ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第七話 VS宇宙一の殺し屋

「はは。買い物付き合ってもらって悪いな」

 

「気にしなくていいよ。たい焼き奢ってもらったし。寒くなったぜ、たい焼きが美味い!」

 

リトのすまなそうな言葉に炎佐はたい焼きを齧りながらそう返す。今日はリトの父――結城才培に頼まれてスクリーントーン等の画材の買い出しをしており、一人で街をぶらついていた炎佐も暇潰しにそれに付き合っていたのだがリトは律儀にお礼として彼にたい焼きを奢っていた。ちなみに父親や最近父のアシスタントに就任したザスティン達にお土産の分としてのたい焼きも買っている。

 

「ん?」

 

「どうしたの、リト?」

 

「あ、いや。ほら」

 

と、リトが突然一つの方向に目をやり、炎佐もリトの促しにその方に目を向ける。そこには黒いコート風の服装に身を包み、ミニスカートで金髪を長く伸ばした赤い瞳の美少女が立っていた。穏やかな商店街の中には少々異質、コスプレと言われても納得できる出で立ちの彼女はリトをガン見している。

 

「すっげー見られてる……」

 

「ん? どっかで見たような……」

 

リトが呟き、炎佐が首を傾げているとリトは気づいたようにたい焼きの袋に目を落とした。

 

「もしかしたらたい焼き欲しいのかも」

 

どう考えたらそうなるのか、しかしリトはそう呟いて金髪少女の方に歩いて行き、たい焼きを差し出して一言二言話す。その光景を見ながら炎佐は彼女を見た時に感じたデジャヴに首を傾げていたが、彼女が殺気をリトに向けると同時に昔の記憶を思い返し、目を見開いた。

 

「リト! 逃げろ!!」

 

そう叫ぶと同時、少女の右腕が剣のような形に変化しリトへと斬りかかる。しかしリトはそれを間一髪かわし、エンザがそこに割り込んで鋭い右ボディブローを少女に叩き込み、打撃がぶつかった瞬間右拳から爆発を放ち、少女を吹っ飛ばした。と言っても少女は吹っ飛ばされたというよりかは自分から飛んでダメージを減らしたらしく、くるんと空中で回転して反対側車道の先の店の上に着地したのだが。そして彼女は赤い瞳でじっとリトとエンザを見始め、リトはおどおどとしながらエンザに近づいた。

 

「え、炎佐……あの子、一体……」

 

「恐らくコードネーム、金色の闇。俺も会った事はないんだが宇宙では伝説の殺し屋とまで呼ばれている。どうやらお前、金色の闇に抹殺対象にされてるようだな」

 

「はぁ!? なんでだよ!?」

 

「どうせララの婚約者候補のたくらみだろ……流石に俺一人じゃ分が悪い。悪いが逃げるついでにザスティン呼んできてくれないか? あと、俺の家に寄って武器持ってきてくれ。あの刀の柄」

 

「わ、分かった! 気をつけろよ!」

 

「お前もな!」

 

エンザとリトはそう言い合うとリトはエンザから家の鍵を借りてすぐ走り出し、金色の闇はその後を追うようにまるで地面を滑るように飛ぶ。が、エンザがその前に立ちはだかり、空中で回し蹴りを放つが金色の闇はそれを空中で軌道を変え、かわしてみせる。そして二人は地上に降りると同時に再びジャンプ、ひとっ跳びで近くのコンビニの屋根の上に着地した。

 

「いくつか尋ねたい。お前は“金色の闇”か?」

 

「答える必要性が見当たりませんが……その通りです。あなたも、地球人ではないようですね」

 

「ああ。地球には静養に来ててな……お前の目的はリトの抹殺か?」

 

「はい。ある方から結城リトの抹殺を依頼されました……うらみはありませんが、彼には消えていただきます」

 

「悪いが。はいそうですか、なんて言えないんだよな。俺はリトの友達だ……」

 

