真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第百七十話

 

 

 

◆◇side詠◆◇

 

 

先日、自爆したアイツは既に仕事をして街に行っていたらしく、いきなり噂になっていた。街での買い出しをしていた僕の耳に噂が流れてくる。

 

 

「副長さん、仕事頑張りすぎたんだって?」

「まあ、研究熱心な方ですからねぇ」

「なんでも呂布将軍と戦ったんだとか」

「俺は兵士達の鎧の強度を確かめる為に戦ったって聞いたんだがな」

 

 

街行く人たちの噂を流しながら聞いてるけど若干、曲解して伝わってる様な気がするわね……

 

 

「でも……良くも悪くもアイツ等の噂ってよく聞くのよね」

 

 

そう……天の御遣い兄弟は魏の街で噂によく上がる。もっとも天の御遣いとしてではなく種馬兄弟や阿呆な兄弟としての話が多いのだけど……

でも僕からしたら、お人好し兄弟って感じなのよね。

そんな事を思いながら城に戻ると丁度、秋月と北郷が居た。何を話してるんだろ?

 

 

「え、じゃあ華雄に真名を考えてくれって頼まれたんですか?」

「ああ……『惚れた男に真名を考えてもらう……なんとも良いことではないか』って言われてな」

 

 

話の内容から華雄の事らしいけど……華雄も思い切った事、考えたわね。思えば華雄も秋月と出会ってから随分と変わったと思う。

 

 

「ボロンゴ、プックル、チロル、ゲレゲレ……どれにするべきか悩んでてな」

「真相を知ったら確実に斬られますよ」

 

 

妙に真面目な顔つきの秋月だけど、なんか絶対にろくでもない事を考えてる時の顔よね、アレは。

 

 

「ちなみに俺はゲレゲレにした」

「マジですか。俺はボロンゴにしましたけど」

 

 

人に付ける名前とは到底思えないんだけど……

 

 

「ま、冗談はさておき一応、候補は幾つか考えてるんだわ」

「良いんじゃないですか華雄も喜びますよ」

 

 

先程の名は冗談だったみたいね……本気でも困る気はするけど。

 

 

「そういや大将と上手くいってんのか?」

「あー……その事でちょっと相談が……」

 

 

北郷がそう言うと此処じゃ話辛いと行ってしまう。男の子同士ってあんな感じなのかしら?

 

 

「覗き見ですか詠?」

「アンタと一緒にしないで稟」

 

 

二人の背中を見送っていた僕に話しかけたのは書類を抱えた稟だった。覗き見とか言うけど、覗き見ほどの事はしてないわよ。

 

 

「秋月殿と一刀殿ですか……本当の兄弟みたいに仲が良いですね」

「それは……僕もそう思う」

 

 

僕と同じく二人の背中を見て稟が呟く。本当の兄弟みたいに仲が良い。似てる所も多いし……特に助平な所が。

 

 

「しかし……それを思うと不思議と一刀殿と秋月殿が倒れたのが同じなのも天の御遣い兄弟なのだからでしょうか?」

「倒れたのが同じって……いつの話?」

 

 

稟の話の中に聞き流せない言葉があった。僕は思わず聞き返してしまう。

 

 

「秋蘭達が定軍山に行った時ですね。一刀殿が倒れた時は秋月殿も体調が悪く、秋月殿が倒れた時に一刀殿も倒れたと聞いています」

「それ……本当なの?」

 

 

僕は稟の言葉を疑ってしまう。なんでも疑うのは軍師の性だけど、つい聞いてしまった。

 

 

「本当の事ですよ。秋月殿が帰ってきてから本人との話を照らし合わせて確認した結果ですが」

「そう……疑って悪かったわ」

 

 

稟の説明に僕は頭を下げた。けど、稟は『疑うのは軍師の性ですからね』と許してくれた。僕と同じことを思っていたから内心では少し笑ってしまったのは内緒ね。

 

