「キャハハハハ!」
彩南町の河原。普段穏やかなこの場所は現在、二人の異星人による一対一の攻防が行われていた。
赤毛のメアと呼ばれる少女――メアは背中に黒いまるで鴉か堕天使のような翼をはためかせて飛行し、両腕を
「ちっ」
それに対するのは氷炎という矛盾する属性を己の能力として持ち得、二つ名として名乗る青年――エンザ。彼は全身を覆う鎧の背中に展開されたジェットで空を俊敏に舞い、大砲の弾幕を回避しつつ右腕に展開した黒色のビームガンをメアの方に向けて反撃を見せていた。しかし相手は両腕なのに対しこちらは右腕のみ、単純に手数が半分な分エンザが不利な状況である。
「キャハハハハ!」
メアは狂喜の笑い声を上げながら光弾を乱射、狙いは大雑把ながら弾幕で回避させない目的の攻撃にエンザはちっと舌打ちを叩き、同時に右腕のビームガンが光を放つとそれは青色の盾へと姿を変える。同時に左腕が光に包まれたかと思うとピンク色のドリルが展開された。
「うおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」
エンザは吼えながら光弾の雨目掛けて突進、光弾を右腕の盾で防ぎながら真正面からメアに向かっていく。多少光弾がその身を焦がそうともエンザは気に留めることなく突撃。
「! 素敵♪」
メアは真正面からの攻撃に一瞬驚くが、すぐに目を細めて嬉しそうに笑うとその髪を変身させた刃で四方八方からエンザを襲う。
「くっ!」
エンザはその全方位からの攻撃を目で追い、刃の隙間を掻い潜る。
「うおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」
「!」
そしてメア目掛けて高速回転するドリルを突き出す。メアもまさか初見でこの全方位攻撃を掻い潜るとは思っていなかったのか一瞬硬直し、しかし反射的に身体を動かして自らを貫かんと迫るドリルをかわす。
「しまっ――」
しかし己の身を空へと舞い上がらせていた黒翼への回避までは間に合わず、黒い片翼がドリルに貫かれる。
「……チッ」
だが炎佐も舌打ちを叩く。その背中のジェットからは火花が散っていた。鋭利な刃で斬り裂かれた跡がある事からメアの攻撃をかわしきれずに一撃くらってしまったらしい。互いにこれ以上の空中戦は不可能と判断、メアは残る片翼でバランスを取って空中を旋回して滑空しながら、エンザはジェットに負担をかけないようにホバリングをしながら河原に着地。同時に黒翼が闇になって、ジェットが光の粒子となって消え去る。
「あははっ、兄上も
「……」
からかうように言うメア。だがエンザは無言で返しながら腰のバックルに装着したデダイヤルに右手をかざす。と、同時にデダイヤルから刃のない刀の柄が転送され、エンザはそれを両手で握り締めると前傾姿勢を取る。
「っ!?」
直後ドゴンという音が聞こえたかと思うと先ほどまでエンザが立っていた地面にヒビが入り、彼の姿がいずこかへと消え去る。
(後ろ!)
直後感じた殺気からメアは反射的に後ろに攻撃を仕掛けようとする。
(いや――)
だが左腕を変身させた刃を振り返り様に振るう体勢に持っていきつつ、メアの長いおさげがふわりと浮かぶ。
(――上っ!?)
