川に落ちてズブ濡れになった大河を引き上げると桂花から説教を受けた俺。この忙しい時に問題を起こすなと説教され、周囲の兵士にも散々苦笑いをされてしまった。
「さっきまでのシリアスな雰囲気から何してんですか」
「止める前に大河が実践しちまってな。さっき聞いたんだが少しだけ水の上を走れたみたいだ」
一刀のジト目に睨まれる。大河は大河で、まさかマジで水の上を走るとは思わなかったが。なんの準備もなしに実践して成功するとか本当にこの世界の住人は侮れん。
「15メートルくらいなら問題ないと思ってな」
「烈海王ですかアンタは。それで大河は?」
俺の言葉にツッコミを入れつつも、大河が居ない事に首を傾げた一刀。
「ああ、大河なら彼処で濡れた体を拭いてるよ」
「あの……見た目が」
俺の言葉に一刀が言葉を詰まらせる。うん、言いたい事はよくわかる。
今、大河はシャツを脱いで上半身裸で体を拭いている。大河の容姿も相まって恰も『裸で体を拭く女の子』の図になっていた。周囲の兵士もチラチラと大河を見てるし。
「むしろ男とわかってるのに大河をチラ見する兵士が怖いな。あれか、水掛けたから女の子になったか?」
「大河はいつ呪泉郷に行ったんですか?確かに女の子にしか見えませんけど」
一刀のツッコミも大概だとは思うけどな。この後、大河を連れて自分の天幕に戻った俺は、大河に少し休むように伝えてから大将の天幕に向かった。
「大将、ちっと話があるんだが」
「あら、純一。桂花から私に鞍替えかしら?」
誤解を生む発言は止めて欲しいと切に願います。
「それはあり得ないから安心しろ」
「あら、残念。一刀と桂花と純一を可愛がろうと思ったのに」
そのラインナップに俺が混ざると問題な気もするが……
「その話は兎も角……少し話しておきたい事があるんだが」
「……話してみなさい」
俺の雰囲気を察した大将は、弄る姿勢から真面目な雰囲気へと変わった。切り替えが早いのは助かる。
俺は赤壁に来てから悩んでいた事を大将に打ち明けた。そして、それに対するこれからの事も。
「そう……純一、貴方のしようとしている事は偽善と取られるわよ」
「でしょうね。でも俺はやらない善よりもやる偽善を取りたい」
大将の視線がキツいものになる。プレッシャーがハンパ無い。
「その行動で魏を……そして私の覇道を阻むつもりかしら?」
「そんなつもりは毛頭無いんですが……出来る限りは行動したいと……」
その瞬間、俺の首に絶が押し付けられた。
「不届き者と首を跳ねられても文句は言えないわよ」
「首を跳ねられたら、そもそも文句は……って痛い痛い!」
揚げ足を取ったら首にチクリと痛みが!
「よく、この状況で冗談が言えたわね。寧ろ感心するわ」
「お褒めに預り光栄で……あ、待って待って」
絶に込められた力が増すのを感じたので、ボケるのは止めた。
「と、兎に角、確かにリスク……いや、危険も多いが得るものの方がデカいと俺は思ってるよ」
「そ……なら幾つか約束しなさい」
大将は、カチャリと絶を俺の首から外すと口を開いた。
「まず、やるのは構わないわ。だけど危険の方が多いなら止める事。そして問題が起きたら貴方に責任を負ってもらうわ」
「了解です」
なんとか許可は降りたか。責任を負うのは仕方無いことだ。白紙の領収書の金額を確認しないでOK出す訳がない。
「最後に……必ず生きてやり遂げる事。何かあって、桂花を泣かせる事になったら許さないわよ」
「最後が一番責任重大ですな」
一応の許可が降りたので大将の天幕を後にした。最後が一番熱が籠った一言だった気がする。
そんな事を思いながら自分の天幕に戻ると、大河はスヤスヤと眠っていた。その姿を見ると、コイツは生まれてくる性別を間違えたと割りと本気で思ってしまう。
そして、この日の夜。風向きが変わった頃と同時に、黄蓋さんの乗った船から火矢が放たれたと報告が出た。
『問題はない!!15メートルまでなら!!!』
『グラップラー刃牙』で烈海王が叫んだ一言。
「問題はない!!15メートルまでなら!!!」と15メートルほどの川の上を80キロ以上の体重があるドイルを背負ったまま走り抜けた。
『呪泉郷』
『らんま1/2』の物語の切欠となる呪われた泉。100以上の泉が湧いており、ひとつひとつの泉には悲劇的伝説があり、泉で溺れると、最初にその泉で溺れた者の姿となる。それ以降、本人の意思に関係なく強制的に水に濡れると変身し、湯をかぶると元に戻る体質となる。
『娘溺泉』
呪泉郷の一つ。落ちると女の子の姿になってしまう呪われた泉。