ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二十四話 奮戦の後に

「炎佐ー!!! 逃げろー!!!」

 

「っ!?」

 

 リトの叫びと共にエンザは背後から濃密な殺気を感じ、振り返りざま殺気の方目掛けて巨大な氷柱を作り出す。

 続けて聞こえてくるのはガリガリガリという氷を削るような音。いや、彼の背後に立っていた存在――ダークネスが両腕を変身させて作り出した巨大な刃でエンザが盾に作った氷柱を高速で斬り裂く音だった。

 

「ぐっ!」

 

 エンザは即座にまだ斬られていない箇所の氷の強度を上げ、さらに斬られた氷を再凍結させて剣を止めようと試みる。しかしそれよりも速く勢いは止まることなく刃は突き進む。

 

(——止められない!)

 

 そう直感した直後、ダークネスの作った剣が氷柱を突破。その勢いのままエンザの胸を横薙ぎに斬りつけ、その刃は鎧さえも斬り裂いたか破片が飛び散り、彼の胸から鮮血が噴き出るのだった。

 

 

 

 

 

「……そこで俺は倒れて意識がなくなっていたんだが……」

 

 炎佐はそう自分の記憶を辿り、自分から見てやや横に目を向ける。

 

「すみませんでした」

 

 そこにはぺこりと頭を下げ、長い金髪が床に向かうように垂れている少女――金色の闇の姿があった。

 

「えーとその後色々ありまして……ダークネスの暴走は治まったんです!!!」

 

「納得いくかぁ!!!」

 

 わたわたした後、ウィンク&サムズアップでこれ見よがしに誤魔化すモモに怒号で返す炎佐。

 ちなみに現在炎佐は上半身裸の姿でベッドに入っており、切り裂かれた胸の部分は包帯を何重にも巻いていた。

 

「や、でもリトが説明できるわけないっていうしさぁ……エンザお前、詳しく事情を聞いたのをザスティンに知られたら絶対追及されるぞ?」

 

「あー、そりゃめんどくさいな……」

 

 肩をすくめて「今もリトがザスティンから質問攻めにされてるだろうしな」と言うナナに炎佐も頭をかく。

 

「というか、ナナとモモを侮るわけじゃないんだが。俺がやられたってのによく助かったな」

 

「ギリギリでお姉様が助けに入ってくれましたので」

「その後、お静ちゃんと協力してメアもネメシスから離れることが出来たんだってさ。で、あたし達全員でリトを援護して、リトがダークネスをなんとかした」

 

 なんとかした、の辺りはザスティンからの追及を避けるため秘密だ。

 

「あー、なるほど……」

 

 炎佐はそう呟き、自分の部屋のドアを見た。

 

「あっにうえー! 御門センセーから包帯の替えを貰ってきたよー! 今私が巻いてあげるからねー!!」

 

 直後、バァンっと激音が響いてドアが開き、芽亜が包帯を抱えて入ってくる。しかしその目は悪戯っぽくキラキラと輝き、しかも口元がうへへという感じに笑っていた。

 

「いらねーよ」

 

「へぎゅ!」

 

 右手をサムズダウンの格好に持っていくと同時に空中に氷塊が出現、自由落下したそれがまるで拳骨のように芽亜の頭に直撃した。

 

「包帯持ってくるって連絡したのはお静ちゃんだろ? とっとと解放しろ」

 

「ちぇー」

 

 部屋の外から「むぐーむぐー」といううめき声が聞こえるのは恐らく気のせいではないだろう。

 冷たい目での炎佐の指摘を受けた芽亜は残念そうにそう呟くと部屋の外に出てなにやらごそごそと動く。

 

「ぶはぁ! 何するんですか芽亜さんっ!?」

 

「あはは、ごめんごめーん」

 

 そして部屋の外から解放されたお静ちゃんの怒号と悪びれもせず形だけ謝っているような軽い声で謝っている芽亜の声が聞こえ、それからにゃははと笑っている芽亜と共に、ぷんぷん怒って頬を膨らませているお静ちゃんが部屋に入って来るのであった。

