「わー。やっぱ夏祭りはにぎやかだな~」
彩南町の夏祭り。ナナは花柄にミニスカの着物を着て楽しそうに屋台を見て回る。
「あ、エンザ! わたがし買って!」
「ナナ、はしゃぐと転ぶぞ」
ナナは隣を歩く炎佐にわたがしをねだり、炎佐はくすくすと笑いながらナナをぽんぽんと撫でる。
「こ、転ばねーし! 子ども扱いすんなよなっ!」
だがナナはその手を払いのけて威嚇するように睨んで声を上げ、ふんっと拗ねたように顔を背ける。
「悪かった悪かった。機嫌治せよ」
「……わたがし買ってくれたら許してやる」
「仰せのままに、プリンセス・ナナ」
拗ねたようにしながらわたがしをねだる事は忘れないナナと苦笑しながらそれを受け入れる炎佐。我儘な妹と優しいというか甘いお兄ちゃんのような構図だった。
「んじゃ、あたしそろそろメアと待ち合わせの約束あるから行ってくる!」
「おう。花火が始まる前に境内に集合だからな。遅れるなよ? 迷子になったら俺の携帯にかけるか迷子センターに行くんだぞ」
「だっから子供扱いすんじゃねー!!」
わたがしを持ちながらメアの所に行くというナナに炎佐が最終注意を行うがその内容は明らかに子供に対するもの。ナナの怒鳴り声が再び上がる結果になるのであった。そしてナナはぷりぷり怒って頬を膨らませながらメアとの待ち合わせ場所に向かい、その一連の流れを苦笑しながら見守っていたリトは携帯電話で美柑から「ティアーユ先生からヤミちゃんのお話聞きたいから、まだしばらく境内にいるね」という連絡を受ける。
「よかったですね。ティアーユ先生に美柑さんを紹介できて」
リトの隣に立つモモが嬉しそうにリトに言うと彼も「ああ」と言って嬉しそうに笑う。ナナとメアの事はとりあえず前進したし、今度は美柑が橋渡しになってギクシャクしているヤミとティアーユの関係が少しはうまくいけばいい。と彼は話した。
「確かにそうだね。ドクター・ティアーユは俺の新しい護衛相手になってるし、少しはヤミちゃんとの関係が上手くいってくれた方が有事の時に連携が取りやすくなる。それを除いても、あの二人は姉妹であり親子のようなものなんだから仲良くしてほしいよ」
ナナと別れ、合流してきた炎佐も前半は護衛対象という視点から、後半は二人の家族という関係という視点からそんな言葉を漏らすのであった。
それからリト、モモ、炎佐の三人で屋台を見て回り、モモはリンゴ飴を炎佐に買ってもらい、炎佐はその隣のたこ焼き屋でたこ焼きを買い食いしてた。
「モモ様!! それに氷崎大先輩も!!」
するといきなりそんな声が聞こえ、炎佐達は声の方を向く。そこに立って「こんな所でお会いできるとは!」と歓声を上げているのは
「いやー、モモ様に会えるとは! 男二人、祭りに来た甲斐がありましたよ!! 氷崎大先輩も親衛隊としてのお仕事お疲れ様です。モモ様、ぜひ我々と――」
中島が歓喜の声を上げ、炎佐に礼儀正しく挨拶した後にモモを誘おうとするが、そこでぽかんとした顔をしているリトに気づく。と彼は見て分かる程に嫌そうな顔を見せた。
「――ゆ、結城リト先輩も一緒でしたか……」
「はい」
中島の言葉にモモは満面の笑顔で頷く。と、中島は炎佐とリトに「失礼します」と一言言って(恐らく本人は炎佐だけに言ったつもりだろうが)モモに「ちょっと」と手招きして少しリトから距離を取ると顔を近づける。
「お気をつけて下さい、モモ様」
「何をですか? あまりカオ近づけないで欲しいんですけど」
「男は皆ケダモノなのです!! モモ様がいくら安全だと思っていても、モモ様の魅力の前ではいつ野獣に変貌するか分かりませんよ!!」
中島の熱弁に杉村が無言でうんうんと頷き同意を示す。
「思いっきり聞こえてるんですけど……」
だが最初は声を潜めていたにも関わらずいつの間にか熱弁になっていたためリトにもしっかり聞こえ、彼は困った声を出していた。
「そう! つまり――」
そこから中島の妄想が始まる。それはリンゴ飴を舐めるモモの横顔と白いうなじ、それに欲望を刺激されたリトがたくさんのリンゴ飴を舐める事を強要、それをやめたら浴衣の中に水風船を入れていくという訳の分からない妄想。最後には詰め込まれた水風船は割れ、モモの浴衣がびしょびしょになる。
「――この鬼畜がァアー!!」
「落ち着け中島! 鬼畜はお前だ!!」
中島の怒号に対し杉村が酷い言いぐさでツッコミを入れる。
「はっ!」
「モモ様が消えた!?」
だがその妄想ショートコントが終わった時、いつの間にかモモとリト、炎佐の姿が消えていたのであった。
