ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二十六話 メアとの逢引

「ほらほら兄上ー! 美味しそうなケーキがいっぱいあるよー!」

 

 あるスイーツ店で開かれているケーキバイキング。目の前を無邪気に走り、陳列されているバイキング用のケーキを手当たり次第にお皿に乗せていく制服姿の少女を見て、こちらも制服姿の炎佐は一つため息をつく。

 彼の事を兄と呼ぶのはまさしく兄妹同然に育ったデビルーク三姉妹、その中でも兄上と呼ぶのはその次女であるナナ・アスタ・デビルークのみ……なのだったのだが、その呼び方をする者がもう一人存在する。

 

「……なんでメアとケーキバイキングに来なけりゃならないんだ……」

 

 親友であるナナの呼び方を真似しているらしい赤毛の少女――メアの存在に炎佐はため息を漏らしていた。

 金色の闇ことヤミにリトの命を奪わせることで兵器としての自覚を取り戻させるダークネス計画。実際のところはそれがヤミの中に眠る暴走システム――ダークネスシステムの発動方法だと思っていただけであり、そのダークネスシステムもリト達の活躍によってフリーズした今、その一件によるリトの安全はとりあえず守られたと言ってもいいだろう。

 しかしその一件で形はどうあれリトの命を奪う側に立っていたメアと、リトの命を守る側に立っていた炎佐は敵同士。メア自身はナナとお静ちゃんとの友情の元にダークネス計画の黒幕であったネメシスから離反した今、一応味方になっていると言っても問題はないだろうが、その辺が妙に上手く彼の中で消化できないでいた。

 そのぼやきを聞き取ったのか、メアは上体を後ろに逸らして頭頂部を下に向けるように後ろを向くという独特のポーズで炎佐を見て不思議そうな声を出す。

 

「えー。でもこれはれっきとした兄上からの報酬だよー?」

 

「わーかってるっての。好きなもん食え」

 

「はーい兄上ー♪」

 

 炎佐は苦虫を噛み潰したような表情になりながら吐き捨てるようにメアに答え、メアは再び嬉しそうに笑ってケーキをお皿に乗せる作業に戻る。

 

 ことの始まりは数時間前、彩南高校での休み時間へと遡る。

 

「あ、に、う、えー!」

 

「兄上って呼ぶな」

 

「むぎっ」

 

 笑顔で駆け寄ってくるメアの呼びかけに炎佐は彼女が自分のリーチに入った瞬間、だらんと下げていた腕を動かしてメアの頭をがっちりと掴んで答える。

 ギリギリギリと掴む手に力を込めるそれはアイアンクローと呼ばれる技だ。さらに抵抗する相手を黙らせようとする威圧でメアを射抜いている。

 

「あ、あぁ……兄上の威圧、素敵……」

 

 しかしそのメアはアイアンクローで遮られていない口を緩ませてぞくぞくと震えており、炎佐が若干引いた顔になって手を離すと「ぷあっ」と息を吐く。

 

「……何の用だ?」

 

「あー、うん。兄上」

 

 とっとと用件を聞いてぶった切って追っ払った方が無駄な騒ぎを起こさないで済むだろう。

 そう思ってさっさと用件を聞き出す炎佐に、メアもにこっと、本性を知らない男が見れば間違いなく騙される無邪気な笑みを彼に見せた。もちろん本性を知っている炎佐は冷たい目で返している。

 

「デートしよ!」

 

 ざわぁ、と周りがざわつく。特に「炎佐がデートだとぉ!?」と叫ぶ猿山と「え? な、は、はぁぁぁぁっ!?」と叫ぶ里紗が目立った。

 

「そうか成程。メア、今から御門先生のところに行って睡眠薬を貰って飲んで本当に寝ろ、出来れば永遠に」

 

「あっはっは、兄上ってば~。別に寝言なんて言ってないよ~、ちゃんと約束したでしょ~?」

 

「約束ってなんだよ!?」

 

 さりげなく毒舌ぶちかます炎佐にメアはやだな~といいたげに笑いながら答える。ざわめきが強くなり、炎佐は思わずメアを睨みつけて怒鳴りつけていた。

 

「え? 忘れた? ほらブラディクスのもががっ!?」

 

