ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二十七話 SexChangeDX

「ララ? 何やってんだ?」

 

 ある日曜日の朝、結城家の庭でララが何かの機械をいじっているのに気づいたリトが声をかけると、ララも「リト!」と輝くような笑顔で応えて、いじっている機械をじゃーんと見せる。

 おおまかなシルエットは例えるなら機関銃だろうか。しかしその先端は昔のSF漫画に出てくる光線銃のような不思議な形をしており、ついでにリトはその巨大な機関銃のような光線銃を、どこかで見たようなと既視感を覚えていた。

 

「なんだそれ?」

 

「名付けて、“ころころダンジョくんDX(デラックス)”だよ!」

 

 ころころダンジョくん。その言葉を聞いたリトの顔が引きつる。ころころダンジョくんは謎の光線を浴びた対象を性転換、例えば男なら女に、試したことはないが女なら男にさせるララの発明品。リト自身何度かそれで女にされて大変な目にあっていたのは記憶に新しく、リトはトラウマに頭を押さえていた。

 

「でね。リトが人前で元に戻ったりしたら困るっていうから、今改良のための実験中なんだ」

 

「改良!? もしかして浴びてもすぐにとか任意で元に戻れるとかか!?」

 

 ララの台詞を聞いたリトが嬉しそうに拳を握る。女にされた時は心労も半端ないし何故か美柑もノリノリでからかってくる。だがすぐに戻れたり任意で戻れるのならもうそんな心配とはおさらばだ。

 

「バッテリーを増量する事で出力を上げてね、なんとほとんど丸一日効果が続くようになってるの! これならすぐに戻っちゃうっていう心配はいらないよね?」

 

 しかしその次のララの言葉を聞いた途端ピシリと固まる。その脳内では「違うそうじゃない」という言葉が浮かんでいるのだが、ララの楽しそうな笑顔を見ているとショックを与えかねないその台詞を口に出すことが出来ないのは彼のお人好しの表れだった。

 

「これは実験用だから大きくなっちゃったけど、上手くいったらバッテリーを軽量・小型化して、今使ってるころころダンジョくんに搭載できるようにするからね?」

 

「そ、そっか……頑張れよ……」

 

 引きつった笑みを浮かべ、ララに背を向けて巻き込まれないようにそーっとその場を離れようとするリト。しかしその時後ろの方からボンッとまるで何かが爆発するような音が聞こえてきた。

 

「わー!? ころころダンジョくんDXが暴発したー!?」

 

「へ?」

 

 ララの悲鳴を聞いて思わず振り返るリト。その目にはプスプスと黒い煙を上げているころころダンジョくんDXの銃口から放たれた光線が自分目掛けて飛んでくる光景が映っていた。

 

「ぎゃあああああああ!!!」

 

 

 

 

 

「……で、こんな事になっちゃったの?」

 

「うぅぅ……」

 

 リビングに場所は移り、呆れたような美柑の言葉にどことなくリトに似た雰囲気を見せる美少女──リトが女体化した姿こと梨子が涙目で小さく唸る。

 

「つか、美柑とモモも慣れた手つきで着替えさせてるよな……」

 

 その横でナナがツッコミを入れる。梨子はこっちの姿になった時のためにと美柑とモモが準備していたらしい薄桃色の肩出しシャツに見せブラ、黒色のミニスカートという女の子らしい服装に無理矢理着替えさせられていた。そんなナナのツッコミに美柑とモモは完璧な仕事だといわんばかりのドヤ顔サムズアップを見せている。

 

「ララ~、すぐ元に戻せないのか~? たしか解除ミサイルとかあったよな?」

 

「あー……あれ、普通のころころダンジョくん用だから、出力上がってるころころダンジョくんDXだと多分効き目が弱いと思うよ? 最悪中途半端に元に戻っちゃうかも……」

 

 涙目で訴える梨子に流石のララも苦笑い。その説明を聞いた梨子達は一様に、顔は(リト)なのに身体は(梨子)だったり逆に顔は(梨子)なのに身体は(リト)、あるいは男女(リト梨子)が一つの身体にランダムに混ざり合ったような状況を思い浮かべる。

 

「リト、自然に治るのを待った方がいいよ」

 

「「うんうん」」

 

「おう……」

 

「多分、今日中には元に戻ると思うから……」

 

 美柑が真顔で警告し、ナナとモモも静かに頷く。自分としても最悪そんな変な状態に悪化するのは避けたいのか梨子も涙目で頷くしか出来ず、ララが苦笑い状態で効果の持続時間を説明した。

