ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第十四話 月の科学者との逢引

「よいしょ……」

 

彩南高校の廊下。放課後生徒達が帰っている中、先日一年B組の担任を引き継いだティアーユは明日の授業で使う資料を職員室に運んでいた。しかし資料はなかなか数があり、それを運ぶティアーユの足元はおぼつかない。

 

「きゃっ!?」

 

そしてついに彼女は足を絡ませてしまい、前方に倒れ込む。同時に資料が空中にばら撒かれた。

 

「うわっと!?」

「ひゃっ!」

 

と、思うと誰かが咄嗟にティアーユを支え、倒れることを防ぐ。

 

「大丈夫ですか、ルナティーク先生」

 

「あ、エン……氷崎君……あ、ありがとうございます」

 

ティアーユを支えた青年――炎佐が大丈夫かと声をかけると、ティアーユはほっと安心したように息を吐いて、柔らかく微笑んで炎佐にお礼を言う。

 

「ティ、ティア……」

 

「!」

 

するともう一人、やや遠慮した様子でティアーユに声をかけ、その声にティアーユが驚いたように反応する。

 

「と、飛んできたので、拾っただけです……」

 

そう少女――ヤミは照れくさそうに言うと、髪の毛を変身(トランス)させた無数の大きな手で掴み取ったらしい資料の山をティアーユに渡す。

 

「……ありがとう、ヤミちゃん」

 

「……さ、さようなら……」

 

ティアーユのお礼の言葉に、ヤミは照れたように頬を赤くしながらさようならと挨拶をし、歩き去っていく。数日前リトの尽力により、ティアーユの一年B組担任引継ぎと共に学校に来始めたヤミだが、まだ二人が昔のように接する事は難しいらしい。

 

「……」

 

「ま、少しずつ進んでいきましょう」

 

どこか残念そうな様子を見せるティアーユに対し、炎佐はそう返すとティアーユの持っていた資料を取る。

 

「運ぶの手伝いますよ。職員室でいいんですか?」

 

「え? でも……」

 

「御門に用事があるし、ついでですよついで」

 

いきなりの手伝いの申し出にティアーユが慌てるが、炎佐はそう返して歩き始める。

 

(ミカドがいるのは保健室だから職員室は関係ないんじゃあ……)

 

ティアーユはそんな事を考えながら、炎佐の後について歩いて行った。

 

 

 

 

 

「え? エンザ? いいえ、保健室に来なかったけど?」

 

時間が過ぎて御門宅。晩ご飯を食べながらティアーユが放課後の件について尋ねると、御門はきょとんとした顔を見せてそう返す。

 

「え? でもエンザ君、ミカドに用事があるって言って、そのついでだって職員室まで資料を運んでくれたし……」

 

「それはティアを手伝うためのただの口実でしょ? あの子素直じゃないし」

 

ティアーユの驚いたような言葉に対し、御門はくすくすと笑ってそう返す。

 

「そういえば、ミカドってエンザ君と昔から知り合いなんだっけ?」

 

「ええまあ、彼が賞金稼ぎをしていた頃にちょっとね。怪我の治療をしてあげたりバーストモード後の体調不良をどうにかするための治療薬や栄養剤を作ってあげたり。それにフレイム星人とブリザド星人のハーフという貴重な存在だもの、本人の許可無許可問わず色々実験させてもらったわ」

 

ティアーユの質問にくすくすと、やや黒い笑みを浮かべながら答える御門。その様子にティアーユは「あはは」と引きつった笑みを返すのが精一杯だった。

 

「う~ん……でも、エンザ君も暇じゃないのに手伝ってもらって悪いし、何かお礼考えた方がいいかなぁ……」

 

「ふふ、ティアは真面目ね。そのくらいなら私いつもやらせてるのに」

 

う~んと考え込むティアーユに御門はくすくすと笑う。

 

(しょうがない。ここは一肌脱いであげるとしますか)

 

