ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第十七話 死闘!騎士VS魔剣

精神侵入(サイコダイブ)!!」

 

天上院家の庭。ブラディクスに支配され暴走している凜と、彼女の目の前に立つエンザの額に、メアの伸ばしたおさげの先端が突き刺すように接続される。そしてメアの掛け声とカッという真っ白な光と共に、エンザの意識は急速に遠のいていった。

 

 

 

 

「……ここが九条先輩の精神(ココロ)の中……やけに暗いな」

 

若干の浮遊感の後、すたっ、と地面に足がついたのを確認した後、エンザは辺りを確認しながらそう呟く。しかしその呟き通り、辺りは暗く少し先さえも視覚では判断できない。

 

「……どういう理屈かは分からないが、鎧も装備状態のようだな」

 

自分が普段の鎧状態である事を確認し、エンザは兜の左側面をタッチ。同時に彼の目を覆うようにゴーグルが出現――砂嵐や毒ガス等から目を守る他、暗い場所でも周囲を確認するための暗視ゴーグルだ――し、辺りの状況を確認する。

 

「っ!?」

 

しかしその瞬間エンザは息を飲む。凜の精神(ココロ)と説明された場所、そこには不気味な触手らしき物体が所構わず無秩序に伸びていた。そしてその最奥に、何故か全裸の凜がまるで蜘蛛の巣に囚われた蝶々のように、四肢を触手に巻き付かれて意識を失っていた。

 

「九条先輩!」

 

[なんだァテメーは?]

 

「!」

 

エンザが思わず声を上げる。その瞬間そんな不気味な声が聞こえてきた。

 

[外部からの侵入者!?……俺様以外に生体意識にアクセスできる奴がいるっての!?]

 

「お前が魔剣、いや生体兵器ブラディクスに搭載された人工知能か」

 

凜のすぐ頭上、そこに飾られるように浮いていた剣の目が開き、エンザを確認。エンザも相手がブラディクスの人工知能、すなわちブラディクスの本性だと見抜く。

 

[ク、クカカ! 面白ぇ奴だ! それを知っててここまで来るとはな!]

 

その言葉を聞いたブラディクスが面白そうに笑ったその瞬間、四方八方からブラディクスの触手が伸び、エンザの四肢を絡め取る。

 

[くひひひ、小僧! お前もそのまま取り込んで支配してやる!! 後悔しな!! 人間如きがこの俺様の所有物に手を出したことをなァ!!]

 

最初は四肢を絡め取り、エンザの動きを封じた触手。それは徐々に伸びていき、エンザの腕や足を完全に覆い尽くすと今度はエンザの身体にまで侵食していく。

 

「な、めんなぁっ!!!」

 

[なっ!?]

 

しかし次の瞬間エンザの身体がまるで爆発したように燃え上がり、ブラディクスの触手を一気に焼き尽くすと再び地面に着地する。

 

[こ、こいつ……]

 

「九条先輩はお前の所有物なんかじゃない! 九条先輩を支配させるなんて、絶対にさせない!!」

 

自分の触手が一気に燃えていく光景にブラディクスが怯むと、エンザはそう吼える。炎によって辺りが照らし出されたため不要となった暗視ゴーグルが解除され、その燃え盛る炎のように赤い瞳がブラディクスを射抜いていた。

 

[クク……そうか、どうやらお前はこいつの知り合いみたいだな……]

 

すると、ブラディクスは何か面白い事を思いついたように目を細めた。恐らく口があるならばその口は邪悪に歪められていただろう、そう確信する目をしている。

 

「ぅ……」

 

「九条先輩!」

 

突如凜の意識が戻り、彼女は目を開いて辺りをきょろきょろと見回すとエンザの呼び声を聞き、彼に目を向ける。

 

「ひ、氷崎炎佐!? こ、ここは何だ!? 私は一体……」

 

凜はエンザを見て驚いたように声をあげた後再び辺りを見回し、そこで自分が全裸になっているのを見て顔を赤くする。

 

[お前を目の前で、こいつの身体を使って斬り殺せば、こいつの精神(ココロ)はぶっ壊れる。そうすればもうこいつの意識を抑え込む必要なんかねえ、こいつの身体は完全に俺様が支配できる!]

