「モモ・ベリア・デビルーク、デビルーク星第三王女」
薄暗い教室。十数人の男子――全員彩南高校の制服を着用しているから彩南高校の生徒なのだろう。だが何故か目元を隠す程度に小さい黒い仮面を着用している――はモニターにモモの写真を写しつつ、リーダーらしい青年がモモの名を呼び、高校一年生だが実年齢は14歳であること、さらには推定と前置きしているもののスリーサイズまでも口にする。
「諸君! 我々は皆美しく純情可憐な彼女に等しく心奪われた同志である!!」
リーダーらしい青年は力強く宣言。だが「モモの愛を巡って我々が争うのは不毛であり、慈愛に溢れる彼女の心を無暗に傷つける事態にもなりかねない!!」と主張。
「よって、我々はここに結成する!! 皆で平等にモモさんを愛でる紳士の集い!!
・
リーダーらしい青年のその宣言の瞬間、薄暗い教室にいた男子生徒全員の歓声が響き渡った。
「ったく。あいつら、何がつるぺた派だよ」
「なんかよく分からんが……機嫌なおせよ、ナナ」
少し時間が過ぎて学校の廊下。ナナは頬を膨らませてぶすくれており、炎佐はそんな彼女の横に立って苦笑しながら彼女の頭をぽんぽんと撫でる。が、ナナはご機嫌ななめなためか「子ども扱いすんじゃねー!」と逆に怒り、炎佐も苦笑を漏らす。
「さてと、俺はとりあえずモモにも声をかけてくるから。また放課後にな」
「おー……ま、無駄かもしんねえけどなー」
炎佐の言葉にナナはそう返しながらひらひらと手を振り、炎佐はその言葉に首を傾げながらモモを探す。と、彼女が廊下を歩いているのを見つけるのだが、炎佐は彼女がやけに多い男子生徒を連れている事に首を傾げつつ、とりあえず彼女に近づく。
「モモ」
「あ、エンザさん」
「今日の放課後、ナナと一緒に買い物に付き合え。いいか?」
「今日のですか? 別に構いませんよ。ただし、ただじゃないですよね?」
「たい焼きでも奢ってやるよ」
「いや、ヤミさんじゃないんですから……まあいいですけど」
軽口の応酬で炎佐は買い物の約束を、モモはその代価として何か奢ってもらう約束を取り付ける。
「おい」
と、炎佐の背後から彼の肩を掴む存在がおり、炎佐は振り返ってその相手を確認する。何の変哲もない男子生徒、だが彼からは、というか現在炎佐を取り囲む男子生徒全員が炎佐に殺気を放っていた。
「モモさんに声をかけたい男子は我ら
炎佐の肩を掴み彼を睨む男子生徒に対し、炎佐は不思議そうな顔をした後何かを察したようにモモへと呆れた視線を向けた。
「……モモ、お前また何か変な遊び始めたのか?」
「すいません、今回ばかりは無実を主張させてください」
悪い事をした妹を叱る兄のようなやや強い口調での言葉にモモは咄嗟に頭を下げて無実を主張する。
「貴様! モモさんを怯えさせるとは……」
「文句があるのか?」
炎佐の肩を掴んだ男子は肩を掴む手に力を込めつつ炎佐に吼えるが、炎佐は肩の痛みなど微塵も気にも止めてない様子で睨み返す。
「俺はモモの兄役だ。妹が何かしでかしたなら叱るのは俺の役目だ」
「あ、あに、だと!? ま、まさか貴様、いや、あなたがモモさんの親衛隊の……」
「へぇ、よく調べてるな。学校で名乗った覚えはないんだが……」
炎佐の肩を掴んでいた男子は炎佐の「モモの兄役」という名乗りを聞いて何かを察したように肩から手を離し、慌てた様子で呟く。その親衛隊という単語に炎佐は学校で名乗った覚えのない称号を事情に近い彩南高校の関係者とはいえ一生徒がよく調べたものだと感心した様子を見せる。
「し、失礼いたしましたぁ!! お、俺、いや私、皆で平等にモモさんを愛でる紳士の集い、
炎佐の肩を掴んでいた男子こと中島は慌てた様子で頭を下げ、名乗る。それと共に他の男子生徒も次々と頭を下げながら「リーダー補佐の杉村です」だの「三年の草尾です」だの次々と名乗りを上げていく。
「……話はイマイチ見えないが、とりあえずモモ……お前のファンクラブか何かってことでいいのか?」
「あ、はい、一応……」
一番最初の中島の名乗り以外スルーの体勢に入った炎佐の確認の言葉にモモはこくんと頷く。
「親衛隊である先輩への挨拶が遅れて申し訳ございません! モモさんを愛でる同志としてどうかお力添えを――」
「ちょっと待て、親衛隊の意味が違ってんぞ。アイドル相手じゃねえんだから」
中島のやや誤解している台詞を炎佐は途中でツッコミをいれる形で遮る。
「まあ、別に今はモモも黙認してるみたいだし、俺がとやかく言う必要もないだろ……」
炎佐は面倒になったのかそう呟いてため息をつき、中島達を見る。
「モモに迷惑をかけないのなら、そのなんとかモモクラブに対して俺は別に何も言うつもりはない」