「春菜ー。唯、電話で何か言ってたー?」
一方別行動をとっているララと春菜。ララはイチゴ味のかき氷を食べながら春菜に尋ねる。どうやら唯と合流出来ていない様子で、春菜はララの問いに「ええ」と答えた。
「古手川さん、支度に手間取ってるみたいよ」
「そっかー」
唯は遅れてくるらしい、と聞いたララは残念そうに呟く。と、春菜は少しうつむき、ややもじもじとした様子でララへと問いかけた。
「……結城君も、今日来るでしょ?」
「うん!リトは遅れてモモ達と来るはずだから、あとで会えると思うよ♪」
春菜の質問にララは元気よく笑いながら頷く。
「今日こそリトに“好き”って伝えてみる? 春菜」
「えっ!? そ、そんなムリよ! 今日はホラ、他の皆も来るし……」
「あー。そういえばそうだね~」
ララの大胆な言葉に春菜は慌てて誤魔化し始め、ララも素直にそれにこくりと頷くのであった。
「そういえば、さ……モモ達のお母さんってどんな人なの?」
視点をリト達に戻そう。リトは共にお祭りに来ているらしい母子を見て気になったのかモモに尋ねる。
「お母様……ですか?」
「うん。前にララからすごくキレイな人だって聞いたことはあるんだけど。あんまり詳しくは知らないからさ」
「……素晴らしい人ですよ」
リトからの質問を受け、モモはまず一言で「素晴らしい人」と自らの母親を評した。
「ああ。クィーン・セフィは政治の苦手なキング・ギドに代わって積極的にリーダーシップを発揮。各星星との外交に勤しんでおられるんだ。クィーンがいるからこそ、ギドが統一した銀河の恒久平和が保たれている。と言っても過言ではないかな」
「ええ。私達姉妹にとって最も尊敬する人物です」
すると炎佐がすらすらとモモ達の母、すなわちデビルークの女王を褒め称え、モモもそれを全面的に肯定。自分達姉妹が最も尊敬する人物だと締めた。そして次にモモはにや~っという笑みを炎佐に向ける。
「それに、エンザさんにとっても超大好きな人ですよね~?」
「な、はぁっ!?」
「え?」
にや~っとした笑みで炎佐に言うモモに対し炎佐は顔を真っ赤にして明らかにうろたえ、リトも驚いたように声を漏らす。
「だってほら~、チャーぐげっ!?」
しかしにやにや笑み&尻尾を怪しげにゆらゆらと揺らしながらの言葉は直後炎佐のサブミッションで止まる。炎佐が咄嗟にモモにスリーパーホールドを極め、完璧に極められているのかモモは脱出が出来ず必死で炎佐の腕をバンバンと叩く。
「エ、ジャ、しゃん……ぐる、ぐるじ……息が……」
「余計な事を言うな……」
「ま、まっふぇ……お、おち、おちふ……」
割と本気で絞めているのかどんどんモモの顔色が青くなっていく。そして最後には余計な事を言わないと誓わせてから炎佐はモモを解放。彼女はぐらりと揺れて地面を膝に屈すると喉を片手で優しく押さえながら必死で呼吸、肺に新鮮な空気を送り込む。
「え、えっと、その……炎佐、どうしたんだ?」
「リト」
「ひゃいっ!?」
リトは苦笑いをしながら炎佐に尋ねるが、その炎佐が真っ赤な顔に完全に据わっている目でリトを見ると彼も怯えた声を出す。
「お前、今、何も聞かなかったよな?」
「え、ええっと、モモ達のお母さんが――」
「何も、聞かなかった、よな?」
「――き、聞きませんでしたっ!!!」
最初はエンザの質問に正直に答えようとするが、その時エンザは一言一言を区切って重々しく尋ね、その殺気に咄嗟にリトは先ほどの記憶を封印する事に決めたのであった。
「リトーっ!」
「美柑?」
すると人ごみの中からオレンジ色の浴衣を着た美柑が駆け寄ってきた。
「どうした慌てて……ティアーユ先生は?」
「それが……大変なの!」
「「「!!」」」
美柑の血相を変えた言葉にリト、モモ、炎佐の顔色が変わり、「ついて来て!」と言って走り出した美柑の後を一番にリトが、次に炎佐がまだ膝を地面につけていたモモの手を引いて立ち上がらせてから続く。
「お祭り……か……」
一方お祭りの会場近く。ヤミは黒色を基調に、その黒に映える金色の花をあしらったような柄の着物を着てここにやってきていた。数日前美柑にお祭りに誘われたのだが、そこでリトからティアーユと自分の関係を聞いたことを話され、せっかく再会したんだからもっと仲良くすればいいのに。と言われたのだ。
「結城リト……余計な事を」
そうぼそりと呟き、買ってきていたたい焼きをぱくりと食べる。
「……帰るか」
とてもティアーユと会う気にもなれず、彼女は会場の目の前で帰る事を決める。
「どっちだって!? 美柑!」
「ほら、そっち!」