 

「な、何者だ!?」

 

ブラディクスがそう叫ぶと凜も困惑気味に声を上げる。だがその時ブラディクスの身体が凜へと降りていき、彼女の額と接触した。

 

「な、え……きゃああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

するとブラディクスから触手が伸びてまるで兜のように凜の頭を覆う。凜の悲鳴が響き渡るがブラディクスは構うことなく、さらに凜の四肢を拘束していた触手も伸び、まるで繭のように凜の身体を覆い隠した。

そしてその繭が地面に降りた後思うと一気にほどけていき、繭の中からは全身をくまなく鎧で覆い隠した凜が、やはり頭部全体を覆った兜の内側で、唯一露出している瞳に困惑の光を宿しながら姿を現した。最後に、凜の兜の額にあるブラディクスの瞳がギロリ、と開かれるとエンザを見据える。

 

「か、身体が、いう事を聞かない……」

[さあ、大人しく殺されやがれえええェェェェッ!!!]

「やめろおおおぉぉぉぉ!!!」

 

ブラディクスが叫ぶと同時、凜は地面を蹴って加速。凜は悲鳴を上げながらも、彼女の身体は右手に握っていた魔剣ブラディクスを振り上げてエンザに襲い掛かった。

 

「させん!」

 

エンザは振り下ろされた魔剣を右腕で剣の側面を打ち受け流しつつ、身体を回転させて凜の身体を正面に捉えながら左手に剣の柄を握り、バックステップを踏みながら右手に持ち替える。直後その剣の柄に炎のように赤い刃が具現、それを横薙ぎに振るうと共に爆炎が舞い散りブラディクスを牽制する。

 

[ひゃははははは!!!]

「いやああぁぁぁ!!!」

 

しかしブラディクスは爆炎に怯むことなく剣を振るい、無数の衝撃波が発生して炎をかき消すと凜の悲鳴をバックコーラスにしながらエンザ目掛けて突進して魔剣を振り下ろす。それをエンザは己の刀で受け止め鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

[甘ェ!]

 

「ぐっ!?」

 

鍔迫り合いに持ち込んだ瞬間、ブラディクスは魔剣の柄で打撃を決める。それにエンザが怯んだ一瞬の隙をついてさらに前蹴りで蹴り飛ばした。

 

「がぁ!?」

 

[終わりだ!!]

 

威力のある前蹴りの勢いに地面を転がるエンザ。それ目掛けてブラディクスは魔剣を振るい、空を切った斬撃は衝撃波となって四方八方からエンザへと襲い掛かる。

 

「ちぃ!」

 

咄嗟にブリザド星人の力を解放したエンザが左手を突き出すと氷の盾が目の前に完成、衝撃波を防ぐ。しかし無数の衝撃波の前に氷は次々と削られ、ついに衝撃波がエンザへと届いた。

 

「いやあああぁぁぁぁっ!!!」

 

凜の悲痛な声が響き渡る。その目にはエンザが未だ数多く残っている衝撃波に鎧を深い傷跡を残され、鎧で守り切れなかった身体を斬り裂かれ鮮血を飛ばす光景が、目を逸らす事も、目をつぶる事さえ許されず映し出された。

 

「頼む……いっそ、殺してくれ……」

 

いう事を聞かない身体が勝手に動き、エンザを殺そうとしている。その現実の前に凜は押し潰されそうになっており、彼女は光が消え始めた目から涙を零しながら、虚ろにそう呟いていた。

 

[キヒヒ、予想通り。こいつを殺せばこの女の精神(ココロ)はぶっ壊れる……]

 

その呟きを聞いたブラディクスも、彼女の精神を壊す方法が間違ってないと笑いつつ、[お前が弱いせいであの男は殺される]と凜の精神をさらに甚振る言葉を投げつけていく。

 

 

 

「流石に、強い……」

 

一方エンザも、辛うじて急所は避けたものの四方八方からの斬撃をかわしきる事が出来ず、鎧には深い傷跡が残ってボロボロ、突き出していた左腕や頬がところどころ斬られて血が流れて倒れていた。

 

「っ!?」

 

その時、彼の頭に何かが流れ込んできた。そこはとても広い家、その庭にある花畑だ。

 

「あなた誰?」

 

自分(エンザ)にかけてくる声。違う、たしかに目の前の少女――くるくると巻いた髪やロングヘアが似合う綺麗な少女は自分に声をかけてきている。しかし、自分(エンザ)にではない。

 

「執事長、九条戒の娘、九条凜です。今日から沙姫様にお仕えする事になりました」

 

「そう」

 

彼女(沙姫)は、自分()に声をかけていた。凜の挨拶に沙姫は可愛らしい、それでいて優雅な微笑みを向ける。

 

「はい! これあげる」

 

そう言って沙姫は、凜に花で出来た首飾りを渡し、彼女にかけてあげる。

 

「しっかり私を守ってね、凜!」

 

「はい……」

 

沙姫の言葉に、凜が肯定の言葉を返すのを、エンザは聞く。これは凜の思い出、その記憶。彼女が守るべき相手であり、慕い、心から想う友達の記憶。

 

 

 

[ほう]

 

ブラディクスが嘲笑の声を出す。立ち上がったエンザは傷だらけの身体から熱を放出するかのように煙を噴き出しており、その真っ赤な目は自分を強く睨みつけていた。

 

「おおおぉぉぉぉっ!!!」

 

[自棄になったか!?]