金色の闇は素直にエンザの質問に答え、彼女の言葉にエンザはそう言って懐からバッジを取り出すと自分の右胸部分に装着。バッジが光を放って彼を包み込み、その光が弾け飛んだ時彼は黒色のインナーに白銀で軽装の鎧に身を包んでいた。

 

「友達に手を出すっていうのなら、誰であろうとぶっ倒す!!! いくぞ、エンザ、いざ参る!!!」

 

そう叫ぶと同時にエンザは金色の闇目掛けて走り出す。その時彼の両の瞳が氷のように透き通った青色へと変化し、彼が左手を伸ばすとその先が凍り付き、一本の剣を形成。エンザは氷の剣を左手で握ると金色の闇に斬りかかり、金色の闇もそれを右腕を変化させた剣で応戦した。

 

「氷を操る能力……どうやらブリザド星人のようですね……ですが、さっきの爆発は……」

 

「教える義理はありません」

 

金色の闇はエンザの能力を冷静に分析し始めるがそうはさせないとばかりにエンザは左手の氷の剣による素早い連続突きで攻撃、金色の闇はそれを右腕だけでなく左腕までも剣に変質させ、防御していく。

 

「くっ……」

 

しかし金色の闇から苦しげな声が漏れる。彼女の両腕となっている剣が凍り付き始めていた。

 

「ふっ!」

 

「!」

 

両腕の動きが僅かに鈍り、エンザはその隙を突いて左腕を目一杯伸ばし金色の闇の顔を狙う。それを金色の闇は上半身を反らしてかわすが氷の剣から放たれた冷気によって彼女の髪に霜がついた。その時一瞬彼の動きが止まる。

 

「まだだ!」

 

エンザは左手を下げて右足を踏み込み右腕を振りかぶった。その両瞳はまるで燃え盛る炎のような赤色になっており、彼が金色の闇の胸に拳を打ち当て、そのまま拳を振り下ろして金色の闇ごとコンビニの屋根に叩きつけると至近距離から大爆発を叩き込んだ。ビリビリビリという振動がコンビニの屋根を伝っていく、恐らくコンビニ内では少し騒ぎになっただろうな。そうエンザは思ってしまうが直後何か嫌な予感を感じ取り、素早くその場を飛ぶようにして離れる。その直後、さっきまでエンザが立っていた場所を何か牙のようなものがいくつか噛みついた。

 

「思ったよりやりますね。少々舐めていました」

 

そして金色の闇が立ち上がり、服についた埃をぱんぱんと払ってエンザを見る。さっきエンザに噛みつこうとした牙は金色の闇の髪だった。

 

「髪まで武器に出来るとか卑怯にも程があるだろ。全身武器かお前は」

 

「……思い出しました。賞金稼ぎのエンザ……噂に聞いたことがあります」

 

新たに分かった事にエンザはため息を漏らしていると金色の闇は静かにそう言った。

 

「フレイム星人とブリザド星人のハーフであり、炎や高熱を操るフレイム星人と氷や冷気を操るブリザド星人の力を併せ持つと聞いています」

 

「ご名答。商品はないけどな」

 

金色の闇の言葉にエンザはパチパチと拍手する。

 

「ついでに言うと、今のオレはボランティアでララ・サタリン・デビルークとその婚約者ってことになってる結城リトの警護をしている。これの意味する事は分かるかな?」

 

「あなたは結城リトを殺されることはよしとしない」

 

「ま、半分正解。残り半分は……」

 

エンザの問いかけに金色の闇は即答、それに彼はとりあえず頷いてそう言い、そこで言葉を溜める。その瞬間何者かが同じコンビニの屋根へと飛び上がり、金色の闇へと斬りかかった。しかし金色の闇はそれを両腕の剣を交差して防ぎ、その剣を振るって相手を弾き飛ばす。が、相手も空中で回転しエンザの隣に着地。エンザはニヤリと笑みを見せる。

 

「私が相手だ!! “金色の闇”!!」

 

「結城リトを狙う奴はデビルーク王室親衛隊を敵に回す、という意味だ。今のとこオレとデビルーク王室親衛隊は協力関係を結んでいるからな。正確に言えばザスティン達との個人的な約束に近いが」