 ブラディクス。生物の身体に寄生してそのまま相手の身体を乗っ取り、破壊の限りを尽くす凶悪な生物兵器。

 九条凜に寄生したものを秘密裏に始末したそれの名前を無防備に出された瞬間、炎佐は反射的にメアの口を自分の手で塞いで、もう片方の手でメアの肩を掴むとそのまま人気のないところまで引きずっていた。

 そして炎佐はメアから手を離すと彼女を真正面に見据え、再び彼女を睨む。

 

「なんのつもりだメア!?」

 

「あー、ブラディクスの名前出したら悪かった?」

 

「……いや、よく考えたら別に問題ないだろうがつい反射的に……それより本当になんのつもりだ?」

 

「……え? 本当に忘れた?」

 

 本気で何故ブラディクスの件を持ち出してきたのか分かってない様子の炎佐を見たメアが呆けた声を出した。

 

「あの時言ったじゃん。九条先輩の精神(ココロ)に兄上の精神(ココロ)を接続する代わりに、甘いものを好きなだけ奢ってくれるって」

 

「……あー」

 

 ブラディクス破壊作戦。そのためにはまずブラディクスと精神(ココロ)レベルで繋がってしまった九条凜の精神(ココロ)をブラディクスから引きはがす必要があった。何故ならその状態でブラディクスを破壊するのは九条凜の精神(ココロ)を破壊するのと同じことであり精神(ココロ)が壊れた彼女は一生目覚めない、つまり実質死ぬことになる。

 それを防ぐために炎佐がメアの精神侵入(サイコダイブ)によって凜の精神(ココロ)に侵入。その中でブラディクスと激闘を繰り広げて凜の精神(ココロ)をブラディクスから引きはがすことに成功した。

 そしてその際に、力を貸す代償として炎佐はたしかにこう言っていた。「甘いものを好きなだけ奢ってやる」と。

 

「……くそ、そうだったな」

 

「やっぱ忘れてたんだ」

 

 記憶を思い返した炎佐が悪態をつくとメアがため息交じりに呟いた後、一枚のチラシを見せた。

 

「というわけでさ。今ケーキバイキングやってるんだって、これで奢ってくれればいいよ」

 

「……おい、これかなりの高級店じゃないか?」

 

「よろしくね、兄上♪……それとも、依頼を成功させたのに報酬を払ってくれないの?」

 

「ぐ……」

 

 これ幸いと高級なケーキを要求するメアに苦言を漏らすが、そこを突かれると元とはいえ依頼と報酬の関係で成り立っていた賞金稼ぎとして辛いものがある。結局渋々ながら「分かったよ」と頷くしか出来なかった。

 

「ただしお前だけだぞ、ナナとか連れて行くのは無しだぞ」

 

「分かってるって。じゃあ放課後ね~♪」

 

 ナナまで連れていき、さらに流れでモモやお静ちゃんまで追加されでもしたら懐のダメージが酷くなる。

 そうなってまた御門の新薬実験体のバイトやニャル子の仕事の下請けに引きずり込まれる未来を考えて、メアだけだと釘を刺すと彼女は分かってると言って笑うと手を振って走り去っていく。

 

「はぁ……ったく」

 

 走り去ったメアを見送り、炎佐も頭をかいて再び悪態を漏らす。

 しかし軽口とはいえ「甘いものを奢る」という報酬を持ち出したのは自分自身であり、“凜を助け出すという依頼”を果たした以上、メアに“甘いものという報酬”を貰う権利があるのは賞金稼ぎの常識。元賞金稼ぎのプライドとして今回は依頼人としてメアに報酬を支払う、炎佐にはその道しかなく、彼は放課後その店に行く前に地球のお金を下ろしておかないとなと考えながら教室へと戻っていく。

 待ち構えていた猿山が「メアちゃんとのデートってどういうことだよ!? あんな可愛い子ちゃんとデートとか羨ましすぎるぞおい!」と迫り、里紗が「デートってなに!? あんたらいつの間にそんな関係になったの!?」と胸倉掴んで炎佐を問い詰める事になるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

「はむっ……ん~、このケーキ、素敵♪」

 

