ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二十話 オレンジガールとサムライガール、恋の鞘当て?

「ふんふふんふふ~ん♪」

 

ある休日、朝食が終わった頃。美柑はカチャカチャという食器同士が当たる音をBGMに食器を洗いながら鼻歌を歌っていた。

 

「まう~」

 

「ん?」

 

と、セリーヌがとてとてと歩き寄ってくる。その手には着信を示す音楽を鳴らしながら振動する美柑の携帯電話が置かれ、美柑へと差し出されていた。

 

「あ。ありがと、セリーヌ」

 

手近にあった乾いた布巾で手を拭いて水気を取り、セリーヌから携帯電話を受け取って相手を確認する。

 

「凜さん?」

 

最近よく電話が来るけど、立て続けなんて珍しいなぁと思いながら美柑は電話に出る。

 

[み、美柑か?……すまない、相談があるのだが……]

 

「相談?」

 

[ああ。頼めるのは君しかいないんだ……頼む]

 

電話の向こうからなんだか切羽詰まっているように聞こえる凜の声。美柑もただごとではないのかもしれないと思い、凜の頼みを了承。洗い物が終われば暇になるからとこの後すぐ公園で待ち合わせをするのであった。

 

 

 

 

 

「来てもらってすまないな、美柑」

 

「いえ、私で力になれるなら」

 

美柑がやってきたのは公園のベンチ。既に待っていた凜は近くの自動販売機で買ったオレンジジュースを美柑に渡しながら、突然の事に時間を割いてくれたことにお礼を言い、それに対し美柑は自分で力になれるならと返す。凜も薄く微笑んでありがとう、と答えて美柑に隣に座り、自分の分の飲料水であるソーダを握った。

 

「じ、実は……その……だな……」

 

いざ言おうとしても切り出しにくいのかどうにも歯切れが悪く、しかし美柑は急かすような事をせずに待とうとオレンジジュースを飲み始める。

 

「す、好きな人が出来たんだ」

 

「ぶっふー!!!」

 

しかし思った以上にすぐに切り出され、しかも衝撃的な告白に美柑はジュースを吹くのであった。

 

「けほっえほっ!……り、凜さん、す、好きな人って……えぇぇっ!?」

 

実は憧れの相手である凜から恋愛相談を受ける事になってしまった美柑は僅かに咳き込みつつも驚きに目を白黒させながら凜を見る。

 

「!」

 

その彼女の顔は真っ赤に染まっており、冗談を言っているのではないと美柑は直感した。すると凜が困惑した様子で美柑を見る。

 

「そ、そんなに驚かれる程か?」

 

「あ、いや、その……た、確かにびっくりしましたけど……でも、凜さんも女性ですし、うん。頑張ってください! 私、応援します!」

 

困惑する凜に対し美柑は確かにクールビューティな凜から恋愛相談を持ち掛けられたことに最初は驚いたと認めつつも、凜も女性なんだから恋をしたっておかしくはないと彼女を勇気づける。

 

「あの、それで……相手はどんな方なんですか? やっぱりクラスの人とかですか? それとも、もしかしてどこかのお坊ちゃんとか……」

 

普通の女子高生ならクラスメイトというのが恋の相手の常道、しかし凜のことだからもしかしたらどこかの大富豪のご子息との大恋愛になるかもしれない。と美柑は妄想を働かせる。

だがそこで鼻息が荒くなっている自分に気づき、野次馬根性ではなく真摯に相談を受けなければならない立場だと自分に言い聞かせながら、落ち着こうと再びジュースを飲み始める。

 

「その……君もよく知っている……氷崎炎佐なんだ」

 

「ぶっふー!!!」

 

そしてさらなる衝撃的な告白に再びジュースを噴き出す羽目に陥るのであった。

 

「み、美柑!? さっきからどうしたんだ!? 具合が悪いなら無理をせずともまた後日……」

 

さっきからジュースを飲んでは噴き出すという奇行に走る美柑に、その原因を自分が作っているとは知らない凜がおろおろしながら美柑を心配する。

 

「凜さぁぁぁん!!!」

 

「!?」

 

と、美柑は凜の胸倉を掴みあげた。心なしかその目には涙が溜まっている。

 