だがそこでそんな声が聞こえてくる。しかし、何か考え込んでいる様子のヤミは気づかなかった。
「えっ!? ヤ、ミ……」
そして飛び出してきた少年――リトとぶつかり、そのままもつれ合うように転んでしまった。
「リ、リトだいじょう……」
思わず炎佐が声をかけるが、直後絶句。リトはヤミの上に倒れているだけでなく太ももを上から押さえつけるような格好で股間に頭をうずめている。リトもヤミもとても人には見せられない格好になっていたのだ。
「相変わらず……器用にコケますね……結城リト」
ヤミは羞恥と怒りで顔を赤く染め、そう呟いたかと思うと彼女の金色の髪が真っ黒な棘付き鉄球へと
そして最後にリトが尻もちをついた瞬間、彼の首筋に刃へと変身した髪が押し当てられる。
「いいですか、結城リト」
そしてヤミは暗い、暗殺者としての目を見せながらリトに警告を発する。
「あなたが私の
「ヤ、ヤミさん落ち着いて!! リトさんも悪気があったわけじゃないですし」
今のところヤミが
「そうそう。ゴメンねーヤミさん。私がリトをけしかけちゃったもんだから」
続けて美柑が笑いながらヤミに謝る。
「でも変なのーヤミさん……まだリトの事“
美柑は手近なガードレールに腰かけながらそう言う。
「だったらさっさと殺しちゃえばいいのに……なんでやらないのかな?」
いや、美柑ではない。先ほどまで平均的な黄色人種そのものな肌色だった肌が一瞬にして褐色に染まった事と、まるで悪戯好きな猫のような、だがその奥に底知れない闇を抱えているような瞳がそれを物語っていた。
「そんなに
(美柑さんじゃない……)
(これは……
(私やメアと同じ……しかし全く異質な力を感じる……)
ズズズ、と美柑(偽)を真っ黒い闇が覆っていくと共に、彼女の姿が変わっていく。
「……なるほど。ようやくお出ましということですか」
その姿を見据えてヤミは声を発する。
「マスター……ネメシス」
悪戯好きな猫のような、だがその奥に底知れない闇を抱えているような金色の瞳を宿し、褐色の肌に真っ黒な髪を長く伸ばした、黒色のキャミソールを身に着けた黒ずくめの少女に向けて。
「こういう時、“初めまして”というのか? 人間は。人との接触はメアに任せているので、そういう事には疎くてな……」
ガードレールから離れ、ゆっくりと立ち上がり、少女――ネメシスは言う。しかしその次の瞬間その場に熱風が走った。
「……ほお?」
「外したか」
顔を先ほどより横に逸らしながらネメシスは笑う。その視線の先には先ほど走った熱風の正体。ネメシスの顔を抉らんばかりに炎を纏った手刀により突きを叩き込んだ炎佐の右手、そして殺気をみなぎらせたエンザの姿があった。その姿は既に銀色の鎧を身に纏った戦闘モードに入っている。
「お前は……氷炎のエンザか。メアから話は聞いている。だがこれは人間にしてはいささか乱暴な挨拶ではないか?」
「黙れ。お前はヤミちゃんを、ひいてはリトの命を狙う敵だ。ここで殺す」
エンザは問答無用でネメシスを殺しにかかっており、肘を曲げると勢いをつけて振るおうとする。放つは鋼鉄さえ焼き斬る灼熱の手刀、更に追撃の爆発によるコンボ攻撃は大抵の存在は跡形もなく消し飛ぶ。多少の反動さえ我慢すればエンザの接近戦におけるお手軽必殺コンボだ。
「!」
だが次の瞬間エンザは何かに勘付くとその場を飛び退く。ネメシスから放たれた濃密な殺気、賞金稼ぎ時代に鍛え上げられた危機察知能力がそれに反応し、反射的に距離を取らせていた。
(……ありえねえ)
無防備に近づいたら殺される。そう錯覚させる程の殺気なんて感じたのはデビルーク親衛隊時代にギドが抜き打ちの親衛隊度胸試し大会とか抜かしてふざけて放った程度(なおそれでも新人が数名殺気に耐えきれず気絶した)、賞金稼ぎ時代でも早々感じるものではなかった。そう思い、エンザはぼやく。
「リト!」
しかしエンザは直後、先ほどは不意打ちを狙ったため取り出せなかった刀を取り出し、炎のように赤い刃を具現化させる。ネメシスはエンザが飛び退いて距離を取った隙を狙い、まだ立ち直せていないリトの目の前に立っていたのだ。このままではリトが危ない、と直感したエンザは再びネメシスに飛びかかろうと構える。だが、その次の瞬間リトの足元の、先ほどのヤミの攻撃で粉砕されクレーター状の穴が開いていたコンクリートの端が崩れ、リトはバランスを崩すとそのままネメシスを巻き込んで倒れ込んだ。その両手はネメシスのお尻に当たり、顔は例によって股間にうずまっていた。
(またですかリトさーん!?)