 

そして男性――ザスティンの叫びと共に彼は残り半分の正解を口に出した。金色の闇はザスティンを冷たい目で見る。

 

「なんですか? あなたは」

 

「私か? 私はデビルーク王室親衛隊長であり……そして!!」

 

ザスティンはそこまで名乗ると拳をぐっと握りしめた。

 

「漫画家・結城才培率いる“スタジオ才培”のチーフアシスタント!! ザスティン!!!」

 

なんかそっちの方が気合入れた名乗りになっていた。ちなみに金色の闇は「……チーフアシ?……」と訳が分からぬ様子で呟いている。

 

「炎佐!!!」

 

コンビニの下からザスティンを呼んできたのだろうリト――その隣にはララが立っている――が叫んでエンザに何かを投げ渡す。それはエンザの愛刀となる刃のない刀の柄、二つ。それにエンザはサンキュと呟いて受け取り、一つを鎧の中にしまうともう一つを左手で握りしめて目を瞑る。それと共に刀の柄から青い刃が生成され、その刃を冷気が纏った。そして彼は青い瞳を宿す目を開く。

 

「エンザ、よく持ちこたえてくれた。ここからは共同戦線といこう」

 

「オッケー。援護はボクに任せて」

 

「うむ!」

 

ザスティンはエンザの言葉に頷き、地面を蹴ると高速で金色の闇に突進、金色の闇も一瞬出遅れながらもほぼ同じスピードで突っ込み、二人がぶつかり合うだけで衝撃波がそこに発生した。ザスティンの剣と金色の闇の両腕となっている剣が交差し、鍔迫り合いになっている。

 

「ハァ!!!」

 

しかし気合一閃、そういわんばかりの叫びでザスティンの剣で振り抜かれ、その衝撃で金色の闇はコンビニの屋根の端まで吹っ飛ばされるが落とされることはなく耐える。

 

「もらったよ」

 

「!?」

 

だがそこにエンザの冷たい声が響き、金色の闇は足元からまるで氷が自分を喰らおうとするかのように襲い掛かってくるのに気づき、咄嗟にそこを飛びのく。

 

「チッ」

 

エンザはそれを見て静かに舌打ちを叩き、一瞬彼の動きが停止。その両瞳が赤く変化すると彼は足の裏を爆発させてその勢いを利用し加速。

 

「エンザ! 奴を追い込む! 手伝ってくれ!!」

 

「考えがあるんだな!? 分かった!」

 

ザスティンの叫びにエンザは作戦があるんだと直感し、了解。二人は見事なコンビネーションの剣技で金色の闇を徐々に追い込んでいく。そしてエンザが炎を纏う刀を振り上げて金色の闇の前に飛び出した。

 

「らぁっ!」

「くっ!」

 

刀を振り下ろした瞬間の爆発が金色の闇に、金色の闇の左足を変身(トランス)させた鉄球による回し蹴りがエンザにそれぞれ直撃するのはほぼ同時。互いに相打ちで吹っ飛び、金色の闇は無数の石の上に二本の鉄の線が並行に長く伸ばされて木片が敷かれている場所に叩きつけられ、エンザも近くにあった橋の上に叩きつけられる。

 

「よくやった! 後は任せろ!!」

 

「炎佐、大丈夫か!?」

 

そう叫んでザスティンが金色の闇へと斬りかかり、同時に追いついたリトがエンザに呼びかけた。

 

「!」

 

ザスティンが高所から斬りかかってくるのを見た金色の闇は瞬時に髪をいくつものまるで龍の頭のようにし、ザスティンに頭突きのように攻撃、さらに竜の牙がザスティンに噛みつく。

 

「流石は“金色の闇”。全身凶器というウワサはダテではないな」

 

「それはどうも」

 

「……だが、悪いが君は勝てない」

 

そう言うザスティンは、自らの作戦の成功を確信した目を見せていた。

 

「なぜなら、ここは君の知らない星地球だからだ!! この星の地の利!! 使わせてもらう!!!」

 