 

「しょうがねえ、今日は家でゆっくりしてるか……」

 

「あ」

 

 ため息をついて今日は家に引きこもろうと梨子が決めた直後、何かを思い出したようにララが声を盛らす。

 

「そういえば今日、春菜や唯達と家で遊ぶ約束してたんだっけ……」

 

「え?」

 

 つまり家にいたら春菜達と鉢合わせになる。こんな姿見られて万が一にでも正体がばれたら大変な事になると梨子の顔が青くなった。その時、家のチャイムがピンポーンと音を立て、来客を示す。

 

「げ、噂をすればってやつかな……ちょっと見てくるね」

 

 美柑が一番に来客対応に向かうため部屋を出て行く。そして少しタイミングを置いてダダダダダッとけたたましい足音が戻ってきた。

 

「リ、リト! 炎佐さんが来たんだけど!?」

 

「え?……って、ああぁぁぁっ! そうだ、今日は炎佐と遊びに行く約束してたんだった!?」

 

 女の姿になったショックで自分も遊びに行く約束を忘れていたらしく頭を抱える梨子。

 家にいれば春菜達に姿を見られる可能性がある。しかしこんな格好で炎佐と遊びに行くわけにはいかない。

 

(いや、炎佐となら……って俺は何考えてんだー!?)

 

 一瞬梨子(自分)と炎佐が街中を一緒に歩く光景を考えて満更でもないと思った直後、それを打ち消そうと心の中で悶える梨子。それは現実でも倒れてゴロゴロ転がるという形で反映される。

 

「わ、ちょリト危なはぶっ!?」

 

 その転がりに巻き込まれた美柑が倒れ、どしゃんっと音が響く。

 そして気づいた時、梨子は倒れてきた美柑のスカートを何故か銜えてずり下ろし、美柑の方も梨子の股間に頭を埋めるような格好で彼女にのしかかっていた。それにララナナモモがポカンとしていると、どたどたという慌ただしい足音が近づいてくる。

 

「美柑ちゃん!? なんだか変な音がしたけど何かあった……」

 

 玄関で待っていたが物音で心配になったのか駆けつけてきたらしい炎佐は、変な体勢で倒れ込んでいる梨子と美柑を見て沈黙。そこで美柑は梨子にスカートをずり下ろされていてパンツが丸見えの格好になっている事に気づき、顔を真っ赤に染め上げる。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 そして彼女の悲鳴が響くのだった。

 

 

 

 

 

「お、お見苦しいものをお見せしました……」

 

「い、いや、えーと……ははは……」

 

 とりあえずリビングに通してお茶を出し、真っ赤な顔で頭を下げる美柑に炎佐も返答に困ったように苦笑いし、次に部屋の隅で所在なさげに顔を逸らしている梨子を見る。

 

「り、梨子さん、久しぶりだね」

 

「あ、えーと、はい……」

 

 話を逸らすためにか梨子に話しかける炎佐と、こちらも困ったように苦笑いして返す梨子。

 

「えーと……ところで梨子さんも遊びに来たの? 俺はリトと遊びに行く予定なんだけど……ナナ、リトは?」

 

「あ、えーと、リトはだなー……」

 

 色々と気まずい状況の中話を振られたナナが言葉に詰まってちらりと梨子を見る。彼女も炎佐にばれないよう控えめながら「言わないでくれ」と目で訴えており、ナナはえーとえーとと考え始める。

 

「す、すみませんエンザさん! 実はリトさんには電脳ガーデンの植物のお世話を手伝ってもらっていて……エンザさんと遊びに行くというのは聞いてなかったんですが、今ちょっとガーデンも立て込んでて……私もこれから行かなければならないんです!」

 

 そこにモモがフォロー開始。電脳ガーデンの植物のお世話の手が足りずにリトに手伝いをお願いしているという事で口からでまかせを話すが、炎佐はそうかと頷いた。

 

「なるほどな。リトならモモ達が困ってるならそりゃ手を貸すか……しょうがない。今日はリトと遊ぶのは諦めるか」

 

 優しいリトならモモが困っているなら手を貸すのは当然だし、そんなに忙しいなら約束を無碍にするのも仕方ないだろうと納得する炎佐。するとまたピンポーンとチャイム音が鳴り、ララが「はいはーい」と出迎えに行く。

 

「いらっしゃい春菜、唯」

 

