ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二十九話 DARK MATTER ARMS

「……」

 

 何処かの森の中、色白の肌をした黒髪短髪の女子高生らしき少女がここを飛ぶように疾走していた。

 

「やれやれ、次から次に。ご苦労なことだ」

 

 少女がぼそりと呟いた時、少女の後ろから彼女を狙ったかのように光線が飛び、少女はそれらをひらりとかわしながら後方を確認。先ほど光線を放ったらしい球体状のロボットを視認するとずざざと足で地面を抑えるように急ブレーキ。それによって動きを止めた一瞬を狙い、ロボットが再び彼女目掛けて光線を放った。

 

 ぞぷん

 

 と、まるで物が底なし沼に沈んだような音がしたかと思うとロボットの放った光線が、少女の目の前に突如出現した黒い何かに沈み、消滅する。

 そしてその黒い何かもまた消滅したかと思うと少女の右手の人差し指から黒い先ほどと比べて鋭利な何かが噴き出してまるで鞭のように宙を走ってロボット達に向かうとロボット達がまるで刃に斬られたかのように両断。ドォンという音を立てて爆散した。

 

「……フン」

 

 そして少女は鼻を鳴らし、再び走り出した。

 

 

 

 

 

[そう……ギドは地球(そっち)にも訪ねていないのね。全く……私の通信も無視してるし、困ったものだわ……]

 

「父上の事だから、またどっかの星で遊び回ってんだろうなー」

 

「大変ですね、お母様……」

 

 結城家から繋がるデビルーク三姉妹の居住区間。そこのエントランスでナナとモモは、母セフィと通信で話していた。

 

[ええ。それにミーネとセシルも数日前に休暇を取って王宮を出て行って以来連絡が取れないし。二人もどこに行ったのかしら……]

 

「おじ様とおば様までですか……? おば様はともかくおじ様が連絡取れない状況になるなんて本当に珍しいですね?」

 

「そういやザスティン達も昨日から漫画貸してもらおうと思って連絡してんだけど繋がんなくてさ! 困ったもんだよ」

 

[あらそうなの? 隊長さん、何か任務でもあるんじゃない?]

 

「ん~……」

 

 セフィの言葉にモモは、セシルとミーネ――彼女にとって兄貴分でもあるエンザの両親だからか「おじ」「おば」と呼称した――まで連絡が取れない事に珍しいと漏らし、続いて連絡が取れないで思い出したのかナナがそう毒づき、その言葉にセフィがザスティン達は任務があるんじゃないかと尋ねるとナナは判断に困ったように腕を組んだ。

 

「ザスティン達、最近地球の深夜アニメにハマってるらしいし、どうせ遊んでるだけだと思うけどさー……兄上も今日学校休んだし、風邪かと思って遊びに行ったけど留守だったし、連絡も取れないからなー……」

 

[エンザまでいないの?]

 

 ザスティン達だけなら絶対遊んでると迷わず断言していたが、エンザもいないとなると何か引っかかる様子のナナにセフィもポカンとした顔を見せる。つまりデビルーク王始めそれに近い関係者が揃って連絡を絶ったということだ。

 

「あっ、二人とも。ママと通信してたの~!」

 

「お姉様!」

 

[ララ! その後、身体は大丈夫?]

 

「うん! 絶好調ー♡」

 

 そこに入ってきたララはセフィから体調を確認する言葉に笑顔で返しながら、変な黒い靄らしいものがかかったプリンを美味しそうに頬ばる。それを見たナナが「げっ」と声を漏らして表情を歪めた。

 

「ホント姉上、ダークマター調味料好きだよな~。それ、グルマン星とかでしか使われない珍味だろ? 独特の苦味があってあたしちょっと……」

 

「分かってないな~。その苦味の中にある甘さが絶妙なんだよ~」

 

 表情を歪めたナナとは対照的に顔をほころばせたララが「ナナも食べてごらん」とダークマター調味料かけプリンを差し出し、ナナが「いいって~」と両手を前にして止めるのを見ながらモモがこてんと軽く首を傾げた。

 

(ダークマター……何故かしら? あの黒いモヤモヤ……最近別のどこかで見たような……)

 

[どうしたの、モモ? 難しい表情(カオ)ね?]

