真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第十四話

 

 

 

◇◆side桂花◇◆

 

 

 

まさかだった……まさか黄巾討伐で赴いた街にアイツがいるなんて……しかも義勇軍と一緒に戦ってた!?あり得ないわよ、アイツは少し鍛練した程度で音を上げる奴だったんじゃ……

 

でも一緒に戦った秋蘭の話ではアイツは気を巧みに操り戦っていたと言う。しかも秋蘭は『たまに姉者以外の者に背を預けるのも悪くない』とか言ってたし……買い被りよ、アイツはただの馬鹿なんだから。そしてアイツは華琳様の指示で義勇軍の将と共に北郷の部下となった。立ち位置としては北郷の補佐、凪達の上司となるらしい。アイツが北郷の補佐なら丁度良いわ。死ぬほどこき使ってやるんだから。

 

その後、軍義をした折りに黄巾党の補給路を断つ作戦が決まった。その際にアイツは勉強をちゃんとしていたらしく、すぐに補給路を断つ作戦に気づいた。

 

「あれだけの部隊が動くには武器はともかく、糧食は現地調達じゃ無理がある筈。だからその糧食や武器をどこかに集めてる集積地点がある筈って事だ」

「あら、純一も理解していた様ね」

「一応……勉強はしてたものね」

 

 

春蘭や季衣に北郷の説明を引き継いで発言すると華琳様は感心した風に頷いていたが、私はそれどころじゃなくなってしまった。アイツは少し前まで荀家で絵本を読んで勉強をしていたのだ。それも真面目な顔で。私はそれを思い出すと笑いを堪えるのに必死だった。

アイツは私の方を見ていたけど笑いを堪えるのに必死だったのバレたかしら?

 

 

軍義を終えると各自、やる事が多く解散となった。アイツはやる事がないのか暇そうにしていた。暇なら私の小間使いにしようかと思ったら華琳様に呼ばれていく。なんでも北郷とは違った知識の持ち主らしく華琳様はその話を聞きたいのだと仰られた。

私は華琳様と話をするアイツ見てイラッときた。なんでアイツが華琳様と楽しげに話をしてるのよ!華琳様と楽しく話をするのは私の役目よ!

 

なんて言いたかったけど華琳様の手前、そんな事も言えない。私は私の仕事を終えると私にとって目障りな男その二、北郷一刀が配給をしていた。沙和と交代したと言ってた……って、あの馬鹿何してるのよ!?

北郷は3日分と言われた筈の糧食の全てを配っていた。本っ当に男はろくな事しないわね!

私は石を北郷に投げて頭に当てると大馬鹿に説教をしてやると決めた矢先に華琳様と秋月が来た。どうやら話は終わったらしいわね。

 

 

「おいおい、何事?」

「秋月……アンタの上司は予備の糧食を3日どころか全部配っちゃったのよ!」

 

 

私は先程の分と今の怒りを同時に秋月にぶつける。春欄が敵の本拠地を見つけてなかったら飢え死にする所なのよ!まったく、こんなのが秋月の上司で大丈夫なのかしら?

 

 

「つい……張り切りすぎちゃって……ごめんなさい」

「………まあ、今回はすぐに移動しなくちゃいけないし、撤収準備や引き継ぎの手間が省けたから特別に私の指示だった事にしてあげる。でも次に同じ事をしたら……わかってるわね?」

 

 

北郷は華琳様に頭を垂れる。それを見た華琳様は広いお心で北郷を特例で許した。華琳様はその場を離れると同時に秋月に歩み寄る。

 

 

「純一、アナタも一刀の補佐なら……今後は手綱を握りなさい」

「………肝に命じます」

 

 

華琳様の一言に苦笑いになる秋月。秋月は直ぐ様、北郷に向かい合うと口を開いた。

 

 

「一刀……まあ、一度失敗したなら次に活かせ。学生は学ぶのも仕事の内だ」

「純一さん……はい!」

 

 

秋月は北郷のポンと頭を叩いて気持ちを入れ換えさせていた。こうゆうのに慣れてるのかしら。

その後、全部隊が出発し終えてから数刻後、普通に行軍すれば、半日はかかるところを強行軍でわずか数刻で目的地まで駆け抜けた。そこは、山奥にポツンと立っている古ぼけた砦だった。

私は華琳様の威光を分かりやすく表現する為に旗を落とした砦に刺していく事を進言した。その案はアッサリと通され、将の間では競い合いが始まった。鼓舞にも影響しそうね。

そしていざ、砦を攻めると言う段階で沙和が口を挟んだ。

彼女の言い分は糧食を持ち帰り、街に配りたいとのもの。沙和らしい意見ね。でも、それをすれば一時的に街は救われても華琳様の評判は地に落ちる。その事を説明していると秋月はタバコを吸いながら私達の方に歩み寄ってくる。

 

 