 

ダンッと地面を蹴り、エンザは咆哮しながらブラディクス目掛けて突進する。それを見たブラディクスは虚空目掛けて魔剣を振るい、無数の衝撃波がエンザをなます切りにしようと襲い掛かる。

 

「はああぁぁぁっ!!」

 

[な!?]

 

しかしエンザはその斬撃を刀を振るって防ぎ、防ぎきれない斬撃も致命傷にならないようにかわしながら、傷だらけになりつつもスピードを緩めずに突進してきていた。これで殺すつもりだったのだろうブラディクスもかわし、防がれて向かってこられるとは思ってなかったのか驚きに固まった直後、エンザが振り下ろしてきた刀を辛うじて魔剣で受け止める。

 

「ああ、もういい……お前を殺すくらいなら、いっそお前の手で私を殺してくれ……」

 

凜はもはや心が折れているのか、虚ろな目から涙を流し、エンザに自分を殺せと懇願していた。

 

「……目を覚ませ、九条凛!!」

 

その凜に向け、エンザは鍔迫り合いの状態から凜に呼びかけた。

 

「あなたはそんな弱い人間ではない! あなたの心の強さを俺は知っている! 幼い頃から天上院先輩や藤崎先輩を守ってきた強さを、俺は知っている!!」

 

「っ!」

 

エンザからの言葉を聞き、凜の瞳に光が戻る。天上院沙姫、自分が心から仕える存在。それはただの家の関係ではない。そう、九条家と天上院家、そんなものはきっかけに過ぎない。自分は、沙姫様だからずっとお守りしたいと思った。それを彼女は思い出す。

 

[テメエ、よくも! もうすぐそいつの精神(ココロ)をぶっ壊せたってのに、死にぞこないがぁ!!]

 

「黙れ!! 九条先輩の心を弄び、悲しませた事、絶対に許さん!!」

 

ブラディクスの怒号に対してもエンザは強く吼え、その言葉にブラディクスが怯むと同時、凜の心が高鳴る。

 

(私は、守る側の人間だ……そんな私を、この男は守ろうと……)

 

魔剣が弾かれ、エンザは素早く刀を振り上げる。

 

「これで終わりだ、ブラディクス!!!」

 

振り下ろされる高熱の刃、それは凜の顔全体を覆っていた兜の額、ブラディクスの本体である目を確実に捉えていた。

 

[ギャアアアアァァァァァッ!!!]

 

ブラディクスが痛みに叫ぶと同時、凜の身体を覆い隠していた触手の鎧も形を維持できずに崩れていく。エンザはその鎧の中に左腕を突っ込むと一気に凜を引きはがし、同時に右手に握っていた剣を懐に戻すと凜を抱きかかえてその場を離れる。

 

[グ、ゾ……テメエエエェェェェッ!!!]

 

ブラディクスが怒りに吼え、逃がさんとばかりに触手を伸ばしてエンザを捕らえようとする。

 

「さっすが兄上、上出来だよ♪」

 

「メア!?」

 

しかしその時、エンザと触手の間にメア――やはり何故か全裸だ――が姿を現す。その姿にエンザが驚いたのもつかの間、ブラディクスの触手がメアへと巻き付いた。今度は彼女を支配する気だ。そう直感したエンザが凜を抱えたまま助けに戻ろうとした、その時だった。

 

「……ムダだよ。私の精神(ココロ)を侵食しようだなんてさ」

 

そう呟いたメアのおさげ、それがまるで闇のように黒く染まっているように、エンザの目には見えた。

 

 

 

 

「ギイイイィィィィッ!!!」

 

現実世界、ブラディクスが突如奇声を上げ、姿がぶれていく。

 

(なん、だ、コイツ!!……逆にオレを侵食……)

 

このままでは自分の方が支配(ジャック)される。そう直感したブラディクスは彼女と直接接続している九条凛の身体から接続を解除、彼女の手から離れる。

 

「剣が……」

「離れた!!」

 

モモが驚いたように呟き、ナナがよっしゃとガッツポーズを取りながら叫ぶ。

 

[くそっ!! 久々に波長の合う肉体(ボディ)見つけたのによォ!!]