「な、なんで炎佐さんなんですか!? リトなら分かる……いやそっちもそっちでツッコミどころ満載なんですけどどうして炎佐さんの事を好きになっちゃったんですかぁ!!??」

 

「み、みみみ美柑!? な、何がどうしたというんだ!?」

 

どこにでもいる普通の小学六年生女子になすすべなくがっくんがっくん揺さぶられる武闘派系女子高生という変にシュールな光景がしばらく繰り広げられるのであった。

 

「……と、取り乱しました……」

 

「ああ、なんだかよく分からないが。気にしないでくれ」

 

しばらくの後やっと冷静さを取り戻した美柑は面目なさそうにうつむき、凜は気にするなと答えてお代わりのオレンジジュースを美柑に渡す。結局一本目はほとんど噴いてしまい、公園のグラウンドに打ち水のように撒かれる結果になっていた。その内ジュースに含まれていた糖分を目当てに蟻が殺到する事だろう。

 

「そ、それで……どうして凜さんはその……炎佐さんを好きに?」

 

「ああ。実は美柑も知っているだろうが、前に結城リトと氷崎炎佐に手伝いを頼んだことがあるだろう?」

 

「ああ、はい。その節はすみません、リトがご迷惑をおかけしませんでしたか?」

 

「いや、そんな事は……まあ、ないとは言い切れないが……」

 

美柑は前にそんな事があったなと思いつつ、リトが迷惑をかけなかったかと質問。それに対し凜は遠い目を見せた。が、すぐにごほんと息をついて誤魔化す。

 

「まあ、それはいい。実はその時、何やら不思議な事が起きてな……気がつけば書斎の本棚とその中にあった本が微塵切り、庭に植えてあった樹や植物、建ててあったモニュメントがボロボロに斬り刻まれていたんだ」

 

「それだけ聞くと何が起きたのかさっぱり分かんないですね」

 

凜は腕組みをしながら説明、美柑が半目になってツッコミを入れる。

 

「どうやら私が何か宇宙生物に寄生されたようでな、その結果だそうだ」

 

「だ、大丈夫だったんですか!? ってかリト! そんな大変な事に巻き込まれて黙ってたなんて!!」

 

当事者故に事件の概要だけは聞いていたらしく、しかしちゃんとした理解は出来ていないのかふわふわとした説明をする凜に、宇宙生物に寄生されていたなんてただ事ではない事件に美柑が慌て、同時にそんな事に巻き込まれていた事を黙っていたリトに憤慨する。

 

「結城リトをあまり怒らないでやってくれ。きっと君を心配させたくなかったのだろう」

 

「……分かりました……それで、その事と炎佐さんと何の関係があるんですか?」

 

凜はもう終わったことで無用な心配をかけたくなかったんだ、とリトの弁護をし、美柑は渋々納得。それからその事件と炎佐に何の関係があるのかと尋ねた。すると、凜はどこか優しげな、嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「その、だな……その時の事を私はあまり覚えていないのだが……それでも、たった一つ。夢を見ていたかのようだが、不思議と確信があるんだ……あの時に私を命懸けで助けてくれたのは氷崎炎佐なんだ、と……誰かを守るべき自分を守ってくれたのは、彼なんだ。とな」

 

頬を赤らめ、儚げで、それでいて嬉しそうな微笑み。同性の美柑でさえドキリと心臓が高鳴るその美しい表情は正に恋する乙女のものだった。

 

「……ん?」

 

だが、そこで美柑は頭に疑問を浮かべる。

 

「そういえば、なんで私なんですか? 天上院先輩とか藤崎先輩とか、相談する相手なら他に……」

 

「ああ……沙姫様には悪いんだが……」

 

美柑よりも近しい、主にして親友の沙姫や同じく沙姫に仕える仲間であり親友の綾など、恋愛相談が出来るだろう相手なら他にもたくさんいるだろうに。と不思議に思う美柑だったが、その疑問の声を聞いた瞬間凜は虚ろな目で虚空を見上げた。

 

「もうあんなのはやめにしてほしい、心臓がもたない……昼食前はまだ序の口だったのだな……」

 