 

 そのモモの表情や様子の変化に気づいたのかセフィが声をかけ、[リトさんの事でも考えていたとか?]とからかったり、それを聞いて思い出したのかララがモモにリトがどこに行ったのかを尋ねたりしながら、家族達の団欒は続くのだった。

 

 

 

 

 

「親父のとこ、今日は臨時アシ使って大変そうだったなぁ。ザスティン達は急用って……炎佐も今日休んでたし、何かあったのかな?」

 

 ララが話題に出したリトは父親に頼まれて仕事場まで画材を届けた帰り道、父才培と、彼の率いるスタジオ才培のチーフアシスタントやアシスタントをやっているザスティン達が急用で休んだため急遽雇った臨時アシスタント達の修羅場を見て、ザスティン達がいない他に炎佐も学校を休んだ上に行方が知れなくなっている事に何かあったのだろうかと考えを巡らせていた。

 そんな時だった。

 

「ん?……あ、」

 

 自分のすぐ上を誰かが屋根から飛び降りてきた。しかしリトは顔を上空に向けてそれに気づけたので精一杯、

 

「ぶっ!!!」

 

 回避まで身体を動かすことはできず、その顔面で飛び降りてきた誰かを受け止めてそのまま支える事が出来ず地面に倒れ込む事になるのだった。

 

「ん?……なんだ、町を離れていたつもりだったが。なるほど、上手く誘導されたのか……やるな!」

 

 そんな自分が下敷きにしているリトの事は気に留めず、飛び降りてきた誰か――色白の肌をした黒髪短髪の女子高生らしき少女はそんな事を呟きながら、何故かぐりぐりとリトの顔面に自分の股間を押し付けるように体重をかけていた。

 

「わざとやってるだろネメシスっ!!」

 

 それについに我慢できなくなったかリトは無理矢理立ち上がりながら自分の上にのしかかっていた少女のことをネメシスと断言して怒鳴りつける。が、そこでようやく自分の上にのしかかっていた少女の顔を見て「あれ?」と声を漏らした。

 

「ネメシスじゃ……ない?」

 

 その言葉に少女はくすりと笑みを見せる。

 

「いーや、正解だぞ。姿を変えているのに股間で私とわかるとは。流石だな、下僕よ」

 

「へ!? い……いや、別に……」

 

 少女――姿を変えていたネメシスの言葉に恥ずかしくなったのか顔を赤くするリトに対し、ネメシスは妖し気に目を細めた。

 

「ちょうどいい。私に何か奢れ。かれこれ半日、次々湧いてくる追跡メカの相手で腹ペコなのだ」

 

「えっ?」

 

 そんな妙に物騒なネメシスの言葉に、リトはそんな呆けた声を返すしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「やはり足止めにもならんか」

 

[どうしましょう、隊長]

 

「うむ……もう小細工はヤメだ」

 

 彩南町の街中。ドクロを模したような鎧&マント姿の地球にいたら確実にコスプレか何かだと思われそうな格好をした男は電話で話しながらそこを歩いていた。なお通行人からは変な者を見るような目を向けられている事を追記しておこう。

 

「私達が追跡する。お前達は引き続き転送システムの構築を急げ!!」

 

[ハッ!!!]

 

 地球の価値観では奇天烈な格好をした男――ザスティンは部下に指示を出して電話を切る。そして彼は自分と一緒に行動している何者かが潜んでいる――流石に鎧姿で人前に出るのは可能な限り避けたいと固辞された――近くの建物の屋上に目を向ける。

 同時にその何者かは屋根の上を伝って走り出しており、ザスティンもフッと笑うと一気に地面を蹴って大ジャンプし宙を駆ける。それは地球人の目には彼の姿が突風と共に急に消えたようにしか映らなかった。

 

 

 

 

 

「追われてる!? デビルーク親衛隊って……ザスティン達か!?」

 

「うむ。あと氷炎のエンザもだな」

 

「炎佐まで……」

 