そう叫んで彼が竜の頭を払いのけると同時、プアアァァァ~という音が聞こえてきた。

 

「電車が!!」

 

リトが叫び、ザスティンは瞬時にその場を飛び退く。ザスティンの背後から電車が一台、金色の闇目掛けて突進してきていた。

 

――変身(トランス)!!!――

 

しかし金色の闇は背中から純白の天使の羽を生やし、なんと空を飛んで電車をかわした。

 

「な、なに!?」

 

予想だにしなかった回避方法にザスティンは目を丸くする。と、またプアアァァァ~という音が聞こえてきた。

 

「ザスティン危なーい!!!」

 

「はっ!」

 

ララの呼びかけでザスティンは我に返る、がもう間に合わずザスティン――なんと片方の線路のど真ん中に突っ立っていた――は下り電車に轢かれ、橋の上まで吹っ飛んで床と手すりに叩きつけられた。

 

「ザスティーン!!!」

 

(やっぱバカだあいつ……」

 

ララの声とリトの心の声が重なる。

 

「ツメが甘いようですね」

 

と、天使の羽を生やして飛行していた金色の闇が彼らの前に着地、羽を消す。

 

「ちっ!」

 

しかしエンザがその前に立ちはだかった。

 

「……あなたの能力は既に見切っています」

 

「それはどうかな? 炎と氷のコラボレーション、甘く見てもらっちゃ困る」

 

「……ハッタリですね」

 

エンザの言葉に金色の闇は冷静に指摘する。

 

「本来フレイム星人とブリザド星人、この二つの能力は相いれないもの。その血を継ぐあなたでも、それを状況に応じて使い分ける事は出来ても同時に使用する事は出来ない。そして炎から氷へ、氷から炎へ能力をシフトする時あなたは若干の隙を作り完全に無防備になってしまう……違いますか?」

 

「……」

 

金色の闇の指摘にエンザは黙り込み、やがてチッと舌打ちを叩いた。

 

「……こんな短い戦いの間で見抜かれるとは。伝説の殺し屋の名は伊達じゃないわけか」

 

「炎か氷か、どちらかさえ見抜けられればそれに気をつければいいだけ。能力シフトの一瞬の隙があれば、あなたの息の根を止めることなど造作もありません」

 

その口から発されたのは、彼女の指摘が真実だという証明だった。それに対し金色の闇は静かにそう言い、冷淡な目でリトを見る。

 

「どいてください。そうすれば、命だけは助けてあげます」

 

「断る……言ってるだろ? 炎と氷のコラボレーション、甘く見てもらっちゃ困る。とな」

 

「ですから……!?」

 

金色の闇の言葉にエンザはそう言い、繰り返された言葉に金色の闇はまた同じ指摘を繰り返そうとするが、その時彼は目を瞑り、彼の纏う雰囲気が変わった。

 

「見せてやるよ。炎と氷のコラボレーション……俺のとっておきのとっておきの、とっておきをな!!!」

 

エンザはカッと目を見開き、紫色の瞳を宿す両目で金色の闇を睨み付け、右手に持っていた刀を右上へと斬り上げる。その時炎が渦を巻いて金色の闇へと襲い掛かった。

 

「炎ですね……」

 

金色の闇はぼそりと呟き、炎をかわして距離を取る。と、エンザは懐からもう一本の剣の柄を抜いて刃を形成、それを橋へと突き立てた。

 

「!?」

 

直後金色の闇の足元が凍り付き、彼女は驚いたように空中にジャンプする。

 

「せいっ!!」

 

「なっ!?」

 

と、エンザは間髪入れず右手の刀を振るい、炎を飛ばしてくる。

 

変身(トランス)!」

 

叫ぶと共に左腕が盾に変化、炎を防ぐがその熱に彼女は少し顔をしかめる。そして彼女は地面に降り立つと変身を解除しながら信じられないといわんばかりに目を見開いてエンザを見た。

 

「バカな、何故?……」

 