「な、なんかすいません……」

 

心なしか目の端からつう、と涙が零れ落ちているその表情を見た美柑は何かあったんだと瞬時に理解し、ぺこりと頭を下げて謝罪の言葉を口にした。

 

(ん~……でもなぁ……)

 

だがそこで美柑は迷う。凜の好きな人は炎佐なのだが、それは自分とて同じこと。しかも凜は控えめに言ってもそこらのモデルなんて相手にならないすらりとした、それでいて出るべき部分は出ているナイスバディ。肉体の女性らしさとしては劣る自分が真正面からぶつかったら敗北は必至である、と。

 

(でも……)

 

しかし美柑は迷う。尊敬する相手が恥を忍んでこうまでお願いしてきて、しかも知らなかったとはいえ一度は「応援する」と約束した以上、無下に扱うのはどうだろうか、と。

 

(……ええい、ままよ!)

 

うん、と美柑は心の中で頷き、覚悟を決めたのであった。

 

 

 

 

 

凜から相談を受けた次の休日。美柑は近くのデパートへとやってきていた。

 

「というわけで、炎佐さん。九条先輩とのお買い物へのお付き合い、よろしくお願いしますね?」

 

「「え?」」

 

ただし、炎佐と凜を引き連れてなのだが。なおその二人は展開についていけてないのか呆然としている。

 

「あのですね、九条先輩が天条院先輩に内緒でプレゼントを買いたいそうで相談を受けたんです」

 

「そ、そうそう! そうなんだ!」

 

「ああ、そうなんだ……で、なんで俺?」

 

美柑の口から出まかせに凜が話を合わせ、しかし炎佐は何故自分まで呼ばれるのかと尋ね返す。流石に女子高生(しかも世界有数のお嬢様)へのプレゼントを買うにあたってアドバイスなんて出来るはずもない。そんな彼に対し美柑はにこっと微笑みを返した。

 

「荷物持ち、よろしくお願いしますね?」

 

「……了解」

 

美柑のにこっと笑顔での言葉に炎佐も苦笑しつつ了解の意を返し、彼らはデパートに足を踏み入れるのであった。

 

「それで、プレゼントって言っても何を買う予定なんですか?」

 

「あ、ああ、それはその……」

 

「とりあえずデパートを見て回って、それから考えようかなって」

 

「そ、そうそう。それだ」

 

デパートの中を歩きつつ炎佐は今回の企画提案者である凜に買うものの目星はつけているのかを尋ね、それに凜は目を泳がせるが美柑がすぐさまフォローを入れる。その返答に炎佐は少し困ったように頭をかいた。

 

「なんか時間かかりそうですね……まあ、九条先輩にはいつもお世話になってるし。これくらいならいくらでも力になりますが」

 

「あ、ああ……ありがとう」

 

炎佐は時間がかかりそうだとぼやきつつも凜の力になると答え、凜は彼を騙していることにやや良心を痛ませつつお礼を返すのであった。

 

「じゃあまずそこで服でも見ましょうか! ついでだから私達も気に入ったのがあったら買いましょう!」

 

「ちゃっかりしてるな……」

 

美柑はさっそくというように洋服売り場を指差し、荷物持ちとして招集された以上、今回の本命と聞いている沙姫へのプレゼント以外の物も持たされる未来が確定している炎佐はしかし苦情を言うつもりもなさそうな様子で苦笑していた。

それから炎佐は女性が服を選ぶところをまじまじ見つめるわけにもいかないからと彼女らから離れ、美柑がふんふんと鼻歌交じりに服を物色している横に立つ凜がこっそりと美柑に声をかける。

 

「お、おい美柑。これは一体……」

 

「え? んふふ、やっぱりいつもと違う自分を見てもらうなら服装を変えるのが手っ取り早いじゃないですか」

 

「そ、それはそうだが……」

 

「ご安心ください! しっかりコーディネートしてみせますから!」

 

ぐっ、とサムズアップをしながら凜のコーディネートを任せるよう言う美柑。男物の動きやすい服を好み、こういう可愛い服は似合わないと敬遠していた(とはいえこの前の炎佐とのデート以来多少は興味を持っている)凜はそういう着こなしはよく分からないため自信満々の美柑に任せることにする。

