◆◇side桂花◆◇
私はその日、夜遅くまで仕事をしていた。華琳様から任された仕事を済ませて私は疲れを感じ、早々に寝る事にしたのだけど目が冴えているのか眠れない。布団を被ったまま私は起きていた。それと言うのも……
「あの……馬鹿……」
私は能天気なあの馬鹿に毒づく。人が心配したっていうのに他の娘と仲良さそうにして……
「って……関係ないわよ!あの馬鹿が誰と一緒に居たって……アイツが誰と一緒に居ようが私には関係ないんだから……」
「そりゃ寂しい一言だな」
私しか居ない筈の部屋に聞こえる他の声。この声って!
「なっ……あ、むぐっ!?」
「おっと声を出すなよ桂花」
そこに居たのは秋月だった。私が悲鳴を上げる前に秋月は右手で私の口を塞ぐ。
「まったくさぁ……そんな風に思うなら素直になれよな」
「むー!」
やれやれって感じで話す秋月に苛立ちを感じる。何よ、人の部屋に勝手に侵入しときながら!
「俺はもう……我慢の限界なんだわ」
「ん……んうっ!?」
秋月は右手で私の口を塞ぎながら左手で私の体を触り始める。その手つきは、かなりいやらしい上に乱暴だった。
「ほら、もう桂花も我慢できないんじゃないか?」
「ん、んぅぅぅぅぅぅっ!」
そう言って秋月は左手を私の下半身に伸ばす。いや、やめて!こんな風に求められたくない!もっと優しくして!
「お前だって俺を求めたんだろ?」
「ん……んう……」
秋月の言葉に私は反論できなくなる。確かにここ最近は寂しさすら感じていた。でも、こんな事は望んでない!いつもみたいに優しくしてよ!
「止めて!お願いだから……あ……れ?」
秋月を突き飛ばそうとした両手が空を切る。目を開ければ静かな部屋に私一人だった。
「ゆ……め……?」
伸ばした手と静かな部屋に私の声だけが聞こえる。そして私が何気なく出した一人言は私自身の今現在の状況確認だった。眠れないと思っていたが、いつの間にか眠っていたらしい。しかもあんな夢を見た。
そして私は顔が一気に熱くなるのを感じた。
「~~~~~~~っ!!」
私は枕に顔を埋めながら声を出さずに叫ぶ。何、なんなの!?馬鹿なの私!?あんな……あんな夢を見るなんて!?馬鹿、馬鹿なの!?まるで欲求不満な新妻みたいじゃない!
「うぅぅぅ……」
私は枕に埋めたまま足をパタパタと動かす。顔から火が出るかと思うほどに恥ずかしい。しかも私は夢の中で『秋月に優しく抱かれたい』と思って……あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
そのまま私は思考が定まらず悶々として気が付けば日が上っていた。あの馬鹿が斗詩と腕を組んでいるのを見てから暫く経過したけど……あんな夢を見るなんて……
あれから一睡もしなかったせいなのか私は非常に眠かった。仕事はなんとかしていたけど、風や稟から休んだ方が良いと言われて仕方なく部屋に戻る事にした。
そして部屋に戻る最中に見つけたのは城の庭の芝生で呑気に寝ている馬鹿。
「コイツは……私が悩んでるって分かってるのかしら」
我ながら自分勝手だとは思うけど、この顔を見るとそう言いたくもなる。
「素直に……か」
夢の中で秋月に言われた事を思い出す。最近の私は意地……と言うか拗ねて秋月を拒絶していた。分かってる………本当は分かってるけど秋月に当たりたくなる。そもそもコイツは種馬が仕事の一つなんだから本来悪くない。でも……
「少しくらい……意地悪させなさいよ」
呑気に眠る秋月の頬をつねる。本当に起きないわね。だったら、いっそのこと……私は思い付いた事をする事にした。
「ちょっとだけなんだからね……この馬鹿」
私は秋月を起こさないようにソッと頭を持ち上げ膝の上に乗せる。本当に起きないわねコイツ。
幸せそうに眠る秋月に私も自然と瞼が重くなっていく。昨夜眠れなかったせいなのか、瞼を閉じた私の意識は静かに沈んでいった。