ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第四話 臨海学校、肝だめし

[でねーエンちゃん。今度マジカルキョーコの撮影を行う場所、エンちゃんが住んでる町の近くの町なんだけどさ、明後日の撮影見に来ないかな? スタッフには私から言っとくからさ、関係者として近くで撮影見れるよ?]

 

「興味ないよ」

 

[そんな事言わないでさー。近くに洋菓子店があるんだし撮影終わったら一緒に食べようよー。バイトの店員がエンちゃんと同い年の高校生らしいし話合うよきっとー]

 

「無、理」

 

炎佐は電話相手――自分の従姉弟であり女子高生アイドルの霧崎恭子と話しており、彼女の撮影見学&洋菓子店デートのお誘いを炎佐はあっさりと断る。

 

[えー行こうよ行こうよー。奢るからさー]

 

「無理だよ。明日から臨海学校だもん」

 

[臨海学校!?]

 

恭子の駄々をこねているような声に炎佐がリュックサックに着替えを二泊三日分詰め込みながら言うと恭子は突然大声を出す。

 

[え? 何々どこに行くの!?]

 

「臨海学校なだけに海が近くの温泉旅館。旅の栞によると肝試しとかもやるんだってさ」

 

[いーなーいーなー]

 

「キョー姉ぇも番組の収録で色々行くでしょ?」

 

電話先では目をキラキラと輝かせていそうな声に炎佐は旅の栞を読みながら返し、恭子がいーなーと言っていると炎佐は不思議そうに目を細めながら尋ねる。それに恭子は苦笑したような空笑いを漏らす。

 

[アハハ、まあそうなんだけどそっちは仕事でしょ? 友達とそういう風に騒いでっていうのはないから……私、学校行事も仕事と重なったら参加できない事が多いしさ]

 

「なるほど。ご愁傷様」

 

[うん。だからさ、一つだけお願い]

 

恭子の言葉に炎佐は困ったような表情をしながらそう言い、恭子はそう言うと一旦言葉を切る。

 

[楽しんできてね?]

 

「うん。お土産として土産話をたくさん聞かせるよ」

 

[うん。楽しみにしてるね]

 

恭子のお願いに炎佐は優しげに微笑みながら頷き、それを聞いた恭子も、きっと電話先では満面の笑顔を浮かべているだろう嬉しげな声で返した。

 

[どーせなら、その臨海学校で彼女でも作っちゃえば――]

「お休み!!!」

 

次に聞こえてきた悪戯っぽい言葉が終わる前に炎佐は電話を切り、電源まで落とす。

 

「もう……」

 

そして彼は静かに悪態をついた後、臨海学校の準備を再開した。

 

 

それから翌日。炎佐は結城家前へとやってきていた。荷物はリュックサック一つにまとめられている。

 

「あ、おはようございます。炎佐さん」

 

「おはよ、美柑ちゃん」

 

ゴミ出しにでも行っていたのだろうか外にいた、ダークブラウンの髪を長く伸ばした可愛らしい少女が炎佐に挨拶し、炎佐も手を軽く上げて挨拶を返す。彼女の名は結城美柑、リトの妹である。

 

「リトとララちゃんは?」

 

「もうすぐ出てくると思いますよ」

 

美柑がそう言うと共にドアががちゃっという音と共に開き、リトとララが出てくる。

 

「お、炎佐。待たせて悪いな」

「おっはよーエンザー!」

 

「おはよ。じゃ、行こうか」

 

「ああ。じゃ、行ってくるぜ、美柑」

 

「行ってらっしゃーい」

 

挨拶もそこそこに三人は結城家を離れ、通学路を歩いていく。そしてその途中で炎佐はふと空を見上げた。

 

「しかし、接近していたはずの台風が突然離れるなんて不思議だよなぁ。一体何が起きたのやら」

 

その言葉にリトがびくっと身体を震わせ、半ば予想していた炎佐はため息をつくとララを見る。

 

「プリンセス、あまり無茶しないでください」

 

「えへへ~。だってリンカイガッコ行きたかったもん」

 

ため息交じりの言葉に対しララはるんるんと鼻歌を歌いながらそう返したのであった。

 