そして御門は親友のため、そう考えるのであった。そう、親友のため。そう思い、御門はクスリと笑う。それにティアーユも、一緒に食事していたお静ちゃんも気づいていなかった。

 

 

 

 

 

「というわけでティア。エンザを呼んだから一緒に買い物をお願い♪」

 

「「……は?」」

 

翌日。にこっと微笑む御門にティアーユと、玄関に立つ炎佐は呆けた声を出した。

 

「ドクター・ミカド。緊急の診断と言われたので来たのですが……」

 

「あ、それ嘘♪」

 

「帰ります」

 

どうやら炎佐は診断と呼ばれて来たらしく困惑とイラつきの混ざった顔で御門に問いかけ、御門がにこっとした笑顔でそう答えると炎佐は即座に踵を返す。

 

「あ、そういえばこの前の診察料……請求する時にうっかり割引忘れちゃうかも」

 

「てめえ足元見やがって……」

 

しかし御門のサラリとした脅迫に足を止め、振り返って睨みつける。

 

「ミ、ミカド……別にエンザ君にお願いしなくてもお買い物くらい……」

 

「でも別の星に行かなきゃいけないし。護衛くらい付けといた方がいいわよ? エンザ、あなたは私が雇ったティアの護衛よね?」

 

「……くそっ」

 

おどおどとしながらティアが止めようとするが御門はしれっとそう返し、ニヤリとした笑みを炎佐に向ける。それに炎佐は悪態を漏らした。

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい……エンザ君……」

 

「いえ、仕事ですので。お気になさらず、ドクター・ルナティーク」

 

ぺこぺこと頭を下げるティアーユの横で鎧姿のエンザがため息交じりに平坦な声で返し、停泊している宇宙船の起動キーを弄ぶ。今彼らが来ているのは地球から約150万光年かかる――なお今回借りた御門の宇宙船なら一時間半程度だ――とある惑星。地球と比べて近未来的な様相を見せており、辺りを歩くのもエンザやティアーユの同じ地球人とよく似た人型。地球人から見れば一般的なイメージであるタコ型や昆虫の頭をした人型。姿かたちは人間そっくりだがピンク色の肌や二メートルをゆうに越す巨体や鋭い爪など細部が明らかに違う者などさまざまである。

 

「さてと。さっさと買い物済ませて帰りましょう」

 

「そ、そうね。えーっと……」

 

エンザは起動キーをデダイヤルにしまい、さっさと用事を済ませようとティアーユに話し、ティアーユも頷いて買い物メモを取り出す。

 

「きゃっ!?」

 

「ドクター!?」

 

と、何者かがわざとらしくティアーユにぶつかり、倒れそうになる彼女をエンザが咄嗟に支える。

 

「ん? なんだぁいきなりぶつかってきやがって」

「おい姉ちゃん、いきなりぶつかってきてなんだい?」

 

するとティアーユにぶつかってきた二人組――似たような顔立ちで、違うと言えば顔の中心から顔全体へと刻まれたバッテン傷があるか、その代わりに顔の下半分を覆い隠すような髭面かくらいだ――がティアーユに因縁をつけ始める。

 

「おほ、なかなか上物じゃね?」

「そうだな。おい姉ちゃん、黙ってついてくれば許してやらんでもないぜ」

 

バッテン傷の男がティアーユを見てイヤらしい笑みを浮かべ、髭面の男がティアーユの腕を掴む。それにティアーユが怯えた顔を見せた。

 

「離れろ」

 

「げふっ!?」

 

その時エンザが髭面の男に蹴りを入れて吹き飛ばし、髭面の男が吹っ飛ばされる。

 

「な、なんだテメエ!? 俺達を誰か知ってて言ってんのか!?」

 

「知らないね」

 

バッテン傷の男が髭面の男の前に庇うように立ち、エンザに凄むが、エンザは静かにそう答えると両目に青色の瞳を宿し、二人を睨みつける。

 

「これ以上やると言うなら、こっちも本気でお相手しましょう」

 