 時間はケーキバイキングへと戻る。

 チョコケーキを頬張って全身から幸せオーラを立ち昇らせるメアを見ながら、炎佐もせっかく来たんだから食べないと勿体ないと取ってきたショートケーキを齧り、飲み放題のコーヒーを飲む。鈍い苦みが炎佐の舌の上を流れ、ショートケーキの甘さと中和してなんともいえない味わいを感じさせた。

 目の前でメアがケーキを食べてサイドメニューになっていたクッキーを食べてココアを飲む甘いもの尽くしを平らげているのを眺めながら炎佐もケーキを食べ、コーヒーを飲みながらチラリと背後の気配を探る。

 何故だか里紗が「ぐぬぬ」と呻きながらこっちを睨むような視線を感じ、未央が「理沙ー、ケーキ持ってきたよー」と一切席を立つ様子がない彼女にケーキを持ってきている様子を気配で感じる。

 それ以外にも妙な気配を若干感じるが、多少気に留めておく程度で放っておいても今のところ問題はないだろうと打ち切って炎佐は再びコーヒーを口に流し込んだ。

 

 

 

 

 

 それからしばらくケーキバイキングで過ごし、メアが高級ケーキバイキングを堪能。炎佐はなんやかんやナナやモモ、ララに美柑にリトへのお土産としてお土産コーナーで売っていたケーキをいくつか見繕って購入。結城家へのお土産を確保してから二人揃って岐路につく。

 何故かつけてきていたリサミオコンビは適当に撒いて、二人は人気のない裏路地へとやってきていた。人気がなくなったため、買ったケーキの袋はデダイヤルの中に収納して懐に戻してから炎佐はふと口を開いた。

 

「ところでメア」

 

「ん、なに? 兄上」

 

「気づいてんだろ?」

 

「うん、もちろん」

 

 前を向いて歩きながらなんでもなさそうな雑談を行うような軽い口調で二人はそう言い合う。

 

「「が、は……」」

 

 次の瞬間、彼らの背後から苦し気な声が漏れる。一人は炎佐がいつの間にか右手で抜いていた銃を左腕で隠すように左脇の下を通して後ろに向け発射した弾丸を腹にくらった覆面のヒューマンタイプの宇宙人、もう一人はメアの髪が変身(トランス)した細長い剣で首を貫かれているやはりこちらも覆面を被ったヒューマンタイプの異星人だ。

 二人ともナイフを振り上げており、もしも先手を打っていなければナイフを振り下ろされていた事は想像に難くない。

 

「殺し屋か。狙われる覚えなんて……最近はないんだが」

 

「最近限定なんだね」

 

「そりゃ元とはいえ賞金稼ぎだしな。恨みなんていくつ買ってるか数えるのが面倒だ」

 

「私もそだねー」

 

 炎佐とメアはそう話し合って、先兵二人があっさりとやられて自身の存在を隠すつもりもなくなったか辺りに充満する殺気に対応しようと背中合わせになる。

 

「赤毛のメアだな? もう一人はただの田舎者だと思っていたが……」

 

「あいにくだな。静養中の賞金稼ぎを狙っちまった己の不運を嘆け」

 

「ふん。こんな宇宙人の存在すら知らない発展途上惑星に逃げ込むしかなかったような雑魚だろう、赤毛のメアに対する人質にでもなればいいと思ったが……まあいい」

 

 裏路地のどこかから反響するように聞こえる声に炎佐が応対、その声の主はエンザを知らないのかメアへの人質程度の価値しか見出していなかった。

 

「我らの団を壊滅させた恨み、今こそ晴らさせてもらうぞ、赤毛のメア!!!」

 

 その怒号にも似た叫びの瞬間、辺りの殺気の元である無数の覆面ヒューマンタイプの異星人が一斉に二人目掛けて飛びかかり、制服姿だった炎佐とメアはそれぞれエンザはデダイヤルにセットしていた鎧を纏い、メアも変身能力の応用で戦闘衣(バトルドレス)にドレスチェンジ。

 続けてエンザは右手に赤い刃の刀を構える。メアも自然体な構えを取りつつ自身の髪を一つの砲台へと変身、ドドンドドンと音を立てて遠慮なく砲撃を放っていた。

 

「メア」

 

「なに~兄上? 殺すな~とかいうの?」

 

「いや、むしろ逆だ」

 