おさげが刃へと変身し、メアの頭上を守るように浮かび上がると同時にその刃と、上空から襲い掛かったエンザの赤い刃が激突。その刃から放たれる熱にメアは一瞬表情を歪めつつおさげ刃を操ってエンザを弾き飛ばす。それと同時にメアの髪が再び無数の刃へと変身、一気に空中のエンザを襲う。
「はあああぁぁぁぁっ!!」
「なっ!?」
だがエンザの左腕に新たな武器が展開される。それは鎖で繋がれた巨大な灰色の鉄球。それをエンザは苦も無く振り回して髪が変身した刃を弾く。鈍器相手に刃では相性が悪く、メアは唸り声を上げて攻撃をやめる。
「だったら――」
メアは着地し、同時に鉄球を消して反撃に転じようとするエンザ目掛けて突進。その右腕を刃へと変身させる。
「――体勢を立て直す前にっ!?」
着地の衝撃で動けなくなっている前に一撃必殺を狙うメア。だがその時彼女を後押しするように追い風が走る、本来ならば気にすることなく、良くて味方となる追い風。しかしその強さは明らかに偶然吹いたそよ風程度ではなく、いきなりの暴風とさえ言える追い風に逆にメアはスピードの制御を失ってしまう。
「がふっ……」
制御を失いつんのめってしまったメアの腹部目掛けてエンザは容赦なく膝蹴りを入れる。結果的に自らスピードを上げて懐に飛び込み、カウンターの形で攻撃をくらってしまったメアは苦し気な息を吐いた。
「冥途の土産に教えてやるよ。風ってのは所謂空気の流れによって発生するものだ。そして空気の流れは熱によって作られる……俺は高熱を操るフレイム星人と冷気を操るブリザド星人のハーフ。その力を使えば一時的に風を操る事なんて造作もない……バーストモードを全力で解放しないと出来ないとっておきだけどな」
エンザは冷淡な声でそう言いそのまま蹴りを振り抜く。メアはその際に放たれた爆発に巻き込まれて吹き飛ばされた。
「ごがぼっ!?」
しかも吹き飛ばされた方向は地面ではなく川。いきなり水中に叩き込まれたメアは口から息を吐き、それが水泡となってぶくぶくと破裂する。しかし万一息を吸おうとしていたら水が気管に入り溺れていた可能性がある。
「っ!?」
反射的に水面に上がろうとするメアだが、その時背筋にうすら寒いものが走り、彼女は咄嗟に逆に川深くに潜る。その直後ジュワァッという水面が蒸発する音が彼女の耳に届いた。恐らくエンザが追い打ちで巨大な火球を川に叩き込んだのだろう。冷水の中にいるにもかかわらずメアの肌を焼きそうな熱気と、もう夜にも関わらず赤く照らされる水面を見て彼女はそう直感。しかしその炎は逆に目くらましにもなり、彼女はその隙にエンザがいる岸とは反対側の岸へと泳ぎ、炎の弱まった地点から水上へ顔を出す。
「ぶはあっ!」
膝蹴りを腹にくらって息を無理矢理吐き出され、そのまま水中にダイブと呼吸をする暇がなかったメアはぜえはあと荒い呼吸を繰り返す。全身びしょ濡れで元々身体に貼りつくようなデザインの
「っ!?」
だがメアはまたも嫌な予感を感じて咄嗟に岸へと這い上がる。その直後川が凍り付き、万一這い上がるのが遅れていたら自分も川ごと氷漬けになっていたかもしれない事実にメアは顔を青くした。
「ちょ、何これ兄上ありえねぇ?……」
ついそんな事をぼやくメア。だが彼女は凍り付いた水面の上をエンザが走ってくることに気づき、臨戦態勢を取る。
「らぁっ!」
凍った川を走りメアに飛びかかったエンザが刀を袈裟懸けに一閃、メアはバックステップでその一閃をかわしつつ両腕を刃に変身させて剣劇を開始。しかしまだメアの呼吸は整っておらず防戦一方だった。
「ふっ!」
「ぐ、ぜひゅっ」
首を落とさんばかりの横薙ぎをメアは上半身を後ろに反らしてかわす。だが呼吸が整ってない状態で無茶な動きを繰り返しているためかさらに息が妙な事になっていた。
「焔の獅子よ、その鋭き爪にて――」
「!」