「お、お邪魔します……あれ、氷崎君?」

「あら、偶然ね」

 

「よ」

 

 ララが迎え入れた春菜と唯は炎佐を見て挨拶、炎佐の方も軽く手を挙げて返し、次に春菜達はやっほーと手を挙げたり会釈したりで挨拶するナナやモモに会釈を返した後、部屋の隅にいる梨子に目を向けた。

 

「あなたは?……」

「たしか、結城君の親戚の……」

 

 見たことない相手に首を傾げる春菜と、以前一度だけ会った相手のことをきちんと覚えていたらしい唯。梨子はビクリと身体を震わせながらぺこぺことやり過ごすように頭を下げていた。

 

「氷崎君は結城君と遊びにでも行くの?」

 

「そのつもりだったんだけど、リトの方も急用が入ったようでさ。仕方ないから帰る事にするよ」

 

 唯の質問に答えながら、炎佐は用も終わったのに長居しても迷惑だろうと立ち上がる。その時ちょうど美柑がお茶菓子のつもりか煎餅を持ってきながら部屋に入ってきた。

 

「えー。炎佐さん帰っちゃうんですか~?」

 

「そ、そだっ! え、炎佐さん、私達と一緒に遊びにいきませんかっ!?」

 

 美柑の残念そうな声と梨子のどこか慌てたような声が重なる。炎佐と美柑が「えぇ?」と呆けた声を出しながら梨子の方を向いた。

 

「あの、実は今からお……私と美柑……ちゃんとで遊びに行こうと思ってまして。よろしければ炎佐さんも一緒に、なんて……」

 

 梨子はそう言いながら美柑にアイコンタクト。このまま家にいても気まずいし、かと言って一人で外行ったらまた変な騒ぎになりそうだし、それならいっそ炎佐や美柑が一緒の方がいくらかマシだと目で語る梨子に、美柑はしょうがないなぁと炎佐にばれないようにため息を漏らす。彼女としても好きな人(炎佐)と一緒にお出かけできるなら願ったりというところだろう。

 

「「い、行ってらっしゃ~い……」」

 

 玄関で見送るナナとモモ。二人とも頬を引きつらせながら手を振っており、炎佐はその頬の引きつりに気づいてるのか不思議そうな顔で首を傾げるが、美柑が慌てて誤魔化すように「行きましょう行きましょう」と手を引いて一足早く玄関を出て行く。

 

「リトさん、頑張ってください」

 

「おう……」

 

 モモがぐっと拳を握りながら残った梨子に声援を送り、彼女もこれ以外に手が思いつかなかったとはいえ重い雰囲気でため息をつきながら答えて玄関を出て行った。

 

「ところで美柑ちゃん、梨子さん。どこに遊びに行く予定だったの?」

 

「え? えーと……」

 

 てくてくと歩きながら炎佐が問うものの、一緒に遊びに行く自体が家から離れるための口から出まかせ。梨子は困ったように声を漏らした後、ピンと頭の上で電球が光ったような表情を見せた。

 

「そ、そうだ。映画を見に行こうって話をしてたんです! キラーなまこの続編が出たって話だった、から……」

 

「そうなの? 偶然だね。俺も今日リトとそれ見に行こうって約束してたんだ」

 

 思いつきで口にした言葉は今日リト(自分)が炎佐と見に行こうと約束していた映画。それを偶然と答える炎佐に梨子はばれないよなと心中で顔を青くしていた。

 

(……なに? キラーなまこ……? え、どんな映画なの?)

 

 ちなみに美柑はそのタイトルから感じるB級映画感に困惑の様子を見せていた。

 

 

 

 

 

「相変わらずシュールな映画だったね。キラーなまこ」

 

「そうだ……ですね。キラーなまこを踏んづけるシーンなんて前作と同じで……」

 

 それから映画館で件の映画を見た帰り道、炎佐と梨子は笑いながら映画の感想を話し合っていた。ちなみに美柑は映画の空気が合わなかったのか空虚な目をして二人の後をついて行っていた。

 

「あれ? 美柑ちゃん?」

 

「え、この声……」

 

 突然聞こえてきた女の子の声に美柑が反応、彼女の前を歩いていた炎佐と梨子も足を止めてそっちを向く。そこには美柑と同い年だろう二人の女子が立っていた。

 

「サチ、マミ」

 

「よっす。何やってんのさ美柑」

 

 友人に偶然会った美柑に対して女子の一人──サチがニッと元気に笑いながら手を挙げて挨拶、美柑もあははと笑みを零した。

 

