ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二十二話 DARKNESS SYSTEM

――EVE

 

――SELF CHECK

――OK

 

 

――ALL CHECK

――CLEAR

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――DARKNESS SYSTEM START

 

 

ヤミがまるで幼虫が成虫へと生まれ変わる前に己が身体を包み込む繭のような形になった髪の毛に包まれ、その繭の中央から眩い光が放たれる。

 

「っ!?」

 

その眩い光が校舎を貫き、生徒達に困惑とそれから生ずるざわめきが走る。その中、炎佐は何かを感じ取ったような身震いを見せながら咄嗟というように席を立っていた。

 

「ど、どしたの氷崎? ってか今なんか外光らなかった?」

 

「あ、いや……ごめん籾岡さん、ちょっと出ていくから何か聞かれたらテキトーによろしく!」

 

「え、ちょ!?」

 

近くの席である里紗が目をぱちくりさせ、炎佐は適当に誤魔化すとすぐに教室を走り出ていく。なお現在授業中だがその教科担当の骨川先生は全く気付かず、「で、あるからしてぇ~」などと言いながら震える手で黒板にチョークを走らせていた。

 

(今の光と同時に一瞬だけど殺気を感じた……まさかメア……いや、ネメシス!?)

 

炎佐は光の中ほんの僅か一瞬だけの殺気を感じ、その光が出てきた地点――プールへと向かっていった。

 

 

 

 

 

「やっと会えたな」

 

一方彩南高校のプール。そのプールサイドにネメシスは立ち、旧友を歓迎するような穏やかさを含む、それでいていつもの何かを企んでいるような怪しげな笑みを浮かべながらそう口にする。

その視線の先にいるのはヤミの姿。だがしかし、その姿は普段のヤミとは似ても似つかず普段は真後ろに下ろしている他はツインテールのように結んでいる髪は全て下ろしたロングヘア。着ている戦闘衣(バトルドレス)も露出が多く特に下着なんてTバックとでもいうべきなのだろう刺激の強い格好になっている。そして一番の違いとして、彼女の頭からはまるで鬼を思わせる二本の角が生えていた。

 

「どんな気分だ? ダークネス」

 

その正体を看破しているとでもいうようにネメシスはヤミ、いや、ダークネスへと問いかける。その言葉に対し、ダークネスは顎を持ち上げた独特な形でネメシスの方を向く。

 

「すっごく!! えっちぃ気分♪」

 

そしてとても柔らかく純粋な笑顔でそんな事を言ってのけた。

その予想だにしない言葉にネメシスは驚いたように硬直、ナナとモモも目を点にしてしまっていた。

 

「会いたいな……えっちぃあの人に……」

 

そんな三人をよそにダークネスはくすくすと笑いを零している。するとプール脇の金網を何者かが上がっているがしゃがしゃという音が不意に聞こえてきた。

 

「ヤミちゅわーん! えっちぃわしが参上しましたぞ~! うひょーっ、これはなんともステキな姿!! わしとぜひくんずほぐれつ泳ぎましょ~!!」

 

「こ……校長先生!?」

 

そう叫んで飛びかかるのは彩南高校の校長先生。その姿にダークネスはにこりと微笑みかけた。

 

「お前じゃないっつの」

 

だが次の瞬間、校長の前でダークネスの髪の毛が円を描くように動き、その円の内部に不可思議なエネルギーが集中したかと思うとそのエネルギーを通った校長の姿が忽然と消えてしまった。

 

「こ……校長が消えた!?」

 

「会いたいのはこっち」

 

ナナが驚いたように叫び、しかしダークネスはそれを気に留める様子もなく、同じように髪の毛で円を描いて不可思議なエネルギーを集中させるとそれに腕を突っ込んだ。

 

 

 

 

 

「ちょっとみんな!! 授業中よ、静かにしなさい!!」

 

場面が教室に移り、唯の一喝が先程の光によってざわめき窓際の席の生徒は席を立って窓の外を見始めるという騒がしい教室内に響く。

 

「もう、氷崎君も急に出て行って……あとできつく言っておかないと……」

 