稟と別れた僕は先程の話を思い返していた。

そもそも前から疑問だった事がある。天の国から降り立ったと聞く秋月と北郷。北郷はほぼ平凡な人間だけど、秋月は才能があったのか『気』を扱う者になった。

でも気は才能がある者でも修得は難しいとされているにもかかわらず、秋月はあり得ない速度と思い付きで会得したと聞く。

そう言えば、凪も前に……

 

 

『副長は色々と出鱈目なんです。本来なら時間を掛けて修得する物をアッサリとこなしたかと思えば基本が出来てなかったりします』

『アイツらしいとは思うわね』

 

『それだけじゃないんですが……副長の気は不安定なんです。だから気を失う事も多くて』

『それってアイツがやわなだけじゃないの?』

 

『違います、副長程の気の使い手になれば本来なら体内の気を掌握して常人よりも強くなれる筈なんですが……』

『秋月は違うの?』

 

『副長は何故か気を修得していく度に気が不安定になっていくんです。技による自爆や気を失う事が多いのも、それが理由だと私は思っています』

『強くなる一方で弱くなるか……本当にアイツって規格外よね』

 

 

あの時はあまり考えなかったけど……今にしてみれば思い当たる節が幾つか有るわね。

アイツの行動や強さ……今までは天の国の住人だからと考えなかったけど色々と不自然だわ。それはまるで、何かの都合に合わせて強くなっていくかの様に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って……考えすぎよね。何、考えてんだか僕も」

 

 

疲れてるのかしら僕も……こんな馬鹿らしい事を真面目に考えるなんて……

 

 

「どうしたの詠ちゃん?」

「難しい顔をしていたと思ったら、気の抜けた顔でため息を吐いていたぞ」

「へ…….うわっ!月、華雄!?」

 

 

あまりに考えに集中しすぎていたのか、月と華雄が僕の顔を覗き込むように見ていた。

 

 

「あ、ううん……なんでもない。ちょっとアイツの事を考えてただけよ」

「へ、へぅ……詠ちゃん」

「ほぅ……秋月の事をそんなに思っていたのか」

 

 

僕の言葉に月も華雄も頬を赤く染めた……って何を想像したのよ!

 

 

「ちょっと変な事は考えてないわよ!?」

「そ、その……邪魔してごめんね詠ちゃん」

「気にするな、夜は頑張れよ」

 

 

 

僕の抗議は月と華雄の耳には届かないのか、顔を赤くしたまま行ってしまう。ああ、もう絶対に変な誤解されたわ。

 

 

「詠、なんか月と華雄が俺を見て顔を真っ赤にして走り去ってったんだけど、なんか知らないか?」

「アンタは……なんで、この間で現れるのよ……」

 

 

その元凶がのほほんと現れ、僕はちょっとだけイラっとした。

まったく、人の気も知らないで……でも、秋月の心配をするのは僕の役目よね。

 

 

「はぁ……なんでもないわよ。それよりも病み上がりで無理はしないでよ」

「そこは安心しろ。呉に行くまでは桂花に新技開発を禁止されたから」

 

 

それって信用されてないって事よね。でも秋月を相手に先手を取れるのは華琳か桂花くらいだと思う。コイツは本当に予想外の事をしでかすから。

 

 

「ならいいけど……心配する身にもなりなさいよね」

「ああ……いつも心配させてゴメンな」

 

 

そう言って秋月は僕の背中から腕を回して抱き寄せる。本当に……本当に……

 

 

「馬鹿なんだから……」

「ん……悪りぃ……」

 

 

僕が秋月の腕に手を回すと謝罪と共にギュッと抱く腕に力が入った。

僕は秋月を心配する。誰かがいないとコイツはきっと駄目になるから。

 

僕が傍に居るよ……だって僕は秋月のメイドなんだから。

 

 




『ボロンゴ、プックル、チロル、ゲレゲレ』
DQ5の幼年時代のイベントで、ベビーパンサーが仲間になる際にビアンカが名前の候補としてあげる名前。
「ボロンゴ→プックル→チロル→ゲレゲレ」の順に提案されて、リメイク版だと選択肢が増えて「ボロンゴ→プックル→アンドレ→チロル→リンクス→ゲレゲレ→モモ→ソロ→ビビンバ→ギコギコ」となる。

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