真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第百四十八話

 

 

 

『先輩は卒業したら、どうするんですか?』

『まだ先の話だからなぁ……やりてぇ事もないし』

 

 

ああ……

 

 

『先輩、ゲームとかアニメが好きなんですから、その手の就職先はどうなんですか?先輩、器用貧乏で雑学豊富なんですから』

『さりげなくディスるな。まあ、その方向もありかなぁ……』

 

 

また……この夢か。

 

 

『ちゃんと考えた方が良いですよ。大沼先輩はもう内定貰ったらしいですよ』

『アイツは前から、その話が出てたからな』

 

 

我ながら……未練が残ってんのか?

 

 

『就職駄目だったら愛美が俺を養って』

『せ、先輩はそう言うことを軽々しく言い過ぎです!』

 

 

顔を真っ赤にしてる愛美。まだこの頃は楽しかったんだよなぁ……夢だし触れられる訳じゃないけど俺は愛美の肩に触れようと手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると右手にムニュっと柔らかな感触が帰ってきた。

 

 

「きゃあっ!?」

「あ……あれ?」

 

 

夢の中で愛美の肩に伸ばした手は柔らかい感触を手に伝えていた。悲鳴付きで。

 

 

「あ、秋月さん?」

「……斗詩?」

 

 

俺の右手は斗詩の胸を鷲掴みしていた。手が凄い幸せになってる。斗詩は手拭いを持った体勢のまま固まっていた。

ヤバいな……何か言わないと……

 

 

「け、結構なお手前で」

「あ、その……恐縮です」

 

 

胸を揉んどいて、この会話は変だとは思うが……あれ?俺は何をしてたんだっけ?此処は……天幕の中か?

 

 

「あ……そうだ!俺は馬超に……」

「意識がハッキリとしたのは良いんですけど……手を離してください」

 

 

俺はそこでやっと意識がハッキリとした。斗詩は俺の右手を胸から引き剥がす。優しいなぁ……桂花とか詠ならビンタの返し付きだ。

 

 

「秋月さんは馬超さんに腹部を……正確には脇腹を刺されて意識を失ったんですよ」

「そっか……そうだったな」

 

 

意識を失う直前に怒り狂った馬超に襲われて腹を刺されたんだったっけ……その直後に大河が気功波を撃って……って、あれ?

 

 

「そう言えば、なんで大将達が定軍山に?」

「北郷さんが華琳様に秋蘭さんの危機だと進言したらしいです。その後、軍を纏めてから行軍速度を最大にして定軍山に向かったんです」

 

 

一刀が進言したって事は……今回の定軍山の事は歴史に関わる事だったのか?俺は忘れてたけど、その可能性が高いな。

 

 

「大変だったんですよ、桂花ちゃんや華雄さんも来ると騒いだりしてましたから」

「ああ……心配させちまったな」

 

 

国を完全に空ける訳にはいかんわな。桂花、華雄は留守番か。

 

 

「そしたら……その……秋月さんが目を覚ましたと同時に私の胸を……」

「スンマセンでし……痛っ!?」

 

 

斗詩の発言に土下座しようとしたら脇腹に鋭い痛みが走った。

 

 

「だ、駄目ですよ!少しとは言っても脇腹に槍が刺さったんですから!」

「き、気を付けるよ……」

 

 

危ねぇ……また気絶するところだった。

 

 

「大将達は?」

「今は軍義中の筈ですよ」

 

 

軍義って事は何かあったのか……

 

 

「……行ってみるか」

「駄目ですよ!まだ立ち上がるのも無理なんですから!」

 

 

 

斗詩が慌てて止めに来るが状況を知りたいんだ。少しの無茶はするさ。

 

 

「じゃあ……斗詩が支えてくれ。それなら歩けそうだから」

「……はぁ。仕方ないですね」

 

 

斗詩は俺の発言に溜め息を溢したが俺の隣に立って肩を貸してくれた。

 

 

「いつもスマないね」

「それは言わない約束ですよ」

 

 

小芝居の親子みたいな、やり取りをしながら天幕を出る。因みにだが、あの熊は蜀の兵士達を叩きのめした後に山に帰っていったらしい。なんかまた会いそうな気がするが今はそれどころじゃないな。

大将達に合流すると一斉に視線が此方に向いた。心配させたな。

挨拶もそこそこに話を聞くと、大将達に追い立てられた馬超は近隣に打ち捨てられた城に逃げたらしい。そして籠城するかと思った馬超だが城の門が完全に開けられた状態で放置されていた。それを見た春蘭は罠だと叫んだらしいが周囲の視線は冷ややかな物で……