「あの街には警護の部隊と糧食を送っているわ。それで復興の準備は整うはず。華琳様はちゃんと考えているから……安心なさい」

「そういうこと。糧食は全て焼くのよ。米一粒たりとも持ち帰ることは許さない。それがあの街を守るためだと知りなさい。いいわね?」

「そうそう。それに敵から奪ってきましたって言って渡すのも沙和も嫌だろ?ちゃんと胸を張ってやれる事をしようや」

「あ……うん、なの」

 

 

秋月はタバコを吸いながら、沙和の頭を撫でた。沙和も沙和で戸惑いながらも笑っていた。何よ、なんか手慣れてる動きじゃない……イライラするわね。

 

 

「………女ったらし」

「………え?」

 

 

私は思わず考えた事が口に出てしまった。小声で言った為に秋月は誰が発した言葉か分からず、辺りをキョロキョロとしていた。良かったバレなかったわね。

その後、砦は直ぐに落とす事が出来た。まあ、これだけの将が集まって落とせない方が可笑しいわね。

 

 

 

「どうした!この夏侯元譲に挑む者はおらんのか!?この腰抜け共が!」

「せいやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「はあああああああっ!」

 

 

城の中で戦っている声が響く。そんな中、私は秋月と北郷を見つけた。乱戦の中、秋月は腰を低く何かの構えを取る。何よ、あの変な構えは……

 

 

「かぁ…めぇ…はぁ…めぇ…」

 

 

何かを呟く秋月。それに比例して秋月の手には気が集中し始めていた。秋月の隣で北郷は何か凄く驚いていた。

 

 

「波ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

秋月が両手を前に出すと、その手から気弾が放たれた。アレが荀家の塀を破壊した技なのね。気を使えると聞いていたけどアレ程の使い手だったなんて……

 

 

「目的は果たしたぞ!総員、旗を目立つところに刺して、即座に帰投せよ!帰投、帰投ーっ!」

 

 

私が呆然としていると春蘭の声が響く。こうして黄巾の補給路を断つ作戦は成功で終わった。

帰り道、華琳様のお言葉で皆の士気が高まる中、華琳様がふと、何かを思い出して足を止める。

 

 

「ああ、そうだ。例の……旗を一番高いところに飾るという話だけれど……結局誰が一番だったの?」

 

 

華琳様の一言にその場に居た者が『あ……』と一様に思い出す。

 

 

「あーっ!なんか忘れとる思うたら、それか!」

「ハッハッハッ初めての戦で、そこまでの余裕はなかったか!まだまだ青いなぁ!」

 

 

真桜は忘れていたらしく、春蘭はしっかりと覚えていたらしい。この手の事は忘れないのに書類仕事は忘れるんだから都合の良い頭よね。

 

 

「それで誰が一番だったのかしら?」

「確か……真ん中の高い塔の屋根に旗が刺さってましたよね?」

 

 

華琳様の問いに沙和が思い出したかのように呟く。そう言えばと伝える。砦の中心に高い塔はあったけど……まさか、あの屋根に刺さってた旗!?

 

 

「あれ、僕の旗!」

「季衣……どうやって刺したんだ?」

 

 

季衣が嬉しそうに手を上げている。なんとも言えない空気になりかけた時、北郷が季衣に質問する。

 

「何処に旗を刺そうか悩んでたら純一さんが『あの塔が一番高いぞ』って教えてくれたんだー。後は登って刺してきたの。僕、木登り得意だから!」

 

 

季衣の言葉に皆が黙る。またアイツなのね……北郷の補佐になると決まったけど天然で他者の手助けして回ってる印象だわ……

 

 

「あれ?その純一さんは?」

「ふむ、そう言えば先程から姿が無いな」

 

 

北郷が秋月が居ないことに首を傾げている。秋蘭も知らないとなると何処に行ったのかしら?

 

 

「純一は先に帰らせたわ。私に仕えると決まったけど、世話になった荀家に挨拶はしたいそうよ。許昌まで行ってから帰ると時間が掛かるから直接帰らせたわ。挨拶が済んだら許昌に来るように伝えたから一刀、その後は任せるわよ」

「それで居なかったのか。了解、警備隊にも伝えとくよ」

 

 

先に帰った!?しかも私に黙って荀家に帰るって何考えてんのよ!

 

 

「桂花、純一は貴女にも帰ることを告げようとしてたけど撤収準備の指揮をしてたから遠慮したみたいよ?」

「はぅ!?か、華琳様ぁ~」

 

 

私の心情を予想してか華琳様は秋月の事を話してくれた。

 

 

「まあ、挨拶だけなら直ぐに帰ってくるさ」

「しゅ、秋蘭!?」

 

 

ポンと私の肩を叩く秋蘭。何よ、その悟った様な顔は!

ハッと見渡せば春蘭や一部を除いてはニヤニヤと私を見ている……って……

 

 

「アンタ等、何を勘違い……」

「あら、私は何も言ってないけど心当たりがあるの桂花?」

 

 

華琳様の言葉は私の胸を貫いた。秋月~皆に誤解されてるのはアンタの所為だからね!許昌に来たら覚悟しなさいよ!!


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