「あ、ありがとうございます!」
ファンクラブの存在を黙認する様子の炎佐に中島は再度頭を下げてお礼を言い、他のメンバーも「ありがとうございます!」と唱和する。
「だが」
しかしそこで炎佐の目つきが変わる。
「モモに手を出してみろ? それは俺への宣戦布告と見なす……いいな?」
「は、はいっ! ご安心ください先輩! モモさんへ手を出す不埒な輩はこの中島はじめV・M・Cの総力を挙げて殲滅してみせます!!」
「……とりあえずモモ、放課後に校門辺りで待ち合わせでいいだろ? ナナにも伝えといてくれ」
「はーい」
中島はじめファンクラブメンバーへの牽制のつもりだったのだが中島に付き合うのが面倒になったのか、彼の言葉を完全にスルーしてモモに約束の確認を取り、モモも気持ちは分かるのか苦笑しつつ返答。それを聞いてから炎佐はその場を後にするのであった。
それから放課後へと時は移り、炎佐は待ち合わせ場所である校門へとやってくる。
「……どういう状況だこれ?」
「あたしもそう思う」
「あ、あはは……」
炎佐の言葉にナナが頭を抱えて返し、モモが全力の苦笑顔を見せる。
「モモさんを守るのは我らV・M・Cの使命です!」
モモの後ろには中島はじめV・M・Cのメンバーが勢揃いしており、その代表というように中島が声を張り上げて宣言する。
「あはは、素敵な状態だねーモモちゃん♪」
「つーか、テメエは呼んだ覚えねえんだがなメアよ」
V・M・Cを見てケラケラ笑っている赤毛の少女――芽亜を炎佐は睨む。と、ナナが「ん?」と首を傾げた後にひひと笑った。
「ああ、メアはあたしが呼んだんだ。買い物ってんなら人が多い方がいいだろ? その方が楽しいし」
「うんうん♪ お礼にたい焼き買ってもらえるんでしょ? 素敵♪」
「テメエの分は買わんぞ」
ナナの言葉にうんうんと頷き、ニコニコ微笑む芽亜に炎佐は強く言い返す。
「ったく。しょうがねえ、とっとと行くぞ。タイムセールが終わる」
「おう」
「はーい」
諦めた炎佐はそう言って買い物メモを取り出し、ナナとモモもこくんと頷く。そして炎佐に着いて行くようにモモが歩き出すとそれに従うようにV・M・Cメンバーも歩き出す。
「ああ、その前に」
と、炎佐はくるりと振り返る。
「せめて半分帰れ」
そして額に青筋を立て、割と本気の殺気を放ちながらV・M・Cに言い放った。
それから近所の商店街へと場は移る。なおV・M・Cは流石に炎佐に本気で睨まれたら逆らう事は出来ず、中島を始め五人程度に数が減っており、しかしそれでもなお「ぞろぞろ入ったら店に迷惑」という事でスーパーに入る時は店頭での待機を命じられていた。ちなみにモモが持つはずの荷物は全てV・M・Cが運んでいる。
「ま、買うものはこんなもんか」
炎佐はエコバッグ片手に買い物メモを確認し、買うものは全て買った事を確認する。
「なーなーエンザ、あたしたい焼きよりあっちのクレープ食いたい!」
と、ナナがくいくいと炎佐の腕を引っ張り、クレープの屋台を指差す。
「……分かったよ。モモもそれでいいか?」
「もう、エンザさんはナナに甘いんだから」
炎佐はナナの要求を呑み、念のためモモに確認を取るとモモはふふっと微笑んで了承する。
「おぉモモさん、なんて慈愛に溢れた微笑み……」
それを目の当たりにした中島達は感動の声を漏らしていた。
「ん? あれ、炎佐?」
「あ、ナナ! モモ!」
と、彼らに向けた声が聞こえ、炎佐もそっちの方を向きながら笑みを見せる。
「よおリト、ララちゃん。偶然、何してるんだ?」
「親父の手伝いでさ、今買い物中。わり、急いでるからまた明日な」
「おう。あ、ナナとモモ借りてるから。晩飯までには返すよ」
「おー」
リトと炎佐は軽く会話をし、リトはV・M・Cメンバーに気づくことなくララと共に去っていく。
「んじゃ、クレープでも買うか」
そう言い、炎佐はナナ達女性陣を連れてクレープの屋台へと向かっていった。
それから炎佐が買うのはナナの分にストロベリークレープ、モモの分にバナナクレープ、メアの分にチョコのクレープ。そして自分の分にナッツのクレープ。なおメアの分に関してはナナからお願いされて超渋々奢っており、V・M・Cに対しては奢る義理がないためか買っていない事を追記しておこう。
「はむはむ。いちごうめー!」
ナナははむはむとクレープを食べ進め、笑顔で感想を述べる。
「あ、ナナちゃん。ほっぺにクリームがついてるよ?」
「ほえ?」
と、メアがナナに声をかけ、そう思うと舌でぺろりとナナの頬についているクリームを直接舐めとる。
「……ちょっ、メ、メア何やってんだよ!?」