「フレイム星人とブリザド星人。俺の身体にはその二つの血が流れ、普段はこの相反する血が互いの能力を弱めてしまう。本来俺はその内片方の血を意識し活性化、もう片方の血を抑制化させる事でこの弱体化作用を防ぎ、能力を使用している……だがその二つの血を同時に活性化させればこのように二つの能力を同時に使えるって種だ……これが俺のとっておき、バーストモード!!!」

 

叫ぶと同時、エンザは右手の炎の刀と左手の氷の刀を振るう。と右手の刀から炎の弾丸が、左手の刀から氷の矢が金色の闇目掛けて飛んでいった。

 

「くっ!?」

 

金色の闇は再び背中に羽を生やして攻撃をかわしていく。しかし刀を振るった直後エンザはジャンプと同時に足の裏を爆発させて空を舞い、二刀を横に平行に構えて左へ薙ぎ払う。が、金色の闇は髪を無数の拳に変身させて刀を白刃取り、エンザの手から刀を奪い取って素早く投げ捨て、エンザの力が届かなくなったせいか刀から刃が消えていく。

 

「終わりです!」

 

叫び、右腕を変身させた大刀を振り下ろす金色の闇。しかしそれはエンザが突き出した左手に当たる前にキィンッという音を立てて何か透明なものに防がれた。

 

「氷の盾!?」

 

「だけじゃないっ!」

 

相手の能力から素早く分析した金色の闇が驚きの声を上げ、エンザがそう叫んで金色の闇の刃を防いだ氷の盾に右手を押し当てる。直後、金色の闇の目の前を白い煙が包み込んだ。

 

「くっ!? 氷を素早く融解、さらに蒸発させて水蒸気を……!?」

 

反射的に顔を左手で庇い、相手の技を分析する金色の闇だが、水蒸気の中からエンザの姿を確認するとはっとした顔になる。彼は水蒸気で時間稼ぎをし、氷の槍を形成、左手で握って投げようと構えている。

 

「はぁっ!」

 

叫びと共に投擲された氷の槍、金色の闇はそれを空中で回転してかわしさらに左足を変身させたハンマーで叩き折る。しかしエンザの瞳はまだ攻撃の意思を見せており、氷の槍を投擲した勢いで右に回転していた身体の下半身を金色の闇の方に捻り、右腕を振りかぶる。

 

「くらえっ!!!」

 

叫び、上半身を勢いよく捻りながら拳を回転させるように振るう。その拳の延長線上に炎が渦を巻いて金色の闇へと向かっていった。そして金色の闇に届きそうになったその瞬間炎は炸裂、大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

「あれは……」

 

爆発に気づき、驚いてそっちに目を剥いている通行人達の中で唯一冷静な目を見せている美女、リト達の通う学校彩南高校の養護教諭――御門涼子は爆発の中に見える金髪ツインテールに黒服の美少女――金色の闇を見て目を細めた。

 

「まさか……“金色の闇”!? 何故彼女が地球に……」

 

御門は驚いたように叫んだ後、金色の闇のハンマーを氷の盾で防御、盾が砕かれると同時に右手から火炎を放って反撃するエンザを見てミステリアスな微笑を見せた。

 

「……これは、関わり合いにならない方がよさそうね」

 

呟き、彼女は未だ謎の爆発に呆然としている通行人達を尻目に悠々とその場を離れるよう歩き出す。

 

「まあ、お薬の準備だけはしてあげましょうか」

 

歩きながら彼女はぼそりとそう呟く。その声は誰の耳にも届くことなく消えていった。

 

 

 

 

 

戦いの余波をまき散らしつつ、二人の宇宙人賞金稼ぎの戦いの場は神社へと移り変わる。リトとララが追いついた時エンザと金色の闇は無言で相対、しかしその直後エンザが膝をついた。

 

「炎佐!?」

 

「オーバーフロー……やべえ、時間切れだ……」

 

「相反する血の同時活性、それが身体に負担を与え今限界が来た……というところですか」

 

リトが悲鳴を上げ、炎佐は苦しげにそう漏らすと金色の闇が呟く。

 

「ま、まずい、ザスティンも炎佐もやられちまった……」

 