思わずモモが心中で声を上げる。
「ゴメッ――」
慌ててリトも顔を上げる。だがその顔がネメシスの両手でがしりと挟まれた。このまま頭を押し潰されるか首の骨をへし折られるかしたらリトの命はない、そう直感したエンザは刀を手に走り出す。
「やるではないか。虚をつかれたぞ」
だがその次にネメシスが行ったのはリトへの賞賛だった。その言葉に思わずエンザの足が止まる。
「しかし……愚かでもある。お前には今しがた見せてやっただろう、結城リト。
ネメシスがそう言うと同時、彼女の身体に黒い闇がまとわりつくと彼女の胸がぽよんと膨らみ、さらに身体自体も先ほどの幼い少女とは打って変わってリトと同い年か少し年上くらいの姿まで成長する。
「必要に応じて姿を変え、敵を油断させる……それこそ――」
そう語るネメシスの目つきも妖艶さを増していた。
「――
「ちょ……こんな
子供から大人へと変身したネメシスはその結果着ているキャミソールが小さくなってしまうというデメリットを見せ、人目に触れるには少々目の毒な姿にリトが慌て出した。なおモモはいきなりのナイスバディへの変化に「トランス、なんて便利な……」と言いながら呆然としていた。
「関係ない……脱がせたのはお前ではないか……味わいたかったのだろう?……私の身体を」
そう言い、ネメシスはリトを自分の胸へ誘う。それにリトは顔を真っ赤にして硬直した。
「フフ……本当に良い
ネメシスは元の幼女モードに戻るとリトの上に乗っかり、硬直したリトを見て嗜虐的な笑みを見せる。
「モモ! リトを救出!」
「了解です! お兄様!」
だがその時エンザから指示が飛び、モモは頷くとデダイヤルに入力。
「ほう」
ネメシスが笑うと同時、コンクリートがひび割れると無数の根が飛び出る。それを見たネメシスはニヤリと笑うとリトの上から飛び退いた。
「お、おわああぁぁぁっ!?」
そしてネメシスの身代わりというようにリトがその根――シバリ杉の根に絡まれてしまう。だがすぐにモモがデダイヤルを操作、シバリ杉をデダイヤル内の電脳ガーデンへと戻した。
「ふべっ」
「乱暴な手段でごめんなさい」
地面に叩き付けられたリトにモモがぺこりと頭を下げる。
「自分で私を抑えるためにすぐモモ姫に救出を指示し、モモ姫も即座に的確な植物を召喚。なるほどいいコンビネーションだ」
「黙れ。すぐにヤミちゃんを諦めてメアと縁を切って地球を去れ、さもなくば殺す」
一方エンザは銃をネメシスに向けて一対一で睨み合いながら対峙。と言ってもエンザの方は眉間にしわを寄せて目を鋭く研ぎ澄ませているのに対しネメシスは新しいおもちゃを見つけた子供のような無邪気な微笑みを浮かべているのだが。
「しかし――」
「消えっ!?」
「きゃああぁぁぁっ!?」
だが次の瞬間ネメシスはニヤリと笑ったかと思うと闇に紛れたかのように姿を消す。その直後モモの悲鳴が聞こえ、エンザは振り返る。そこにはモモを捕らえているネメシスの姿があった。
「しまった!?」
「――それは同時に、お前の能力が人質救出には向かんと自らばらしているようなものだ。そらどうだ、お前の護衛対象の一人は私の手の中、植物を召喚させる隙など与えんぞ?」
ネメシスはニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべながらそう言う。
「や、やめろ! モモを離せ!!」
近くで腰を抜かしたように座り込んでいるリトが吼えるが、モモを人質に取られているため彼も下手に動けない。
「知っているか? 結城リトよ」
対するネメシスも余裕の笑みを見せつけながら見下すような視線でリトに話しかける。
「“破壊”には二種類存在する。“物理的な破壊”と“心理的な破壊”だ。私はどちらも大好きだが特に好きなのは後者でな……」
ネメシスはそう言い、くふふと笑う。
「そうだな。お前を調教するのも悪くはない」
「ちょ、調教!?」
「そうとも、お前にありとあらゆる苦痛と快楽を与え、私に踏みつけられるだけで絶頂に達する下僕へとしたてあげる。その光景をお前を慕う妹や友人に見せつける……おおう、想像しただけでコーフンするではないか」
((何言ってんのこの人!?))