授業中の無断退室を行った炎佐にも後で注意しなければと唯はぶつぶつ呟く。その近くの席でお静ちゃんが何か肌にピリピリくる感覚を覚えながら身震いしていた。

 

「うわっ!!」

 

「結城君!? あなたまで何騒いで――!?」

 

しかしそれは突然のリトの悲鳴と唯の怒号にかき消され、誰も気づくことはない。

 

「なんだこりゃー!?」

 

「く、空中から黒い手が……」

 

リトの悲鳴の原因。それは空中に突如出現し、彼の右腕を捕まえている黒い手。その現実離れした光景に唯は絶句し、春菜は顔を真っ青にしていた。

 

「リト!!」

 

咄嗟にララが叫ぶ。しかし既に遅く、リトの身体はその謎の黒い手に引っ張られて教室から消え去ったのであった。

 

 

 

 

 

「あはぁ、キタキタ♪」

 

「へ!?(ヤミ!?)」

 

「リトさん!?」

 

場面はまたプールサイドに移る。ヤミは不可思議なエネルギーを集中した穴からリトを引っ張り出すと、先ほどの柔らかい笑みのままそう呟き、リトごとプールへと落下していった。

 

「ほほう、そんな事が出来るのか」

 

「なんで!? リトは教室にいるはずだろ!?」

 

「空間を変身(トランス)させてワームホールを造り出したんだわ……」

 

ネメシスが興味深そうに頷き、ナナが訳が分からない様子で絶叫し、ティアーユが目の前の現象を分析する。しかし彼女は同時にそれほどの事が可能なポテンシャルを破壊力につぎこまれる事を危惧していた。

 

(な……何がどーなってんだ!?)

 

一方リトはいきなりの現実離れした流れにまだついていけておらず、しかし水の中に放り込まれたため反射的に息を止めていた。

 

(!?)

 

だがその直後。自分をここに連れてきたのだろう何者か、自分はその何者かの着ている水着らしいものの股間部分を押さえてまるで彼女の股間に食い込ませるかのように引っ張っていることに彼は気づく。

そう思うと行動は早く、リトは水面に上がって息を吐き呼吸。思いっきり息を吸った。

 

「ご、ごごごごめんなさいっ!!」

 

意味が分からない状況に放り込まれてもすぐさま謝罪をする辺りは彼の人の良さの賜物だろう。だがそこでリトは目の前にいる、恐らく自分をここに連れてきたのだろう相手に気づいた。

 

「ヤ、ヤミ!? なんだその格好!? っていうか、俺なんでプールに……」

 

「流石ですね……あなたならきっと食い込ませてくれると思っていました……」

 

リトの言葉を聞いているのかいないのか、ダークネスはそう言って蕩けるような笑みを彼に向ける。

 

「いいんですよ? もっと触っても。前の私と違って私はえっちぃのが大好き♪ えっちぃあなたの事も大好き♪♪」

 

「ヤ、ヤミ? 一体?」

 

そんなダークネスの状態を見てリトは即座に理解した。ヤミがおかしい、と。リトはドン引きしながらプールから上がろうとする。

しかしその動作の予兆をダークネスが見た瞬間、ダークネスを中心にプールの水面に小さな波紋が走り、同時にキィィィンという甲高い音が響く。すると突然プールが不思議な色を放ち始めた。

 

「な、なに?」

「水が……」

 

困惑する女子生徒達。その次の瞬間プールの水がまるで人間の手のような形に変化して女子生徒に掴みかかっていった。

 

「!?(変身(トランス)能力を水に伝達して…)…だめよ! プールに近づいちゃ!」

 

ティアーユが目の前の現象を即座に分析、幸いプールに入っていなかった女子生徒にプールに入らないように呼びかける。

だが生徒を守ることに意識を向けていたせいかティアーユ自身が水の手に捕まってしまい、御門に押し付けられた面積の少ない水着を着ていたのが不幸だったかその豊満な胸がさらけ出されてしまう。

 

「ど……どーなってんだコレ!?」

 

「あなたのために用意してあげてるんですよ……結城リト」

 

「な、何を!?」

 

