真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百三十六話

 

 

久し振りに荀家でお世話になる事になった。見覚えのある侍女さん達に挨拶をし、袁術の事を任せた。別部屋に布団を敷き、寝かせて貰った。スヤスヤと眠る袁術に安心し、俺は荀緄さんと顔不さんに向かい合って座り、今までの経緯を話す事となった。

 

 

『蜀での決戦の後、天の国に強制送還された事』

『三年半程、天の国で仕事をしながら、この国に帰る方法を模索していた事』

『貂蝉、卑弥呼から、この地に来る方法を教えて貰った事』

『その方法でこの国に帰って来た、その日に袁術を助けた』

『袁術から、この国の話をある程度は聞いたが、全容はさっぱり』

『袁術を放置も出来なかったので、取り敢えず人里に連れてきた事』

 

 

 

「と、まあ……こんな次第です」

「………桂花ちゃんを故意に泣かせた訳じゃないのは分かりました」

「世の中、不思議が溢れておるとは聞いておるが、正に不可思議じゃのう」

 

 

俺の三年半の軌跡を話すと荀緄さんと顔不さんは納得した様な呆れた様な顔をしていた。嘘は言ってないヨ?

 

 

「しかし、あの女子が袁術とは……乱世の後に世間を騒がせた黒幕があれとはな」

「ええ……三国の平和を乱したと散々問題になったのですが、まさか純一さんが保護するなんて思いもしませんでした」

 

 

顔不さんと荀緄さんは別室で眠る袁術を思い出しながら呟く。いや、黒幕って大袈裟な。

 

 

「大変だったんですよ?黄巾党の時みたいに悪党が一斉蜂起して暴動が起き掛けたんですから」

「うむ、再び乱世に戻るのではと心配したくらいだ」

「そんな事、出来そうな子には見えなかったんですが……」

 

 

荀緄さんと顔不さんの言葉を疑ってしまう。いや、だって三人の山賊に襲われて泣いてた子だよ?

 

 

「袁術は張勲と共に行動していて袁術の悪知恵と張勲の煽り。その両方が重なり、各地の小悪党を扇動したそうです。そして纏まった小悪党達は数が多く、黄巾程じゃないにしても驚異となる状態でした」

「うむ、この町でも警戒体勢を敷いておった」

「ヒトラーみたいな事を……」

 

 

荀緄さんと顔不さんの説明に頭が痛くなってくる。あんな可愛い顔して、やる事が物騒と言うか……

 

 

「袁術を良く知る呉の方々から聞いた話では子供みたいな性格で我が儘。更にそれを張勲が肯定、煽る事で行動に移していたみたいです。袁一族で今までの好き勝手出来ていたのも原因の一つでしょう。今でも自分が偉い身分だと思っているのでしょうね。そして、それを正す人物が居なかった……」

「袁術の付き人は張勲のみだ。故に悪い事をしても叱る人間がおらんかったんだろう」

「それが今回、一人になって何も出来なかったと……」

 

 

今まで権力と地位、そして張勲がそれらを補佐して悪巧みの全てを行っていたのだろう。呉の地を一時期とは言えど傘下に納めていたのだから凄い。だが、その悪運も尽き……いや、蜂起には失敗したけど三年半も大将達の追跡から逃れてるから尽きてはいないのか?結局、俺が助けちゃったんだし。

 

 

「袁術の事は分かりました。一先ず、その事は置いておいて……俺と一刀がこの国から天の国に帰った後の事を……教えて下さい」

 

 

俺は袁術の疑問が解消され、あの子を今後どうするか考えたかったが、それよりも三国の状況……何よりも桂花の事を早く聞きたかった。

 

 

「そうですね……まず、魏の皆さんは大変悲しまれました。涙を流し、半年程は戦勝国でありながら通夜の様な日々を過ごす事に。一時期は国の運営が成り立たなくなりそうな程でした。蜀と呉から将や文官が手伝いに来る程でした」

「うむ、あの頃の魏は見ていられなかった。だが、警備隊の者達が奮起してな。徐々に持ち直し、半年程で以前の様子を取り戻した。戦後から一年……漸く、戦勝国らしさを取り戻した魏は戦乱が終わった祭り『平和祭』を立ち上げた。今年で四年目になるな」

「………っ」

 

 

俺と一刀が居なくなってから魏の皆は無気力になってしまったのか……持ち直すのに一年も掛かるとは……

 

 

「その後、三国で人材交流派遣が始まりました。将や文官、商人などが三国を巡って三国の発展を目指しました。複数の将や文官が魏に入りましたが、蜀の鳳統。呉の黄蓋等は魏に常に在中していますね。あの二人の在中は魏の復興に大いに貢献したと聞きます」

「祭さんと……鳳統が……」

 

 

あの二人が魏に来て手助けしてくれていたなんて……

 

 

「あら、黄蓋殿の真名を許されてるなんて、流石ですね純一さん」

「ほう、経験豊富な熟女も手込めにしておったか」

「あ、いや……その辺りは赤壁で色々とありまして……」

 

 

