ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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特別編 ハロウィン

「まあまあエンザ君。久しぶりね~」

 

「お、お久しぶりです。おばさん」

 

ある一戸建ての家の玄関。炎佐はここに訪れ、応対をしている妙齢の女性が嬉しそうに微笑みながら久しぶりと挨拶すると自分も久しぶり、と返す。

 

「これ、キョー姉ぇに。県外ロケでトリック・オア・トリートが出来ないって電話でぶーぶー文句言ってましたから前もってトリートを」

 

「あらまあ、ありがとうね~。恭子ちゃんもきっと喜ぶわ~」

 

炎佐はそう言って丁寧にラッピングした袋に入れたクッキーをおばさんと呼んだ相手――恭子の母親へと手渡し、恭子の母親も嬉しそうに笑いながら袋を受け取る。10月31日、今日はハロウィンだ。

 

「さぁさ。どうぞ上がって、お茶でも淹れるわよ?」

 

「あ、いえ。おかまいなく。これから友達と約束がありますので」

 

「まぁ残念。久しぶりにお話聞きたかったんだけど……」

 

「すみません。また今度ゆっくりと」

 

「ええ。じゃあ、元気でね。身体は大事にね」

 

互いに穏やかに微笑みながら挨拶をし、炎佐が最後にぺこりと頭を下げると恭子の母親はゆっくりとドアを閉める。

 

「……相変わらずだな」

 

そう呟き、炎佐はふふっと笑みを漏らす。恭子に似てどこか能天気だが、いつもにこにことした笑顔を絶やさない底なしの優しさを持つ恭子の母親。なにせ宇宙を駆け巡って血塗られた毎日を送っていた自分を何の抵抗もなく受け入れ、地球での暮らしを恭子と共に教えてくれた大恩人の一人だ。まあ、それぐらいはないと宇宙人の存在が一般的でない発展途上惑星なこの地球で宇宙人と熱愛の末結婚なんてしないだろう。

 

「……おじさんはどこで何をしてるのやら」

 

はぁ、とため息をつき、炎佐は行方不明の叔父の事を考えながら帰路につくのであった。

 

それからやってくるのは彩南町の結城家。リト達の家だ。

 

「リト、皆。お待たせ」

 

「あ、炎佐さん。おはようございます」

 

炎佐の挨拶を聞きつけて家の奥からやってくるのは美柑。彼女の何かを期待するようなにこにこ笑顔に炎佐の頬も緩む。

 

「うん、似合ってる似合ってる」

 

「ありがとうございます」

 

炎佐から褒められてえへへ~、と笑う美柑。彼女は現在オレンジ色のネコミミカチューシャを頭につけ、服装もどこか猫っぽさを漂わせたファッションになっていた。

 

「……美柑……本当に、これで外に出なければならないのですか?……」

 

すると家の奥からヤミがひょこっと顔を覗かせ、美柑に問いかける。それに美柑も「当然だよ!」と大きく頷いた。

 

「あ、炎佐さん。見てください。私の自信作なんです!」

 

「え、あ、ちょっと、美柑……」

 

そう言い、美柑がヤミをぐいっと引っ張り出す。宇宙最強の暗殺者が地球の一般女子になすすべなく引っ張られるという妙な光景に炎佐は苦笑した後、「へぇ」と声を出した。ヤミが着用しているのは普段の戦闘衣(バトルドレス)とは違う黒の猫っぽい衣服。さらに美柑がヤミが持っていた黒ネコミミカチューシャを装着させる事でさらに猫っぽさが増していた。さらに恥ずかしいのか頬を赤らめてうつむいているのが可愛らしい。

 

「お、エンザ来たのか! どうだ、似合うか?」

 

次にナナがばたばたと足早に玄関へとやってくる。彼女は黒色の衣装に身を包み、同じく黒色のマント――なお裏地は赤色――を羽織っている。八重歯もまるで牙のようだ。

 