刀を掲げたエンザの口から口上が述べられる。それにメアは反応し、反撃を諦めて両手を元に戻し、反らした上半身をさらに反らして後ろに倒れ込むように飛び込む。
「――あだなす敵を灰塵に化せ!」
メアが後ろにハンドスプリングのように回転し、エンザの振り下ろした刀に宿る赤い刃がメアの戦闘衣の股間部分を掠って地面へと振り下ろされる。ギリギリで刃をかわしたメアはそのままくるんと回転してしゃがみこむような形で着地。
「緋色の爪痕!!」
「!?」
しかしエンザの振り下ろした刀が地面に叩きつけられると共にその地面から三本の炎が噴き出、まるで獲物を引き裂く獣の爪のようにメアへと襲い掛かる。
「くっ!」
メアのおさげ髪の先端が砲台へと変身。チャージする時間もそこそこに放たれた光弾は炎の爪を貫いてエンザに直撃。
「取った!」
相手の一撃を無効化し、逆に有効な反撃で相手の動きを止めた。しかもエンザの全身を覆う鎧はもう展開するのも限界なのか消え去り、普段の白銀の鎧へと変わっている。メアはここが反撃の時と確信しまた右腕を刃へと変身。ダン、と地面を蹴ってエンザに飛びかかった。
「運が良かった……いや、お前にとっては運が悪かったか?」
「え?」
エンザがそう呟いて目線を上にやり、メアがそんな声を漏らす。その時、彼女は頭上でゴロゴロと雷鳴が響く音を聞いた。
「雲は冷やされた水蒸気を含む空気が冷やされる事で形成される。そして雷はその雲の内部の微小な氷がこすれ合うことで生じる静電気が原因……雷までは種を入れる余裕がなかったから若干賭けだったがな」
「水蒸気、冷やす……しまった!?」
水蒸気は水が蒸発すれば作られる。それが冷えれば雲になる。それをエンザは先ほどの攻防の中でさりげなく行っていたのだ。
「落ちろ雷!」
「きゃあああぁぁぁぁっ!!!」
エンザが叫ぶと同時に偶然だろうか雷がメア目掛けて落ち、直撃。メアは地面に落下し、しかも雷で身体が麻痺したのか一瞬動けなくなる。
「これで最後だ」
しかしその無防備な一瞬があれば充分。エンザはそう言うように立ちあがって刀を振り上げた。
「させるかああああぁぁぁぁぁっ!!!」
「へ?」
だが突如そんな声とドドドドドという地響きが聞こえ、エンザは呆けた声を出す。
「どぎゃっ!?」
直後ドゴムッという激突音が聞こえたと思うとエンザが巨大なイノシシ――宇宙の危険指定種ギガ・イノシシだ――に撥ね飛ばされ、そのまままだ凍っている川の氷へと叩きつけられる。
「エンザアアアアァァァァァッ!!! お前、あたしの友達に手ぇ出そうっていうならお前でも許さないからなっ!!!」
そして轟く怒号。怒りからか顔を真っ赤にして叫ぶのは桃色の髪の少女であり、ギガ・イノシシの飼い主――ナナ・アスタ・デビルークだ。
「ナナ……ちゃん……なんで……」
来ると思っていなかった存在にメアは分かりやすく狼狽する。
「言ったでしょ、友達ごっこはもう終わりだって……」
「メア……」
そう言うメアに対し、ナナは彼女に向けて踏み出しながら彼女に声を向ける。
「話があるんだ。聞いてくれ」
「来ないでっ!!」
ナナがメアに向けて踏み出した瞬間、メアはおさげを刃に変身させて放ち、威嚇だったのかそれはナナの髪を掠ってリボンを切る。ぱさり、とナナの左側のツインテールが下ろされた。
「ナナッ!」
物陰から見守るつもりだったが吹っ飛ばされたエンザが心配になって彼の元に駆け寄っていたモモ――なおエンザは突進のダメージに加えて戦闘の消耗もあってか目をぐるぐると渦巻きにして気絶してしまっている――は双子の姉が危険だと判断して止めに走ろうとする。
「ま、待ってモモ!!」
「ひゃうっ! リ、リトさんっ、こんな時になにをっ!?」
リトがそれを止め、だが止めるために掴んだのがデビルーク女性の弱点である尻尾のためモモは悶え始める。
「ご、ごめん!」