 

ブラディクスはまるで節足動物のような細い足を生やし、逃げ始める。

 

[こうなりゃ街へ逃げて他の肉体(ボディ)を……]

 

まだ諦めていないブラディクスは、この場を逃げ出して街に行こうと画策する。その頭上から両腕を巨大な金属製のナックルへと変身(トランス)させたヤミが狙いを定める。

 

「ヤミちゃん! そいつを捕まえて上空へ放り投げて!」

 

「! 了解しました」

 

そこにエンザから飛んだ指示をヤミは即座に了解。己の髪を巨大な手へと変身(トランス)させると逃げ出そうとしているブラディクスを掴みあげ、上空へと投げ飛ばす。飛行能力のないブラディクスは移動用に生やした細い足をじたばたさせることしか出来ない。

 

[ギッ、グッ!]

 

じたばたと悪あがきをしているブラディクスは視線を下に向け、見てしまう。エンザが竜を模したフルフェイスの鎧姿となり、その右手に炎、左手に氷、相反する力を生み出してそれを重ねるようにスパークさせている光景を。そこから生み出される「無」の力を。そして、それをまるで弓を引くように構え、こちらに向けている姿を。

 

[ヤ、ヤ、メッ――]

「消えろ」

 

ブラディクスが命乞いのように声を上げようとするが、エンザは冷たい声でそれを遮る。フルフェイスのヘルメットのせいで顔が見えない。しかし、魔剣は燃えるような殺気を宿した冷たい瞳を幻視する。直後消滅の力そのものと言っても過言ではない光の矢が射出された。

 

極大消滅呪文(メドローア)

[まだだ! まだ足りない! まだ俺は血が欲し――]

 

断末魔の悲鳴が最後まで響くこともなく、ブラディクスはこの世から消滅するのであった。

 

「ぐ……」

 

それを確認した後、エンザは膝をつく。バーストモードの消耗とパワードスーツによる体力消費、さらに精神世界でのダメージも現実世界にある程度反映されてしまうのか。彼の息はとても荒くなっていた。

 

「エンザ! 大丈夫か!?」

 

「あ、ああ……」

 

「お、お前もだけど、九条先輩も!」

 

「あ……」

 

ナナの呼びかけにエンザも頷いた後、はっとした顔で凜を見る。メアの力によって現実世界に引き戻された直後、倒れた凜を抱きかかえてすぐさま地面に寝かせたものの、安否確認をする間もなくパワードスーツを展開、バーストモードを解放していた。まだ凜の安否は確認できておらず、エンザは凜の方を見る。彼女は完全に意識を失い、ぐったりとした様子で地面に横たわっていた。なお当然ながらメイド服姿である。

 

「心配ないよ」

 

すると、天使のような真っ白な羽を生やしたメアが空中から地面に降り立った。

 

「ブラディクスの支配からは解放されてるから、じきに目を覚ますよ。兄上のお手柄だね♪」

 

「ああ……ところでメア、お前……」

 

「ん?」

 

メアの言葉にエンザは頷いた後、何か気になったのかメアに呼びかける。それにメアが可愛らしく小首を傾げ、その時にオレンジ色の髪の毛を結んだおさげがふわっと揺れる。

 

「……いや、なんでもない……」

 

メアのおさげの先が黒色に染まっていたような。気のせいだったのか、あるいは影で染まったように見えただけなのだろうか。そう思い、エンザは口をつぐむのであった。

 

 

 

「……出づらい」

 

彼らのいる近くの木の影、そこでは髑髏を模した鎧姿のザスティンが困ったように腕を組んで胡坐をかいていた。ブワッツから地球への危険物流入の報告を受け、その流入先が天上院家であるとまで聞いたのはいいが、やってきた時には既に全てが終わっていたようである。

 

(しかし、気になるのはあの赤毛の娘……遠目に見ただけだが、まるで金色の闇のような変身(トランス)能力を……モモ様やナナ様のご友人、か? 素性を隠した異星人など、この星では珍しくもないが……エンザも仲良くしているようだし、害はないのか?)

 

「ザスティン様ー! お待ちになってーっ!」

 

するとそこに沙姫が黄色い声をあげながら駆け寄ってきた。

 

「えっ? ザスティンさん!?」

 

「あっ!」

 

その呼びかけでモモとナナも木の影に隠れていたザスティンに気づく。

 

「お前っ!! 今頃来てどうすんだこの役立たずっ!!」

 

「ひええっ、申し訳ありませーん!」

 

直後ナナの怒号がザスティンを射抜き、ザスティンも間に合わなかったのは事実のため謝罪の声を出すしかできなかったのであった。

 

 

 

 

 

[はああぁぁぁっ!? ブラディクスを消滅させたぁ!? 破壊ではなくって!?]