氷のような涼やかな声でエンザはそう言い、左手に氷で出来た槍を握りしめて二人に突きつける。その言葉に男達はぐぅ、と唸った。

 

「「お、覚えてやがれ!!」」

 

そう叫び、男達は逃げ出す。それを見届けてからエンザは氷の槍をフレイム星人の炎の力で融解し消してからティアーユの方を向き直した。

 

「地球の環境に慣れてましたが、物騒な連中はやっぱりいるもんですね。とっとと買い物済ませて帰りましょう」

 

「え、ええ……」

 

やれやれ、という様子でそう言うエンザにティアーユもこくこくと小さく頷いた。それから彼らが入るのは地球でいうデパート。今回の目的である薬剤やその原料となり薬草はもちろん食料品から武器まで色々揃っている。という触れ込みだ。その中の薬屋の前に立ち、ティアーユはエンザを見る。

 

「じゃあ、エンザ君。私は薬を買ってくるから、それまで散歩でもしてて」

 

「え? しかし俺は……」

 

「買い物くらい大丈夫よ」

 

「はぁ……じゃあ、俺は隣の店にいますので。何かあったら呼んでください」

 

御門に脅されたとはいえ仕事は仕事としてきちんとしているエンザに対し、ティアーユはそう答えて店内に入っていき、エンザはそれを見送った後に頭をかく。

 

(まあ、一応発信機持たせてるから誘拐騒ぎになってもすぐ分かるか……)

 

依頼者(クライアント)の要望はなるべく順守する。という彼なりのやり方に沿い、エンザは隣にある武具店を見てそっちに歩いて行った。

 

(…………)

 

薬屋で薬を見ながら、ティアーユは何か考える様子を見せる。昨日助けてもらったお礼もまだなのにさらに御門に言われたからとはいえ別の星まで遠出してまで買い物に付き合ってもらっている。

 

(やっぱり、何かお礼をした方がいい……ですよね……えっと……何か、買ってあげる。とか?)

 

エンザへのお礼を考えながら、ティアーユは薬を選んでいく。そして購入した薬を入れた袋を手に薬屋を出ると、彼女はエンザがいるという武具屋に入っていく。

 

「う……」

 

並んでいる剣や銃などの各種武器。せいぜい護身用のものを数度触った経験しかないティアーユは人を傷つける事のみに特化したそれらに怯みながらも店の中を回り、エンザを探す。

 

「う~ん……」

 

そのエンザはどうやら銃のコーナーで足を止めていたようだ。

 

「エンザ君」

 

「ああ、ドクター・ルナティーク。買い物は終わりましたか?」

 

「ええ……エンザ君はどうしたの?」

 

「ああ。新しい銃を見てました。今俺が使ってる実弾タイプだと、地球だと弾薬一つ買うにも手間がかかりまして、いっそエネルギータイプに乗り換えようかと」

 

ティアーユの質問にエンザはそう返して立ち上がる。

 

「賞金稼ぎ引退したのは三年前とはいえ、技術の進歩は凄まじいものです。エネルギー効率や軽量化、俺のいた頃より大分進んでいる……へぇ、こっちは実弾とエネルギー弾のハイブリッドタイプか……」

 

どこか子供らしい無邪気な笑みを浮かべてエンザはそう説明。新商品と銘打たれた実弾とエネルギー弾のハイブリット型という拳銃を見る。しかし予算オーバーなのか「高いな……」と呟いており、ティアーユも値段を見るが流石は新商品なのか確かに高い。まあその分弾丸と予備のエネルギーパックが同梱していたり故障時の保証書などアフターケアが万全になっているようだが。

 

(そうだ!)