リトもはっとしたように尻尾から手を離す。
「でも、今は信じよう。二人を」
しかしモモを止めるという事は譲らないのか、真剣な表情でモモにそう言い聞かせる。モモも僅かに黙った後こくりと頷き、エンザの横に座り込んだ。
「なんで…(…なんで当たらない!?)」
「メア……今、そこに行くからっ!!」
ナナを追い返すため彼女に攻撃を仕掛けるメア。だがナナへの攻撃は彼女の腕輪やリボンにちょっと掠る程度の結果に終わっており、威嚇なのかと思いきやメアもその結果に人知れず驚愕している。
(
相手を傷つけることが出来ない兵器なんて兵器失格。
「来ないでよっ!!!」
そう考えたメアの口からそんな叫びが響き、直後放たれたおさげの毛先がナナの額へと突き刺さった。
「っ!?」
「ナナ!!」
額に何かが刺さったナナが驚きに目を開き、モモの声が響く。しかしナナはその呼び声に反応する事なく、己の意識が遠くなっていくのを感じるのであった。
「ん……」
まどろみの中、ナナは目覚める。そこは空中、視点の上には彩南町が広がり、しかし自分を囲むようにまるで水面のような揺らぎがある。よく意味が分からない光景だ。
「なんだ……ここ……」
ぼーっとした頭でナナは思考する。自分は確かメアを探していたはず。しかしメアの姿がどこにもない。
「え……」
そこまで考えた時、ナナは背後に気配がある事に気づいて振り返る。
「リト!?」
そこに立っていたのはリト。彼はナナを後ろから抱きしめるような格好になるとそのまま彼女の胸や腰などを撫でていく。そこでナナは自分が今全裸になっていることに気づいた。
「ちょ……っ、な、何すんだっ、やめろケダモノっ」
ナナは羞恥に顔を赤くしながら叫ぶ。だがその時、彼女はリトの身体が黒ずむと共にまるでスライムのような粘性の高い液状の姿になっていくのに気づく。
「これは……リトじゃないっ……」
「それはナナちゃんの心の中にある強いイメージを利用して私が作り出したモノ。リトせんぱいか……ナナちゃんをここに来させたのは」
そんなナナを感情のこもってない目で見ながら、やはり何故か全裸状態のメアがナナへと歩き寄りながら話しかける。
「これが……“心に侵入する
「お願い……このまま帰るって約束して。そうすればこんなイジワルやめるから」
メアは完全にスライム状になった元リトでナナの身体を弄びながらそう言う。
「思い出したんだ、“闘いの感覚”、私の生きる世界を……マスターはきっと、それを分からせるために私を一度一人にしたんだよ。私はこれ以上ナナちゃんと一緒にいない方がいいの。ナナちゃんは人間で、私は兵器なんだもん。だから……」
「関係……ないだろっ……」
メアの抑揚のない声での言葉を、ナナが否定する。
「え?」
「兵器とか人とか……肩書きなんてどーでもいいんだっ!!!」
その言葉の瞬間黒いスライムが弾け飛び、ナナはそのまま前に飛び出した。そしてナナは勢いよくメアへと抱きつく。そこは先ほどの
「大事なのは……あたし達の気持ちだろ!!」
ナナはメアを力強くしかし優しく抱きしめながらそう宣言する。
「……メア、もう一度……あたしと友達になってくれ。ごっこじゃない……本当の友達に……」
「……もう……一度?……」
ナナの言葉をメアは反芻する。
「……一緒にまた学校へ行って……一緒に遊んで……色んな話をして……お菓子を食べて……一緒に、笑おうよ」
「あ、でも……私っ……」
ナナの、涙声ながらも真っ直ぐな言葉にメアは慌てたように言葉を紡ぐ。
「自分が兵器だっていうマスターの教えは曲げられないよ? この街にだって……いつまでいられるか分からない……それに私、エンザと喧嘩しちゃったし……」
「エンザと喧嘩って、どーせあたしがメアに泣かされた~とかだろ? あいつ昔っからそうだからな」