「ところで、エンザは何持ってきたんだ?」

 

「ああ、まあ二泊三日分の着替えと寝間着、あと万一旅行中にプリンセスやリトを狙う刺客が来た時のために武器を少々。まあ咎められるような外見で持ってきてないから安心してくれ」

 

「へ、へー……」

 

その次にリトがふと炎佐のリュックサックを見ながら尋ねると彼はそう返し、その言葉にリトは僅かに頬を引きつかせながらへーと呟いた。

それから彼らは学校に到着、点呼及び校長からの挨拶や諸注意を終えてから彼らはバスに乗り込み、臨海学校の目的地へと向かう。

 

「リト、炎佐、菓子食うか?」

 

「おう! サンキュー」

「ありがと、サル。お礼にグミでもどうぞ」

 

「サンキュ」

 

隣同士で座り、少し雑談していたリトと炎佐に後ろの席から顔を出した猿山がポテトチップの袋を出しながらそう尋ね、リトと炎佐はお礼を言ってポテトチップを一枚ずつ取ると噛りつき、炎佐は猿山にグミを一粒渡す。

 

「やっぱこういうのって楽しいよな」

 

「ああ」

 

リトが楽しそうに笑いながらそう言い、炎佐も同意する。少し前の方の席ではララも楽しそうに騒いでいた。

 

それから時間が過ぎてバスは旅館に到着、バスから降りた彼らは校長を先頭に旅館に入っていく。

 

「彩南高校のみなさ~ん、遠い所、よくぞいらっしゃいました~」

 

入ってきた生徒達を出迎えてきたのは女将さんや仲居さん。その女将さんの姿を見た猿山は「美人女将だ!」と騒ぎ、次に校長が女将さん向けて走っていく。

 

「高美ちゃ~ん、会いたかったよ~」

 

ハートマークを乱舞させる勢いで高美さんなる女将さんに突っ込んでいく校長。しかし高美は左拳を突き出しまるでカウンターストレートのごとく校長に拳が突き刺さり、校長はその勢いのまま倒れる。

 

「相変わらずつれないなぁ高美ちゃん」

 

「こちらが大広間でーす」

 

鼻血を噴き出して倒れている校長を無視して高美は生徒達を案内していく。

そして場所は大広間に移る。さっき鼻血を出して倒れていた校長はあっという間に復活、マイクを握っていた。

 

「えー、今日から三日間の臨海学校!! みんな、自然と大いに触れあって楽しい思い出を作ってください!! というわけで、今夜は早速恒例の肝試し大会があります! お楽しみに~!!」

 

ハイテンションでそう言う校長、と彼はマイクを投げ捨てて横の方に立っていた高美に飛びつく。

 

「ねぇー高美ちゃーんグフェッ!」

 

しかし高美はまるであしらうように校長目掛けてアッパーを叩き込み、それを受けた校長は今度は顎を跳ね上げる。気のせいか吐血していた。

 

「この臨海学校って……もしかして校長があの女将に会いたいための企画なんじゃねーか?」

 

「ありえるな……」

 

その様子を見ていたリトが呟き、猿山も頬に汗をたらしながら呟いた。それから彼らは部屋に移動――六人部屋のようだ――し、それぞれ荷物を置いて部屋に備え付けられていた浴衣に着替えると猿山が口を開く。

 

「んじゃ、さっそくフロ行くか」

 

「そうだな」

 

猿山の言葉にリトが頷き、炎佐含め残る四人も異論はないのか頷くと彼らは洗面用具をもって部屋を出ていき温泉へと歩いていく。そしてその暖簾をくぐってから猿山はへっへっへっと笑い出した。

 

「へっへっへ。お前ら、今俺達が入っている横はどうなっている?」

 

「は?」

 

「言い換えよう。今ここの横には女子が入ってる。そうなればやるこたぁ決まってるじゃねえか」

 

猿山はそう言うと二人に顔を近づける。

 

「ノ・ゾ・キだ、よ」

 

「ノゾッ――」

「馬鹿! 声がでけえ!」

 

猿山の言葉にリトは顔を真っ赤にして叫びそうになるがそれを別の男子がリトの口を押さえて押し止める。

 

