『名ばかりの天の御遣い』『将軍に斬られかけている隊長』『民に舐められている情けない隊長と副長』『怪我ばかりする副長』『大して仕事をしない癖に女を侍らせている種馬』などetc。

 

まあ、悪い方向で噂が固まっていた。大陸中に広まった種馬の噂がこんな風に巡って問題になるとは……

凪を始めとする小隊長や古参の兵士は噂の払拭に回ったが効果が薄く、現在の警備隊は『俺と一刀を慕う警備隊兵士』と『戦を知らず自分達が街の平和を守っているんだと増長している若手兵士』に二分されてしまっているのだ。

 

それを改善しようとした凪だが俺も一刀も不在で警備隊の仕事と将としての仕事を兼任して忙しく、華雄も今や魏の将軍として認知されてる上に血風蓮の指南もある。沙和は北郷おしゃれ同好会、真桜はからくり同好会と大将から開発の仕事も任されている。斗詩も蜀との交流を任されていた為に魏を空ける事が多くなり、大河は子供であった事と俺が居なくなった事に防ぎ込んだ事で警備隊の仕事以上の事は手が出せなかった。

二年間、そんな感じで古参と若手の間に深い溝が出来てしまい、街の人達からも不満が続出したって事らしい。俺と一刀が魏に戻ってきた時に凪がやつれていたり、警備隊の動きが悪かったのは、それが理由か。

 

 

「悪いな、俺と一刀が抜けた穴は大きかったみたいだ」

「いえ……寧ろ、お二人の仕事を私達だけでは処理しきれない事が露呈しました。やはり私達には隊長と副長が必要なんです」

 

 

俺が頭を下げると凪は必死に否定した。うん、本当に良い子だな。

 

 

「本来なら私達や古参の兵士で指導する所だったんだが、私達もまだ立ち直れきれてない時期だった事と古参の兵士も若者達の態度から溝が深くなってしまってな。指導しても平和な時代しか知らぬ者達には効果が薄くてな。いっその事、殴って言う事を聞かせようかと本気で思った程だが……そんな事をすれば内部分裂を他国に知られてしまうと中々、実行に移せなくてな」

「うーん、それなら仕事を通して俺達を知ってもらうのが遠回りだけど一番、確実かな」

 

 

華雄の発言に一刀が悩みながら案を出す。いやいや、もっと単純にいこうや。

 

 

「もう三国同盟がなされて平和なんだし、俺と一刀も帰ってきたんだ。それに警備隊の内部分裂とかも蜀や呉にも知られてるだろうよ。だからいっその事、大々的に指導……いや、交流会といこうや」

「交流会……ですか?」

「副長がそんな顔をしている時は嫌な予感がするんですが……」

 

 

俺の発言に一刀と凪が首を傾げながら聞いてくる。

 

 

「不満があるなら直接語れってね。名付けて『北郷警備隊名物・喧嘩解禁日』だ」

「それって神心会名物じゃないですか」

 

 

そう、不満があるならぶつけてみろスタイルである。この手の話にツッコミ出来る一刀、マジで有難い。

 

 

「そんな事をして大丈夫なのか?」

「そこで直接、不満を口にして来る奴がいれば俺が相手をして矯正。そうじゃない奴等は一刀の言った様に地道に指導だな。俺も一刀も四年も不在だったんだ。少しは体を張らなきゃな」

 

 

華雄が心配そうに俺の顔を覗き込むが、これはある意味俺なりの償いの一つだ。散々心配と苦労を掛けたんだ。

 

 

「救護班に申請をしておくか」

「そうですね……副長が未熟者共に負けるとは思いませんが、副長の行動は読めません。予期せぬ事態で大怪我に繋がりそうですから」

「華琳にも話を通そう。じゃないと問題が大きくなりそうだ」

 

 

華雄、凪、一刀は次々に根回しを始めていた。うん、この感じも久々だわ

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

ってな、感じでトントン拍子に話が進み、北郷警備隊・喧嘩解禁日に至った。しかし、20人か……もうちょい集まるかと思ってたんだがな。

 

 

「始めるとするか」

 

 

俺は指の骨をバキボキ鳴らしながら鍛錬場で並んで待っている警備隊の若者達へ歩み寄る。

北郷警備隊・解禁日の一日目だ。派手に行こうか。

 




『神心会名物・喧嘩解禁日』

『グラップラー刃牙』で神心会の長、愚地独歩が月に一度の催しとしてやっている行事。月に一度、稽古ではなく本気の組手(喧嘩)が行われる日で愚地独歩を倒そうと全国から門下生が集まり喧嘩する日。門下生は「誰でも月に一度、最強の男に挑戦するチャンスを得られる日」と喜んでいた。
余談だが愚地独歩は掛かってきた門下生全員を返り討ちにしている。

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