メアの最後の言葉を聞いたナナはメアから離れながら呆れた様子で答え、やれやれと頭を横に振る。その後にぱっと元気よく微笑んだ。
「心配するなよ。あたしはもう大丈夫、エンザにはあたしからしっかり言っとくからさ!」
「じゃあ……いいの?」
「言ったろ、関係ないって。あたしには人間も動物も……兵器だって関係ない」
そう言い、ナナは優しく笑う。
「メアはメアだ」
「ナナ……ちゃん……」
その言葉を聞いたメアは、自分の心がふわふわと軽くなっていくのを感じる。それと共に、自らの頬を目から流れ落ちた何かが伝い落ちるのを。
「ずるいよ……そんな風に言われたら……断る理由がないじゃない……」
メアがそう言うとナナは無言で微笑みながらメアの両手を自分の両手でぎゅっと握り締める。
「……よかった」
「どうにか、一歩前進……って感じですね」
「……うん」
それを見守っていたリトとモモもそう話し合う。
「……でさ」
そこからリトは呟き、ちらりと河原の方に目を向ける。
「これ、どうすんだ?」
そのリトの視界に映るのはエンザとメアの激闘のせいで芝生が剥げたり焦げ跡が残っていたり、挙句の果てには凍り付いてしまっている川。しかもその主な実行犯であるエンザは完全に気絶しておりちょっとやそっとで起きそうにない。
「……エンザさんの携帯を借りて惑星保護機構に連絡を取りましょう。いざとなればエンザさんに責任を押し付ければいいです」
モモは若干の無言の後しれっとそう言うと慣れたように気絶しているエンザの身体を探り、携帯を探し始める。リトも自分ではどうしようもないのか苦笑を漏らしながらそれを見守っていた。
「……う」
口から漏れた声が耳を通して聞こえてきた。目の前が暗い。なぜだ、目を瞑っているからだ。そう考え、目を開く。ぼやぁ、とぼやけた景色が少しずつ鮮明化していく。それはよく見慣れた家の天井だ。
(俺は……確かメアを殺そうとして、ぶっ飛ばされて……)
そこで意識が途切れている。と青年――炎佐は考える。と、そこで彼は頬に何かやや湿り気があってぬるっとした感触の何かが触れている事に気づき、少し顔を動かす。
「……あ、起きた? 兄上」
そこにいたのはメアだった。舌をぺろっと出している。
「!」
「ひょおっ!?」
それに気づいた瞬間エンザは起き上がって右腕を振るう。放たれるのは熱風、怯ませる程度の攻撃だがメアは驚いたように飛び退いて部屋の入口辺りまで下がるとあははっと笑った。
「起きた瞬間元気だね~兄上♪ もうちょっとぺろぺろしてたかったんだけどなぁ」
「テメエよくもまあ俺の目の前に顔を見せられたもんだなオイ」
ぺろっと舌を出しながらおどけて笑うメアに対し目をギンと研ぎ澄ませて怒気を隠そうともせず言う炎佐。
「っていうか、ぺろぺろってテメエ俺が寝てる間になにしてやがった!?」
「ぺろぺろはぺろぺろだよ? 兄上ってばなかなか起きないもん。もうそろそろ
おどけ、悪戯を告白する子供のようにメアは言う。
「テメエこれ以上ふざけるってんならもう一度……」
「あぁ、兄上からの殺気……ゾクゾクする……素敵♪」
炎佐は殺気を放つが、メアはそれに対抗するどころか目をとろんとさせて頬を上気したように赤らめ自分の身体を抱きしめるとゾクゾクと身体を震わせる。その口からもハァ、と甘そうな息が吐き出ていた。
「気持ち悪いぞテメエ」
「あー兄上ひどいんだぁ」
目を細めて平坦な声でツッコミを入れる炎佐にメアはぷくぅと頬を膨らませて返す。と、トタトタという足音が聞こえてきた。
「エンザ! 目が覚めたのか!」
そう言いながら部屋に飛び込んできたのはナナ。その表情は歓喜に緩んでおり、目もキラキラと輝いていた。
「ああ……心配かけたか?」
「っ……ま、そりゃさ。お前数日目覚めなかったんだぜ? それよりエンザ! お前あたしがメアに泣かされたって思ってメアをいじめたんだって?」
「いじめ、って、いやそれは否定しないけど……そもそもメアは――」