「……勝手にやっててよ」

 

しかしその横で炎佐は呆れたようにため息をついて浴衣の帯をほどき、浴衣を脱ぐ。

 

「「……」」

 

「……何?」

 

と、突然猿山と、リトの口を押さえている男子が炎佐の方に注目する。と猿山がはっと我に返った様子を見せた。

 

「あ、悪い。炎佐の身体ってほれ、傷がすごいからつい目を引いちまって……」

 

「ああ……」

 

猿山の言葉に炎佐はそう漏らして自分の身体を見る。その目に映るのは身体中に刻まれている傷跡。まあ身体中に刻まれている傷跡の中で一番目立つのは鼻の上部分を通るように顔を横一筋に引いている切り傷なのだが。

 

「悪い、隠したかったんだっけか? 交通事故の傷」

 

「……いや、別に気にしてないし」

 

申し訳なさそうな猿山の謝罪の言葉――もちろん交通事故の傷というのは周りに言っている嘘なのだが――に炎佐はそう返してにこりと柔和に微笑む。と、猿山もにししと笑った。

 

「にしし、そりゃどうも。にしてもお前惜しいよなー。その傷なかったら絶対モテてるってのによ」

 

「そりゃどうも」

 

猿山は笑いながら冗談交じりにそう言い、炎佐も苦笑をしながらとりあえず褒めてくれたことにはお礼を返す。そんな感じでひとしきり笑い合ってから彼らは浴場に入った。

 

「……で、ほんとに行くんだから……」

 

頭の上には折りたたんだ手拭いを乗せて湯船に浸かりながら炎佐は呆れたように漏らす。結局猿山と男子はリトを連れて女湯を覗きに行っている。ここの温泉は高い岩山で男湯と女湯を分けているのだが逆に言えばその岩山を登り切れば桃源郷を目の当たりにできるというわけである。

 

(ま、見つかっちゃったら見つかっちゃった時、リトくらいは弁護してあげようかな……今は温泉を楽しもう)

 

しかし温泉の方を優先したいのかリト達を止めることなく彼は温泉を堪能する。それから数分ほど経つと炎佐の両隣に二人の男子が入ってきた。

 

「あ、サル。見つかった?」

 

「そうだったらここにいねぇよ」

「校長が覗きしてたみたいでさ。結局途中で戻ってきたんだ」

 

「そりゃよかった」

 

猿山は悔しそうに、リトも安心半分やはり悔しさ半分な様子で返し、それを聞いた炎佐は安心した様子で返して湯船に深く浸かり込む。その表情はほわほわ、という表現が似合うほどにとろけている。

 

「ったくお前もよー、じーさんじゃねえんだしのんびり浸かってるだけでいいのかよ? せっかくの高校生、青春を楽しまなきゃ損! だろ!?」

 

「覗きと入浴なら入浴選ぶよ~」

 

「ったくよー。この後には恒例の肝試し大会だってあるってのに、そんなんで大丈夫なのか?」

 

「大丈夫~、問題ない~。っていうかむしろ肝試し不参加で温泉入ってたい~」

 

猿山の言葉に炎佐はほわほわ状態で返し、猿山は「たっく」と悪態を叩いた。

 

「お前知らねえのか? なんとな、この肝試しでゴールしたペアは付き合うって伝説があるんだぜ」

 

今明かされる衝撃の真実、とばかりに得意気にそう言う猿山。

 

「どうでもい~」

 

しかしそれを聞いた炎佐はほわほわとした表情のまま返し、思わず猿山はずっこけてお湯の中にダイビングする。

 

「あ、サル、どうしたの? 大丈夫?」

 

「アホかー!!! この伝説に反応しねえとかお前は本当に高校生か!? 実は年齢詐称してるんじゃねえよな!? お前好きな子とかいねえの!?」

 

「好きな子?……」

 

能天気な炎佐にお湯から飛び出すように立ち上がって怒鳴り声を上げる猿山、その怒涛のツッコミの最後の言葉に炎佐はつい真顔になってそう聞き返してしまう。その脳裏によぎるのは自分の従姉弟である、この臨海学校に来る前日にも電話していた女の子。しかし炎佐はすぐに首を横に振った。