「吸血鬼か?」

 

「おう!」

 

炎佐の回答にナナは満足そうに笑う。

 

「あ、エンザさん。おはようございます」

 

「よう、モモ」

 

次にやってきたのはモモ。その身体には白い包帯が腕全体や片目を隠すようにぐるぐると巻かれていた。

 

「ミイラ男……いや、ミイラ女か」

 

「はい♪」

 

お化けとしてはポピュラーな仮装にモモはやや上機嫌な様子を見せる。

 

「……それにしてもまあ、よく揃えられたもんだよな」

 

「姉上が一晩でやってくれたぜ」

 

炎佐の呟きにナナが笑いながらそう答える。この仮装は全てララが発明した簡易ペケバッジによるものである。

 

「で、そのララちゃんは?」

 

「お姉様は西連寺さん達に簡易ペケバッジを渡しに行きましたわ。ついでに操作の説明もすると」

 

続いての炎佐の質問にはモモが答え、簡易ペケバッジを取り出すと炎佐に向けて微笑む。

 

「さ、エンザさんも早くお着替えを」

 

「ああ、了解了解」

 

モモの言葉に炎佐は頷き、デダイヤルを取り出す。そして少し操作をするとぱっと姿が白銀の騎士鎧姿に変化した。

 

「ほい、騎士の仮装」

 

「「「うわ、手抜き……」」」

 

パッと見やる気満々に見える完成度だがその実全くやる気のない仮装に、出迎えた四人の内美柑、ナナ、モモは冷たい目を見せるのであった。なおヤミは「それが許されるなら私もやっぱり戦闘衣で……」と呟いていたが美柑に阻止されていたことを追記しよう。

 

「よう、炎佐。お待たせ」

「まうー」

 

「や、リト。それにセリーヌちゃんも」

 

最後に顔を出したリトとセリーヌ。セリーヌは元が植物であるためか花っぽさを前面に押し出した、花の国のお姫様。というべきイメージのフリフリドレスで、リトは垂れた犬耳に尻尾というオオカミ男というより犬男という感じのコスプレになっている。

 

「これで全員だな。よし、行こうぜ」

 

リトはこっちは全員揃った事を確認。出発の号令をかけるのであった。

 

それから彼らがやってくるのはいつもの商店街。しかしざわざわと賑やかなここは神父の姿をした男性やメデューサの格好をした女性などコスプレした人間で多い。というのも当然、商店街活性化の一環でハロウィンの今日はコスプレ客に対するサービスが行われるイベントが開催されているのだ。

 

「ゲーロゲロゲロ! ハロウィンに乗じて買い出しであります! ガンプラが安いぜ!」

 

「お菓子がたくさんもらえたですぅ~!」

 

なお、どこぞのケロン人がうろちょろしているが炎佐は見なかったことにした。というか何故こいつらが彩南町にいるのか考えるのが面倒だ。

 

「さてと、どうする?」

 

「まあ、無理に皆で見て回る事もないだろ? 待ち合わせの時間までまだ少し余裕あるし、俺、セリーヌを連れてぐるっと散歩してくるよ」

 

「私もご一緒いたしますわ」

 

炎佐の問いかけにリトはセリーヌと手を繋ぎながらそう答え、モモも同行を決める。

 

「あの、炎佐さん。私とヤミさんと一緒に散歩に行きませんか?」

 

「……」

 

「んじゃあたしも行く!」

 

次に美柑が炎佐を散歩に誘い、ヤミは美柑と手を繋ぎながらコスプレが恥ずかしいのか顔を赤くしてうつむき、最後にナナが同行を決める。

そしてリト達とはまた後で商店街入り口で待ち合わせに決め、炎佐は美柑達三人を連れて散歩に出かけたのであった。

 

「よう、ヤミちゃん! トリック・オア・トリートってな!」

 