ネメシスは自分の言葉で興奮したのかぞくぞくっと震え、その姿にリトと人質になっているモモも唖然とした顔を見せた。
「ふむ、イマイチピンとこないようだな。ならば一つ実演をしてやろう」
「ひゃうっ!?」
そう言うや否やネメシスはモモの尻尾を右手で掴み、くりくりっといじる。それだけでモモは腰砕けになり、近くに座り込んでいたリトの上で悶え始める。
「こういうことだ。こうやって快楽を与え、同時に苦痛を与え、最後には苦痛を与えると同時に快楽で絶頂するように仕立て上げよう。という事だ。まあ、まずは快楽に慣らしてやろうか」
「ふぁああぁぁぁ、はぁっ、やっ……」
「いい声だな、モモ姫よ……お前も、責めがいがありそうだ」
「な……なんで、尻尾の事を……」
敏感な尻尾をいじられたモモは甘い声を上げつつも何故ネメシスがデビルーク人女性の弱点である尻尾の事を知っているのかと問いかける。
「ん? 私はメアの主だぞ? そのくらいの
そう言いながらもネメシスはモモの尻尾の弄り方を的確に変え、次々とやってくる快感にモモは身悶えし抵抗できなくなる。
「ところで……夏祭りとやらで着るその“ユカタ”という衣装……なかなか良いな」
ネメシスはモモの着ている浴衣を戦闘時に手元を隠せ、暗器も仕込みやすい、いいデザインだと評価。その瞬間彼女の周囲を闇が覆う。
「足は――動きやすい方がいいから……こうか? 似合うかな」
ネメシスの着ていたキャミソールが一瞬で黒色のフリル付きミニスカ浴衣に変身。さらに足も裸足から草履履きに変わり、髪型もサイドポニー風に変化。さらに左目を隠すように黒髪が伸び、おまけに頭には白と黒の二色に塗り分けられた狐のお面までくっついていた。
「ん? 返事はしてくれないのか? フフ……はしたないぞ、デビルークの
ネメシスは嗜虐的な笑みを浮かべて尻尾をペロペロと舐め、モモを責める。モモはリトの上でびくんびくんと反応、よだれまでぽたぽたと流れる反応にモモはリトに「見ないでぇ」と懇願していた。
「おふざけはそこまでです」
「金色……」
その瞬間、ネメシスに接近を悟られない速さでヤミがネメシスに肉薄、髪を変身させた刃を首筋に構えて脅しをかけ、ネメシスも一瞬そちらに気を取られる。その隙をついたかのようにモモの尻尾にエネルギーが奔流。すんでのところでそれに気づいたネメシスが姿を消すのとデビルーク人の必殺技である尻尾ビームが先ほどまでネメシスの頭があった場所を貫くのはほとんど同時だった。
「危ない危ない。そんな技があったのか」
闇夜に紛れながら空中をひゅんひゅんと回転、手近な電柱の上に乗りながらネメシスは不敵に笑う。それに対しモモは先ほどまでの屈辱に対する怒りに燃えた目で彼女を睨みつけていた。エンザもモモを人質に取られさらには弄ばれた事に怒っているのか先ほどより強い殺気をネメシスに見せている。
「おお怖い。悪かったよ、許してくれモモ姫」
しかしネメシスは二人の殺気に動じる事もなくおどけたようにモモに謝罪。イジワルをするつもりはなかった、自分はどうも衝動を抑えるのが苦手でついスイッチが入ってしまった。と悪びれる様子もなく弁明する。
「私は別にケンカをするために来たんじゃない。挨拶に来たんだよ」
「挨拶?」
「ああ」
ネメシスの言葉にモモが警戒心を露わにしながら、ネメシスの言った意外な言葉を反芻。ネメシスもこくり、と頷くとにこりと可愛らしく見える笑顔を浮かべた。
「仲良くしたいのだよ、金色の闇。そしてそれを取り巻く者達とね……」
「な!? そんな事! 誰があなたみたいなドSむぐっ――」
「……今まで姿を隠しておきながら、何故今頃そんな事を?」