 

「いないよ」

 

「だーもー! もったいねえな! リトでさえ西連寺が好きだって言ってんのに!!」

 

「俺でさえってなんだよ!? っていうか声でけえ!!」

 

ふい、と顔を逸らしながらそう言う炎佐に猿山は髪をかきむしりながら叫び、その言葉にリトが声を上げる。その後もぎゃーぎゃーわーわーと騒がしく入浴時間が過ぎていき、いよいよ上がらないと肝試しに間に合わないという時間になってようやく炎佐は諦めて温泉を出た。ちなみにリトと猿山はのぼせそうになって一足先に温泉を出ている。

 

 

 

 

「さて、では今から肝試しのペアをくじ引きで決めまーす! 各クラス男女それぞれがくじを引き、同じ番号同士がペアでーす!!」

 

顔中ぼこぼこになっている校長がやはりハイテンションでそう言い、生徒達は順々でくじを引いていく。そして炎佐もくじを引くと開く。

 

「15番か」

 

くじの中身を見て呟き、彼はララから始めて知り合いの女子に15番のくじを持っている人が誰か知らないかと聞き込みを始める。

 

「あのぉ、氷崎君が15番?」

 

「ん?」

 

そこに声をかけてきたのはなんというか、可愛らしいものの炎佐の印象にはあまり残っていない女子。彼女が15番のくじを見せてくると炎佐はなるほどと頷いた。ちなみにその近くではリトがララに抱き付かれ、春菜が猿山に「よろしく」と挨拶していた。

 

「よろしく」

 

「あ、はい」

 

 

「では、肝だめし大会スタート!!」

 

二人もとりあえず挨拶をし合い、校長が肝だめしの開始を宣言した。それからしばらく時間が経って炎佐チームもスタートし、少しばかり進んできた時だった。

 

「お、こっちこっちー!」

 

「あ、タケちゃん!」

 

突然の呼び声に炎佐のパートナーが反応して声の方に走る。そこには炎佐と同じクラスの男子が立っており、炎佐のパートナーも彼の姿を見て嬉しそうにしている。

 

「よ、氷崎。悪いけどパートナー交換してもらって構わねえか?」

 

「ん? うん、女性陣がいいんなら別にいいよ」

 

「じゃ、そういうわけで。沢田さん、氷崎とパートナー交代ってことで」

 

「オッケー。じゃ、氷崎、よろしく」

 

事前にお願いしていたのだろう、タケちゃんと呼ばれた男子の言葉に黒髪ツインテールにメガネの女子――沢田未央はあっさり頷いて炎佐によろしくと返す。それに炎佐も頷いた後思い出したようにくじを取り出した。

 

「そうだ。これ、交換しとく?」

 

「え?」

 

「ほら、くじ見せるよう言われた時のために証拠隠滅。どうせ誰が何番引いたかなんて先生も覚えてないでしょ?」

 

炎佐は悪戯っぽく笑いながらそう言い、それにタケちゃんなる男子も笑いながら頷いた。

 

「なるほど、そこは気づいてなかったぜ。サンキュな」

 

男子二人でくじを交換して途中交代の証拠を隠滅しておく。そして二人がイチャつきながら歩き去っていくのを見届けてから炎佐は未央を見た。

 

「じゃ、沢田さん。よろしくね」

 

「うん」

 

二人はそう言って歩いて行き、肝だめしゾーンを歩いていく。が炎佐はおどかし役の従業員達がいる場所をまるで分かっているかのようにさりげなく未央をかばうように歩いていた。まあ分かっているかのようにというよりは隠れている人達の気配に気づいているためなのだが。

 

「氷崎、なんか慣れてるね……」

 

「え? ああ、うん……まあね」

 

女子をかばうように動いている炎佐に未央が驚いたように声を漏らし、炎佐は静かにそう呟くと足を止める。それに未央も足を止めた。

 

「ど、どうしたの?」

 

「え、その声……未央?」

 

「え? その声……」

 

未央が心配そうに声をかけると闇の中からそんな声が聞こえ、未央も声を漏らすと闇の中から一人の少女が出てきた。

 