 見咎めるようなエンザの言葉にメアがジト目で聞き返すが、エンザはむしろ逆だと答えて相手を睨みつけた。

 

「一人も逃がすなよ。俺達の顔や制服姿を覚えられた以上、後々学校とかにまで面倒持ち込まれる可能性がある。あとなるべく音を立てるな、周りに不審に思われて警察呼ばれたりしたら厄介だ」

 

「……はぁ~い」

 

 命を狙ってくるのなら返り討ちにあうのも当然とエンザは賞金稼ぎモードのリアリスト思考で考えており、むしろ生き残りがこれ以上日常生活に侵食してくる可能性の方を嫌がっている。ついでに周りの一般人を巻き込みかねない騒音を発することは避けろと命じていた。

 それにメアはやや面倒そうに返すが大砲の変身を解除、両腕を刃に変身させての接近戦モードになっていた。

 

「死ねぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 雄叫びをあげながらナイフを振り上げて襲い掛かる殺し屋相手にエンザは刀を両手で握りなおし、構える。そして相手が自分のリーチに入った瞬間鋭く刀を一閃。

 それだけで襲い掛かってきた殺し屋は振り上げたナイフを振り下ろすことなくエンザからすれ違い、エンザがひゅんと刀を一振るいするとその胴が横から真っ二つに分かれて地面に倒れ伏した。

 そこまで全くの無音であり、殺し屋達は敵がただの三下ではないとそこでやっと分かったのか腰が引けるが、しかし引くわけにはいかないと武器を構えて一斉に襲い掛かってきた。

 

「俺は関係ないんだからメアにかかればいいものを……まあいい」

 

 エンザは自分は無関係なんだからメアに押し付けたい本音をぼやきながら、自分の後ろで緑色の血を流しながら絶命する異星人の死体をチラリと見て目を閉じた。

 

「やっぱただ斬り殺すだけだと後処理が面倒だな……」

 

 そう呟いて、彼は青色の瞳で、目の前から襲い掛かってくる殺し屋の集団を見据えて青色の刃になった刀を切っ先を下にして振り上げる。

 

「凍らせてニャル子達に押し付けた方が面倒がなくていいか」

 

『が……』

 

 そう呟いてガンと刀を地面に突き刺す。その瞬間彼の前方の地面が凍りつき、凍りついた地面から氷の槍が出てきて殺し屋の集団を刺し殺したと思うと、槍を伝う緑色の血やその身体ごと氷漬けにしてしまった。

 

「わー兄上さっすがーかっこいー」

 

 その光景を見てケラケラと笑いながら暢気な言葉を冗談交じりに発するメア。

 しかし彼女も彼女でむしろエンザ以上の数の殺し屋から攻撃を受けていた。とはいえおさげを変身させた刃を目にもとまらぬ速さで振り回して牽制しつつ隙があれば斬り殺し、牽制で殺せない敵は両腕を変身させた刃で直接斬り殺している蹂躙状態なのだが。

 

「おらあああぁぁぁぁっ!!!」

 

「おっと」

 

 目の前に殺し屋の死体の山を築き上げ終えたところで背後から聞こえてきた叫び声と殺気に、メアはおさげ刀を巧みに操って振り下ろしてきた斧を受け止めながら振り返る。

 ひと際体格がよい、やはりヒューマンタイプの男性異星人。先ほどの声から考えて彼が殺し屋集団のリーダーと考えていいだろう。その相手の顔をメアはしげしげと眺め、半目になって首を傾げた。

 

「ん~……やっぱ覚えてないや」

 

「な、舐めやがって!!」

 

 自分に恨みがあるようだが、自分は覚えてないと目の前で言い切ったメアにリーダーが怒鳴り声を上げて斧を振り下ろそうとする。しかしおさげ刀だけではなく目の前で腕を変身させた二刀をクロスさせただけで力は拮抗。むしろ僅かにだがメアの方が押し返し始めていた。このまま押し返していけばそのままリーダーの首をちょん切る事も可能、メアはその未来にニヤリと笑みを見せていた。

 

「メアー、そのリーダーっぽいのは生かしとけ。残党がいるかどうか聞き出しといた方が後々面倒がないし、もしかしたら賞金貰えるかもしれん」

 

「あ、はーい」

 