「お兄ちゃ……んの、お友達の、炎佐さんと、えーと……そう、親戚の梨子さんとお出かけをね……」

 

 友人に会って気が抜けたのかリトが梨子になっているのを忘れて「お兄ちゃん」と呼びそうになったが、途中で気づいて慌てて取り繕って説明する。サチはふーんと言いながら二人を見上げ、苦笑いしながらぺこりと会釈してくる梨子を見てピンッと頭の上で電球が点いたような表情を見せた。

 

「そだ! 美柑、今から遊びに行こうよ!」

 

「へ?」

 

「まあまあいいからいいから! デートの邪魔しちゃ悪いって!」

 

「デ、デデデデート!? いや、俺……私はそういうつもりじゃ……」

 

 サチは言いながら美柑の腕を掴み、しかも何か誤解している様子で続ける。その言葉を聞いた梨子が顔を真っ赤にして誤解を解こうとするも、サチは皆まで言うなというようにニカッと微笑んで、梨子達に向けてぐっとサムズアップを見せた。

 

「大丈夫ッスよ、美柑はちゃんと預かりますんで。んじゃお二人もごゆっくりー!」

 

「え、えーと……失礼します」

 

 一方的にまくし立てて美柑を引きずり去っていくサチと、サチ達と炎佐達を交互に見た後、炎佐達にぺこりと頭を下げてサチを追いかけるもう一人の少女──マミ。

 あっという間に炎佐と二人きりにさせられた梨子はなんだかんだ頼りにしていた美柑が消えた事に内心顔を真っ青にしていた。

 

「えーと……どうしようか?」

 

「あうう……」

 

 困ったように笑う炎佐に梨子も言葉を失う。がその時きゅるると梨子のお腹が可愛らしい音を鳴らした。思わずお腹を抑える梨子の顔がかあっと赤くなり、炎佐もふふっと笑みを零した。

 

「とりあえず、テキトーなとこでご飯にしようか」

 

「はい……」

 

 そう言って食事に誘う炎佐に、梨子も赤い顔を隠すようにうつむきながらこくりと頷いた。

 それから二人は近くにあった某ハンバーガーチェーン店にやってきて注文を終え、席につく。

 

「にしても。リトがいないのは残念だけど、梨子さんとこうやって映画が見れて楽しかったよ。機会があれば今度は三人で遊びたいね」

 

「あはは……そ、そうですね。機会があれば……」

 

 実際はリトは俺なんだから絶対にそんな機会は訪れないんだけど。と梨子は思いながらも、自分がリトだとはばれたくないので引きつった笑みで答える。

 

「さてと。ご飯が終わったらどうしようか? なんか友達に変な誤解されて美柑ちゃん連れてかれちゃったし」

 

「ホントそうですね」

 

 困ったように笑う炎佐に対してこっちも参ったというようにうつむく梨子。心中では頭を抱えているのだがそれを現実に反映させないように必死だった。

 炎佐と二人きりとか何の拍子でボロが出るか分かったものじゃない、かと言って家に帰っても春菜ちゃんや古手川がいるからこっちもこっちで辛い。炎佐と別れて一人になったらそれはそれで変な面倒事に巻き込まれるような気がする。いざとなったら美柑に泣きつこうとちょっと兄としては情けないがやむを得ない事を考えていたので、この状態は彼女的にも想定外だった。

 

「……そうだ。梨子さん、これから行きたいところがあるんだけど、いいかな?」

 

「え?……あ、はい?」

 

 炎佐の言葉に梨子はきょとんとしながら、曖昧にこくりと頷いた。

 

 

 

 

 

「久しぶりですね、炎佐さん」

 

「ああ、久しぶり。巧さん」

 

 炎佐と梨子が訪れたのは洋菓子店ストレイキャッツ。そこのバイトである都築巧と炎佐が挨拶している中、梨子は店内をきょろきょろと見回していた。

 

「ストレイキャッツ……あー、ここが美柑が炎佐から教えてもらったって言ってケーキとか買ってきてた店か……」

 

「え? 梨子さん、この店知ってるの?」

 

「あ!? あーいや、その……こ、この前遊びに来た時に美柑……ちゃんがケーキ買ってきたからってお土産に、えーと、そういうわけで……」

 

 梨子の呟きを聞いた炎佐が首を傾げると、梨子がボロを出しそうになったのを気づいて大慌てで誤魔化し始める。

 

(あれ? 最近美柑さん店に来てたっけ?……文乃か希が対応したのかな?)