すたすたと散歩を始めた彼らに威勢のいい声がかけられる。それはヤミが懇意にしているたい焼き屋の主人。グラサンに頬の傷、リーゼントと人相は悪いがたい焼きの味は確かであり、お得意様のヤミちゃんにはサービスを欠かさない商売人の鑑である。

 

「とりっく?……」

 

「お、ヤミちゃん知らねえのかい? トリック・オア・トリートってな。お菓子をくれなきゃイタズラするぞって意味の言葉だ。ま、ハロウィンの合言葉だな。ってなわけで、今日はハロウィン限定、カボチャクリームたい焼きが販売中だけどどうだい?」

 

首を傾げるヤミに主人はそう説明。ヤミはふむふむと頷く。

 

「では、それを十個」

 

「はい毎度! いつものも少しサービスするぜ、お友達と仲良く食べな」

 

ヤミの注文を受け、主人は紙袋に入りきらない程多いたい焼きを、慣れた手つきで崩れそうで崩れない絶妙なバランスで入れていき、お金を払ったヤミに渡す。ヤミは軽い会釈をしてそれを受け取り、その場を離れてからカボチャクリームたい焼きを一つ口に入れ、ふむ、と納得いったように頷くと美柑達にも一つずつ分けていった。

 

「お、結構美味い」

「うん、美味しい」

 

ナナと美柑からも好評を得ており、炎佐もたい焼きを齧ると「意外に合うな」と感想を漏らした。

 

「あ、そうだ。忘れてた。炎佐さん、トリック・オア・トリートです!」

 

「へいへい。お菓子をあげるからイタズラはなしな。ナナとヤミちゃんもどうぞ」

 

「お、サンキュー!」

「……どうも」

 

そこで美柑が思い出したように炎佐に「トリック・オア・トリート」と要求。炎佐はあらかじめ用意していた、綺麗にラッピングしたクッキーを美柑、ナナ、ヤミに手渡すのであった。

 

「むひょー!!!」

 

すると突然そんな奇声が聞こえ、炎佐達の足が止まる。

 

「なあ、エンザ……」

 

「聞こえなかった」

 

「あの、今の……」

 

「聞こえなかった……」

 

ナナと美柑の言葉に炎佐はぶんぶんと首を横に振る。面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。とその表情は語っている。

 

「ティアーユせんせーい! トリック・オア・トリートォー! お菓子がないのならばイタズラしちゃいますぞー!!」

 

だが、その次の台詞を聞いた瞬間、ヤミの額に怒りマークが浮かんだのを炎佐達は見た。

 

「むひょー!!!」」

 

「ひっ……」

 

商店街に買い物に出かけていたティアーユ――なおコスプレはしていないいつものスーツ姿――はオオカミ男に扮装した校長に不意を突かれて飛びかかられ、避けるタイミングを失ってしまっていた。

 

「トリック・オア――」

 

だが、そんな彼女の前に一人の男性が立ちふさがり、白銀の鎧を煌めかせて腰を落とし構える。

 

「――トリック!!!」

「むびょっ!!」

 

ごずん、と重い蹴りが校長へと放たれ、校長は奇声を上げると路地裏へとダイレクトにシュートされた。

 

「校長。トリック・オア・トリートです……ですがお菓子はいりません」

 

そして人気のない路地裏で、宇宙最強の暗殺者が校長に牙を剥くのであった。

 

 

「その……ありがとう、ございます……助かりました」

 

「いえ、お気になさらず。ドクター・ティアーユ。形式上とはいえ、あなたの護衛は俺の仕事なので」

 

顔を赤くし、ぺこぺこと頭を下げてくるティアーユに炎佐は事務的な様子で返す。というか、そうとでもしないとパニクッているティアーユはともかく炎佐達は路地裏から聞こえてくる中年男性の悲鳴の声にどう対応すればいいのか迷いはててしまう。

 

「ふぅ。大変な事になってたようね、ティア」

 