 一方リトとネメシス。元の黒髪ロング褐色ロリ&ゴシック風着物姿に戻ったネメシスのメロンパンやチョココロネを頬張りながらの説明にリトが驚愕の声を上げる。

 曰く「ダークネスの一件以降、黒幕でもあった私の事を探っていたらしく。何かきっかけになったのかまでは知らないがついに私の捕縛に乗り出した」との事で、彼女は「ま……デビルークの姫達まで危険に晒した訳だし、当然といえば当然だが」と締めてパンを頬張り終えて不敵な笑みを浮かべる。

 

「一度その気になれば流石デビルーク王直属の精鋭どもよ。BennysにGAME STAGE他。彩南の各所にあった私の拠点もあっという間に制圧された」

 

「それ近所のファミレスやゲーセンじゃないのか?」

 

 不敵な笑みを浮かべ、拠点が制圧されたとシリアスに語るネメシスだがその店名に聞き覚えのあるリトは呆れた顔でツッコミを入れた。

 

「ま……奴らが本気になったのならそれはそれで面白い。宇宙の覇者デビルークの親衛隊相手に遊ぶのも悪くはないかもな……」

 

「な――そ、そんなのダメだ!」

 

 ネメシスの不敵な笑みでの言葉にリトは思わず立ち上がって訴えかけていた。

 

「ザスティン達はアホだけど任務に関してはマジメだし、炎佐だって本気で戦うんなら色々やってくるだろうし……」

 

「フン、親衛隊はともかく氷炎のような未熟者は相手じゃない」

 

「う……で、でもわざわざ揉め事になるより仲良くした方がいいって!! ヤミやメアだって色々あったけど今はこの町で仲良く暮らしてるんだし、ネメシスだって……」

 

 ネメシスは炎佐を未熟者と断じて脅威じゃないと答え、リトはそのあっさりとした問答に一瞬言いよどむが説得を繰り返す。しかしそれに対しネメシスは目元に影を作って黙り込んだ。

 

「無理だな」

 

「そ、そんな!? なんで!?」

 

 そして一言無理だと断じる。それにリトがなんでと問いただそうとした時、虚空から漆黒の手が出現したと思うとリトを掴んで地面へと引き倒した。

 

「教えてやろうか?」

 

 妖艶な笑みを浮かべたネメシスがそう言った直後、ぞう、と黒い靄が彼女の身体を覆う。そしてその闇がネメシスから離れた時、彼女の姿はリトのクラスメイトである風紀委員――古手川唯の姿と瓜二つになっていたのだ。

 

「ト、変身(トランス)で古手川に!? む!? むぐ……」

 

「どう? 結城君。私のハレンチなおっぱい……気に入ってくれる?」

 

 豊満な胸を押し付け、これまた唯そっくりな声でリトに問いかけるネメシス。

 

「それとも――」

 

 だが、次の瞬間にはその声が変わっていた。同時に豊満な胸が縮んでいく。

 

「――ちっぱいの方が好きかな? リトは」

 

 そして気が付いた時にはネメシスの姿とその声の主――美柑そっくりの姿に変化していた。

 

「フフフ……いいものだろう、変身は。見ての通り自由自在だ」

 

 ズズズ、と再びネメシスの身体を黒い靄が覆う。そして今度はネメシスの姿と声がララそっくりに変化した。

 

「“ナノマシンの作用”によるヤミとメアの変身でも同じような事が出来る……が、()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

(ヤミやメアと違う? 一体どういう……)

 

 妖しげな笑みを浮かべるララの姿をしたネメシスの言葉にリトがそんな事を頭の中で考える。

 

「リト! 伏せろ!!」

 

「っ!?」

 

 そんな叫び声が聞こえると共に青い光弾が迫り、咄嗟に身を伏せたリトの目の前に光弾が着弾、同時にリトを覆うような氷の壁が形成された。

 

「ララ様に化けるなどぉー!!!」

 

 そして直後光子剣(フォトンブレード)を抜いたザスティンが怒りの表情でララの姿に変身していたネメシスに斬りかかり、今リトとネメシスが立っている屋外の階段の踊り場ごと粉砕。

 

「うわわわわ!?」

 

