真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

253 / 306
第二百五十三話

 

 

◆◇side華琳◆◇

 

 

一刀と純一の犠牲により成り立った平和祭も今年で四年目になる。最初の頃は気が進まなかったけど、一刀や純一が居れば間違いなく楽しくなるだろうと、皆の思いが込められた祭だ。『天下一品武道会』『三国象棋大会』『料理の達人』等、一刀や純一から聞いた天の国で催されていたお祭り。

 

その天下一品武道会で今回は変わった参加者が出場しているのは聞いていた。猪頭を被った半裸の男。この四年間で変装をして天の御遣いを語った愚か者共は極刑に処してきた。そんな輩が居なくなったと思った矢先の出来事。話題に上がった男を魏の将達は憤りを感じると同時に寂しさも感じていたのだろう。平和祭に彼等が居ないと言う現実に。

 

そんな私も類に漏れず、辛かった。だから三年前から北郷警備隊の解散を考えていた。彼等の事に心が縛られたままでは私達は前に進めない。後ろばかりを見ていては散っていた命に申し訳が立たないから。解散に条件を付けた際には華雄が奮闘し、未だに北郷警備隊の解散は免れている。その事に私は安堵を感じていた。彼等の事を乗り越えろと言っている当人がこれじゃ笑えないわね。

 

 

そんな中、猪頭が本選に上がったと聞いた時は驚いた。今までは組頭の兵士が本選に上がってきていたのに、それを破ったと言うのだから驚きだ。更に驚かされたのは、その猪頭が桂花の母である、荀緄と付き人である顔不からの推薦である事だ。その事を聞いた桂花は「まさか……いや、でも……」と何かを察していたかもしれない。正直、私も同意見だ。『荀緄からの推薦で正体を隠した強い男』これ程、分かりやすい条件が揃っていれば猪頭の正体を疑いたくもなる。でも、その考えに行き着いているのは軍師達と凪だけだった。なんで、他の娘達は気付かないのかしら?

 

 

そんな思いを抱きつつも初日の戦いぶりを見て少し疑問が涌き出る。あれが純一だと言うのなら何ですぐに魏に戻らなかったのかしら。猪々子を場外に落とした猪頭を見ながらそう思う。

なんで気の力を使わないのかしら、使えば戦いの手数も増えるし、貴方は元々その戦い方をしていたでしょう?肉弾戦で思春を倒した猪頭にそう思う。

 

 

見れば見る程に猪頭がかつて私を弄るなんて真似をしてくれた種馬兄に思えてくる。アイツは私の部下でありながら私を弄り、時には導き、相談に乗り笑っていた。

それと同時に思うのは兄が帰ってきたのなら弟も帰ってきたのかしら?でも、確信がないまま動くのが怖かった。正体を確かめたら別人だったなんて事になったら私の心は持たないかも知れない。希望的な推測は現実を辛くさせるだけなのだから。

 

 

天下一品武道会二日目。あの猪頭の相手は凪だった。思えば最初に猪頭の事を報告してきたのは凪だったわね。凪は一刀が天の国に戻ってしまった事を聞いて一番悲しんでいた娘。にも拘わらず、凪は一番に立ち直った。

「隊長と副長が残した平和を私が潰してしまう訳にはいきませんから」泣きそうな顔で無理に作った笑顔。あの日の一刀と純一は、きっとこんな表情だったのね。

 

試合が始まると同時に私は落ち着かなくなった。凪のかめはめ波を跳ね返す実力に見た事の無いと技の応酬。私の中であれは純一なのだと言う気持ちが強くなっていた。

 

 

「くっくっくっ……俺の正体に気付きながら射程範囲に入るとは愚かな」

「え、あ……ま、まさか?止めてください、副長!」

「っ!」

「え、華琳さん?」

「ちょっと、華琳!?」

 

 

猪頭と凪の叫びが聞こえた瞬間。私は席を立ち上がり、舞台へと走り出していた。間違いない。あれは純一だ。そう思ったら居ても立ってもいられなくなった。桃香や雪蓮が私を引き留めようと声を掛けたが私は止まらない。凪の『副長』発言に周囲も動揺し、ザワザワと混乱が始まっていた。

私には様々な思いが生まれていた。でも一番強い思いが『一刀にまた会える』これに尽きた。

 

 

「お待ちください。危のうございます華琳様!……って桂花、お前もか!?」

 

 

舞台の雰囲気が危ないと察していた春蘭が私を止めようとした。それを縫うように桂花が走り抜いていく。そう、貴女も確信したのね。あれが純一だって。

その直後、舞台の上で大爆発が起きた。春蘭や秋蘭が私を庇うように前に立ったが私はそれを押し退ける。舞台の煙が晴れると舞台の真ん中では猪頭が倒れていた。よく純一が新技に失敗するとなっていた寝転がり方だ。一刀は『ヤムチャしやがって……』とか言ってたわね。

 

 

「大丈夫よ、二人共。それよりも……久し振りなのにやってくれたわね」

「く……直撃じゃなかったのに、これ程の威力を……」

 

 

私は舞台の真ん中で倒れている猪頭に話し掛ける。爆発の中心地には猪頭だけで凪は少し離れた位置で気の爆発の影響なのか少し、ボロボロになっていた。

 

 

「固定した俺の両手を握力で握り潰して、両手のロックを緩めさせ、更に前蹴りで距離を無理矢理、開けるとはな……よくぞ、あの一瞬で判断したな。あー……蹴りを食らった箇所が普通に痛てぇ……」

 

 

私が話し掛けた事で意識が戻ったのか立ち上がる猪頭。しかし、立ち上がると爆発の衝撃に耐えられなかったのか被っていた猪の被り物がパサリと落ちる。

 

 

 

「当初の予定とは違ったが……ま、仕方ないか。そもそも、俺がこの国で予定通りに事を進めた試しなんてなかったんだし……なあ?」

 

 

そこには私の知る馬鹿で、お人好しで、女にだらしなくて、強くて、情けなくて、優しくて……頼りになる兄が居た。あの頃に見せていた人を安心させる笑顔で。

 

 

ふと、隣を見れば……私の隣に立っていた桂花の瞳から静かに涙が流れているのを見てしまった。桂花は純一が居なくなってから悪い意味で元の桂花に戻ってしまった。端から見ても大丈夫には見えない、いつも通りに振る舞おうとする桂花に皆が心配したけど……でも、今はその心配も必要なさそうね。

 

さて、兄には弟の居場所を吐いて貰おうかしら?そんな事を思っていたら純一は私の方に歩み寄り、私の耳元で呟いた。

 

 

「一刀は思い出の場所で待つってさ。さっさっと行ってこいよ。今度はちゃんと素直にな」

 




長くなったので中途半端な切り方になってしまいました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。