目の前の光景に狼狽するリトに対し、ダークネスはそう返す。その用意という言葉に反応したようにリトが叫ぶと、ダークネスは妖艶な笑みを彼に向けた。

 

「ふさわしい死に場所」

 

その言葉にリトの目が驚愕に見開かれ、ダークネスはまるでプールサイドに上がるように足を持ち上げる。

彼女が足を下ろすのは水面、しかしその足はまるで水面の上に立つように固定され、ダークネスは水の上に立ってリトを見下ろした。

 

「私はね、結城リト。大好きなあなたをこの手で殺したいの」

 

そう言ってダークネスはニコリと微笑む。あなた(結城リト)(金色の闇)標的(ターゲット)。あなたを殺せばあなたは私の心の中で永遠に生き続ける。それはつまり私達は一つになる、サイコーにえっちぃこと。

ダークネスは光の宿っていない瞳にリトを映しながらそう語った。

 

「ま……そうは言っても。あなたにとってはたいやきのようにあっさりパックリ屠られて死ぬ事実には変わりない。だからこれがせめてもの手向け」

 

薄く笑みを浮かべ、ダークネスは再び語り、プールを見回す。変身(トランス)の力を伝達させてプールそのものをまるで彼女の身体であるかのように操り、その結果今プールにいる女性はナナやモモのようなプールサイドの奥に避難出来たメンバーを除いて全員が捕まり、あられもない姿を晒されていた。

 

「おっぱいに囲まれて死ぬ。えっちぃあなたには何よりもふさわしい死に場所でしょう?」

 

ダークネスは自分の胸さえも晒しながらリトにそう語りかける。その姿に釘づけにされてしまったリトは、己の頭上から頭を一突きにしようと狙うダークネスの髪の毛が変身(トランス)した刃に気づいていなかった。

 

「伏せろ! ってか数秒潜れリト!!」

 

その時上空からそんな声が聞こえ、我に返ったリトは咄嗟にプールに潜る。直後バギンッという金属が当たったような音が水面から聞こえ、その音が消えると共にぶはっと声を上げてプールから上がる。

さっきまで目の前にいたダークネスの姿が消えていた。いや、そんな事よりもさっきの声は――

 

「炎佐!!!」

 

「リト! お前何してんだよこんなところで!?」

 

「俺が聞きてえわ!」

 

助けに来てくれた親友の姿にリトが歓声を上げ、続いて炎佐のツッコミにはそう叫んで返す。しかしそれはどうでもいいのか、彼はダークネスを睨みつけていた。ダークネスと同じくプールの水面に立つ彼は足元の水を凍らせて足場にしつつ、右手に握った刀は煌々と赤く輝く刃を伸ばしてダークネスへと向けられていた。

 

「一体何がなんだかよく分からんが……ネメシス! お前性懲りもなく、今度はヤミちゃんに化けて何企んでやがる!?」

 

その言葉にその場の空気が凍った。

 

「……おい、氷炎のエンザ。失礼だな、私はここにいるぞ」

 

「……え?」

 

ネメシスが不服そうなジト目を見せながら申し立て、エンザもついネメシスの姿を目で追って確認する。そしてネメシスを見てぎょっとした顔を見せた後、再びダークネスの方に目を向けた。

 

「は!? 嘘だろ!? じゃあこいつ何!? ヤミちゃんのそっくりさん!?」

 

どうやら完全にネメシスがヤミに化けてリトにちょっかい出しているものだと思い込んでいたらしい。しかしヤミがプールにいないのに気づいていないのか、気づいてるにしてもヤミがリトに対して彼が問題行動を起こしていない状態で手を出すはずがないと思い込み信じている辺りは彼の人の好さが表れていた。

 

「エ、エンザ! それが大変なんだ!」

「ネメシスの策略で、ヤミさんの中のダークネスが解放されてしまったんです!」

 

ナナとモモが簡潔に状況を伝え、ネメシスはニヤニヤと笑う。その反応からナナとモモの言葉は事実だと捉え、エンザは再びダークネスを見据えた。

 

「なるほど、そういう事か。ようやく状況が掴めたぜ」

 