「……よーし!」

 

リトが怯む横でララは元気よく叫び、金色の闇を見る。

 

「こうなったら、私があいてになるんだから!!」

 

「はぁ!?」

 

その言葉にリトは驚愕の声を上げ、炎佐はため息をついた。

 

「プリンセス……無茶だけはなさらぬように」

 

「炎佐!? お前まで!?」

 

「安心しろリト……自慢じゃないんだがな……」

 

炎佐はそこまで言い、苦笑を漏らした。

 

「僕、本気出してもララに喧嘩で勝った事ないんだ……」

 

「まじで?……」

 

その言葉にリトは呆然とし、その間にララがリトを庇うように金色の闇の前に立つ。

 

「……おふざけのつもりですか?」

 

「ふざけてなんかいないよ! 私はただリトを助けたいだけだもん!」

 

金色の闇の言葉にララは目を吊り上げて叫ぶ。

 

「なぜそこまで結城リトをかばうんですか?」

 

と、金色の闇は静かに問いかけてきた。

 

「彼はあなたを脅迫し、デビルーク乗っ取りを企てる極悪人だと依頼主からは聞いています」

 

「はぁ!?」

「リトが!? そんな! リトはそんな人じゃないよ!」

 

金色の闇が話すリトの人物像にリト自身とララが声を上げる。と、金色の闇はリトをちらりと見、リトはびくっとなる。

 

「……かもしれませんね」

 

「へっ?」

 

「でも」

 

次の言葉を放つ金色の闇は、冷たい瞳を見せた。

 

「依頼されればどんな人物だろうと始末する……それが私……“金色の闇”の仕事です」

 

「えーっ!? 駄目だよそんなの!!」

 

「温室育ちのプリンセスにはわからないでしょうね……たった一人でこの宇宙を生きる孤独など」

 

金色の闇の冷たい言葉にララは両手を上下にじたばたさせながら叫ぶ。しかしその言葉にも金色の闇は冷たく返し、ララは一瞬沈黙する。

 

「そうだね……その通りだね」

 

ララは静かにそう呟く、が、その直後彼女は輝くような笑顔を金色の闇に見せた。

 

「だから王宮の外の世界を見に来たんだよ! 私の知らないことまだまだたーくさんあるから!」

 

(ララ……)

 

ララの言葉にリトが驚いたように呟く、その瞬間その場に強風が吹いた。

 

[何やってるんだもん金色の闇! お前の相手はララたんじゃないはずだろ~!!]

 

「ラコスポ!?」

(! ララの婚約者候補!?)

 

いつの間にか上空にいたUFOの中から聞こえてくる声にララが反応、リトも顔を上げる。そしてUFOの中央下部から不思議な光が地上に放たれ、その光の中から何かが降りてくる。

 

「ジャジャーン! ラコスポ、ただいま参上――だもん!!」

 

光が消えた時その場所に立っていたのは一言でいうと小太りなチビっこい子供だった。

 

「ラコスポ!」

(ララの婚約者候補!? 弱そ~)

 

その姿を見たララがやはりというように叫び、リトも心の中で呟く。

 

「ララたーん迎えに来たよ! さぁボクたんと結婚しよー」

 

「やだよ! ラコスポなんて! 殺し屋さんにリトを殺させようとするなんて最低!!」

 

「サ……サイテー!?」

 

「そーだよ! そんなひどい人とは絶対結婚なんかしないんだから!」

 

「ムムム……ララたん……何でわかってくれないの~……こんなにララたんの事想ってるのに~」

 

ララの凄まじい否定にラコスポは呟き、リトを睨み付ける。

 

「え?」

 

「やっぱお前のせいだもん結城リト! よくもララたんをそそのかして~!! 金色の闇! お前も今まで何してたんだもん!! 予定ではもうとっくにあいつを始末してるはずだろ~!!」」

 

ラコスポはリト目掛けてキレ、次に金色の闇の方を向いて彼女にも文句を言い始める。

 

「ラコスポ……ちょうどよかった。私もあなたに話があります」

 

「!?」

 

「結城リトの情報………依頼主(あなた)から聞いたものとはかなり違うようです。標的に関する情報(データ)は嘘偽りなく話すように言ったはず……」

 

そこまで言い、彼女は一拍置くと冷たい目でラコスポを見据えた。

 

「まさか私を騙したわけではありませんよね……」

 

「う……うるさい! 結城リトはララたんをだます悪いヤツだ!! ボクたんがウソをいうワケないだろ~」

 

「ヤミちゃん! ラコスポの言う事なんて信じちゃダメだよ!!」

 

[ヤミちゃん?]