荀緄さんと顔不さんにニヤニヤしながら俺を見ている。そうだった……この人達、こんな時は超弄ってくるタイプだった。

 

 

「えっと……一年くらいの事は分かりました。その後の事は?」

「ええ、後の二年程は人材交流をしながら三国の発展を試みました。三国で公的に『学校』と言う制度が出来ました。それと『病院』が出来ました」

「それと平和祭で『天下一品武道会』『三国象棋大会』『料理の達人』が開催されておる」

 

 

なんか俺と一刀が大将や魏の皆に話した事が三国で行われて、平和祭で開催されている。良かったよ、『天下一品武道会』で『暗黒武術会』とかじゃなくて……

 

 

「国の三年程の流れはこの様な感じです。では、純一さんが知りたがっていた魏の事を話しましょう」

「っ……はい」

 

 

荀緄さんの一言に空気が重くなった気がした。俺は思わず、息を飲む。

 

 

「まず……曹操様ですが笑わなくなりました。外交の場や身内の前では笑みを浮かべていますが心の底から笑ってはいない様に見えます。桂花ちゃんはもっと重傷ですね。純一さんのお陰で男嫌いも、ある程度は解消されていましたが、純一さんが去った後……男嫌いが嫌悪になりましたね」

 

 

ニコニコと説明する荀緄さんだけど重圧が半端ない。顔不さんは、そんな俺と荀緄さんを見ながらそれを肴に酒を飲み始めている。

 

 

「更に隊長と副長の不在で『北郷警備隊』を解散させる案が上がりました。発案者は曹操様です。他の方を隊長にと考えていた様ですね」

「やっぱり大将は警備隊の解散を考えていたか……」

 

 

うん、これは考えていた事だ。って事は北郷警備隊は解散したのか?

 

 

「ですが、殆どの将と文官、警備隊の人達。更には民衆も反対しました。一刀さんと純一さん以外の人を隊長と副長にするのは反対だと」

「民衆まで……嬉しいけど大将に逆らうとか恐ろしい事を……」

 

 

思ってた以上に民衆の皆さんから慕われていた事態は嬉しかったけど、大将に逆らうとか……

 

 

「そこで曹操様は条件を出しました。『北郷警備隊に名を連ねる者が天下一品武道会で上位三位に入る事。それ以外なら北郷警備隊を解散とする』と」

「なんて条件を……それで結果は?」

「警備隊から三羽鳥の楽進、李典、于禁。三武狼の華雄、顔良、高順が天下一品武道会に参加しておったぞ」

 

 

警備隊所属の将が天下一品武道会に出てるのは分かったけど……え、三武狼って何?

 

 

「三武狼とは副長直属の部下と言う意味の将の事です。三羽鳥と対を為すと言う意味ですよ」

「隊が結成された時は奴等も奮起しておったわ。本当ならお主に名付けをしてほしかったであろうがな」

 

 

俺が居なくなってから名付けられたとの事だ。より一層、俺の肩に重圧が掛かった気がする。ちゅーか三武狼か……字が違うけど壬生浪に近い名前が付くとか益々、新選組みたいになっとる。

 

 

「その名に恥じぬ強さをと言った感じですね。なんせ、華雄さんは最初の大会で三位に。次の大会と前回で準優勝。そのお陰で北郷警備隊の維持を許されました」

「か、華雄がそこまで……」

「因にだが呂布は参加しておらんぞ。なんでも戦いたくないと言っていたらしいが」

 

 

華雄が天下一品武道会で上位に食い込んでいたなんて……見たかったな。その戦い振りを。それに気になったのは恋の事だ。なんで天下一品武道会に参加しなかったんだ?恋の事だから皆で遊びたいとか思いそうだけど……

 

 

「純一さん……三年程前に私は貴方を桂花ちゃんの夫に、と思っていました。」

 

 

と、思考の海に沈みそうになった所で荀緄さんの言葉に意識が引き戻される。顔を上げると荀緄さんは悲しそうな顔をしていた。

 

 

「桂花ちゃんの夫に出来なかったのも……桂花ちゃんを悲しませたのも……許せなかったんです。許せないと……思っていました」

 

 

ツゥと荀緄さんの瞳から涙が溢れ落ちた。

 

 

「でも、先程再会して……本当に純一さんだと思ったら、そんな考え吹き飛んでしまいました。だって、また会えたんですから」

 

 

荀緄さんは流した涙を隠そうともせずに微笑んだ。顔不さんも目を伏せて頷いている。

 

 

「荀緄さん……すいませんでした。秋月純一、ただいま帰りました」

「はい、お帰りなさい。純一さん」

「うむ、息災で何よりだ。回帰祝いに飲もうではないか!」

 

 

その場で土下座しながら荀緄さんと顔不さんに、この世界に戻った事と三年半前に勝手に消えた事を謝罪した。俺はこの時、始めて……この世界にちゃんと帰還した気持ちになった。

多分、このやり取りをこれから沢山するんだろう。桂花や詠は土下座なんかじゃ許してくれないかも知れない。でも、俺がやらなきゃいけない事だ。

 

 


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