ネメシスの言葉にモモがかっとなって断固拒否しようとするがその口をヤミが手で塞ぎ、ネメシスへと問いかける。それに対してネメシスは電柱の横にかけられた看板へと移動すると腰を下ろし、ミステリアスな笑みを浮かべた。
「身を隠していたのは大した理由じゃないさ。この街でお前の現状を探るにはメアの方が適任だっただけだよ」
ネメシスはそう言うと困ったように笑い(本当に困っているかは定かではないが)、私はこんな性格だからトラブルを起こさずに人とうまく付き合う自信がなくてね。と返答。
「だがいつまでも隠れていてはお前達から警戒される一方だし……勇気を出して一歩踏み出してみたわけだ」
言葉だけ聞けば人付き合いの苦手な女の子がこのままではダメだと人前に現れてみた。という健気な姿。しかしそんな気配はネメシスから一切感じ取れず、エンザ達はむしろ警戒を強めていた。
「納得できません」
ヤミも警戒を強めながら納得できないと返答する。今まで聞いていた話を信じるとするならば、ネメシスの目的はヤミにリトを抹殺させ、兵器としての道に戻す事。それを考えるとここでネメシス自身がヤミ達の前に姿を現す事にメリットは感じられなかった。せいぜい美柑に変身していた時のようにヤミを煽る程度である。そうヤミはネメシスへと語った。
「確かにそう考えた」
ネメシスもヤミの返答を首肯。あの頃はまだ
「そして……やっと見えてきたんだ。お前の本心が」
「……本心?」
「そうさ、金色の闇」
ネメシスの語る言葉にヤミもぴくりと反応、ネメシスは再び語り始める。ヤミは自分が“
「人とは決して相容れる事のない兵器の本質、
「ダ……ダークネス?……」
ネメシスの語りに圧倒されたように、震えた声がリトから発される。
「そう……ならば問題はない。私が導かなくともいずれ自然にお前は目覚める。その時まで……私は気長に待つことにするさ」
そう言い、ネメシスは立ち上がるとリト達に背を向けた。
「退屈したら遊びに来るからヨロシクな。モモ姫、結城リト……そして氷炎のエンザよ」
「お断りします!」
ネメシスの言葉にモモがきっぱりとお断りを入れ、リトもどうすべきなのかと迷う。エンザに至っては何も言わずに殺気を向けるのみ、しかし無策にかかっていかない辺り、少なくとも考え無しに全力を出していては翻されて返り討ちにされるのがオチ。それほどの相手であると認識しているようだ。
「まあ、
「信用ならん」
「おやおや、随分と嫌われてしまったな」
ネメシスの妥協したような台詞をエンザは一蹴。ネメシスはひょいっと肩をすくめる。
「メアとはなんだかんだ言って仲良くしているくせに、やきもちを焼いてしまいそうだ」
「なっ!?」
直後、ネメシスはエンザの背後に回り込んでいた。まるでワープか何かでもしたのかと思えるほどの速さであり密着するどころか声をかけるまで彼に気配察知さえさせない程の気配遮断。もしネメシスにエンザを殺す気があったなら、ここで無言のまま首筋に刃物でも刺し入れるだけでエンザは無抵抗のまま殺されていた。
「メアはナナ姫に倣って兄上と呼んでいるそうだな。ならば私はモモ姫に倣おう。なあ――」
ネメシスはエンザの耳元へと口を近づける。
「――お、に、い、さ、ま♪」
「ぶっ殺す!!!」
甘ったるい声による挑発染みた調子の台詞にエンザはブチギレてネメシスを払いのけると振り返り様背後に爆炎をまき散らす。しかしネメシスはけらけらと笑いながら跳躍。くるくると宙で回転するとまるで猫のように軽やかに着地した。だがエンザは刀を抜き、赤い刃を具現化。さらに瞳も紫色に染まり始め、バーストモードを解放しようとしていた。