 

と、ティアーユはぽんと手を叩いた。

 

 

 

 

 

「……援助ありがとうございます。ドクター・ルナティーク」

 

「う、ううん。私だってその、助けてもらってばかりだから……」

 

デパートを後にしたエンザがティアーユにお礼の言葉を言う。その腰には真新しい銃が下げられていた。彼の嬉しそうな笑みを浮かべながらのお礼の言葉にティアーユが慌てたように返すが、わたわたとなっていた時に足がもつれ、自分の足にもう片方の足が引っかかってしまう。

 

「きゃっ!?」

 

「ドクタぶわっ!?」

 

倒れ込むティアーユに巻き込まれる形でエンザも倒れてしまう。

 

「あいたたた……!?」

 

頭を押さえ、起き上がろうとするティアーユは直後、自分の豊満な胸でエンザを潰していることに気づくと顔を真っ赤にし、弾かれたようにエンザの上から飛び退いた。

 

「ご、ごごごごめんなさいエンザ君!?」

 

「あ、いや、その……こ、こちらこそ……」

 

焦って謝罪するティアーユに対し、明らかに照れた様子で真っ赤になった顔を背けながらエンザはそう答え、立ち上がる。

 

「見つけたぜぇ!!」

 

と、そんな時に突然そんな声が聞こえてきた。

 

「親分! あいつです! あいつが俺達に因縁をつけてきたんでさぁ!」

 

そう言うのはこの星に来ていきなり絡んできたバッテン傷の男。

 

「ほぉーう」

 

バッテン傷の男の言葉を受け、そう言うのは三メートルを超す巨体の、ピンク色の肌をした人型の宇宙人だった。その巨体にはいくつも傷があり、修羅場をくぐってきた事を示している。

 

「よお坊主。なんでもこの俺を知らないとかほざいたそうだな。この賞金稼ぎ、ノーキン様を!」

 

「あいにく、賞金稼ぎ休業中なもんで。もう用事は済んだし、俺帰りたいんですが」

 

「ふん、尻尾を巻いて逃げ出すってんなら止めねえぜ」

 

ノーキンと名乗った巨体の男はそう言い、次にじろりとティアーユを舐め回すような視線で見る。

 

「ただし、その女を置いていけばなぁ……」

 

「……嫌だって言ったら?」

 

「しょうがねえ。ぶっ殺すまでよ」

 

一応念のため、と言外に含んだエンザの質問にノーキンはそう答え、エンザはやれやれと頭を振ると刀の柄を取り出して左手に握る。同時に青い刃が具現した。

 

「ドクター、下がっていてください」

 

「は、はい……」

 

エンザから指示を受け、ティアーユはこそこそと距離を取る。それを確認してからエンザは前を向き直し、青い刃の刀をノーキンへと突きつける。

 

「エンザ、いざ参る」

 

「ふん、聞いたこともねえ小者だな」

 

エンザの名乗りを聞いたノーキンは「聞いたこともない」と一蹴し、本来両手で振るうだろう大きさの斧を二本、片手に一本ずつ握る。ノーキンとやらが賞金稼ぎとしてどれほどのものかは知らないが、仮にも現役時代には多少名は知れて恨みも買っているような賞金稼ぎを知らないと一蹴した事にエンザは苦笑。単に彼が不勉強なのだろうか、あるいは本当に自分の名前が賞金稼ぎの世界では忘れ始められているのかと僅かに考えるエンザに対し、ノーキンは地面を蹴って突進。一気に右手の斧を振り下ろした。

 

「おっと」

 

しかしエンザは左手の刀でその斧を受け流し、そのままサイドステップを踏んでノーキンの身体を中心に時計回りに動いてノーキンの背後へと回り込む。

 

「ぬぐっ!!」

 

「うお」

 

だがノーキンもそうはさせじと左手の斧を振るってエンザを牽制。驚いたように足を止めたエンザを怯えたと思ったかニヤリと笑った。

 

「運よく一発はかわせたみたいだが、どうだ。一発でもくらったら骨ごと粉砕するこの斧の威力。さらに鍛え上げたこの肉体は天性の鎧であり、斧の威力を最大限に発揮できる。今なら土下座で謝ってあの女を置いていけば許してやってもいいぜ?」

 

「……」

 