「うっさい! そんな事あたしには関係ねえんだ! メアはあたしの友達! だからいじめるのはいくらお前でも許さない! いいな!?」
ナナは両手を腰に当ててやや前傾姿勢になりながら、八重歯を牙のように見せて威嚇するように炎佐に言う。その次に彼女はメアの方を向いた。
「メアも、喧嘩はダメだからな? エンザはあたしの兄上みたいなもんなんだ。兄上と友達が喧嘩してるとこなんて、あたし見たくないんだからな」
「ん~……分かった。努力するね。でも兄上からの殺気を受けるとなんていうかこう、気持ちいいっていうか……」
ナナからの注意を受けたメアはそう言い、再びとろんとした目になって頬を赤らめるとはぁはぁと息を荒くしながら自分の身体を抱きしめてぞくぞくっと身体を震わせる。
「「……」」
炎佐とナナもそんなメアの姿にドン引きしていた。
「と、とりあえずだ! エンザ、お前数日眠りっぱなしで腹減ってるだろ? 美柑からおかゆの作り方聞いて来たから作ってやるよ!」
「お、おう。サンキュ」
ナナはそう言って部屋を出て行き、炎佐もそれを見送る。だがナナが部屋を出て行った後、彼は結局メアと二人きりの状態を押し付けられる形になった事に気づいた。
「まあとりあえず、兄上」
「兄上って呼ぶんじゃねえつってんだろ」
メアの言葉に炎佐はまた目を研ぎ澄ませるが、彼女がぞくっと身体を震わせつつ頬を緩ませたのを見て引いた目になる。
「ナナちゃんと仲直りできたし、兄上ともまた仲良くしようね♪」
「俺は仲良くした覚えなんてないんだが」
「ちぇ、いけず」
メアの言葉に炎佐がツッコミを返し、メアが頬を膨らませる。
「ま、俺も別にお前がナナやこの街の皆に害を与えないんなら特段文句はない……だが」
そこまで言うと、炎佐は再び目を鋭くした。
「お前やマスター・ネメシスとやらがヤミちゃんを狙っていた事は忘れない。何かあれば俺はまたお前を攻撃対象とみなす。その事を忘れるな」
「……ふふ、やっぱ兄上って素敵♪」
炎佐のその言葉にメアはくすっと笑みをこぼしながらそう呟く。
それからナナがちょっと失敗したのか米や具が焦げてしまっているおかゆを持ってきて、炎佐がそれを食べながら三人で団欒している内に時間は過ぎていくのであった。
今回は前回の続きのエンザVSメア。そしてナナとメアの関係に決着がつきました。
で、エンザは炎と高熱を操るフレイム星人と冷気を操るブリザド星人のハーフ、バーストモードならば高熱と冷気を同時に操れる。風というのはすなわち空気の動き、空気は熱によって動きが生じる……そして雷というのはメカニズム的に冷気も関係がある。これに気づいた時「あれ?エンザってファンタジーの魔法的に結構万能なんじゃね?」と思いました。(汗)……誓って言いますが、俺、雷の発生に冷気(というか氷?)が関係するなんて全く知りませんでした。仮にも理系なのに。そしてこれは正直付け焼刃の知識なので穴があるかと思いますがご容赦くださいませ。
とまあそれを含めたエンザ超本気モードによるメアフルボッコは正直色々やらかしたなぁと思ってます。というか、メア好きな方々にエンザが嫌われる覚悟です。あの場面、完全にエンザを悪役にするために書いてましたし、後のナナメアのために。(汗)
一応言っておくと、あそこまで全力出した結果エンザ数日間昏睡状態になる(普段出力のバーストモードはせいぜい翌日だるくなったり体調不良引き起こす程度)ので。毎度毎度そうそうそこまでやらせませんのでご安心を。
さて次回は流石に読者様からもツッコミ入れられたので美柑ヒロインの日常編を考えようか、それとも話を先に進めようかで迷っています。まあそこはまた後で考えましょう。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。