真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第百二十七話

 

 

 

 

「うーん……相も変わらず新技は上手く行かないな」

 

 

俺は調理場で食材を刻みながら呟いた。つい先日のガンフレイム失敗が少しばかりショックなのだ。

なんちゃってシルバースキン以降は技の極端な失敗が無かったのだが今回は久々の自爆だった。

 

 

「一応、修行はしてるのに……やり方が悪いのか……」

 

 

凪に言わせれば『副長は常識が色んな意味で通じないので私の助言では……』との事。凪も最近は言うようになったなぁ。

でも、まあ……なんちゃってシルバースキンのお陰で大した傷も追わなかったし気絶もしなかった。

 

 

「あれだな。一歩進んで二歩下がる的な……」

「それは前に進んだとは言わないわよ」

 

 

独り言に返事が返ってきたので振り返れば桂花が調理場に来ていた。

 

 

「桂花、どうしたんだ?」

「アンタが部屋に居ないから探しに来たんでしょうが」

 

 

俺の質問に答えながら調理場に入ってくる桂花。俺は嬉しさと笑いを堪えるのに必死だった。

だって桂花が俺を探しに来た事を否定しなかったんだもん。以前なら『華琳様に頼まれたのよ』とか言い訳付けてたけど、それが無くなった。それだけでもスゴい嬉しい。

 

 

「で、何で料理してんのよ。小腹が空いたなら……」

「ああ、いや。小腹が空いたんじゃなくて大将からの頼まれ事でな。これも仕事なんだよ」

 

 

桂花が俺に質問をしてくるが俺も単に小腹が空いたと言う理由で料理をしてる訳じゃないのよ。

 

 

「華琳様から?」

「ああ、天の国で野営や遠征の時に簡単に作れて大量生産可能な料理や保存の効く料理は無いかと聞かれてな。で、まあ……簡単に料理の概要を話したら『作れ』の一言が飛んできた」

 

 

大将も割りと無茶ブリをする。大将の舌を満足させられるのは魏でもごく一部の料理人だけだってに。とりあえず食材は切り終わったから次は割下か。

 

 

「ふーん……これがその料理?」

「ああ、まだ下拵えの段階だけどな」

 

 

俺はそう言いながら調味料を合わせていく。三国志みたいな世界なだけあって調味料にも偏りを感じたが味見をしつつ味を整える。

 

 

「なんて料理なの?見たことないわ」

「この料理は牛丼ってんだ」

 

 

鍋で牛肉とネギを炒め、ある程度、火が通ったら割下を投入。後は煮込むだけだ。

 

 

「牛丼?」

「簡単に言うと薄く切った牛肉を炒めて汁で煮込んだ物を白飯の上にかける料理だ」

 

 

保存は効かんが大量生産って言うなら牛丼は大丈夫だろう。作り方さえ分かれば簡単に作れるし。

 

 

「ふーん……あ、良い匂い」

「ふむ……どれ」

 

 

煮込む過程で甘じょっぱい匂いが調理場に充満する。俺は小皿に汁を少し移して味見をする。ふむ、再現したい味に近くなってるな。ここは他の意見も聞いてみたいところ。

 

 

「桂花、少し味見をしてくれないか?」

「あ、うん。わ、美味しい!」

 

 

同じように小皿に汁を少し移して桂花にも味見を頼んだ。汁を飲んだ桂花からは『美味しい』の一言に俺は安堵する。

 

 

「なら、この味で決まりだな。大将と一刀呼んで試食会だな」

「ちょっと、私好みの味で良いの?華琳様にお出しするんでしょ?」

 

 

俺の呟きに桂花は不安そうな表情で聞いてくる。

 

 

「だからこそ俺はそれを出したいんだよ。俺が作って桂花が味見したってな」

「秋月……」

 

 

俺と桂花は鍋を挟んでそんな会話をしていた。俺の言葉に桂花は何かを言おうとしたが、その時だった。

 

 

「……お腹空いた」

「なんだ、この良い匂いは?私にも食べさせろ!」

「純一さん、僕もー!」

 

 

突如、調理場の扉が開いて恋、春蘭、季衣の魏の腹ペコトリオがやって来た。牛丼の匂いに釣られて来たか。

 

 

「桂花、丼にご飯盛ってくれ。俺は汁の味を調整するから」

「はいはい。まったく、手が掛かるわねアンタ達は」

 

 

俺は桂花に指示を出しながら鍋を見る。桂花は面倒と口では言いながらも丼にご飯を盛り、春蘭達に毒づいていた。

 

 

「俺達、手の掛かる子供を抱えた夫婦みたいだな」

「そうね……でも春蘭みたいな子供は嫌よ」

 

 

俺の言葉に桂花は苦笑いをしながらも応えてくれた。春蘭みたいなのが子供だったらお父さん立つ瀬ないわ。

桂花が盛ってくれたご飯の上に牛丼の汁を鍋から移して完成っと。

 

 

「へい、お待ち」

「なんだこれは?」

 

 

俺は恋達の前に牛丼を出すが春蘭が見たことない牛丼に躊躇った。

 

 

「牛丼と言ってな、天の国の料理だ。春蘭、文句を言うのはいいけど恋と季衣は既に食べてるぞ負けていいのか?」

「な、何!?」

 

 

俺の言葉に隣の恋や季衣を見る春蘭。二人は部活帰りの学生みたいに牛丼をかっ込んでいる。見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。

 

 

「純一、おかわり」

「僕もー!」

「ぬ、負けるか!」

 

 

早くもおかわり要求の恋と季衣。春蘭も負けじと牛丼を口にして美味いとわかったのかスゴいスピードで食べ進めていく。

 

 

「桂花、ご飯盛ってあげて」

「ちょっと、華琳様にお出しするんでしょ?」

 

 

俺の言葉に文句を言いながらも丼にご飯を盛る桂花。

 

 

「この状況じゃ仕方ないだろ。もう少し食べたら落ち着くだろうし」

「まったく……甘やかすんだから」

 

 

俺の発言に不満そうだけど素直に盛ってくれてる辺り桂花も甘いと思う。

 

 

「ほい、おかわりお待ち」

「わーい!」

「はふはふはふっ!」

 

 

出されたおかわりを喜ぶ季衣に間髪入れずに食いつく恋。フードファイターか。

 

 

「牛丼とは汁があるから食べやすいな」

「量としては普通にしたつもりだったんだがな。因みに汁が多目なのが『ツユダク』汁が少な目なのが『ツユヌキ・ツユギリ』って言うんだ」

 

 

春蘭の疑問に答えた俺。因みに俺は牛丼はキン肉マンと同じくツユギリ派だったりする。

 

 

この後だが……三人のフードファイターは鍋で作った牛丼を殆ど平らげてしまい大将へ出す分が無くなってしまう。

と言うのも俺が途中から考え事をしていて残量を考えずに春蘭達のおかわりに対応してしまったからだ。気付いたときには鍋は空。

俺は慌てて食材を買いに行こうと思ったのだが調理場を出る際に大将と一刀に遭遇。

うっかりと三人に料理を振る舞ってしまい牛丼が無くなったと事情を話したら、ミッチリと怒られた後に後日作り直すようにと言われた。

 

 

それよりもだ……俺が途中から考えていたのは桂花の事だ。

先程の会話の中で夫婦や子供の話をした時に……桂花は否定をしなかった。それって桂花が俺との事を思ってくれている?……いや、俺の考えすぎか。単に気にしなかっただけかもな。


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