 

 その後ろで巧は隠れたお得意様は最近来た記憶がない事に首を傾げるが、直後別に自分が知らないタイミングで来ててもおかしくないかと勝手に納得して話を終える。

 

「ところで炎佐さん、その人は?」

 

「ああ、リト……より巧さんには美柑ちゃんのって言った方が早いか。美柑ちゃんの親戚の夕崎梨子さん」

 

「ゆ、夕崎梨子です」

 

「あ、初めまして。都築巧です」

 

 巧の言葉を受けて炎佐が梨子を紹介し、梨子も自分の名前(偽名)を名乗ると巧も名前を名乗った後、可愛い女の子相手だからか照れたように笑う。

 その時店の奥からこの店のバイトの一人──芹沢文乃がギロリと巧を睨み、それを見た炎佐もリトとの付き合いも長い中でリトが様々な女性に想いを寄せられているのを見ていた経験か、彼女の巧に対する想いに勘付いている事から苦笑を漏らした。

 

「さてと。梨子さん、何か欲しいケーキとかある? せっかくだから奢るよ」

 

「え!? いやでも悪いですし……」

 

「気にしなくて大丈夫だよ。リトやララちゃん達へのお土産もついでに買っていこう」

 

「あ、あはは……ありがとうございます……」

 

 リトへのお土産を梨子(リト)と選ぶことになるというちょっとおかしな事に梨子は苦笑を漏らす。

 なおその後ろでは文乃に呼びつけられた巧が文乃からギャンギャンと怒られ、巧が困ったように笑いながら文乃を諌めようとしている。

 

「二回死ねー!!!」

 

 結局怒った文乃からの蹴りを受ける事になった巧が蹴っ飛ばされるが、その先にはケーキ選びをしている炎佐と梨子の姿があった。

 

「っ! 梨子さん危ない!」

 

「え?」

 

 咄嗟に梨子を庇おうと彼女の前に立つ炎佐とその声で気づいた梨子、炎佐も流石は元賞金稼ぎというべきか、体術で咄嗟に巧を勢いを殺しながら着地させる。

 しかし彼の後ろにいた梨子が炎佐を避けきれる位置におらず、しかも梨子の足が炎佐の足とぶつかってバランスを崩してしまい、結局炎佐と梨子が絡み合うような格好で倒れ込んでしまった。

 

「あ、っ……ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」

 

 巧を蹴っ飛ばしたという意味では原因である文乃が慌てて謝りながら二人に駆け寄り、巧もあててと頭を押さえながら起き上がって炎佐達の方を見ると、二人が沈黙する。

 

「「……」」

 

 何故なら何が起きたのか、倒れ込んだ拍子に炎佐が梨子を押し倒したような格好になっている、それだけならまだいい。

 梨子の服がまるで胸を露出するようにまくり上がった上にブラジャーまでずれて意外と大きな胸が露出。しかもその胸に乗せるように炎佐の手が置かれている状態になっているからだ。

 

「な、あ……」

 

「ご、ごめん梨子さん!」

 

 顔を真っ赤にして硬直する梨子と慌てて起き上がり梨子の上からどく炎佐。巧と文乃もまさかの展開に口をあんぐりと開けて硬直しており、ようやく再起動した梨子も震える手でブラジャーや服をたどたどしく元に戻すと静かに立ち上がった。

 

「ご……ごめんなさいっ!」

 

 そして何故か謝罪の言葉を出し、大慌てで店を飛び出して行く。

 その時に大きく開いた扉がゆっくりと閉まっていき、やがて完全に閉じようとした時にその扉がまた開く。

 

「ねえ巧、文乃。さっき見覚えのない女の人がすごい慌ててた様子で店を出て行ったみたいだけど……何かあったの?」

 

 店に入ってきた少女──梅ノ森千世がそんな事を尋ねるが、店内で未だに口をあんぐり開けたまま硬直してる巧と文乃、そしてがくんと膝をついてうなだれている炎佐の姿を見て、頭の上にクエスチョンマークを浮かべて不思議そうに首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

「梨子さんに嫌われたかもしれない……」

 

[お、おう。なんかよく分からんが、元気出せよ]

 