 

「あれ? なんでこんなとこにナース服が?」

 

「ここはどういう店なんだ!?」

 

しかし店のラインナップ的な意味で一途の不安が押し寄せるのであった。

 

 

 

 

 

「……しかし、どうにも居づらいな」

 

服屋の入り口付近で炎佐が居心地悪そうに呟いた。この服は女物をメインに取り扱っており、メインターゲットも女性と思われる。ごく一部女連れの男性もいるにはいるが客の大半は女性であり、男性ただ一人でいる炎佐はどうにも目立っているような気がしてならない。

 

「炎佐さん!」

 

「ああ、美柑ちゃん。どうかしたの?」

 

すると美柑がとててっと軽やかな足取りで駆け寄り、どうかしたのかと声をかけてきた炎佐に対しむふふぅと笑みを向ける。

 

「凜さんが今試着中でして、炎佐さんにも凜さんの着た服を見ていただこうかと思いまして」

 

「俺が?」

 

「ええ、せっかくですし」

 

にししと笑う美柑に炎佐も微笑を浮かべながら頷き、炎佐は美柑の案内で凜のいる試着室前へと向かった。

 

 

 

 

 

「りーんさーん。炎佐さん連れてきましたよー」

 

「み……美柑……」

 

美柑の明るい声に対し、凜は試着室からカーテンは開けないまま顔だけぴょこっと出して美柑を呼ぶ。

 

「ほ、本当にこれを着るのか?……」

 

「ナース服やメイド服よりマシじゃないですかー」

 

「当たり前だ!!! し、しかしこれは……ろ、露出が多すぎなのでは……」

 

凜の心なしか涙目での言葉に美柑が訳の分からない例えを引き合いに出し、凜がツッコミを入れた後に困惑というか迷うような様子で呟く。

 

「もう、しょうがないなぁ」

 

すると美柑は心なしか黒い笑みを浮かべて凜のいる試着室に入っていく。

 

「み、美柑? なにを……ひゃあ!? な、何をする!?」

 

「時間がかかりそうですし、お手伝いしますね……む、やっぱり凜さんおっぱい大きいな。それにウエストはこんなにくびれて……」

 

「み、美柑、やめ、くすぐったい……」

 

試着室の中で美柑と凜がもみくちゃになっているようで、美柑のどこか嫉妬したような言葉と抵抗できない様子の凜の声が聞こえ、カーテンが揺れる。

 

「……俺は何も聞いていない」

 

とりあえず炎佐は二人の揉み合いを試着室のカーテンを挟んで聞きながら現実逃避を始めたのであった。

 

 

 

 

 

「と、いうわけでっ! 炎佐さん、凜さんのお着替え終わりましたっ!」

 

「み、美柑!! まだ心の準備がひにゃあああああ!!!」

 

数分後、美柑の元気いっぱいな声と凜の悲鳴が重なり合う。ちなみに凜の台詞が途中から悲鳴に変化したのはその辺りで美柑が有無を言わさず試着室のカーテンを開き、無理矢理に凜の試着後の姿をお披露目したからである。今は必死にかがんで美柑の後ろに隠れてしまっている。

 

「ほらほら凜さん、しっかり見てもらわないと?」

 

「み、美柑……笑顔がどこか黒いんだが……」

 

「気のせいです♪」

 

心なしか黒い笑顔を浮かべている美柑に凜がツッコミを入れるが、美柑は黒く嗜虐的な笑みを浮かべてそれを否定。涙目になった凜は諦めたのかゆっくりと立ち上がった。

 

「わ、笑いたければ、笑うがいい……」

 

羞恥に顔を真っ赤にし、目を逸らして口を尖らせながらそう呟く凜の格好はノースリーブの薄手のシャツ、しかもへそを出すようなファッションのそれは彼女の大きく膨らんだ胸と、相反して引き締まったウエストを強調している。さらに下はホットパンツで、こちらもカモシカのように細長い美脚を惜しげもなく晒していた。

 

「……」

 