 

金色の闇の威圧にラコスポは一瞬怯むが直後喚くように返し、それにララが叫ぶとペケがぼそっと漏らす。金色の闇もラコスポの方が怪しいと感じているのか彼を冷たい目で睨むように見ている。

 

「な……なんだもんその目は! ボクたんは依頼主だぞ!!…(…キ~。どいつもこいつもボクたんの事バカにして~。こ~なったら)」

 

ラコスポは金色の闇の威圧に腰を引けさせながらもそう叫び、心中で呟くとUFOに手を伸ばした。

 

「出てこーい! ガマたん!」

 

その言葉と共にUFOから放たれた光がラコスポへと伸びる。

 

「!!」

 

「ニ゛ャー」

 

光が止んだ時、ラコスポは巨大な蛙に乗っていた。それにリトが驚きのまま叫び、金色の闇が警戒を強め、ペケが驚いているとラコスポの指示と共にガマたんなる蛙が口から粘液を金色の闇目掛けて飛ばした。

 

「!?」

 

単純な攻撃、金色の闇はその場を飛びのいてかわすがその飛沫が金色の闇の衣服、脇の部分にかかる。とジュウウゥゥゥという音と共に服が溶けてしまった。

 

「!! 服が!?」

 

「ひゃはは! ガマたんの粘液は都合よく服だけ溶かすんだもん。だーからボクたんのお気に入りのペットなんだな!! さあ! スッポンポンにしてやるもん! 金色の闇!」

 

ラコスポはガマたんなる珍獣イロガーマの能力を説明、それを聞いた金色の闇は右腕を剣に変身させた。

 

「そんな不条理な生物、認めません!」

 

そう叫び、地面を蹴ってガマたんに斬りかかる金色の闇。しかしその剣はガマたんの舌の粘液で滑ってしまい逆にその舌の反撃をくらい右腕の肘部分の服が溶けてしまう。

 

「え? うわわわわわ!! ムギュ」

 

とその落下地点にいたリトはなすすべなく顔面を金色の闇のお尻から受け止めてしまった。それに気づいた金色の闇は顔を真っ赤にして髪を変身させた拳でリトを殴り飛ばした挙句、彼を睨み付けて髪を変身させた刃を向ける。

 

「い……いや、俺はそんなつもりじゃ……」

 

殺気を見せている金色の闇に必死で弁解を始めるリト。

 

「スキありだもーん!!」

 

完全なる隙だらけ、その隙を見逃すラコスポではなく、ガマたんの口から勢いよく粘液が放たれる。

 

「全裸決定ー!!」

 

(しまっ――)

 

避けられない、金色の闇が直感した瞬間、彼女を庇うように何者かが立ち塞がった。

 

「いい加減、ウゼえんだよテメェ!!!」

 

その怒号と共に炎のように赤い瞳の少年の右手が粘液に直撃、バシュッという音と共に粘液が消え去った。

 

「え、え、えぇぇっ!? な、なにが起きたんだもん!?」

 

「たかが液体、超高熱の拳を至近距離で叩き込んでやれば蒸発しない道理はない!!!」

 

ラコスポの悲鳴に対しエンザは声を荒げたように叫び、拳をラコスポに突きつける。

 

「ひっ!?」

 

「……と、決めたところで……バーストモードの反動がいい加減きつくて怠くてな」

 

怯えるラコスポを目の前に、エンザはにやりと笑って呟く。

 

「ララ、やっちまえ」

 