「里紗!」

 

「籾岡さん、どうしたの? パートナーは?」

 

「あ~、パートナーがすっごいビビりでさ。この先のお化け見て逃げ出しちゃったのよ……で、悪いけどあたしも連れてってくれない?」

 

「別にいいよね、氷崎」

 

「うん。沢田さんがいいなら別に」

 

少女――里紗はすまなそうに笑いながらそう言い、未央が快諾した後炎佐に尋ねると彼もこくんと頷き、三人で歩いていると突然里紗がにやっと笑った。

 

「にしてもさ、氷崎もラッキーじゃん」

 

「何が?」

 

「だってさ~」

 

里紗はそう言うと彼の右腕に抱き付き、未央も理解したのか左腕に抱き付き、里紗は炎佐を覗き込むようにしてコケティッシュな笑みを彼に見せた。

 

「ほら、こ~んな美少女を両手に花だよ?」

 

「……アホですか。歩きにくいから離れてよ」

 

しかしその言葉に返すのは呆れきったような声、それに里紗はむぐっと唸って離れた。

 

「な、なかなかやるわね……」

「さっきから思ってたけど、氷崎って無害そうに見えて実は女性の扱いに慣れてる?」

 

「違うよ。こういう悪ふざけを従姉弟の姉ちゃんがよくやってくるから耐性があるだけ」

 

里紗の悔しそうな言葉と未央もさっきからさりげなくかばわれている様子から推理した言葉に炎佐は呆れたようにそう返す。

 

「さ、もう行こう」

 

そして彼がそう言い、三人一緒に暗い道を歩いていく。それから度々おどかし役が驚かしていくが炎佐は変わらずに二人をかばうようにして悠々と進んでいく。しかしその中で一名ほど「6時間かけたわしのメイクが……」と言いながらorzの体勢になっている、とても暗いオーラを背負ったおどかし役がおり、三人はそれを一体何事といわんばかりの表情で見ながら横を通り過ぎていった。

 

「なんだったんだろ、さっきの人……新種のおどかし方?」

 

「なんか自信喪失してたよね……」

 

「あはは……」

 

未央と里紗がぼそぼそと話し合い、その横で炎佐が苦笑する。と、前の方からズドドドドという凄まじい足音が聞こえ始め、炎佐は二人をかばうように前に立つ。

 

『でっ、出たああああぁぁぁぁぁっ!!!』

 

「っ!?」

 

奥の方から走ってきたのはおどかし役の方々。全員まるでお化けでもみたかのような恐怖に引きつった表情で、何人かは泣きながら炎佐達の方に走っていき、恐怖で前が見ていないのか炎佐に激突した。

 

「氷崎!? きゃっ!?」

「きゃあっ!!」

 

そしてその後ろの里紗と未央もぶつかって二人一緒に倒れ込んだ。そしておどかし役の人達も闇夜へと消え去っていく。

 

「あいててて……二人ともだいじょ……」

 

炎佐が呻き声を上げて二人に声をかける、が、そこで気づいた。彼の顔の横、今にも触れあえそうな位置に里紗と未央の顔がある。しかもおどかし役の人達にぶつかった時に咄嗟に二人を庇おうとしたのだろう広げた腕が丁度二人の胸元に当たっていた。

 

「ごっ、ごめんっ!」

 

咄嗟に飛び起きて二人から距離を取り、しかし勢いがつきすぎて尻餅をつく炎佐。と、その様子を見た未央がくすくすと笑った。

 

「なんだ、本当に純情じゃん。ね、里紗」

 

「あは、そうね。いたっ!?」

 

未央の言葉に里紗も笑いながら立ち上がろうとするがその時痛みに呻いて右足首を押さえた。

 

「ど、どうしたの!?」

 

「あ、足……捻ったみたい……」

 

「嘘!? ちょ、提灯提灯……あ、あれ!? 提灯どこ!?」

 

未央が慌てて声をかけると里紗は痛そうな声を漏らし、未央は慌てて提灯を探すが提灯が見当たらない、というか提灯の火が消えているのか辺りを照らし出しているのは空からの月明かりだけだ。

 

「……」

 

