真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第百八十二話

 

 

「純一さん」

「ん、どうした一刀」

 

 

仮眠を取ってから船の上で煙管から煙を風に流していたら一刀に声を掛けられた。

 

 

「ちょっと、お話が」

「ん、わかった」

 

 

一刀の真面目な顔付きに俺は重要な話だろうと思い、茶化さずに話を聞くことにした。そして、その内容は俺の予想の範疇を越えるものだった。

 

 

「あ、知らない奴等が居る?」

「はい。魏の兵士の中に見覚えのない兵士が混ざってるって凪達が……」

 

 

俺はフゥーと紫煙を吐きながら、働いている兵士達を眺めた。

 

 

「……まったく分からん」

「俺も同じですけど凪や沙和が言うには、黄蓋さんの居る部隊の兵士達が知らない連中だと」

 

 

黄蓋さんの所の兵士が見覚えがない?新兵の指南役である凪と沙和が見覚えがないなら怪しいな。そもそも黄蓋さんは凰雛と一緒に来ただけで、他には誰も連れてなかった。それでいて黄蓋さんの船に乗っていた部隊の兵士は凪達が見覚えがない。これってつまり……

 

 

「他所の兵士……と言うか呉に居る黄蓋さんの部下が混じってるな多分」

「華琳も同じ意見でした。それでこれを……」

 

 

怪しまれない様に話す俺と一刀。ここで黄蓋さんにバレたら洒落にならん。そう思っていたら一刀はスッと黄色い布を俺に見せた。

 

 

「戦いが始まったらそれを身に付けるようにとの事です。それを付けてない兵士は敵だと」

「なるほどね、直前まで伏せて同士討ちを避けるか」

 

 

なるほどね。黄蓋さんの周囲の兵士にはそれを伝えず、戦いが始まったら全員で黄色い布を付ける。そして付けてない兵士は敵だって目印な訳だ。

 

 

「ん、りょーかい。それと……凰雛の姿を見たか?」

「凰雛……そう言えば今朝から黄蓋さんだけで凰雛は見てないです」

 

 

俺の質問に一刀は少し悩んだ素振りを見せてから答えた。成る程、既に居ないか。

 

 

「一刀、多分だけど今夜辺りに戦いになるぞ。黄蓋さんが凰雛を隠したか逃がしたのが証拠だ」

「っ……じゃあ」

 

 

俺の言葉に息を飲む一刀。

 

 

「ああ……大将にも伝えておいてくれ」

「わかりました」

 

 

頷き、その場を後にした一刀。俺は一刀の背を見送った後に頭をガシガシと掻く。

 

 

「どうしたもんかな」

「何を悩んでるんだ秋月」

 

 

俺がある事に悩んでいると背後から声をかけられた。振り返れば春蘭が立っていた。

 

 

「お前の顔に考え事なんて似合わんぞ」

「ただの悪口だろそれじゃ。それを言うなら悩み事だ」

 

 

悪意が無い分、春蘭の言葉は刺さるな。しかも顔て。

 

 

「少し思う所があってな」

「今回の呉の遠征の事か?何を悩む、華琳様の為に戦うのが我等の使命だろうに」

 

 

俺の言葉にバシバシと背を叩く春蘭。春蘭は力を入れてるつもりは無いんだろうけど超痛い。

そう……大将の為に戦う。それ事態はいつもの事だ。でも……思い出しちまったんだよ。

 

 

「何を悩んでいるかは知らんが……お前や北郷のやる事は華琳様の為になる事が多い。だったら、それをすれば良いではないか。やらずに後悔するのは為にもならんぞ」

「……春蘭って時々核心突くよな」

 

 

春蘭の言葉に俺は悩んでいた事をどうするか。それをまた考えてしまった。

 

 

「ふ、褒めるな。では、また後でな」

「ああ……」

 

 

俺の言葉に満足したのか春蘭は行ってしまう。やるだけ、やってみるか……どんな結果になるにしても。

 

 

「師匠……どうしたんスか?」

「ん、いや……なんでもない」

 

 

上目使いに俺を見上げる大河。何も知らない奴が見たら確実に女の子だと思うなコレは。天然男の娘め。

 

 

「それよりも簡単に修行するか……そうだな水の上を走る特訓をするか。やり方は簡単。まずは右足を水の上に乗せる、そしたら右足が沈む前に左足を水の上に乗せる。そしたら左足が沈む前に右足を……」

「ス、スゴいッス!そんなやり方で水の上を走れるなんて!」

 

 

俺の冗談に食い付きが良い大河。思えばこの世界の人達って冗談みたいな身体能力してるからマジで出来るのではと思ってしまう。

しかし凰雛の姿がないのは良かった事なのかもな。大河と凰雛の事を考えると戦わせたくないし……

 

 

「し、師匠!少しだけなら走れ……にゃー!?」

「ちょっと、なんで川に飛び込んでるのよ大河!?」

 

 

少し考え事をしながら視線を逸らしていたら大河の姿は無く、船の外から大河の悲鳴と桂花の怒号が聞こえた。

え、もしかしてちょっとでも水の上を走れたの大河?

俺はそんな事を思いながら悲鳴の聞こえた方へ急いだ。


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