凜のスポーティかつセクシーな肢体の魅力を存分に発揮していると言っても過言ではない姿を見た炎佐がぽかーんとした顔になってしまうのも無理はない、ということにしておこう。

 

「……な、何か言ってくれないか? に、似合わないなら似合わないでいい……」

 

「あ、いや、そんな……と、とても似合ってます。その……き、綺麗すぎて、なんだか照れる……」

 

「き、綺麗……そうか……」

 

照れくさそうに評価を促す凜に対し、炎佐は頬を赤くしてこちらも照れくさそうに似合っていると評価。それを聞いた凜は恥ずかしそうにだが嬉しそうにはにかんだ。

 

(……なにこれ)

 

どこの初々しいカップルだよ、と美柑は心中でツッコミを入れた。無論それをやったのは彼女自身なのだが、尊敬する凜を応援しているとはいえ自分が想いを寄せる相手がこうなるのはやっぱりどこか面白くないと、その辺割り切れない複雑な乙女心を持つ美柑なのであった。

 

「えーと、凜さん。どうします? ずっと試着してても迷惑ですし」

 

「あ、そ、そうだな! よし、これを貰うとしよう!」

 

美柑からの問いかけで我に返った凜は、はっとした顔になりながら炎佐に褒めてもらった服の購入を決め、試着室のカーテンを閉めると元の服に着替え直し、試着した服を購入しようと鼻歌交じりにレジカウンターに向かう。

 

(凜さんもやっぱり女の子なんだなぁ……)

 

名前の通り凜として凛々しい、かっこいい人というイメージだったが。先日といい今回といい、炎佐が関わったらすっかり恋する乙女が様になっている。と美柑は微笑ましいものを見るような目を向ける。

 

「……ん?」

 

と、美柑はふと足を止めて幾多の服をかけた商品売り場に目を向ける。まるで何かに目を奪われたように彼女の足が止まっていた。

 

「美柑?」

 

「! あ、ああ、すみません! というか気にせず行ってくれてもいいのに!」

 

美柑が足を止めたのに気づいたのか、こちらも足を止めて声をかけてくる凜に、美柑は慌てて彼女に駆け寄るのであった。

その間炎佐は店の入り口で待っていたが、その手には何か小物が入ったような袋が握られており、ぽんぽんと小さく投げ上げて暇潰しにもてあそんでいた。

 

「炎佐さーん!」

 

「あぁ、美柑ちゃん……九条先輩は?」

 

「あ、試着室に忘れ物をしたみたいで。先に行ってるようにって」

 

「そう」

 

その時駆け寄ってきた美柑に気づき、声をかけるが一緒にいたはずの凜がおらず質問。美柑が、試着室に忘れ物をしたらしいと答えると炎佐は怒らせてしまい勝手に帰られたとかそういうわけではないらしいと安堵の息をついた。

 

「すまん、待たせた」

 

そこに凜も合流。しかしその手には片手にはさっき買った露出の多いセクシー衣装が入っているらしい手提げ型の紙袋、もう片方の手には丁寧に封がされたプレゼントに使う用途の紙袋が持たれていた。

 

「九条先輩、それは?」

 

「ああ、これは美柑へのプレゼントだ」

 

「私?」

 

炎佐の質問に凜が答え、美柑が首を傾げると、凜は美柑にその紙袋を渡して「開けてみろ」と促す。それに従い紙袋を開けて中を確認した美柑は「あっ」と声を出した。

 

「これ、さっき私がいいなって思ったやつ……」

 

「それで合っていたようだな。さっきちらりと見た時に目を奪われていたから気に入ったんだと思ってな」

 

袋の中に入っていたのはオレンジ色を基調に白色を加えてチェック柄に仕立てているワンピース。先ほど凜が服を買う直前に美柑が注目していたのに気づいた凜がこっそり購入したらしく、凜は美柑の耳元に口を寄せた。

 

「その、なんだ。今日、炎佐と一緒に買い物をさせてくれたお礼だ……一応、形式上は沙姫様へのプレゼントを買うということになっているし……この後もよろしく頼む」

 

「……はい」

 

凜の照れくさそうな言葉に美柑もこくりと頷いた。

 

「なんだ、九条先輩も美柑ちゃんにプレゼントを買ったんですか」

 