「え!?」

 

「ラコスポ!!」

 

エンザの言葉にラコスポが声を上げた瞬間、ララの怒りの声が響き渡り彼女はぎゅっと拳を握りしめる。

 

「いい加減に!! しなさーいっ!!!」

 

その声と共に放たれる両拳の連打。それにラコスポとガマたんの身体に凹みが走っていく。そして締めの右アッパーでラコスポとガマたんは空高く吹っ飛ばされ星となった。

 

「強いじゃないですか、プリンセス」

(つーか、強すぎ)

「だから言ったでしょ? 僕はララとの喧嘩じゃ本気出しても勝てなかったって」

 

金色の闇の言葉にリトが唖然としながら心中で呟くとその心中の声を察したのか炎佐があははと笑う。それから金色の闇は炎佐とララを見た。

 

「ところで、二人ともどうして私をかばったんですか? 私は敵なのに……」

 

「え? だってもともと悪いのはラコスポだもん」

「うん。依頼主に騙されてたんなら戦う理由はなくなるし、なによりも金色の闇って会ってみたら可愛い女の子じゃない。そんな可愛い子を丸裸にさせるなんて許せるわけないよ」

 

金色の闇の言葉にララがそう返すと炎佐もにこっと微笑んで続ける。

 

「かわ……いい? 私が……ですか?」

 

「どうかしたの? ヤミちゃん?」

 

「あ……いえ……そんな風に言われたの……初めてなので……」

 

金色の闇は頬を赤く染めながらそう漏らし、そこでリトが首を傾げて問いかけた。

 

「なあララ、何だよさっきから『ヤミちゃん』っての」

 

「え? だって“金色の闇”って名前なんでしょ?」

 

「「いや、それは本名じゃないと思うけど……」」

 

「いいですよ、なんでも……名前になんか興味ないですし」

 

リトの言葉にララがきょとんとした様子で返すとリトと炎佐の言葉が重なる。それに金色の闇がそう返すとリトは気づいたように愛想笑いをした。

 

「と、とにかくさ! ラコスポもいなくなった事だし、もう俺を狙うのはやめて宇宙に帰ってくれよ、な?」

 

「宇宙に……帰る?……」

 

リトの言葉に金色の闇はぼそりと呟き、炎佐とララをチラッと見る。

 

「いいえ。一度受けた仕事を途中で投げ出すのは私の主義に反しますから」

 

「はい?」

 

「結城リト。あなたをこの手で始末するまで、私は地球に留まる事にします」

 

「へ?」

 

金色の闇の言葉にリトはそう漏らし、次に彼女は炎佐を見る。

 

「エンザ。今回助けてもらった借りとして、今回はあなた方の命、見逃します……」

 

「あはは、そりゃどうも。でもまたリトを狙うんなら僕はまた全力で戦うからその時はよろしくね、ヤミちゃん」

 

「……では」

 

金色の闇あらためヤミは炎佐にそう言い、彼の言葉にふいっと顔を背けて静かに挨拶するといずこかへ消え去る。

 

「じゃ、僕も久々にバーストモード使ってまで戦って身体怠いし、帰るよ。またね~」

 

「うん、またね~」

 

炎佐はそう言って神社の境内を去っていき、ララもまたこれから先ヤミに狙われることになってしまい肩を落とすリトの隣に立ちながらばいばいと手を振り見送る。

それから彼は戦いの中で投げ捨てられた刀の柄を回収、帰り道に放置されているザスティン――しかも通行人に囲まれている――を発見するが本当に怠いため彼の部下であるブワッツとマウルに連絡を入れただけでその場を去り、家に帰っていった。




今回はVS金色の闇、エンザの割合本気の戦闘描写もようやく書けました。以前のザスティンは途中強制終了だし凜は本気にさせるわけにはいきませんでしたから。
さて次回どうするか……スケートは例によって炎佐絡ませにくいしバレンタインにすっ飛ばすかな? でもその前に一つくらいオリジナルを、ぶつぶつ……ま、それはおいおい考えるとしますか。それでは~。

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