 時間が過ぎて夜。炎佐は何故かナナに電話をかけて愚痴っており、ナナもすごく気まずそうな顔をしながら炎佐のフォローを行っていた。

 なお梨子とのラッキースケベを起こした炎佐の落ち込みようは、自分が遠回しな原因だったとはいえ基本的に素直ではない天邪鬼な性格である文乃が「ケーキ奢るから元気出して」と素直&親身に接したり、希が新作クッキーをお土産に手渡したり、千世が事情を知らないなりになんとか元気づけようとしたりとストレイキャッツ総出でフォローに入ったという後日談から察してほしい。

 

「気づいたらあんなまるでリトがやらかすラッキースケベみたいな事やってしまうなんて、もう梨子さんに顔向けできない……」

 

[うん、まあ、事故なんだろ? 多分リコも気にしてねえから……]

 

「そうか?……ララやナナ達ならともかく……」

 

いやあたしらならともかくってなんだ!? あー、うん、分かったよ。リコはその、もう帰っちまったけどさ。リトから謝っとくよう頼んどくからさ、エンザも落ち着けって]

 

 ナナもなんとか炎佐のフォローを行い、「おう、おう。んじゃな」と電話を切るとはぁ~と大きくため息をつき、電話をベッドの上に置くと部屋を出た。

 

「おーいモモ。リコ……じゃねえや、リトの様子はどうだ?」

 

 声をかけるのはリトの部屋の前で立ち往生しているモモ。姉からの呼びかけに彼女は静かに首を横に振り、親指でリトの部屋のドアを示す。ドアに耳当てて聞いてみろ、と言いたげなジェスチャーにナナも盗み聞きという形に若干抵抗を覚えながら、ドアに耳を当てた。

 

「うあああああ、なんであんな事に……明日からどんな顔して炎佐と顔合わせりゃいいんだよ……で、でも炎佐ならよかったかも……じゃねえよ俺は何を言ってるんだぁぁぁぁぁぁ……」

 

 ドア越しに聞こえてくるのは未だにころころダンジョくんDXの効き目が切れていないらしい(リコ)の声のままのリトの声。ベッドの上でゴロゴロと転がっているような様子が目に浮かび、ナナも困った顔をしてモモを見た。モモが再び静かに首を横に振る、流石の彼女をして「どうしようもない」という判断を下さざるを得ない状況だった。

 

「下手なフォローして目覚められても困るし……多分放っとくのが賢明よね……」

 

「なんか言ったか?」

 

「なんでもないわよ。とにかく、ここは一人にしておいてあげた方がいいと思うわ」

 

「お、おう、分かった……」

 

 モモはナナに放っておこうと結論を言い、ナナもこくこくと頷いて二人はリトの部屋の前を去る。

 それからリトの部屋からの呻き声にも似た声とゴロゴロという音は、呻き声が(リト)のものになってからもしばらく続くのだった。




 大変遅ればせながら矢吹先生最新作「あやかしトライアングル」連載開始おめでとうございます!単行本の発売が楽しみです。つか調べた感じ、男主人公TS百合ものとかヤッターですよ!(歓喜)

 というわけでお久しぶりです。ホントマジで更新遅れて申し訳ありませんでした正直ガチでネタが尽きてました……で、あやかしトライアングルに便乗して(遅い)今回はTSをモチーフに、炎佐×梨子を書いてみました。ちなみに炎佐は未だにリト=梨子だと気づいていません。(笑)

 それにしてもあやかしトライアングル……少年ジャンプ+で無料掲載されてる分しか読んでないけど、これは本作の連載終わった後に投稿予定してた「ゆらぎ荘の幽奈さん~誅魔の侍~」の連載を中止してこっちの二次創作に取り掛かる可能性も考えねば……。
 ……いえ、割と冗談じゃ済まないかもというか……単行本派だから単行本以上の情報は分からないけど、藤太の設定が現状最大の敵ポジションになってる宵ノ坂醸之介に対して特攻過ぎて下手したらコガラシの出番を食いかねん……。
 元々「基本コガラシより弱いけどある秘密とそれによる特攻能力持ちで、それを活かせられる相手に対してはコガラシ以上に強い。いわば特定の相手に対するジャイアントキリングタイプ」って設定だったんだけど、まさかその特攻対象がラスボス(推測)にピタリと当てはまるなんて……。

 さてもう日常回なら地味に便利だなとか思ってる迷い猫オーバーラン勢登場からは正直悪ノリで書いちゃいましたけど、ここからどうするか……ここから先って地味に炎佐絡ませにくいんだよなぁ……だからストーリーが難産になっててこういう日常回で誤魔化す羽目になってるんだし。
 まあその辺は後で考えるといたしまして、では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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