真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第百七十八話

軍議が終わった後には赤壁へ向けて行軍を開始した俺達。その道中は船を使っていたのだが……

 

 

「うぅ……」

「き、気持ち悪い……」

 

 

慣れない船に揺られて船酔いをしている兵士達が沢山居た。海辺や川辺に住む者じゃなきゃ船になんか乗る機会もないだろうからなぁ。

 

 

「皆さん、フラフラッスね」

「大河は大丈夫なのか?」

 

 

船酔いをしている兵士の看病を終えた大河が俺の所へ来る。意外にも大河は船酔いをしていなかった。

 

 

「少し揺れてるけど自分は平気ッス」

「そっか。しかし……このままじゃ、ちっとマズいよな」

 

 

ここまで軍全体が船に弱いとは思わなかった。隣の船じゃ一刀が凪達と話をしてるけど、一刀を除いて全員の顔色が悪かった。

 

 

「っと……あれは」

 

 

そんな時、俺の視界に入ったのは鳳雛を連れた黄蓋さんだった。黄蓋さんは周囲の船を見渡して呆れた顔をしている。

歴史通りに行けば黄蓋さんは赤壁の戦いで……痛っ。

なんか頭痛くなってきた。俺も船酔いか?

 

 

「師匠、どうしたんスか?」

「ん、いや……俺も船酔いしてきたみたいでな……あ、そうだ」

 

 

大河が心配そうに俺を見上げていた。それはそうと俺も船酔いしてきたみたいなので、昔聞いた船酔い対策をしてみるか。効果があるかは分からんが……

 

 

 

◆◇side黄蓋◆◇

 

 

 

 

ワシは赤壁で呉を勝利へと導く為に全てを欺き魏へと降った。その信憑性を持たせる為に冥琳と偽りの仲違いを演じて見せた。冥琳もワシの考えを察したのか、打ち合わせなしにワシの動きに同調して見せた。

そして周囲に険悪な雰囲気を見せ付けた後に、ワシは呉を脱走し曹操の下へと降った。道中で鳳雛を名乗る娘を拾ったが、この娘は恐らく蜀の手勢だろう。呉の者にしては纏う空気が違いすぎる。だが誰でも構わん。ワシは呉を守る為にはなんだってする。利用出来るものは、なんでも使わせてもらおう。

 

そして首尾よく魏へと降ったワシは、決戦の場になるであろう赤壁へと向かっていた。だが……

 

 

「あうう……頭が回る」

「う、うぷ……視界が揺れてやがる……」

 

 

兵士の大半が船酔いをしておった。いっそこのままなら勝てる気もしたが、万全を期すためにも赤壁へと行かねばならん。

 

 

「お邪魔しますよっと」

「し、失礼します!」

「む、警備隊の副長……だったか?」

 

 

何やら荷物を抱えた男と童がワシと鳳雛に寄ってくる。こやつは確か……皖城でワシと問答をした呑気な男か。天の御使いの片割れ。なんだ探りを入れに来たのか?ワシは表面上は冷静を装いながら警戒をする。

 

 

「ええ、改めて秋月純一。魏の警備隊副長です。コイツは弟子の高順」

「よ、よろしくッス!」

 

 

自己紹介をしながら頭を下げる秋月と高順。

 

 

「鳳雛さんだったよね。俺は黄蓋さんと話があるから大河……高順にこの辺りの事を教えてやってくれないか?コイツは呉が初めてらしいんでな」

「あ、あわ……」

 

 

にこやかに笑みを浮かべながら鳳雛に話し掛ける秋月。鳳雛はチラリとワシを見た。何が目的かは知らぬが、変に断っては疑われるかもしれんな。

 

 

「構わんよ。鳳雛、種馬兄殿の弟子に呉の事を教えてやれ」

「は、はい……」

「え、呉にまで種馬兄弟の噂って広まってるの?」

 

 

ワシの言葉を聞いた鳳雛は、高順と共に船の端へと移動して話をする様だ。秋月は聞いた噂話をしたら随分と沈んでいた。さて、それはさておき何用かな天の御使い殿?

 

 

「いや、何……少し船酔いしてしまったみたいなんで……」

「ほう……それでワシに何を求めるんじゃ?」

 

 

ワシの問いに秋月は持っていた荷物から何かを取り出した。それは……

 

 

「……酒か?」

「ええ、少し付き合ってもらえたらと思いまして」

 

 

秋月が取り出したのは徳利だった。そこには魏で作られた酒が入っていたのか、初めて嗅いだ酒の匂いがする。まさか、酒のお誘いとはな……

 

 

「良いのか、ワシは最終的には魏と戦うつもりじゃぞ?」

 

 

そう。ワシは皖城で軍議をした際に呉を討った暁には魏に戦いを挑むと宣言した。そんな相手に酒盛りを誘うとは、読めんなコヤツの考えが。

 

 

「だったら尚更でしょう。それに少し船酔いしてまして……酒で船酔いを誤魔化そうと思いましてね」

「酒で船酔いを誤魔化す?天の国にはそんな風習があるのか?」

 

 

魏と戦うなら今の内に酒を飲んでおけと言う秋月は、ワシに杯を渡しながら船酔いしていると告げる。そして船酔いを酒で誤魔化そうとは面白い考えをするものだ。

 

 

「まあ、確証あるもんじゃないんですが、この際試してみようかと」

「ふ……男からの酒の誘いを断るほどワシは女を捨てたつもりはないぞ」

 

 

注がれる酒を眺めながらワシは笑みを浮かべた。一瞬、毒でも盛ったかと疑おうとしたが、コヤツはそれはしないだろう。何故か、そう思えた。

 

 

「ほう……美味いな。魏の酒か?」

「ええ、天の国の酒を魏の職人に話したら完璧ではないんですが再現してくれました」

 

 

口当たりの良い酒に傾ける杯が早くなる。なんとも不思議な奴だ。まるで敵意を感じん。

 

 

「それで、ワシを酒盛りに誘ったのは船酔いだけではあるまい?」

「バレてましたか……ま、理由はアレですよ」

 

 

ワシの疑問に秋月はスッと指をある方向に向けた。その先には鳳雛が高順に呉の事や船の事を教えている様だった。

高順は鳳雛の話をよく聞きながら顔を赤らめている……ほほぅ、これはこれは……

 

 

「なるほど、初な恋じゃのう。師として思う所があったか?」

「いやいや、すこーしばかり背を押しただけですよ」

 

 

明らかに鳳雛に惚れた様子の高順に思わず笑みを溢す。秋月も悪戯小僧の様な笑みを浮かべていた。

思えば策殿や冥琳には浮いた話が無かったの……あの馬鹿娘達が。

幼い頃の策殿や冥琳。そして今、鳳雛と高順は今の酒の肴には、ぴったりだった。そんな思いと共に飲んだ酒は妙に美味かった。

 


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