夜目と手探りで炎佐は急いで提灯を探り当て、蝋燭の火がさっきのどたばたでか消えているのを見ると二人から見えないように隠して蝋燭の先に指をあて、僅かな火を灯す。そしてにこりと笑みを浮かべて振り返った。

 

「あったよ」

 

「あ、ほんと!? 貸して! 里紗、足見せて!」

 

未央は慌てて炎佐から提灯をひったくると里紗が押さえている右足首を提灯で照らし出す。確かに彼女の足首は赤く腫れあがっていた。恐らくさっきおどかし役の人達がぶつかった時に足を変に捻ったのだろう。

 

「里紗、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だって。さ、行こ」

 

未央の心配そうな声に里紗は元気よく笑ってゆっくりと立ち上がる。しかし右足に体重をかけた時顔をしかめ、炎佐が里紗の前に立つと彼女に背を向けて跪く。

 

「ほら、乗ってよ」

 

「えっ!?」

 

「捻挫してるのに無理しちゃ駄目だよ」

 

「……」

 

炎佐の真剣な言葉に里紗は黙り、やがて諦めたのかそっと炎佐におぶさり、炎佐も立ち上がる。

 

「だ、大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。籾岡さん、体の割に軽いし」

 

「っ!?」

 

炎佐の相手を安心させようとしたのだろう笑いながらの言葉に里紗は顔を赤くすると咄嗟に彼の頭をはたく。

 

「ご、ごめん……セクハラに思ったなら勘弁して」

 

「こ、こっちこそごめん……」

 

二人は互いに顔を赤くしながら謝り合い、未央はやれやれとため息をつくと提灯を持って二人を先導、三人はしばらく歩くと神社の境内までやってくる。

 

「ゴールおめでとー!! 今年の肝だめし大会達成者、二組目は君達だ!!」

 

「二組目?」

 

「ひ、氷崎君? 里紗、どうしたの!?」

 

校長の明るい声に炎佐が呟くと先にゴールしていたらしい春菜が慌てて彼らに駆け寄る。

 

「ああ、籾岡さんが足捻挫したみたいなんだ。悪いけど薬とか包帯ない?」

 

「あ、うん! 聞いてくる!」

 

炎佐の説明に春菜は頷くとゴールで待っていた従業員達の方に走っていく。そして従業員達がこんな事もあろうかととばかりに用意していた担架に里紗を乗せて運んでいき、春菜や未央、それにララも心配なのかその後についていく。

 

「炎佐~」

 

「あ、リト……どうしたの?」

 

と、リトが炎佐に声をかけ、炎佐も首を傾げる。

 

「猿山がさ、この肝だめしで無事にゴールできたペアは付き合うジンクスがあるって言ってたじゃん?」

 

「ああ、あったねそんなの」

 

「でさ……三人、っていうか一男二女でゴールした場合どうなるんだろうな?」

 

そういうリトは暗いオーラを背負いつつ真面目に悩んでいるような様子を見せていた。

 

「さあ?」

 

しかし炎佐は興味ないとばかりにあっさり返し、それを聞いたリトはがくっと膝をつき両手も地面につける。

 

「じゃ、僕も籾岡さんが心配だしちょっとララ辺りに様子聞いてくるよ」

 

そして彼はそう言い残すとすたすたとその場を歩き去った。




さて今回は臨海学校肝だめし編。ちなみにこれには色々と案があっては書き直しを繰り返してました。一つはこの肝だめし編の合間にララやリトを狙う宇宙人と影で戦うバトル案ですが相方の少女(今回で言うとリサミオ)やおどかし役の従業員の方々全員を誤魔化すのは不可能だと判断して諦め、なら地球人の不審者なら……でもやっぱ誤魔化すのめんどくさそうだ……とバトル案を没にしてこうなりました。
ちなみにリサミオがヒロインになるかは不明です。女子のクラスメイトで今のとこ絡ませやすかったから放り込んだだけなので。
さて次回海水浴を書くかそれとも残り全部スキップしてとっとと新キャラ登場や学園祭にいかせるか……ま、後で考えるか。
では、感想はいつでも心待ちにして受け付けておりますので。それでは~。

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