「あぁ、ドクター・ミカド……って!?」

 

するとティアーユの後ろからそんな声が聞こえ、炎佐もその声に反応して相手に声をかけるが、その声は途中でどもる。

 

「こんにちは、氷崎君。それに美柑ちゃんとナナちゃんも」

 

挨拶をしてくる女性――御門。彼女はティアーユとは違いハロウィンイベント用のコスプレをしているが、赤色を基調とし、全体的に丈の短いドレス姿。胸の谷間を大きく強調した服装はぶっちゃけ痴女と言われても反論できない。

 

「……ハロウィンには変態の衣装が許されるんですか?」

 

「あら、心外ね。勉強が足りないわ。これはサキュバスの衣装です♪」

 

呆れた目付きの炎佐のツッコミに御門はふふん、と得意気な顔でそう答え、にやつきながら炎佐に迫る。

 

「どう、似合う?」

 

「……」

 

胸の谷間を強調するような格好で迫る御門に炎佐は顔を赤くし目のやり場に困るように目を逸らす。なお後ろの方では美柑とナナが精神的にダメージをくらっていた。

 

「うふふ。ま、いいわ」

 

炎佐をからかって満足したのか、御門は同行していたお静ちゃん――彼女はやっぱりというか白い着物の昔ながらの幽霊コスプレだ――から渡された上着を羽織るとティアーユと共に買い物へと向かい、炎佐達も彼女らを見送ってから散歩を再開するのであった。

 

 

一方リト、セリーヌ、モモ。三人は揃って散歩をし、セリーヌが「まうまう~」とはしゃぐとリトがそれを止め、モモが彼女の言葉を翻訳しながら苦笑していた。

 

「あ、リトー!」

 

「ん? この声……」

 

そこに突然聞こえてきた声にリトが反応。

 

「よう、早いじゃん」

 

にしし、と笑いながら声をかけてくるのはオオカミ女のコスプレをした里紗。なおヘソ出しルックに半袖という、セクシーだが今の時期になると寒くないかとやや心配になりそうなファッションである。

 

「こ、こんにちは……結城君……」

 

「ほーら、里紗の後ろにずっと隠れるわけにはいかないでしょ。ほらほら覚悟を決める!」

 

「え、きゃっ!?」

 

その里紗の後ろから顔を出して挨拶するのは春菜。しかし未央――彼女は黒い帽子に黒ローブという魔女のコスプレだ。なおミニスカニーソになっている――が春菜を押し出す。

 

「あ、あうぅ……」

 

ぷしゅー、と湯気が出そうな程に顔が真っ赤になっている春菜の衣装は純白のワンピースに背中には白色の羽という天使をイメージしたものだ。

 

「大丈夫だよ春菜。すっごく可愛いから! ね、リト?」

 

「え? あ、ああ……に、似合ってるぜ?」

 

対して笑顔で春菜を元気づけるララは元々の悪魔尻尾を生かした悪魔風のコスプレ。そのララがリトに同意を求めると、リトも恥ずかし気な様子を見せながら、似合っていると春菜に声をかけた。それを聞き、春菜も嬉しそうに頬をほころばせる。

 

「ところで結城。氷崎は?」

 

「ん、炎佐か? いや、商店街の入り口で待ち合わせの時間まで別れたから……」

 

「あっそ」

 

里紗はどこか期待したような輝きを目から覗かせながらリトに問うが、リトが今どこにいるか知らないと知ると途端に興味をなくしたようにそっぽを向いた。

 

「コ、コスプレなんて……ハレンチな……」

 

その後ろでは唯が顔を赤くしてぶつぶつと呟いていた。なお彼女のコスプレは全身を覆う藍色のローブにフードというシスター風のものだ。

 

「お、古手川も来てたのか」

 

「お、お母さんに買い物頼まれて……いつも行ってるスーパーはコスプレをしてたら割引になるからって……そ、そのついでよ、ついで!」

 