風の話ではあれは趙雲の策ではないかとの事。小さな城を開けて、そこを曹操に攻めさせる。曹操は小さな城を全軍挙げて攻めたと風評を出す気か?と挑発しているらしい。

 

 

「やってくれるなぁ……」

「そうね……でも大胆な考えは悪くないわ」

 

 

俺の呟きに大将は楽しそうだ。

 

 

「さて……城に行こうかしら」

「か、華琳様!?」

 

 

大将の発言に春蘭が驚く。なるほど趙雲や馬超に会いたいって訳ね。

この後、一悶着あったけど大将、風、流琉、季衣、俺。俺は傷が痛むので流琉と季衣に支えて貰っていた。

 

 

「完全に開いてるな」

「貴女の友人は大した策を取るわね風」

「んー……間違いなく星ちゃんの考えですねー」

 

 

この状況下で、この考えが出来るって凄いな。

 

 

「でも、誰もいませんね」

「呼べば出てくるかな?」

 

 

流琉の発言に季衣が良いことを思い付いたと手を上げた。

 

 

「やってみたら季衣」

「はーい。誰か居ませんかー?」

「此処に居るぞー!!」

 

 

大将の言葉に頷いた季衣が城の中に声を掛けると同時に誰かが飛び出してきた!

 

 

「貴女……馬岱ね?」

「ぐ……お……」

「そうだよ……って、そっちの人はなんで蹲ってるの?」

 

 

突如現れた馬岱と思われる少女に大将が話しかけるが俺はそれどころじゃない。

 

 

「驚いた拍子に傷が開いたみたい……」

「傷……って事はオジさんがお姉様の邪魔をした人?」

 

 

然り気無く人の心に傷を付けながら馬岱は俺を見る。張飛といい蜀のチビッ子は俺の心を抉るなぁ……マジで。

 

 

「馬超はどうしたの?」

「お姉様は貴女に会いたくないって」

 

 

馬岱の言葉に何処か納得できた涼州を攻めたのは魏だし、その結果、馬騰さんは亡くなったのだから。

 

 

「そ、なら馬超に伝えて馬騰は涼州の流儀で埋葬したと」

「それ……本当?」

 

 

大将の言葉に馬岱は目を見開く。敵対していた人間がそんな事をするとは思わなかったんだろう。

 

 

「嘘をついてどうなるの。なんだったら墓の場所も教えるわよ」

 

 

そう言って大将は馬騰さんの墓の場所を説明した。馬岱も場所がわかるのか、うんうんと何度も頷いている。

 

 

「用事も済んだし、帰るわよ」

「あ、ちょっち待った」

 

 

大将は用件が済んだので帰ろうとしたけど俺はまだだ。

 

 

「馬岱、馬超に伝えて欲しい事がある」

「良いけど……お姉様、凄い目の敵にしてたよ?」

 

 

今回、秋蘭を倒せるチャンスを潰したのは俺だったからなぁ……恨まれてるッポイ。

 

 

「可愛い顔してたけど凄い目で睨まれてたからなぁ」

「あら、品定めは忘れないわね種馬兄」

「お姉様は奥手だから苦労するよ?」

 

 

俺の発言にいつもの調子で弄りに来る大将。何故か馬岱も話に乗ってきた。

 

 

「そっちの話は置いておけ。出来たら馬超に直接伝えるべきだが……馬騰さんの遺言だ」

「え、叔母様の……なんで!?」

 

 

俺の言葉に馬岱は先程以上に驚いていた。そっか俺が馬騰さんの最後を看取ったと知らないなら当然か。

 

 

「偶然だったけど俺は馬騰さんの最後を看取ったんだ。そこで馬超宛の遺言を預かった」

「じゃあ……お姉様は叔母様の最後を看取って遺言を託された人を恨んだ上に討とうとしちゃったんだ……」

 

 

俺の言葉に馬岱は不安げな表情になる。まあ、それに関しちゃ色々と間が悪かったとしか言いようがない。

 

 

「知らなかったなら仕方ないさ。それで馬騰さんの遺言だけど……『アンタはアンタの道を行きな』これが遺言だ。馬超に伝えてくれ」

「…………」

 

 

託された遺言を聞いて馬岱は黙ってしまう。そして顔を見上げると俺とまっすぐ向き合う。

 

 

「お名前……聞いてもいい?」

「秋月純一……字と真名は無い」

 

 

馬岱に名を聞かれた時、馬騰さんとの最後のやり取りを思い出した。

 

 

「わかった……ちゃんと伝える。ありがとね純一さん!」

「ああ……頼んだぞ」

 

 

ちゃんと遺言を伝えると言ってくれた馬岱の頭を撫でてから俺は流琉と季衣に支えられながら城を後にした。


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