 

「ああ、お静ちゃん。モモ達から話は聞いたよ、俺を御門達のとこに運んでくれてありがとな。おかげで助かったよ」

 

「あ、いえ、そんな」

 

 お静ちゃんの姿を見た炎佐が開口一番改めてお礼を言い、お静ちゃんも照れたようにえへへと笑いを零す。

 それからお静ちゃんが炎佐の包帯を巻き直し始め、炎佐はお静ちゃんにそれを任せながらヤミの方を向いた。

 

「ヤミちゃんも、もう気にしないでくれ。皆が無事ならそれでいいからさ」

 

「……ありがとうございます。では、私はまだ謝る人がいますので」

 

 炎佐からの許しを受けたヤミはそう言うとふっと消える。いつの間にか空いていた窓がキィと軋んだ音を立てて静かに揺れた。

 

「では私もこれで。あ、炎佐さん。明日ならヒーリングカプセルが空いてるので診療所まで来るようにと御門先生からの伝言です。もう命に関わる程ではない程度には治癒出来てますけど油断は禁物ですから」

 

「ああ、分かった。流石にこの状況はまずいしな」

 

「はい。ではお大事に」

 

 御門からの伝言を伝え、エンザも安静にしていなければならない状態が長引くのはまずいからと通院を決めた事を伝えると、その旨を了解したようにお静ちゃんはぺこりと頭を下げて帰っていく。

 

「じゃ、私も帰ろっと」

 

「では私達もこれで」

「じゃーな、エンザ」

 

 芽亜もマイペースに帰宅を選択、モモとナナも用事は終わったので帰ることにする。

 炎佐も彼女らを見送った後、安静にしてなければならないためゆっくり横になって休んでいようとベッドに寝転がって目を閉じる。

 

「エンちゃーん!! ルンちゃんからエンちゃんが喧嘩して大怪我したって聞いたけど大丈夫ー!?」

 

「……大丈夫だよ、キョー姉ぇ」

 

 そこに本気で心配している表情で飛び込んできた恭子を見た炎佐は、心配かけた事を申し訳なく思いながら苦笑を漏らしてそう答えるのであった。

 

 

 

 

 

 その翌日。炎佐は不思議な液体で満たされたカプセル状の容器の中に沈んでいた。その容器の近くにいる御門は目の前にある計器に表示される様々な数字や文字、図などを確認しながら計器を操作。カプセルの中の液体が抜かれていき、カプセルの蓋が開くとその中から炎佐はびしょぬれの状態で現れる。ちなみに水着を着て大事なところは隠されているので問題ない。

 

「炎佐さん、手ぬぐいをどうぞ」

 

「ありがと、お静ちゃん」

 

 駆け寄ってきたお静ちゃんからタオルを受け取り、身体を拭いていく炎佐。その裸体を御門が視診していた。

 

「うん。傷はバッチリ塞がってるし、診察結果も問題なし。これで治療は完了ね」

 

「ありがとうございます。ドクター・ミカド」

 

 安心したように微笑んで頷く御門に炎佐もお礼を言い、身体を拭き終えたのでお静ちゃんが持ってきたシャツだけでも着ておく。

 

「……ところで」

 

 そこで炎佐は先ほどまで気になっていた事を尋ねる。

 

「あれ、どうしたんですか?」

 

 そう言って彼が示すのはとても嬉しそうな表情をしながらくるくると回って謎の小躍りをしているティアーユの姿。そんな彼女の姿を認めた御門が「ああ」と言って微笑んだ。

 

「今回の件でヤミちゃんに負い目が出来たでしょ? それを利用して今度ティアとの食事を約束させたのよ」

 

「あんたって人は……転んでもタダじゃ起きないなホント」

 