「結城君!? モモちゃんにヤミさんに、氷崎君も」
するとそこにそんな声が聞こえ、全員が声の方を向く。
「……こんな所でどうしたの?」
そこには遅れてやってきた、やけに気合を入れた浴衣姿である唯がぽかんとした様子で立っていた。
「! ネメシスが……」
「しまった、逃げられた」
一瞬唯に気を取られた隙にネメシスの姿が消えており、エンザは先ほどのように背後に回られてやしないかと辺りを見回し気配も探るが、ネメシスの気配はなく既にこの場から立ち去っている。という結論をエンザに出させる。
「ど、どうしたの? 氷崎君、そんな格好で……というか、何ココ、道がムチャクチャ……」
「あ、その……リ、リトがまたずっこけてヤミちゃんを怒らせてさ! 落ち着かせるためにこんな格好になってただけだよ! ははは……」
唯は炎佐の鎧姿に疑問を持ち、炎佐はネメシスの事は伏せてリトがヤミを怒らせたという事だけを伝え、鎧を解除して私服姿へと戻る。それを聞いた唯が「またなの」と言いながらリトをジト目で睨む。
「あ、いや、その……リ、リトさんが、古手川さんの浴衣姿を早く見たいと言うので、お迎えにあがったんです! その、ヤミさんの件は不幸な事故と言いますか、なんと言いますか……」
「そ……そうなの?……」
モモは慌てた様子で即席の理由を捏造。丸投げされたリトが心中で驚き、モモはヤミの方はどう説明しようかと悩むが唯は「結城君が自分の浴衣姿を楽しみにしてくれていた」という一点が気になったのかそっちは全く聞いていない、というか気にしていない様子だった。
「あ、えと……ああ! 浴衣いいな! すごく!!」
リトも唯を見ながらどこか焦った様子ながらも素直に感想を伝え、それを聞いた唯も嬉しそうに頬をほころばせる。
「いやー。いつも怒ってる古手川とは別人みたいだよホント!!」
しかし続けての言葉に唯の頭に怒りマークが浮かんだ。
「いつも怒ってるのはあなたが原因でしょ!! バカ!!!」
「ご、ごめんなさい!!」
そしてリトに怒鳴り、リトも失言を謝罪。モモも呆れた様子で「何故そこで余計な一言を……」と呟いていた。
それから場所はリトと美柑が幼い頃に見つけた穴場へと移動。花火を堪能する春菜やララ、里紗達の後ろでリト、モモ、炎佐、美柑、ヤミ、御門、ティアーユ、お静ちゃんで話し合いが行われていた。
「まさかマスターと会ってたとはね……」
「どんな相手だった?」
御門とティアーユが冷や汗を流しながらそう呟き、ティアーユの質問にリトが「ちょっと不気味というか怖いというか……」と表現に迷うとモモが「イヤーな感じの人でした!!」と断言する。
「なんか……ヤミとか俺達と仲良くしたいからヨロシク……みたいな事言ってましたけど……」
「……」
「えー、そんなメチャクチャうさんくさいじゃないですか! 何か狙いがあるのでは!!」
リトの伝言を受け、ティアーユが迷う様子を見せ、お静ちゃんがうさんくさいと評する。
「そんな心配いりませんよ~」
するとそこにそんな声が聞こえてきた。
「マスター言ってたもん。私が
その声の主――メアはわたがしを片手に「きっと自分も試したくなったんだよ。人との触れ合いってヤツ!」と答えた。
「そんなの……信用できません! 皆さんはともかく私はまだメアさんを信じたわけじゃないですし……」
「あらら」
知らないところで何かあったのだろうか。メアを信用していない様子のお静ちゃんにメアが「あらら」と声を漏らす。
「私は別にいいですよ~。村雨せんぱいに好かれなくたって」
「ヤな感じです」
メアのわたがしを齧りながらの言葉にお静ちゃんもむっとなる。
「あっ、文句あるなら受けて立ちますよ!
