真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第二百二十六話

 

 

再会した元カノ、愛美と喫茶店のテーブル席で向かい合う事、既に10分。会話がありません。

つうか……改めて見ると愛美は少し痩せていた。自慢だと言っていた黒髪のロングヘアーも肩くらいに切り揃えてる。それにもう少し、ハキハキと喋るタイプだったけど、今は寡黙だ。

 

まあ、元カレと会うのに緊張でもしてるのかな?そもそも、愛美から「会いたい」と連絡が来たのは驚いた。なんとなく連絡先は残していたのだが連絡が来るとは思ってなかったので驚かされたもんだ。

 

 

「あ、その……んと……先輩は今、お仕事は何をされてるんですか?以前のアパートに行ったら居なかったので驚いたんですが」

「今は探偵兼便利屋かな。事務所に住んでるからアパートは引き払ったんだよ」

 

 

やっと話を切り出した愛美だが、本命とは思えない話だった。つうか、アパートに来たのかよ。

 

 

「そ、そうなんですか?でも、先輩はコミュニケーション取るの得意だし、器用貧乏で何でもこなすからピッタリですね」

「アニメや漫画みたいに殺人事件で呼ばれるなんて事は無いからな。地道に人探しやペット探ししてるよ」

 

 

愛美の会話に俺はタバコを取り出して火を灯しながら答える。これは長引きそうだな。当たり障りのない会話から始まると長引くパターンだ。

 

 

「まだ……その銘柄のタバコを吸ってたんですね」

「ああ、これが一番好きだからな。しかし、よく覚えてたな愛美」

 

 

愛美は俺がタバコを吸い始めた姿を見て懐かしそうに呟いた。そういや、別れる少し前から吸い始めたんだっけ。愛美が俺の好きなタバコの銘柄を覚えていた事にも少し驚かされた。

 

 

「覚えてますよ……先輩がタバコを吸う時の仕草も……好きなお酒も、好きなオツマミも、好きだから映画も、全部……先輩の全てが……大好きだったんですから」

「………で、運命の人とは会えたのか?」

 

 

愛美は顔を俯かせて泣きそうな声になっている。体も少し震えている様に見えた。俺は意を決して別れる切っ掛けとなった事を聞く事にした。すると愛美は俯いたまま首を横に振る。ああ……会えなかったんだな。

 

 

「そっか……ツラかったな」

「なんで……そんなに優しいんですか!?私は私の都合で別れを切り出したのに!先輩を捨てたのに!」

 

 

なるべく刺激しないようにと思ったんだが、地雷を踏んだらしい。愛美は立ち上がり叫んだ。

 

 

「まったく、怒ってない訳じゃないんだよ。別れた当初は怒ったし、絶望もしたさ。けど……あれから何年も経過してるんだ。怒りも悲しみももう、通りすぎたよ」

 

 

桂花との出会いもその一因だよな。それまで引きずっていた愛美への想いは完全に断ち斬れたんだから。

 

 

「取り敢えず座りな。目立つから」

「………はい」

 

 

俺が座るように促すと愛美は素直に従ってくれた。でも、まあ……あんだけ大声で叫んだから目立ってるし、注目もされてるんだが。さりげに店内を見回すと昼ドラを見る目で見られていた。ドロドロじゃのう。

 

 

「それで?俺を呼び出したのは、それを言う為か?」

「いえ……いや、先程の事も言いたかった事ではあったんですが……」

 

 

俺が話を切り出すと愛美は顔を赤くしていた。思えば、あの時も俺は素直に愛美を見送ったがもしかしたら止めて欲しいと言う思いもあったのかも。今更だけどな。

 

 

「そ、その……結婚……する事になりました」

「………そりゃ、おめでとう」

 

 

愛美の発言にタバコの灰がポロッと落ちた。運良く灰皿に落ちたが危なかった。

 

 

「運命の相手とやらは良かったのか?」

「両親から結婚を考えろと言われて……お見合いを数件させられました。その内の一人から猛烈なアプローチを受けて……その結婚する……事に……」

 

 

愛美は段々尻窄みになっていく。俺と別れてまで運命の相手を探していたのに、両親の薦めの見合いで結婚する事になればと気まずいし、説明もしにくいわな。

 

 

「ごめんなさい……私は先輩を傷付けるだけ傷付けて……何も果たせなかった……なのに私は……私は……」

「これから結婚して幸せになろうってのに泣くんじゃないよ。別れる時にも言ったけど愛美の思うようにすればいいさ」

 

 

俺はタバコの火を灰皿に押し付けて消すと泣いている愛美にハンカチを渡す。以前ならば指で涙を拭う事をしたかも知れないが、それをすると愛美は更に泣きだろうし、俺にとってもケジメみたいなものだ。

 

 

「それに……俺も愛美を笑えないしな」

 

 

俺は愛美にも聞こえないような声でポツリと呟く。

俺達の記憶の中にしか無い娘達に再び、会う為に躍起になっている俺と一刀は昔の愛美、そのものだ。

愛美は夢の中で約束した件の人物に会えなかった。それは俺達の未来をも示している様で少しゾクッとした。

 

 

「俺と会ったのもケジメを着けたかったんだろ?あの時、不条理に俺を傷付けた事を謝りたかったのと……俺にその報告をしたかったのも」

「はい……全部、私のわがままです」

 

 

愛美は悪戯にこんな事をする娘じゃない。相当悩んで出した答えがこれだったんだろう。

 

 

「だったら、もう俺や夢の中で約束した人との事で悩むのは止めな。これから結婚する人にも不義理だぞ、それは」

「はい……ごめんなさい、先輩。そして、ありがとうございました」

 

 

 

話は此処でお仕舞いと俺が切り出すと愛美は謝罪と感謝をした後に頭を下げた。これ以上、此処にいると話が長引きそうだと思った俺は伝票を持つと会計に行こうとする。

 

 

「あ、あの……先輩は誰かと……良い人と出会ったんですか?」

「ああ……ひねくれて天の邪鬼で口が悪くて甘え下手で厄介な最高の娘に出会ったよ。そいつの為にも終わりにしたいんだ」

 

 

愛美の最後の気掛かりなのだろう。自分と別れた後の俺がどんな恋愛をしていたのか。だからこそ、俺は伝えた。それを聞いた愛美はキョトンとした顔をしたが「頑張ってください、先輩」と笑いながら返してくれた。

長かった愛美との話もこれで終わりだな。愛美もあの後、相当に引きずっていたが、これでもう大丈夫だろう。

 

 

 

俺は会計に向かう途中でカウンター席に座り、盗み聞きしていた一刀の頭に一撃を与えた後に会計を済ませて店を後にした。さっき店を見回した時に気付いたわ。

俺が店を出た後に一刀も慌てて後を追ってきていた。

 

取り敢えず、この野次馬根性丸出しのバカな弟を叱るとするか。

 

 


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