「悪いリト! ザスティンの無茶を止めきれなかった!!」

 

「炎佐!」

 

 当然落っこちるリトだが、そこを下から回り込んだらしいエンザが受け止めながら謝罪。そのままビルの壁と階段の手すりを飛び移るようにして近くのビルの屋上にまで飛び上がった。

 

「し、死ぬかと思った……って、そうだ! 炎佐、お前やザスティン達がネメシスを追ってるって本当なのか!?」

 

「ネメシスから聞いたのか? ああ、そうだ」

 

「な、なんで!?」

 

「あいつの狙いはデビルークによる統治体制の破壊、そしてこの宇宙を再び戦乱の渦中に陥れる事だ。今までは放っておいたけど、ヤミちゃんのダークネスシステムを暴走させた一件を始めにいよいよそうも言えなくなってきた」

 

「っ……」

 

 ヤミの中に眠るダークネスシステムの暴走。それはリトにとっても記憶に新しい事であり、自分の命が狙われたのはもちろん、炎佐すらダークネスヤミを止めるための激闘の中で重傷を負い、ララも力を使い果たして幼児化するまで追い詰められた末に自分がわざとえっちぃ事をヤミに仕掛けてダークネスシステムのプログラムをバグらせて破壊(クラッシュ)させるという奇策でどうにか抑え込んだ。

 だが一歩間違えば自分の命はなかったし、下手をすればこの星(地球)まで巻き込まれて大勢の人という表現では到底表しきれない程の人の命が亡くなっていた事は想像に難くなく、リトは炎佐の冷静な言葉に言葉を詰まらせていた。

 

「だから――ここで確実にネメシスを仕留める」

 

「ほう。私を仕留める……出来るのかな、お兄様?」

 

 エンザがそう言葉を発したと同時、そんな声が聞こえてきたかと思うとギギギンッと何かがぶつかり合う硬質な音が響く。

 

「ザスティン!!」

 

 続けてリトの叫び。ネメシスの髪が変身した無数の刃がザスティンを襲い、ザスティンもどうにか光子剣で受け止めていた。さっきの音の正体はその際に生じたものだったのだ。

 そしてザスティンはリト達のいるビルの屋上に着地した後、余裕そうな笑みを浮かべているネメシスを睨みつけ、合点がいったように「やはりそうか……」と呟いた。

 

「ネメシス、その身体は――ダークマターそのもの」

 

 そしてシリアスにネメシスの正体を告げる。が、直後リトが「それってあの調味料の!?」とララが好きな調味料を連想したのか驚愕の声を出したり、ネメシスが「そう言われるとミもフタもないな」とツッコミ返していた。

 だがザスティンはシリアスな雰囲気を崩さずに語る。ダークマター、それは宇宙ではどこにでも存在するエネルギー物質で、ある惑星では凝縮されて調味料に使われる程にありふれた存在である。そしてかつての銀河大戦の末期、金色の闇と赤毛のメアを創り出した組織“エデン”はそれより以前、ダークマターをベースにした疑似生命兵器を創ろうとしていた。それこそが“プロジェクト・ネメシス”、失敗し凍結されたはずのプロジェクトは実は成功しており、それによって生み出された疑似生命兵器こそがネメシスの正体であると。

 

「ほう……よく調べたな。組織が壊滅した今、ティアーユ博士すら知らない情報のはずだが」

 

「その壊滅させた者に()()()()()()()。“殺し屋クロ”とは剣を交えた事も任務を共にした事もある知人なのでな」

 

 殺し屋クロ、今回ザスティンが語った情報元であるその名を聞いた時、リトはかつて天条院先輩から誘われたリゾートで、ある宇宙人を追っていてたまたま出会った男を思い出す。ちなみにエンザはその横でチッと舌打ちを叩いていた。

 

「なるほど。クロとコネクションがあるのか。流石は銀河を束ねるデビルークの王室親衛隊隊長だな」

 

「フフ……この情報をヤツから引き出すのにかなりの大金を支払ったがな!!」

 

「いやそこは言わなくてもよくね?」

 