「望むところです!!」
メアの天真爛漫な様子での戦闘宣言にお静ちゃんは軽く乗って「ほっ!」と気合を入れる。その様子に御門がお静ちゃんを「落ち着いて」と諌め、ナナがメアを「そういう態度はやめろって、ケンカは駄目だぞ」と注意する。
「一応、あいつの目的が達せられるまではこっちから手出ししない限りは暴力的な手段は使ってこないって言ってたが。どこまで本当なのやら」
炎佐がやれやれとため息をつき、その場を去ろうとする。
「ん? どうしたんだ、炎佐?」
「念のため見回りしてくる。ま、気晴らしの散歩とでも考えてくれ」
声をかけてくるリトに炎佐はそうとだけ返し、その場を去る。そして屋台の並ぶ祭り会場へ降りるとリトに言った通り見回りという建前で適当に散策を開始。ザスティンとのデートを楽しむ沙姫(多分デートと思っているのは沙姫だけだろうが)やリンゴ飴を舐める校長などの姿を見つけながら彼は歩いていき、人気のない神社の境内へとやってくる。
「やあ、お兄様♪」
「てめえなんでいやがるんだ?」
そこにいたのはフリル付きミニスカ黒浴衣姿のネメシス。その姿に思わず炎佐の額に怒りマークが浮かんだ。
「なに、暇だったからな。このユカタという衣装はこの夏祭りで使うのだろう? ならば祭りに参加するのも一興というものだ」
そう言いながら彼女はたこ焼きを食べみたらし団子を食べフランクフルトをほおばる。
「……お前、それどうやって手に入れた?」
「安心しろ。地球のルールは把握している……テキトーにおねだりしてやればすぐ手に入ったよ」
「把握してても適用する気ねえだろお前!?」
泥棒か最悪強盗して手に入れたんじゃないだろうかと怪しむ炎佐に対しルールは把握していると豪語するネメシス。しかし結局の入手方法はおねだりという事で思わずツッコミを入れる。しかしどこの誰とも知らぬ屋台の人間の損失をわざわざ補填してやる義理もなければ結果的にネメシスに奢る事になるなどまっぴらごめん。炎佐は深くツッコミを入れるのをやめた。
「ところで……お前は一体何を企んでいる?」
「答えてやる義理などない」
炎佐の単刀直入な切り込みにネメシスはクククと笑いながら答え、「まあそりゃそうだ」と炎佐も返す。
「お前が私の下僕となるなら、考えてやらんでもないぞ?」
「断る」
対するネメシスの提示した条件を炎佐はすげもなく断り、「それはそうだ」とネメシスも返す。
「ならばこの話はここで終わりだな」
そう言い、ネメシスはみたらし団子をぱくりと食べる。この件について口を割るつもりはないらしく、こちらも聞き出す材料がないため炎佐もチッと舌打ちを叩いて引き下がる。
「まあ、なんだ。
「俺の目の前に出てきたら死ぬことを覚悟しておけ」
「私に背後を簡単に取られて、よく言えたものだ」
ネメシスの要求に炎佐がすごむがネメシスはつい先ほどあっさり背後を取られて無防備な姿をさらしてよく言えたなと嘲笑。それ自体は本当の事のため炎佐もぐっと唸った。
「ま、私もお前が殺しにかかってきさえしなければお前達を殺そうとはしないぞ。お前達を、な?」
「テメエマジで覚えてろ」
お前を殺そうとはしない、ではなくお前“達”を殺そうとはしない。つまり不用意に襲い掛かって逃がしたらリトや美柑、ララ達炎佐に近しい人物の命はないと思えというとんでもない脅しに炎佐はぐぅと唸り声を上げる。
「逆に言えば、仲良くしてくれれば私もお前達の命は保証しよう、という事だ」
「……くそっ、分かったよ。テメエも約束守れよ?」
「ああ。
炎佐とネメシスの中で協定が成立。するとその時炎佐の携帯が鳴り始め、炎佐は携帯を取り出して液晶に表示された名前を確認。電話に出る。
「もしもし。どうしたんだ、ナナ?」
[なーエンザー。メアがいつの間にかいなくなってんだけど、なんか知らねー?]
「いつからだよ?」
[んー、分かんねー。気がついたらいなくなってたんだ。エンザ達の話が終わるくらいには確かに一緒にいたんだけど……]
「分かった分かった。今から戻るから」
ナナはメアがいないけど何か知らないかと炎佐に電話しており、炎佐も呆れた様子で今から戻ると伝えて電話を切る。
「そういう事だ、俺はもう……っていねえし」
ネメシスから離れる大義名分も出来たので戻ろうとする炎佐だが、既にネメシスは忽然と姿を消している。
確かにネメシスがいたという証拠は捨てられていたたこ焼きの容器やみたらし団子の串が物語り、炎佐はまたため息をつくとそれらを近くのゴミ箱に捨ててから、ナナ達のいる穴場へと戻っていくのであった。
今回は夏祭り、ネメシス登場です。そして炎佐はコテンパンにされました。ネメシスのタイマンでのガチ戦闘はギド相手にコテンパンにされるものしかありませんでしたが、逆にギドにダメージ与えられずともある程度喰らいつけたんだから実力はある。というイメージです。仮にも
さて……ここから先結構炎佐絡ませにくそうな話が続くけどどうするかな。いっそ一気にすっ飛ばして原作恭子とのフラグ立てるあれまでいくか?そうしたら凜とのフラグ立てるあれまですぐだし……。
ま、おいおい考えるとしょう。今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。