真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第百八十六話

 

 

 

 

 

◆◇side祭◆◇

 

 

 

ワシは曹操に火計を仕掛け、魏の部隊を陥れる策を図ったが全て見抜かれた。そしてワシは最後に曹操に一矢報いようと決死の特攻を仕掛けたが、曹操の首には届かなかった。最後を悟ったワシは夏候淵に介錯を頼もうとしたが、天の御使いの兄……秋月がワシの前に立ちはだかった。奴はワシを曹操の所へ連れていく為に現れたのかと思えば、ワシを抱き上げると曹操の船とは逆方向へと走り始めた。

 

 

「待て!何をする気じゃ秋月!」

「黙っててくださいよ!直ぐに着きますから!」

 

 

こ奴はワシを曹操の所へ送るつもりじゃなかったのか?考えが纏まらないワシは混乱するばかりだった。そして極めつけと言わんばかりに、秋月は水の上をワシを抱き抱えたまま走り抜く。

 

 

「な、なんと水の上を走るとは……」

 

 

ワシが驚いておると秋月は最後とばかりに跳躍し、離れた船に着地する。待て、この船はまさか……

 

 

「ぜー、はー、ふー……かはっ……」

 

 

船に着地した秋月はワシを抱き抱えたまま息が途切れ苦しそうにしておる。無理をするからじゃ阿呆が。途中から顔色も相当に悪そうじゃったし。

 

 

「祭っ!」

「祭殿!」

 

 

ワシが秋月に呆れておると策殿や冥琳達が駆け寄ってくる。すると秋月は抱いていたワシの体を床に寝かせた。

当然ながらワシは不満じゃった。決死の覚悟を汚され、見たくなかった娘達の泣き顔を見せ付けられ、これで恨まぬ方がおかしい。ワシがその事を秋月に叫べば秋月は顔を俯かせ、口を開いた。

 

 

「ああ、勝手な真似をした。でも、俺は黄蓋さんに死んでほしくなかった」

「ワシの生き死にを貴様が決める権利が何処にある!」

 

 

本当に勝手じゃ。ワシがこの世から去る覚悟を示した矢先に潰されたんじゃから。

 

 

「当然ながら権利は無いですね。でも……俺は黄蓋さんの死を見たくなかった。俺は目の前で助けられなかった命があった時に……凄い後悔をした。甘いと言われようが、将の恥を掛かせたと言われようが……目の前で失われそうな命があれば助けたい」

「当人が死に望んでもか?」

 

 

その話を聞いてワシは、秋月が何者かの命が散るところを見たのだと察した。だからと言ってそれを認める訳にはいかん。ワシは秋月を睨むが秋月は悪戯小僧のような笑みを浮かべた。

 

 

「んじゃ言えますか、自分は死にたかったって。この子達の前で」

「そ、それは……」

 

 

 

策殿達は泣いていた。ワシは視線をそちらには送らなかったが、泣いている気配だけは察した。

 

 

「さっき黄蓋さんが孫策達に来るなと叫んだのは、その身を案じたのもあるんだろうけど、本当は孫策達の顔を見たら決心が鈍るからでしょ?」

 

 

秋月の発言にワシは秋月から顔を背けた。まるで全てを見透かされている様な気持ちになったから。

 

 

「本当はまだまだ孫策達を見ていたいんでしょ?意地張ってないで素直になりんさい」

「じゃが……ワシはさっき完全に死ぬ気だったんじゃぞ」

 

 

こいつは……何処までワシの心を乱すんじゃ!ワシは顔が熱くなるのを感じつつも気恥ずかしい気持ちを叫ぶ。

すると秋月はソッとワシの頬に手を添えた。

 

 

「だったら、さっきも言ってましたけど孫文台さんの所に逝くにせよ、新しい時代の呉を見てからでも遅くはないでしょう。その方が文台さんも喜ぶでしょうし……何よりも貴女の死を望む人は此処には居ないと思いますよ」

「こ、こら!止めんか!?」

 

 

秋月は添えた手に力を込めてワシの顔を策殿や冥琳達の方へと向けた。見たくなかった……ワシの為に涙を流す者など……

 

 

「ねえ、祭……私はまだ貴方に呉に居て欲しいわ」

「祭殿……我等の下に帰ってきてください」

 

 

策殿や冥琳、他の者も涙を流しながらワシの説得に走る。じゃが……ワシは……

 

 

「まだ迷っているんですか」

「だが……ワシはこれから何を目的に生きれば……」

 

 

ワシは……もう……生きる意味など……

 

 

 

「決心がつきませんか?……祭さん」

「なっ!?」

「貴様、祭殿の真名を!」

 

 

秋月はワシの真名を呼んだ。いくら天の御使いとは言えども真名の意味は知っていよう!

