真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百五十話

 

 

 

宿屋に戻った俺は寝台に身を預け、うつ伏せに寝ていた。

 

 

「くぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……癒されるぅ……」

「うむ、お疲れ様なのじゃ」

 

 

その状態で美羽に治癒気功をしてもらっていた。昨日と今日の試合で体ガタガタだよ。荀緄さんと一刀は買い出し。顔不さんは馴染みに会いに行くと出かけていて今は二人きりだ。

 

 

「流石にアイツ等の相手は骨が折れるな……こうして美羽に癒されていると、それを思い知らされるよ」

「妾も……妾も主様に喜んで貰えるなら嬉しいのじゃ」

 

 

本当に健気になったよなぁ。最初の頃は権威を笠に着る感じの我が儘お嬢様だったってのによ。今じゃ他人を思いやれる良い娘だよ。

 

 

「でも、美羽も頑張りすぎだ。そんなにしたら美羽の身が保てないだろ?無理はするなよ」

「いつも無理をしている主様に言われたくないのじゃ。それに妾も……す、好きでやっておるから無理ではないのじゃ」

 

 

己の身を削り、俺の傷を治癒気功で癒す美羽。その健気な姿勢に俺は泣きそうになった。

 

 

「なら……もう少し、頼むわ」

「うむ。ご奉仕するのじゃ!」

 

 

ご奉仕の意味は……まあ、全うな意味の方である。勘違いしちゃあ駄目よ。

 

 

「いたいけな少女に何をしているか貴様ーっ!」

「ごぶっ!?」

「な、なんじゃ!?」

 

 

突如、窓が開いたかと思えば寝台事、蹴り飛ばされた。美羽は突入してきた何者かに庇われる様に抱かれていた。つうか、声で誰かは分かったんだけどさ。

 

 

「痛ったいなぁ……流石に過激じゃないか甘寧」

「黙れ……やはり何年経過しても種馬か、貴様」

 

 

窓から侵入してきたのは甘寧だった。多分、俺と美羽の会話を盗み聞きしてたんだろうな。顔が赤い辺り、勘違いしたんだろうな。

 

 

「それはそうと……その手を離してやってくれないか?首が絞まったのと緊張で気絶しちまったから」

「何……な、こいつは袁術か!?」

 

 

俺から美羽を庇った段階で甘寧に怯えた美羽はガタガタと震えていた。更に庇われた際に首が極ったらしく、気絶している。

 

 

「答えろ!何故、袁術が此処に居る!貴様は……」

「落ち着けって……よっと。美羽、ちょっと寝ててくれ」

 

 

美羽の首を極めたままの甘寧。そろそろ助けないとマズいな。俺は蹴り飛ばされた寝台を元に戻した後、美羽を甘寧から受け取り寝かせる。やっぱ呉の連中に会うのはキツかったか。

 

 

「んじゃ、話をするからちっと落ち着いてくれ」

「私は冷静だ。さあ、話せ」

 

 

美羽を寝かせた寝台に腰掛けた俺に対して対面の椅子に座る甘寧。話を聞く姿勢になっただけでも、有り難いよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇side甘寧◆◇

 

 

 

天下一品武道会に参加していた私は懐かしいと思う奴に出会った。その男は四年前の乱世の最中に遭遇した魏の天の御遣いの兄だった。奴は武の誇りを微塵も持たないような奴だった。相手をおちょくり隙を生み出させ、その隙を突く。聞けば馬鹿らしいが、奴はその筋は天才とも言えた。思い出すだけでも腹立たしい。

 

そんな奴を思い出させたのは天下一品武道会に一般枠で参加していた猪頭の妙な奴だった。奴は予選を見事な戦いぶりで勝ち抜いたと聞いていたのだが、本選の一回戦で行った戦いぶりから奴を思い出させる。他の奴等は気付かなかった様だが、まるで相手の闘心を削るような戦い方だった。あの殺気すら感じさせない戦い方は奴を彷彿とさせた。

 

 

「やはり……あの男なのか?」

 

 

妙な扮装といい、戦い方といい……あの男かと疑ってしまう。だが、翠の槍に突かれて脇腹に傷が出来た筈だったが、その傷も無かった。四年経過したとしても槍の傷跡が簡単に消えるとは思えない。別人なのか?だが、あんな人物が二人も居るとは思えない。だから私は二回戦で奴の正体を確かめようと思った。

 