 感心するネメシスに自慢げに答えるザスティン。だがその内容は妙に情けなく、リトも思わずツッコミを入れていた。

 

(でも、その話が本当ならたしかにネメシスは……)

 

「理解できただろう? 下僕よ。暗黒より生まれし疑似生命体、それが私。同じ変身(トランス)兵器でも人間がベースのヤミやメアとは根本的に別物なのだ。ある意味では私こそ真の“ダークネス”、闇そのものだ。仲良くなど出来るはずもないし――そのつもりもない」

 

 そうネメシスが語った途端、彼女の身体から再び黒い靄――ダークネスが纏われる。同時にエンザがリトの前に立った。

 

「所詮この世は暇潰し――さあ、遊ぼうではないか隊長さん、そしてお兄様」

 

「すまん、リト。巻き込む事になる……せめてお前の命は俺が守る」

「よかろう。デビルーク親衛隊隊長の真価、見せてくれる!!」

 

 交戦的な雰囲気を隠そうともしないネメシスに対し、エンザがリトを守るように立ち、ザスティンも彼が前衛を務めるつもりか、そしてダークネスの身体を持つネメシスに光エネルギーは通用しないためか光子剣をしまった徒手空拳の構えを見せる。

 

「……と、言いたいところだが。私達の任務はそれではない」

 

「?」

 

「この装置は――至近距離でないと使えないのでな」

「今からリトを範囲外には逃がせないからな」

 

 ザスティンがいつの間にか握っていた装置のスイッチが押される。同時にいずこかでザスティンの部下であるブワッツとマウルがスイッチが押されたことで起動したシステムを制御。ザスティンの周囲5メートルにいた存在――ザスティン自身、ネメシス、エンザ、そしてリトを不可思議な光とブゥゥゥンという音と共に包み込んだ。

 

 

 

 

 

「な……砂漠!? 何で急にこんなところに……!?」

 

(あの遺跡……ここはカーマ星か?)

 

 気がつけば周りの光景が様変わりしていた。

 そんな状況に驚いて辺りを見回すリトに対し、目に見える遺跡の残骸から伺える様式から現在地を探ろうとするネメシス。だがそこから導き出される星は一瞬で転移するには遠すぎると考え、ならばとあり得る答えを導き出す。

 

「電脳空間……」

 

「その通り……本来の姿に戻ったあの方が、そしてあの人達が遠慮なく力を振るうには地球(リアル)ではマズいのでな」

 

 その言葉と共に、ザスティンの正面からゴゴゴゴゴととんでもない威圧感を感じるオーラが近づいてくる。そしてそのオーラを放つ正体に対し、ザスティンはネメシスを目の前にしているにも関わらず膝をついていた。

 

「デビルーク王、ギド・ルシオン・デビルーク様!!! 出陣!!!」

 

「へっ!?」

 

「……ほう♪」

 

 ザスティンの宣言にリトが声を上げ、ネメシスが瞳を輝かせる。

 そして悠々と歩いてきたその存在――ギドはザスティンをじろりと見た。

 

「遅ェぞザスティン。待ちくたびれてあいつらと暇潰しを始めちまうとこだったぞ」

 

「申し訳ありません、ギド様」

 

「ギ、ギド様って……まさか」

 

 ギドの言葉にザスティンが謝罪、その内容を聞いてリトは目の前の存在がかつて自分も見た幼児――力を使いきって幼児化していたギドが、ララのように本来の力が回復して元に戻った存在なのだと察する。

 そしてギドは今度はネメシスに視線を向けた。

 

「さてと……オメーがネメシスってヤツか。話は聞いてるぜ、要するにオレを倒して宇宙を戦乱に戻したいんだろ? オメー」

 

 そう言い、ギドは不敵な笑みを浮かべたまま拳をボキボキと鳴らした。

 

「いいぜ、相手になってやる。身体も戻ってパワーを持て余してたとこだからな……見せてくれよ、ちょっと珍しい(タイプ)の生体兵器なんだろ? オメー」

 

「……まさかデビルーク王本人と遊べるとは。兵器としての血が騒ぐぞ……!!」

 