リトの挨拶に対し唯はぼそぼそとした声でそう言い訳を並べた後、あくまでコスプレは買い物のためだと主張した。

 

「ま、そんな事言って。私達が誘いに来た時に古手川のママがお願いしてきたんだけどね? あたし達がコスプレして出かけるって知って」

 

「はは、なるほど……」

 

すると里紗がリトの側にすすすと近寄り耳打ちする。要するに唯にコスプレして友達と遊びに出かける大義名分を、唯の母親が作ったという事だ。それにリトも苦笑した後、唯を見た。

 

「でも、古手川も似合ってると思うぜ。真面目なシスターって感じでさ」

 

「えっ……そ、そう?」

 

リトの言葉に唯は頬を赤くしながら嬉しそうに微笑み、リトも笑顔で「ああ」と頷いた。

 

「こうさ、不真面目な人には拳骨を入れて改心させそうな武闘派僧侶って感じで!」

 

「……なんならあなたに拳骨を入れてあげましょうか!?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

しかしリトは失言をしてしまい、唯が怒ると反射的に謝罪の言葉を口にする。その光景を眺めながら、モモや里紗、未央は呆れたため息をつくのであった。

 

それから合流後色々商店街でイベントを満喫し、時間が過ぎて夜。炎佐は自宅でイベントの戦利品であるお菓子を整理していた。

 

「……何か用か?」

 

自分以外誰もいないはずの自室で、炎佐は顔を上げるとそう問いかける。

 

「おぉ、流石だな」

 

すると、いつの間にか彼の後ろに立っていたネメシスがにやにやと笑いながらそう返していた。

 

「なぁに、用件はたった一つだ。トリック・オア・トリート。お菓子を渡さねばイタズラするぞ?」

 

「悪いな。地球ではトリック・オア・トリートが通じるのは仮装してる人だけなんだ」

 

ネメシスの言葉を炎佐は嘘を捏造してすぐ断る。ネコミミ浴衣姿は仮装と言ってもいいかもしれないが、最近普段着にしているため炎佐的には仮装には入らないようだ。

 

「ほう、そうか……」

 

しかしネメシスはニヤリ、と笑うと同時に自らの周りに闇を纏う。ズズズ、と闇が蠢き、それが徐々に消えていく。

 

「それなら、これで文句はないよな? 御主人様?」

 

その闇が消えた後、ネメシスはネコミミを頭につけたまま、その服装をメイド服へと変えていた。ネコミミメイドである。

 

「……チッ」

 

「ククク、変身(トランス)を応用すればこれくらい軽いものだ」

 

追い払う口実だったが失敗し、炎佐が舌打ちを叩くとネメシスもどや顔で返す。

 

「さあ、トリック・オア・トリートだ。お菓子をよこせ……それとも、イタズラの方が好みかな?」

 

傲岸不遜にそう言い放ち、しかし妖艶な目を見せながらネメシスは問う。

 

「ほれよ」

 

対し、炎佐はすっごい渋々顔でネメシスにチロルチョコを一つ投げ渡し、「とっとと帰れ」とでも言いたげにしっしっと手を振るう。それに対し、ネメシスはニヤリと笑うとチロルチョコをぽいっと口の中に放り込み、咀嚼をしてこくりと呑み込む。

 

「トリック・オア・トリートだ。お菓子をよこせ」

 

「……てめえふざけてんのか?」

 

「お菓子をよこせ。さもなくばイタズラするぞ?」

 

ニヤリ、と笑って再びお菓子を要求するネメシスに炎佐は目つきを鋭くして睨むがネメシスは意に介さずに続けるのみ。どうせまたお菓子を渡してもさっさと食べてまたトリック・オア・トリートを繰り返すのみの無限ループは容易に想像がつく。そしてそうなれば、ネメシスがどれほど食べるのか分からないが普通に考えれば物資に限りのあるこっちが圧倒的に不利だ。