そう言うノーキンに対し、エンザはまたもため息をつき、めんどくさそうな遠い目を見せる。

 

「ぬお!?」

 

その直後、エンザはノーキンの懐へと入って鋭く刀を一閃。咄嗟にノーキンは後ろに下がったものの、かわしきれなかったのか肉体に僅かな刀傷が残った。いや、その刀傷から徐々にノーキンの身体が凍り付いていき、ノーキンは咄嗟にその氷部分を叩いて侵食を止める。

 

「そっちが小手調べをしてくれたお礼。こっちもご挨拶……肉体だけでなく、魂ごと凍らされたくなければとっとと逃げるんだね」

 

「こ、小手調べ、だぁ……舐めやがって!」

 

ノーキンは自分の渾身の一撃を小手調べと言われ、さらには逃げろと言われたことに腹を立てたか、ピンク色の肌が真っ赤に染まり上がる。

 

「うおらぁっ!!!」

 

飛びかかり、思いっきり右手の斧を振り下ろす。僅かに横に動きだけで回避できたがその一撃は地面を叩き割り、まともにくらうどころか防ぐことさえ難しいと直感させる。

 

「まだだぁっ!!」

 

「!」

 

しかも攻撃は一撃だけでは終わらず、左手の斧も続けて振り下ろす。後ろに飛んでその攻撃を回避するがノーキンは力ずくで斧を引き抜くと無茶苦茶に振り回しながら突進、まるでダンプカーのような圧力をもってエンザの反撃を封じながら一方的に攻撃を仕掛ける。

 

(こういうタイプは横にかわせば――)

 

「「そうはいかねえぜえ!!」」

 

(――!)

 

エンザは攻撃の死角になる横や真後ろに回ろうとするが、彼の左右を下っ端らしいバッテン傷の男と髭面の男が剣と盾を持って挟み込む。それに目を見開いたエンザを見たノーキンが「ひゃはははは」と下品に笑った。

 

「どうだ! これが俺様達の必勝法!!」

 

「俺達が左右を囲み!」

「逃げ場を失った獲物を親分が仕留める!」

 

「さあどこまで逃げられるかな!? ひき肉にしてやるよ!!!」

 

ノーキンとその子分は笑いながらエンザを囲み、それにエンザもニヤリと笑う。

 

「これは、鈍っていた勘を取り戻す訓練に――」

「何アホなことやってるんですか」

「――え?」

 

好戦的な笑みを浮かべるエンザの前にふわり、と、金色の髪がなびく。

 

「え? ぶぎゅわっ!?」

 

直後、彼女は黒色の服をはためかせてノーキンへと突進。鉄球へと変身(トランス)した足の鋭く重い二度蹴りでノーキンの両手の斧をへし折ると三度目のサマーソルトキックでノーキンの顎を打ち上げ、一撃でノックアウトさせる。その相手は宙をくるんと回転し、ふわっとした軽い足取りで着地。左足一本で身体を支えながら、右足の鉄球を元の足へと戻す。そして彼女はどこか機嫌の悪そうな顔でエンザを睨みつけた。

 

「ヤ……ヤミちゃん!?」

 

その相手――ヤミの姿にエンザが驚きの声を上げ、ティアーユも「ヤミちゃん……」と声を失う。

 

「な、おい、あ、あいつはまさか……」

「あの金色の髪に黒色の服……ま、まさか、金色の闇?……」

 

ヤミの姿を見た子分二人の顔に怯えが走り、ヤミはその二人をちらりと見る。

 

「忠告してあげましょう……私は今、すごく機嫌が悪いです。八つ当たりをされたくなければそこで伸びている男を連れてとっとと消えてください」

 

「「は、はいぃっ!!!」」

 

目元に影を作り、明らかに不機嫌ですオーラを放ちながらのヤミの言葉に子分二人はノーキンの両手と両足を持ってすったかたーと逃げていく。

 

「……ヤ、ヤミちゃん……どうしてここに?」

 