するとそこに炎佐が苦笑しながら話に入る。

 

「じゃあ美柑ちゃん。九条先輩の後じゃ霞んじゃいそうだけど。これ、さっきそこの雑貨屋で買ってきたんだ」

 

そう言って炎佐が差し出すのは先ほど手慰みにぽんぽんと投げてもてあそんでいた小袋。受け取った美柑がまた中を確認する。

 

「これ……ヘアゴム?」

 

「うん。美柑ちゃんいつも髪を結んでるしさ、これなら似合うと思って」

 

炎佐が渡してきたプレゼントのヘアゴムは明るい黄色のヘアゴム。さらに小さな鈴のアクセサリーがついた可愛らしいものである。ちなみに鈴は形だけなのか振ってもからからと鈴同士がぶつかる澄んだ音色が響くだけで鈴そのものが音を出すことはないらしい。

 

「まあ、美柑ちゃんにはいつもお世話になってるしさ。遠慮せずに受け取ってよ」

 

にこり、と優しい微笑みを浮かべる炎佐に、美柑の胸がドキリと高鳴る。とその瞬間彼女は何か悪いことを考え付いた悪戯っ子のようにニヤリ、とした笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます、炎佐さん!」

 

その言葉の直後、炎佐の頬からちゅ、というリップ音が聞こえる。炎佐の頬に美柑がキスをしたためだ。

 

「……美柑ちゃん?」

 

「……お礼です」

 

いきなりの美柑の奇行に炎佐もぽかんとした声でそう問いかける。すると美柑は先ほどの悪戯っぽい笑顔のままぺろっと舌を出してそう言い捨てると心なしか赤い顔でその場を逃げるように走り去っていく。

 

「……なんだったんだ?」

 

「さあ?」

 

ぽかんとしたままでの炎佐の問いかけに、当然だが訳の分からない様子の凜も首を傾げる。と、その時凜の携帯が着信が入ったのかブルブルと震える。

 

「あ、すまない。少し外す」

 

「はい。美柑ちゃん戻ってくるかもしれないし、俺ここにいますから」

 

一言断ってから凜はその場を離れ、携帯を確認。

 

「美柑?」

 

しかしその相手はさっきまで一緒にいた美柑だった。どうやらメールらしく、凜は携帯を操作してメール画面を開き、ついさっき送られてきた何かのファイルが添付されているメールを開いた。

 

「……“負けません”?」

 

本文に書かれているのはその一言のみ。凜は不思議に思いながら、添付されていた画像ファイルを開く。

 

「?」

 

それは美柑の自撮り写真だった。まるで何かに挑戦するような不敵な、それでいて悪戯っぽい笑顔の美柑が映っている。

 

「?……!」

 

少し考えた後、凜は気づいたように頷くと苦笑を漏らす。

 

(敵に塩を送ってくれたということか……美柑は大人だな)

 

同じ男性を好きになってしまった。いや、恐らく美柑はずっと前からそうだったのだろう。それなのに文句ひとつ言わずに相談に乗り、今回のお出かけをセッティングしてくれた美柑の心の広さを凜は心の中で称える。それから凜は美柑へメールの返信を送ると携帯をしまい、炎佐の待つ先ほどの場所に戻っていくのであった。




皆様お久しぶりです。ネタが思いつかずに二ヶ月。なんとか三ヶ月になる前に投稿できました。

さて今回は美柑&凜をヒロインに添えた炎佐とのラブコメ。凜→炎佐の確定と共に炎佐→凜も相手を異性として意識する事を目標に書き上げました。いやだって、この前のデートで多少はマシになったとは思うけど炎佐の凜に対する認識の基本は「地球人にしては見所がある戦士」ですし……。(汗)

そして、最近美柑が主軸のラブコメは割と美柑はギャグ系のオチ担当になってたから今回もそうだと思った!?残念、今回は美柑の宣戦布告エンドです!……しかしまあ、二人には仲良くやってほしいと思っています。ドロドロの修羅場は正直書くのも見るのも苦手なんですよ……修羅場は修羅場でギャグチックに書かないとメンタルがもたない……。

では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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