 

「さあどうした? お菓子がないのならばイタズラだな」

 

わきわきと指を動かし、嗜虐的な笑みを浮かべるネメシス。それに対し炎佐はチッと舌打ちを叩くが、次に何か思いついたように笑みを見せる。

 

「ネメシス。トリック・オア・トリート」

 

「……ほう?」

 

「お菓子がないならイタズラをする。なに、他愛もないイタズラだ。まさか本気で怒る事もないだろ?」

 

やや引きつかせた笑みでそう言う炎佐の右手には真紅の炎が渦巻き、さらに高温になった事を示す青色がちろちろと見える。

 

「……ふっ。いいだろう。今夜のところは私のイタズラとお前のイタズラを相殺ということにして手を打ってやる」

 

このままではイタズラの名目で殺し合いに発展する。それは現在は望むところではないのか、ネメシスは降参したように両手を挙げてそう返し、踵を返した。キィ、と窓がひとりでに開く。

 

「今日のところはおいとまするとしよう。ではな、氷炎のエンザ。次に会う時はもっと上等の菓子を用意しておけ」

 

顔だけで振り返り、そう言い捨てると同時に、ネメシスは窓から飛び出ると闇に紛れるように姿を消すのであった。

 

「まさか……ネメシスまで来るとはな」

 

炎佐は「はぁ」とため息をついて呟く。

 

「あっにうえー! マスターの命令で今日は遊べなかったけど、ようやく許しが貰えたよー! トリック・オア・トリートー!!」

 

直後、チャイムもノックもなしに上がり込んだ様子のメア――なおネメシスリスペクトか黒ネコミミカチューシャ装着――がバァンッとドアを開けながら満面の笑顔でそう要求。

 

「持ってけそして帰れっ!!!」

 

「へぶっ!」

 

直後、炎佐は額に怒りマークを複数個くっつけながら、今日美柑達に渡したのと同じ形、同じラッピングをした最後のクッキーをメアに投げつけ、不意打ちのためかメアはそれを顔面で受け止める羽目になってしまうのであった。




今回は特別編、ハロウィンです。なお、この後の季節はまた夏に逆戻りする可能性が高いのでご了承ください。いや、あの辺り季節がどうなのか分かんないけど。この前夏祭りやったんだからまだ夏の可能性は高いはず。とりあえず、特別編と銘打ってるから時間軸は超適当です。(元々適当である事は言わない)
で、最初に恭子の母親が登場しましたけど……今の時点でまだ原作に登場してないですよね?自分は単行本派なので雑誌で既に登場してたらごめんなさい。完全にオリジナルイメージで書きました……あと確か無印だったかの単行本で父親が行方不明って見た記憶があるんですが。何巻だったかなあれ。確か父親を捜すのが恭子がアイドルやってた理由ってあった気がするんだけど……。
でもっていつものメンバーでの町遊び。コスプレ内容ですが、
美柑→猫女(オレンジ)、ヤミ→猫女(黒)、ナナ→吸血鬼、モモ→ミイラ女、セリーヌ→花のお姫様、御門→サキュバス、お静ちゃん→和風幽霊(要するに幽霊状態の格好)、春菜→天使、ララ→悪魔、里紗→オオカミ女、未央→魔女、ネメシス→ネコミミメイド、メア→ネコミミ、リト→犬男、炎佐→騎士(というかいつもの鎧姿)
という感じです。この辺は完全にぱっと浮かんだイメージです。ナナは八重歯を牙にとか、モモはなんとなく包帯巻かせたいなぁとか。ララは見た目、でもって春菜はララと対をなすとか。全部言ってたら面倒だけどそんな感じの。
なお恭子は今回は登場しませんでした。どうせ次回恭子回の予定だし、今回は引いてもらおうかなと。
まあそんなわけで、今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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