「分かったところで、あなたに何が出来るというのですか? エンザ」

 

やっと状況が把握できたエンザに対し、ダークネスは冷たく笑いながらそう返答。と思うと彼の足元の水から女子生徒達を捕まえているのと同じ水の手が伸び、エンザの両手両足をあっという間に捕まえて拘束した。

 

「そういえばあなたは結城リトの護衛でしたね……つまり私にとっても敵、というわけ。なら殺しておくに越したことはない」

 

ダークネスは冷たい笑みを浮かべたまま、手に鋭い爪を伸ばすような形になった右腕を振り上げる。

 

「やめろー!!!」

 

動けず回避どころか防御も不可能、このままではエンザが殺されると直感したのかリトが悲鳴に近い叫び声を上げる。

 

「安心しろって、リト」

 

だが次の瞬間、エンザがそう言うと共にジュワッと音を立てて彼を拘束していた両腕の水が蒸発。まさかの展開に驚いたのかダークネスの動きが止まった隙を見逃さなかったエンザの右ストレートがダークネスを殴り飛ばしてプールサイドのフェンスへと叩きつけた。

拳をぶつけた瞬間その先を爆発させた威力を込めたパンチのあまりの勢いにフェンスがひしゃげ、ダークネスは気を失ったようにプールサイドに尻餅をついてうつむいている。

 

「地球の水如き、一瞬で蒸発させるなり凍らせるなり出来て当然だっての」

 

呆れた様子でそう豪語してみせるエンザ。さらにダークネスがプールの水面から離れたせいで変身(トランス)のエネルギーも制御を失ったのか水の手や触手が消滅。女子生徒達はプールへと落ちていきそうになるが即座にエンザが水面に冷気を送ってプールに落ちているリトやを凍らせないように注意しながらプールを一瞬でスケートリンクへと早変わりさせて女子生徒達を氷の上に落とす。

 

「ドクター・ルナティーク! 大丈夫ですか!?」

 

「あ、はっ……」

 

水に弄ばれたティアーユがやけに色気の感じる表情になっており、エンザが呼びかけるがそんな感じで反応できず、むしろそんな色気のある表情&はだけた胸や肢体を見たエンザが恥ずかしくなったのか逆に目を逸らしてしまう。

 

「皆は今の内に逃げてください!」

「おいリト、大丈夫か?」

 

モモが女子生徒に避難を呼び掛け、ナナが凍っているスケートリンクに一つ空いた穴からリトを引っ張り上げる。

 

「わ、悪い。助かったよナナ……」

 

「おう」

 

ぜえぜえと息が荒く、プールに落ちた際に水を飲んだのかげほっげほっと咳をする。同時にスケートリンクと化したプールに放り込まれていて冷えたのかブルブルと震えるリトにナナは短く返し、エンザが警戒しつつその合間に熱風を放ってリトを温めていた。

 

「やった……んですか?」

 

「油断するな、モモ」

 

モモの呟きにエンザはそう返し、むしろ警戒を強める。

 

「ふふ、うふふふふ……」

 

そしてダークネスは今までフリーズしていた機械が再起動を行ったように、無駄のない動きで起き上がると相変わらず光のない目でエンザ達を見据えた。その不気味な笑顔を見たエンザも頭を戦闘モードに切り替え直し、改めて武器を構えるのであった。




全くネタが思いつきませんでした……どうにか原作通りのプールでのどたばたにエンザを放り込む事には成功したけれども。
個人的にはもうちょいエンザ×ティアーユのラブコメを入れたかったんだけど、そっちを重視したら「お前目の前にかつてない強敵いるのに何イチャイチャしてんだよ」って冷たい視線を向けなければならないのでエンザはダークネスに相対する戦士モードのシリアスを優先しました。
ラブコメはこのシリアスが終わった後に(ネタが思いついたら)書こう。

次回は本格的なエンザVSダークネスヤミを予定。この辺に関してはオリジナル部分は浮かんでるので比較的早く書けると思います……書けるといいなぁ。(願望)
まあ逆に言えば実はこのダークネス編、そこしか思いついてないんだからそこ以外は難産になると思うんだけども。
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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