「建前はダークネスシステムが解放されたせいでヤミちゃんの身体に不調や問題が起きてないかの徹底検査って事になってるから。ただ遅くまで検査をする予定だから一緒に食事を食べるってだけよ? でも私とお静ちゃんは検査結果のチェックで手が離せないから多分ティアとヤミちゃんの二人っきりになっちゃうわね♪」

 

 そう言って御門はにんまりと笑ってみせる。その姿に炎佐は呆れたように目を細めてため息を漏らした。

 

(ま、ヤミちゃんも本当に嫌だったら検査後に無理矢理帰るだろうし、食事はいいきっかけになるよな……)

 

「ヤミちゃんと晩ご飯♪ ヤミちゃんの好物ってなんだったかしら? たい焼きたくさん買ってこなきゃ♪」

 

「……まあ、少し冷静になるようにドクター・ルナティークには言っとかなきゃな」

 

 にへらぁとしまりなく口元を緩ませ微笑んで小躍りしながら何か呟いているティアーユを見た炎佐は僅かな心配を抱き、そう呟くのであった。

 

 そしてティアーユに平静を取り戻させてから炎佐は御門の家を後にする。治療とティアーユを落ち着かせるのに思ったより時間がかかったらしく、既に日は暮れていた。

 

「さっさと帰るか」

 

 怪我が治ったし、少し身体を動かそうかと本気で走るために軽い柔軟を開始。走り出そうとしたその時だった。

 

「あ、いた。エンザー!」

 

 突然聞こえてきた声に、走り出そうとしていた炎佐は足を止め、つんのめりながら声の方を見る。

 

「ナナ! どうしたんだこんな時間に?」

 

「今日お前治療に行くって言ってたからここだろって思ってさ。お前あたしからのメール見たか?」

 

「……あー、悪い。携帯しまいっぱなしだったからさ」

 

 炎佐の指摘にナナはジト目&腰に手を当てる姿勢でそう尋ね、炎佐はずっと携帯を鞄に入れたままでメールが来ていることにすら気づかなかった事を素直に詫びる。とナナは「しょうがねえな」と息を吐いた。

 

「さっき姉上から教えてもらったんだけどさ」

 

 そう言ってナナはにかっと微笑んだ。

 

「小さくなっちゃった姉上と、あと大怪我したエンザが心配だからって。母上が地球に来るってさ!」

 

 嬉しそうな満面の笑顔でのナナの言葉。

 

「ク……クィーン・セフィが?……」

 

 それとは対照的に、炎佐の顔は引きつったような状態で硬直していた。




 またもネタが思いつかずぐだぐだと二ヶ月空いてしまいました。申し訳ありません。

 ダークネス編、戦闘部分は完全に省略です!前回言った通り、エンザは通常モードのヤミちゃんにも勝てないのにダークネスヤミに勝てるはずもありませんので!
 一応ララやリトの援護を行うサブアタッカーってのも考えたんですが……邪魔にしかなりそうにないので没にしました。せいぜいメアとのコンビで時間稼ぎが精一杯だと思う。

 そして次回はセフィ登場を予定しています。この方に対するエンザの反応は大分前から決まってるので今から書くのが楽しみです。むしろ自分の脳内でエンザがセフィに対して動いているのを僕の力で表現しきれるだろうか……。

 では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。


 さて後書きはここまで。ここから私信に入ります。
 ゆらぎ荘の幽奈さんのアニメ化を記念し、「ゆらぎ荘の幽奈さん~誅魔の侍~ アニメ化記念第一話先行公開」を投稿いたしました。ジャンル的には本作と同じくオリ主を中心としたラブコメ&日常&ファンタジー&バトルとなります……うん、本作はジャンルとしてはこれを目指してるんだよホントダヨ?(目逸らし)
 というか、幽奈さんの投稿と合わせるために今回の話を時間を決めて仕上げたというか……。

 あちらの本格的な連載は本作の終了後を予定しておりますが、第一話だけでも読んで感想などをいただければとても嬉しいです。

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