建業の手前の城で呉との最終決戦。大将や一刀は最前線へと向かい、俺は一部の兵を引き連れて回り道をしていた。それと言うのも大将達が真っ正面から孫策と戦い、俺達は孫策達の背後へと回り込んで退路を断つ狙いなのだ。
「副長……華雄様の機嫌がすこぶる悪いようですが……」
「孫策と戦えると意気込んでいたのに俺等と同じく後詰めだからな。溜めた気合いの発散場所を探してんだろ」
部下の一人が報告に来るが、ある程度は予想済みだったりする。華雄は呉への遠征にあたって孫策との戦いを一番の楽しみにしていた。しかし先の赤壁では戦う事もなく、今回の戦いは後詰め。ストレスが溜まってるのは目に見える。
「ま、暴走しなくなっただけましだ……ん?」
馬を走らせながら周囲を偵察をしていた呉の兵士達が道を塞いでいた。あの旗は……
「あの旗は孫策の妹の孫権だな。その付き人の甘寧もいる様だな」
「なるほど……俺達みたいに退路を潰しに来た部隊への警戒を怠っていなかった訳だ」
華雄が斧を握り締めながら俺に情報をくれた。なるほど、あれが孫権か。俺はなんちゃってシルバースキンを身に纏っていたので帽子を被り、馬を降りた。
すると俺や華雄に気付いた孫権や甘寧はギロリと睨む。気のせいか孫権の方は顔が赤い気が……
「貴様……黄蓋殿の真名を勝手に呼んだ挙げ句、唇を奪った男だな」
「……真名の下りは認めるが、唇は奪ったんじゃなくて奪われたんだからね俺は」
甘寧の言葉に周囲からの視線が痛くなった。孫権の顔が赤かったのは前回のディープキスを間近で見たのを思い出したからか。
「秋月……戦が終わったら話があるのだが?」
「今は前を向こうね華雄さん!」
華雄から明らかに怒りのオーラが放たれている。後で話と言うけど話になるのか、そのテンションで!?
「既に戦に勝ったつもりとは……」
「とことん我々を侮辱するつもりらしいです」
あ、やべ……なんか地雷踏んだ気がする。
「総員、突撃!呉を侵略し我々を侮る奴等を殲滅せよ!」
「怯むな!血風連は周囲の兵士を片付けろ!孫権と甘寧は私と秋月で討ち取る!」
孫権の号令に華雄も即座に兵士達に指示を出した。うん、猪と呼ばれた華雄も一瞬で場を見て、指示を出す。立派になったよなぁ……完璧すぎて俺の立場が無いけど。
「師匠、自分は……」
「大河は血風連と一緒に行動しろ。将の姿が孫権と甘寧しか見えないけど他にもいたら厄介な事になる。他の将が現れたら頼むぞ」
華雄からの指示から漏れた大河は俺に指示を仰ごうとしたので、俺は簡単に指示を出すと、大河は「了解ッス!」と俺から離れていった。
「ふー……さて、待っていてくれたのかな?」
「あの小娘と貴様の二人を相手にするよりも一人を確実に仕留めさせてもらうつもりなだけだ」
戦場にチリーンと鈴の音が鳴り響く。甘寧は先日、赤壁で俺の首筋に剣を当てていた時のように刀を逆手に構えていた。
「あの時と同じと思うなよ?」
「変わらんと言っているだろう」
あの時と違って俺は、なんちゃってシルバースキンも装備してるしガス欠気味だった気も回復してる。そう簡単には負けはしない。そう思って俺が拳を握る前に甘寧は間合いを詰めていた。
ヤバっ!速い!?
「む……?なるほど、中に鎖を仕込んでいるのか」
「……あっぶなぁ……」
俺の背に冷や汗が滝のように流れた。なんちゃってシルバースキンの防御がなかったら腕と胴、そして首を切られて終わってた。
しかも甘寧は斬った感触から、なんちゃってシルバースキンの中が鎖帷子って見抜いてるし。
「そりゃあ!」
「遅い」
俺が拳を振るうと、甘寧はアッサリと避け俺の懐に飛び込んできた。
「くっ……ぐあっ!?」
「鈍いな」
俺が膝で蹴りを放とうとすると甘寧は足を斬りつけ、更に脇腹を削って行った。
こっちの攻撃が一切当たらないのに甘寧は次々に俺を切り刻んでいく。なんちゃってシルバースキンを着込んでいるのに衝撃が俺を襲い、痛みが走る。つーか、なんちゃってシルバースキンが無かったら俺はとっくに全身切り刻まれて終わっているのだが。
「厄介だな貴様の鎧は……」
甘寧は自分の剣を眺めながら、俺が斬れない事に不満を感じている様だ。
つーか、不満というか危機感を感じてるのは俺の方だ。思えば今までの俺が戦ってきた相手は言ってしまえばパワーファイタータイプ。力押しの連中ばかりだったけど甘寧は真逆のタイプ。素早さと技巧で相手を翻弄しつつ倒すタイプだ。ぶっちゃけ相性が悪すぎる。
気功波の類いを撃っても避けられた上に気を撃った腕が斬られるな、多分。ならば肉弾戦でどうにかするしかない。
「行くぞ、狼牙風風け……痛っ!?」
「足下が隙だらけだ」
拳を構えてから狼牙風風拳で戦おうとしたら、足払いで転ばされた上に頭を蹴られた。やっぱ、この技じゃダメか!
『狼牙風風拳』
狼を連想しながら超高速の牙に見立てた拳を両手で突き出し、トドメに重い一撃を食らわせるという必殺技。
劇中では避けられたり、カウンターで手痛い目に遭ったり、足下がお留守と転ばされたりと『出したら敗けが確定する技』とさえ言われた。