 ギドの言葉にネメシスは高揚したように瞳孔を開いた目でギドを睨みつけ、笑みを浮かべて己の力の源であるダークマターを解放する。

 

「まー、つってもな」

 

 だがそんな時にギドが呆れたように声を漏らした。

 

「ザスからそういう報告を聞いて、お前の相手に立候補したのはオレだけじゃねーんだわ」

 

 その言葉と共に、空から巨大な炎が降り注ぐ。それは例えるなら天から地面へと落っこちた柱のように火柱を上げ、さっきネメシスが立ってた場所を渦を描いて焼き尽くした。

 

「っ、この熱量……」

 

 否、辛うじて回避に成功していたネメシスはだがしかし巻き込まれたらひとたまりもなさそうな火柱を見て絶句。

 だが直後彼女は背筋に冷える何かを感じて身体を捻る、同時に彼女の右腕に何かが着弾。しかしそれは身体を捻っていなければネメシスの心臓部分を撃ち抜いており、さらに着弾した右腕が急速に凍りついていく。それはそのまま胴体をも侵食しようと迫っており、ネメシスは咄嗟に髪を変身させた鎌で右腕を斬り落として侵食を力任せに防ぎつつ、ダークマターを右腕に集中、右腕を再生させた。

 

「ひゅー♪ ギドに気を取られてた隙に焼いちゃおうかと思ったのにかわすなんて、しかもそれらに気を取られてたらセシルの狙撃で氷漬けにしちゃうつもりだったのに。右腕一本、しかも再生したから実質無傷で済ませるなんてやるじゃん♪」

 

 ギドの隣に降り立つ赤髪ロングヘアをなびかせる女性――エンザの母親、ミーネの姿にリトが「あれって炎佐の母さん!?」と驚愕の声を後ろで上げていた。

 

「ああ。親父もいるからな……リトは俺の近くから離れないでくれ。巻き込まれたらマジでまずい」

 

「お、おう……」

 

 どうやらエンザがリトを守るというのはネメシスの魔手からというのはもちろん、ギド、ミーネ、セシルの攻撃の余波から守るというのが主目的らしく、リトもさっきの火柱や着弾した腕が急激に凍りついていく光景、そしてギドについては「本気を出せば星を破壊する事が出来る」という事前知識があるためかこくこくと頷いてエンザの後ろに陣取っていた。

 

「にしし……ギド、約束通り早い者勝ちだよ♪」

 

「おう。下手打つんじゃねえぞ」

 

 ゴウゴウと燃え盛る炎のようなエネルギーを発するエネルギーブレードを肩に担ぎ、歯を見せて陽気に笑いながら言うミーネにギドも腕組みしながら答える。さらに遠くからはネメシスを狙う冷たい気配があり、銀河最強の帝王であるギド、そしてそれと共に戦う事が許される二人の戦士と相対するネメシスは不敵な笑みを浮かべ続けていた。




 お久しぶりです。そしてまた更新滞って本当に申し訳ありませんでした!!!
 今回は元々は原作の恭子ヒロインデート回を、リトを炎佐に変更した恭子とのデート回にしようと思っていたんですが。そこで使ってた「チュッチュ草の茎をお姫様抱っこ状態で駆け下りる」ネタは以前にややオリジナルで書いた恭子ヒロイン回で使っちゃったからどうしようと困り、いくらネタを考えても纏まらず、どうしようもなくなってこのまま投稿しないのもなと思ったので開き直って話を先に進める事にしました。あとまあ他に色々書きたい話が出来てそっちの執筆に時間を使った結果か。
 てなわけで今回はギドVSネメシス編。そして特別ゲストにエンザの両親が参戦です。エンザ?戦闘では蚊帳の外に決まってんでしょ戦闘面においてギド達と比べてレベルが違いすぎる。(酷)

 さて次回はもう言うまでもなくギド&ミーネ&セシルVSネメシスという正直ネメシスオーバーキル過ぎる布陣でのバトルです……ちょっと無理やりにでもネメシスに無茶させないとマジで瞬殺されかねないよなこれ……原作ですらギドに事実上はほとんど手も足も出ずに瞬殺されてるし……。
 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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