 下っ端を次々と殴ったり蹴ったりして怯んだ隙に氷漬けにしていくのを半ば流れ作業で行いながらエンザはメアに指示し、メアもリーダーから目を逸らしてエンザの方に顔を向けながら返事。

 そんなあっさりとした話し合いにリーダーの額に怒りマークが浮かんだ。

 

「ふざけんじゃねえっ!!」

 

「ひゃおっ」

 

 斧とそれを振るう両手が塞がっているため怒りで反射的に出したのだろう前蹴り、しかしそれがメアに当たりそうになって彼女が思わずバックステップで回避。そこにリーダーは機を逃さんと前に踏み出しながら右手を伸ばし、メアの首を力任せに掴みあげた。

 

「ぐ……」

 

「へ、へへへ、俺の勝ちだな。油断した方が悪いんだ、悪く思うなよ」

 

 右手でメアの首を絞め上げるリーダー。このまま首をへし折ってやると右手に力を込めようとする。

 

「あ、ありゃ?」

 

「ぷはー」

 

 しかし次の瞬間リーダーは呆けた声を上げ、メアは大きく深呼吸をする。リーダーの意志に背き、彼の右手が広がってメアを解放したからだ。いや、それだけではない。

 

「か、身体が……動かねえ……」

 

 さっき開いた右手以外が麻痺したように動かない。その異変にリーダーが声を漏らすと、メアはやや前かがみになってにやっと小悪魔チックな微笑みを浮かべた。

 

「さっき掴まれた瞬間、あなたの身体を肉体支配(ボディジャック)して、身体の支配権を奪い取ったんだよ。気づかなかった?」

 

 そう、これこそが第二世代変身能力者、メアの特殊能力。相手の精神に干渉する精神侵入、その応用によって髪の毛一本からでも相手と物理的・精神的に融合し、身体の支配権を強制的に奪い取る肉体支配だ。

 既に下っ端は全滅、実質一対二の状態になったリーダーにこれをはねのける術はない。

 

「よしメア、氷漬けにするから離れろ」

 

「はーい」

 

 近寄ってきたエンザがリーダーの背中に無防備に手を当ててそう言い、メアがひょいっと離れる。同時にリーダーは身体が動くようになり、その怒りによって真っ赤に染まった顔でエンザを睨みつけた。

 

「テ、テメエのような雑魚n――」

 

 怒号を上げながら素早く振り返り、手放した斧の代わりに巨大な拳を叩きつけようとする。

 しかしその言葉が最後まで聞こえる事は無い。何故なら、最後の言葉を口にする前に彼の身体が氷漬けになったからだ。

 

「これで終わりだな。あとはニャル子に連絡して引き取ってもらう……あと、一応残党がいるかもしれないからしばらくは警戒しないとな」

 

「えー、面倒くさいなー」

 

 携帯を取り出してニャル子に連絡を取ろうとする炎佐が、もしかしたら残党が狙ってくるかもしれないからしばらく警戒しないといけないなと注意するとメアは面倒だと言ってぶすくれる。

 しかし元はといえば彼女が賞金稼ぎ時代にまいた種であり、それは彼女も理解してるのか、炎佐が無言で睨むとため息交じりに「はーい」と返していた。

 

 それから連絡を受けたニャル子がやってきて簡単な事情聴取などを受けるが、きちんと調査してみないと分からないものの賞金がつくほどの相手ではない、少なくともニャル子は賞金がついている報告は受けていないような小者だったらしく、炎佐とメアは殺し屋集団を引き渡すと後処理はニャル子に任せて改めて帰路についた。

 

「全く、せっかく美味いケーキを食っていい気分だったってのに」

 

「そうだね~……ね、兄上。それならもっかいケーキ食べに行かない?」

 

「却下だ。ナナと自分達で小遣い出して行ってこい」

 

「ちぇ~」

 

 またさりげなくケーキを奢らせようとするメアだがそんな見え見えの手に引っかかるバカはおらず、いや「サルならあり得そうだな」と思考を挟みながら炎佐はメアの提案を却下する。

 

「ま、お前の腕が落ちてないのを確認できたからよしとするか」

 

「む、兄上それって失礼じゃない?」

 

 炎佐の軽口にメアが頬を膨らませて炎佐を睨み抗議。しかし炎佐はくくっと笑みを見せて流した。

 