 

翌日の朝。炎佐は彩南高校の人気のない廊下で昨日のブラディクス破壊作戦の結果報告をニャル子に電話で行っていた。そのニャル子はまさかの展開に電話の向こうで声をひっくり返している。

 

「あー、うん。破壊じゃどうしようもないから消滅させるという現場判断だ」

 

実際はブチギレて視界に入れたくなかったから消しただけなのだが、とりあえずそう誤魔化しておく。

 

[別に文句は言いませんけどね、そっちに一任した手前……でも物的証拠がなかったらこっちも確認と報酬の支払いが出来ないと言いますか……]

 

「ああ、それはもういいよ。ヤミちゃん達にも了解は取ってる。今回はボランティアって事で」

 

[はぁ……まあ、タダにしてくれるってんならこっちはありがたいんですけど……んじゃとりあえずそういう事でテキトーに処理しときますね]

 

「悪いな、頼む」

 

報告を終え、炎佐は通話を終えて携帯をポケットに入れる。と、彼は足音を聞き、そっちに目を向けた。

 

「や、やあ……」

 

「九条先輩、何かご用ですか?」

 

炎佐に用事があったのだろう。声をかけてきた少女――九条凛に炎佐も微笑みを浮かべながら返す。

 

「いや、実はその……君にちゃんと礼を言わねばと思ってな……」

 

「礼?……ぎ、義理堅いですね、九条先輩も。俺は何もしてないですって、ヤミちゃんがブラディクスを先輩の手から引きはがして解放したって説明したじゃないですか」

 

凜の言葉に炎佐は苦笑を浮かべながらそう、メアの精神侵入(サイコダイブ)について話さないよう全員で口裏を合わせた説明を凜に繰り返し言う。

 

「……いや」

 

しかし、それを凜は否定する。

 

「夢を……見ていた。なぜ君が本当の事を言わないのか分からないが……確信がある」

 

そう言い、凜は炎佐を真っ直ぐに見た。

 

「君だ。あの時私を守り、助けてくれたのは。だ、だからその……一応、あ……ありがとう……と」

 

続けて凜は顔を赤くしてうつむきながら、ぼそりとそうお礼の言葉を零すと「それだけだ!」と言って歩き去っていく。それに対し炎佐は頭をかきつつ、首を一度傾げると教室に戻っていくのだった。

 

「さ……沙姫様、言ってきました……」

 

「そ。スッキリしたでしょ? 言いたい事は言わなくちゃね、凜」

 

教室前に戻ってきた凜は待っていた沙姫に報告、沙姫も満足そうに微笑んで頷く。

 

「でも正直、信じがたいですわね……」

 

「……何が、でしょう?」

 

と、沙姫は綺麗な腕を優雅に組んで信じがたいと呟き、それに凜が疑問の声を返すと、彼女は悪戯っぽい笑みを凜に向ける。

 

「長い付き合いで初めてですもの……そんな表情(カオ)をするあなたを見るのは」

 

「っ……」

 

その言葉に、顔を真っ赤にしたままの凜が怯む。

 

「心配しないで! ちゃんと応援しますわ! たとえ相手があの氷崎炎佐でも!!」

 

「沙姫様ー!!!?」

 

直後、両手を祈るように組んでそう言う沙姫に凜が叫び声をあげ、彼女があたふたしながら「おっしゃる意味が……」と弁解に入ろうとするが、沙姫は「いいのよ凜、恋する気持ちは私にも痛いほど分かりますわ」とまったく聞く耳持たず、綾も「流石です、沙姫様!」と沙姫を称えるいつもの光景が繰り広げられるのであった。




今回はブラディクス編の後編。完全オリジナルでブラディクス憑依凜とガチ戦闘を行いました。エンザを殺して凜の心を壊そうとするブラディクスの陰湿さに拘ったつもりです。
でもってちょっと急転直下な感じが否めませんが凜のフラグ立ても完了。ちなみに一応恋する乙女モードを採用しましたが、実を言うと「ブラディクスから助けられたのは私が弱かったから」とブラディクスの件を戦士の強さ的な意味合いで捉えてしまい、私より強い炎佐に弟子入りするルートと最後まで迷いましたが、凜がギャグキャラに落ちかねないのでやめました。(汗)
次回は日常回を予定してるんですが……オリジナルで何か書こうかどうかと迷っているところです、ネタがないというか。凜辺りとのラブコメ回でも考えてみようかな……。
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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