「た、たまには、私の宇宙船も動かしてやろうかと思って、その……た、たまたま手近な星に来ただけです……」

 

駆け寄ったティアーユの言葉にヤミはぷい、と顔を逸らしながら答える。しかしどこから情報を仕入れたかは知らないが、別の星まで買い物に向かったティアーユを心配してこっそり後をつけていた事は明白。とエンザは思いにやにやと笑う。が、ヤミがギロリと睨みつけるとその笑みが引きつった。

 

「そもそもエンザもエンザです! 護衛対象をほったらかしにして戦うに興じようとかあなた馬鹿ですか!? もしティアを人質に取られるか誘拐でもされてみなさい! どうなるか分かったものじゃありませんよ!」

 

ティアーユを心配するあまりその護衛役であるエンザに対してくどくどとお説教を開始するヤミ。それにエンザは苦笑を漏らすしか出来なかった。

 

「あ、あの、ヤミちゃん……その、あまり言わないであげて……元はといえばその、ミカドが無理強いしたんだし……」

 

「……わ、分かりました。では、私はこれで」

 

「あ、待って! まだお礼も言って――」

 

ティアーユのお願いゆえかヤミは素直に聞いてお説教をやめると、またぷいと顔を逸らして別れの挨拶を告げると同時に姿を消す。お礼を言いそびれていたティアーユが待つように言おうとするが間に合わなかった。

 

「ヤミちゃん……」

 

「……まあ、少しずつでも歩み寄れてるみたいだし。いいじゃないですか」

 

ず~んと落ち込むティアーユにエンザはそう答える。エンザはまだ辺りにヤミらしき気配は感じており、きっとまたティアーユの身に危険が迫ればすぐに出てくることだろうと考える。

 

「さ、とっとと帰りましょう。またトラブルにあうのもごめんですし」

 

「あ、はい……」

 

しかしそうなればまたヤミに怒られる。万一ティアーユにもしもの事があったら問答無用で殺されてもおかしくはない。流石にそこまで無茶は出来ず、エンザはティアーユに帰るよう促し、ティアーユも頷くと、二人はこの星に来た時に宇宙船を止めた場所へと戻っていき、地球へと帰還するのであった。




ToLOVEる最新刊を読んで、三ページ目で固まりました。(汗)
恭子が宇宙人とカミングアウトしたか……これでまた炎佐が恭子との関係を隠す理由が一つ消えたな。(自分が宇宙人とばれたら従姉弟である恭子も=宇宙人とばれかねないというのも炎佐が恭子との関係を内緒にしている理由の一つ)
まあ最終的には「トップアイドルと親族ってばれたらめんどくさい」ってだけで炎佐が恭子との関係を隠す理由付けには充分なんですけども。
そしてヤミVSクロのBlackCat対決もあり、オチのアゼンダ……お前即堕ちしてんじゃねぇよ、ありえないけどこれで次巻からアゼンダがヤミに代わる殺し屋系サブヒロインとして出てきたら俺はどう反応すればいいんだよ……。(汗)
っていうか……この辺、炎佐をどっちルートで扱うかから考えなきゃならなくなったな。立場的にはララ達についていくべきだし。(忘れがちだが炎佐の立場は「ララ達三姉妹の護衛」)

さて今回は思いついたので書いてみたサブヒロインの一人ティアーユとのデート……のつもりだったんですが、なんかヤミちゃんが出張ってきました。素直じゃないけどティアーユ大好きだなぁうちのヤミちゃん……。
とりあえずもののついでに炎佐の武器を新調しておきました。実際実弾銃だと銃弾の入手の言い訳が面倒ですし。いやまあ最悪ザスティンの伝手とかその辺で誤魔化せない事もないんだけどさ。せっかくだからエネルギー銃にしておけば何かと便利ですし。(改造を施してエンザの能力で特殊弾丸を撃てるとか色々設定追加できる)
次回はお待ちかねの凜編かなっと思いつつオリジナルをどのように放り込もうかと今考えているところです。
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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