「実際メアが戦えるならそれに越したことはないからな」

 

「?」

 

 炎佐の言葉にメアがきょとんとした顔になって首を傾げる。と炎佐は肩をすくめてみせた。

 

「最近は比較的暇だけど、ちょっと前まではリトを狙った殺し屋がやってきたりと忙しい事も多くてな。またそういう事が起きないとも限らないし、いざという時に戦える人員はいるに越したことはない。とりあえず、お前がいればナナは安心だしな……その点だけはお前を信じてるんだぜ」

 

「……えへへ、ありがと。兄上」

 

「だからさっきから兄上って……」

 

 炎佐からの評価を受けたメアが照れたようにはにかみ、さっきまではスルーしていたが何か気になったのかメアからの呼称を指摘しようとする炎佐。しかしそこまで言って何かに詰まった後にはぁとため息を漏らした。

 

「あぁ、もう指摘するのも疲れた……もういいよ、好きに呼べ」

 

「はーい、兄上ー♪」

 

 ついに根負けして黙認を決めたらしい。炎佐からの許しを得て、メアは改めて炎佐を「兄上」と呼ぶ。

 そのまま炎佐はお土産のケーキを届けるために、メアは炎佐について行くついでにナナと遊ぼうと、二人そろって結城家へと向かうのであった。




 矢吹先生画業20周年おめでとうございます!
 それを記念したとかのToLOVEる特別読み切りが掲載されたらしいので22・23合併号を購入しました。(基本雑誌は買わない単行本派)
 そしてその特別読み切りが「……あー、リトってそりゃ一般人から見たらそんな評価受けてもしゃあないなぁ」でした。(笑)
 んで、よく分からんのですが今日発売のSQ6月号にも読み切り掲載ってことですか?……ネタになるかもだし買おうかな?(半ば資料扱い)
 そんで本編で出番のないレンが「イケメンだけど陰キャ」扱いくらっててワロタw


 さて、お久しぶりです。ここから先のストーリーが炎佐を絡ませにくいストーリーばっかりで、オリジナルを書こうにもネタが思いつかずうだうだしていたら大分時間がかかってしまいました。
 今回はメアソロでの日常系ですかね。甘酸っぱいフラグなんて微塵も立ちそうにないけど、こんなんでも一応分類上は炎佐ヒロインの一人ですので、たまには彼女にスポットを当てようかと思いました。というかブラディクスの辺りで「凜を助けるために炎佐に力を貸す代わりに甘いものを好きなだけ奢ってもらう」という約束があったのを思い出したので、この際ストーリー構築のきっかけに使っちまおうと。

 んでまあほのぼの日常かと見せかけて、後半はメアとの共闘を見せてみました。やっぱエンザとメアはこういう感じの殺伐とした関係の方が似合いそうだ。


 さて、ここからは100%雑談ですけれども。
 古手川唯ヒロインのオリ主ものが一つ主人公のキャラ設定とか日常周りが思いついたし、第一話の簡単な流れくらいは頭の中で構築できた……けど同時にこれ絶対続かねえわって確信した。ただでさえ氷炎の騎士の連載終了後は誅魔の侍の連載が待っているというのに……。(なお話が広がっていくごとに元来の設定と合わない部分が出てくるため設定編纂作業中)
 とはいっても頭の中でとはいえ構想できたし、せめて短編として投稿してみようかなと思っています……頭の中での構築と実際の執筆だと違う部分もあるから、きちんと投稿できるかはまた別問題ですが。

 あと、また投稿が遅れるかもしれません……いや、ついにダークネスも佳境を迎えた今、この作品どうやってオチをつけようかと……。(汗)
 元々これ恭子メインヒロインもの書きたいなーって思って簡単な設定考えてたら恭子がリトに落とされかけててええいままよで書き始めた見切り発車だったから……無印だと最終話にほぼモブだったとはいえ恭子ちゃんがいたからそこを膨らませられたけど、ダークネスはどうするべきか……。
 今までは割とノリで書き進めてたけど、そろそろその辺もきちんと考えて舵取りを始めないといけない頃合いだと思うので……。

 そういうわけでまた投稿が遅れるかもしれませんが、エタる事は無いと思いますので気長にお待ちいただければ幸いです。
 では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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