そこで私は猪頭の正体が秋月純一だと確信した。最初こそ、マトモに戦っていたが途中から奴の手口だった……奴は被っていた猪の頭を外すと私に顔を晒した。私が動揺した瞬間に奴は私を連打で倒す。相変わらず、人を苛つかせる奴だ。狙った箇所は全て急所を外し、私の身体能力を奪う事だけが目的の戦い方。

 

 

「貴様が何故、正体を隠しているのか……後で教えて貰うからな」

「あ……すまん」

 

 

私が舞台袖に戻る際にすれ違い様に告げると秋月は謝罪してきた。そう言う所も相変わらずか。だが、こいつが惚れていた魏に戻らずに何かをして居るのだ。理由があるのだろうと思った。

 

その日の大会が終わった後、私は蓮華様に天下一品武道会で敗北した事をお詫びした後に城を後にした。蓮華様の護衛は他の者に任せ、私は奴が宿泊している宿に向かう。会場を後にした奴は猪頭とは別の変装をして、宿に戻っていた。しかし……何故、紫色の服に妙な髭を付けていたのだ?

 

宿を特定したので私は一度、城に戻り再び宿に来た。間は空いたが話を聞かせて貰おう。四年前から奴の事を思うとモヤモヤしていた。今まで会った男達とは全然、印象の違う男。祭様を助け……雪蓮様も興味を持った男。奴の笑い顔や情けないと思う顔ですら忘れられなかった。自分の気持ちが分からなかった。だが、これでハッキリする。私は奴に何を抱いたのか……

 

私は宿の窓から様子を伺う。場所は特定したが、隠し事をしているのだから騒ぎは起こしたくないのだろうと思ったから私は奴の部屋に忍び込む事にしたのだが……

 

 

「くぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……癒されるぅ……」

「うむ、お疲れ様なのじゃ」

 

 

突如、聞こえた奴の声。更に女子の声もした。待て……この快感に耐える様なこの声はなんだ?

 

 

「流石にアイツ等の相手は骨が折れるな……こうして美羽に癒されていると、それを思い知らされるよ」

「妾も……妾も主様に喜んで貰えるなら嬉しいのじゃ」

 

 

アイツ等の相手?癒される?まさか、他の女と会っていたのか?アイツが種馬兄弟と呼ばれていたのを再度思い出す。

 

 

「でも、美羽も頑張りすぎだ。そんなにしたら美羽の身が保てないだろ?無理はするなよ」

「いつも無理をしている主様に言われたくないのじゃ。それに妾も……す、好きでやっておるから無理ではないのじゃ」

 

 

ほう、そうか……そんなに慕われているのか……しかも声の主はまだ幼い少女の様にも聞こえる。何処かで聞いたような気もするが……

 

 

「なら……もう少し、頼むわ」

「うむ。ご奉仕するのじゃ!」

 

 

ご奉仕!?普段から幼い少女に何をさせているんだ!そう思った私は聞き耳を立てるのを止めて突入した。

 

 

「いたいけな少女に何をしているか貴様ーっ!」

「ごぶっ!?」

「な、なんじゃ!?」

 

 

私は勢い良く突入し、奴を蹴り飛ばす。更に事に及んでいた少女を保護した。

 

 

「痛ったいなぁ……流石に過激じゃないか甘寧」

「黙れ……やはり何年経過しても種馬か、貴様」

 

 

蹴り飛ばした秋月は顔を抑えながら立ち上がる。妙に余裕のある態度にイラッとした。

 

 

「それはそうと……その手を離してやってくれないか?首が絞まったのと緊張で気絶しちまったから」

「何……な、こいつは袁術か!?」

 

 

秋月の発言に私は庇った少女に視線を移す。そこに居たのは我等、呉の怨敵とも呼べる袁術だった。ぐったりと力無く気絶している袁術に私は戸惑いを隠せない。

 

 

「答えろ!何故、袁術が此処に居る!貴様は……」

「落ち着けって……よっと。美羽、ちょっと寝ててくれ」

 

 

袁術は少し前に大陸を再び揺るがしかねない騒ぎを起こした張本人だ。まさか、秋月が保護したのか?貴様はコイツが何をしたのか知っているのか!?そんな私の質問に答えるよりも先に秋月は直した寝台に袁術を寝かせている。ちょっと待て、妙に手慣れているのは何故だ?

 

 

「んじゃ、話をするからちっと落ち着いてくれ」

「私は冷静だ。さあ、話せ」

 

 

秋月は袁術を寝かせた寝台に腰掛けた。その動きは袁術を守る為の様にも見えた。私は呆れながらも……袁術を即座に仕留められる距離に座る。

 

さて……話とやらを聞かせて貰おうか?


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