 

 

「……俺は今、祭さんの真名を呼んだ。許されてもいないのにだ」

「それがどういう意味か分かっていながら呼んだのか?」

 

 

秋月はワシから目を逸らさずに真っ直ぐにワシを見た。周囲の者達も武器を取り出して殺気を溢れ出しておる。

 

 

 

「そう……だから祭さんは俺を殺すべきだ。いや、殺しに来なきゃならない。それが貴女の生きる理由じゃ足りないかい?」

「……く、くくっ」

 

 

秋月の言葉にワシは笑いを堪える事が出来なかった。秋月はワシを生かす為に危険を犯してでもワシに生きる意味を与えようとした。そして一歩も引かずに毅然とした態度でワシと向き合う。

夢を追う少年のような雰囲気と、経験豊富な大人の雰囲気が混合する独特の笑顔……まったく不思議な奴だ。こいつに興味が出てきたワシは文字通り殺してやる事にした。

 

 

「ならば、これからと言わず……今、殺してやろう」

「なっ!しまっ……」

 

 

油断していた秋月の服を掴んで引き寄せる。秋月は殺されると思っているのか表情は驚愕に染まっている。 

 

 

「ん……ちゅ……」

「んむっ!?」

「な、ちょっと祭!?」

 

 

ワシは不意打ちに秋月に口付けをした。策殿の驚いた声が聞こえた。見て覚えよお主ら。

 

 

「ちゅ……ちゅむ……」

「ん……う……」

「は、はわわ……」

 

 

 

口吸いを続けると秋月が逃げようとしたので頭を押さえて逃がさん。周囲の者達は食い入る様に見入っておるな。

 

 

「ちゅ……ふふっ……ちゅる……」

「む、むぅ……ちゅう……」

「こ、これが大人の口付け……」

 

 

段々、秋月からも力が抜けていっておる。周囲の者達からゴクリと息を飲む音が聞こえる。

 

 

 

「……ふむ。これは中々」

「……ぷはっ」

 

 

口吸いを止め、秋月の口から離れる。濃厚な口吸いは久し振りにだったが……悪くないものだ。

 

 

「あ、あの……黄蓋さん?」

「これ、呼び方が戻っておるぞ」

 

 

やれやれ、呼び方が戻っておる。この程度で動揺しおって。

 

 

「あ、あの……何故、私めの唇を奪ったので?」

「言ったじゃろう殺してやると。見事に骨抜きに殺してやったんじゃがな」

 

 

秋月の顎を指でクイッと上げてやる。生娘の様に顔を赤くしおって。この後、秋月は気弾を放ち、魏の陣営に飛んで逃げて行った。

 

逃げおったか、だが死に時を逃され久々に女を呼び起こされたんじゃ逃さんぞ。あの猫耳軍師殿もからかうと面白そうじゃな。

ワシは秋月から酌をして貰った時の酒を思い出しながらワシの口紅を付けた唇の言い訳をしている秋月を想像して笑みを浮かべた。

 

 

 

 

◆◇side馬超◆◇

 

 

 

蜀と呉の合同作戦で魏を倒そうと様々な計略を張り巡らせたが失敗に終わった。壊滅している黄蓋殿の部隊だけでも救おうと動こうとしたが、なんと秋月が黄蓋殿を呉の船団に連れてきた。そして驚いたのはそれだけではなく……

 

 

「当然ながら権利は無いですね。でも……俺は黄蓋さんの死を見たくなかった。俺は目の前で助けられなかった命があった時に……凄い後悔をした。甘いと言われようが、将の恥を掛かせたと言われようが……目の前で失われそうな命があれば助けたい」

 

 

この話を聞いて私は震えた。秋月は母様の死を悲しみ、悔やんでいたんだ。

この後、黄蓋殿の真名を呼んだ秋月は何故か、黄蓋殿に口吸いをされていた。あ、あれが大人の……

私達がドキドキとそれを見た後に秋月は魏の船団に戻ろうとしてしまう。待ってくれ、私はお前に言いたい事が……

 

 

「あ、ちょっと待って……」

 

 

 

私が秋月を呼び止めようとしたけど、私と目を会わせた秋月は怯えた様な表情を浮かべた後に気弾を放ち、その反動で魏の陣地へと飛んでいった……私は礼を言いたかったけど秋月は行ってしまった。

私は以前の自分の行動を恥じると共に……この心のモヤモヤの原因が分からずに槍を持つ手に力が入った。私は何をしているんだろう……

 

 

 


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