「え? どうしたの?」
何をされたのか気づいたナナが顔を真っ赤にして叫ぶが、それに対しメアは不思議そうな顔を見せていた。
「ふふ、ナナったら」
モモは慌てているナナを見てくすくすと笑い声を零しながらぱくりとクレープを一口食べる。
「おいモモ」
「はい?」
「頬にクリームついてるぞ」
「ふぇ!?」
ナナを笑っているモモの頬にもクリームがついたらしく、それを炎佐が指摘したことにモモは顔を淡い赤色に染める。状況はさっきのナナと全く同じである。
「拭いてやるから動くなよ」
だが炎佐はティッシュを取り出すとあっさりとクリームを拭い、そのティッシュを後で捨てるつもりなのかポケットに入れる。
「ったく。ナナの事笑えねえぞ」
「…………」
「どうした?」
「なんでもないです」
おかしそうに笑う炎佐に対しモモはジト目を向け、炎佐がどうしたと尋ねるとモモはぷいとそっぽを向きながらそうとだけ返す。そんなモモの様子に炎佐は不思議そうな顔を見せていた。
「おぉ、照れたモモさんも可愛らしい……」
「だが、このままではモモさんは先輩と……」
「いや、先輩とモモさんは兄妹のような関係だそうだ。そういうものはないのではないか?」
なおV・M・Cもそんな感じにざわついていた。
それから翌日。炎佐は用事があるとだけ言って御門のところに行っており、リトは一人教室で暇を持て余していた。
「ん?」
と、携帯にメールが着信。リトは携帯の液晶画面でその相手を確認する。
「モモ?」
呟き、メールを確認。それには「大事な用がある」と書かれており、体育倉庫に来てください。エンザさんには内緒でお願いします。という文面になっていた。
(もしかして、メアの事で何か進展が? でもなんで炎佐に内緒って……)
リトはモモの目的をそう推測し、しかし何故炎佐に内緒にするのかと疑問に思う。だがそこで炎佐は以前ティアーユがメアに襲われた(結局誤解だったが)時に炎佐が彼女に対して異常な敵意を抱いていたことを思い出し、新たな情報で炎佐が暴走する事を防ぐための相談なのかもしれないと予想する。
そう考えるとリトは席を立ち、教室を出ようとする。
「んお? どうしたんだ、リト?」
「あーいや、ちょっとトイレ。気にしないでくれ」
「おお?」
丁度戻ってきた猿山が声をかけるが、リトはそうとだけ返してその場を去り、猿山は首を傾げるがまあいいかで終わらせて席に戻っていった。
一方体育館近くの渡り廊下。中島始めV・M・Cメンバーはここに勢揃いしていた。
「女子は現在更衣室で着替え中だ。モモさんが出てこられるまでここで待機する!」
『おう!!』
中島の宣言にV・M・Cメンバーが了解の意を唱和。が、その時彼らは着替え中、という言葉からモモの下着姿を妄想し、顔を真っ赤にする。
「い……いかんいかん!! 清純なモモさんをワイセツな妄想で汚すなど!!」
V・M・Cメンバーの一人が近くの壁にガンガンと頭をぶつけて妄想を消し去ろうとし、他のメンバーも顔を赤くして悶える。
「そうだ同志! 我々はモモさんの純潔を守らなければならない立場だ!! いつかモモさんが我々の中から恋の相手を選んで下さるその時までっ!! 諸君! 紳士であれ!!」
そして中島が再び組織の理念を熱論する。V・M・Cメンバーも「おお!」と唱和する。
「……しかし中島! 気がかりな事が一つある」
「なんだ、杉村」
中島に声をかけるのはV・M・Cのリーダー補佐である杉村。
「2-A、結城リトだ」
「確かにモモさん達三姉妹は結城リトの家に居候しているが、彼はモモさんの姉、ララ先輩の婚約者候補だろう? 警戒する必要はないはずだ」
「その通りだ。だが、1-D風紀委員の彼から気になる証言がある」
杉村が言うのは結城リト、だが中島は彼はモモの姉であるララの婚約者候補であり、警戒するべき対象ではないと判断しているらしくそう答える。それについては同意見なのか杉村もこくりと頷くが、1-D風紀委員であるというメガネの男子を見ながらそう続け、彼に対して発言するように促す。1-D風紀委員であるメガネの男子もこくり、と頷いて重々しい口調で話しだした。
「結城リトは、校長と並ぶハレンチ人物として、風紀委員の間では幾度となく議題に上がっている男なのです!……」
「な、なに!? それは本当なのか!?」
「結城リトのクラスメイトである2-A風紀委員、古手川唯先輩が上げています。間違いない情報と言えるでしょう」
その言葉を聞いた中島が情報が正しいものかと尋ね、1-D風紀委員であるメガネの男子はリトのクラスメイトである古手川唯が言っているのだから確かな情報だろうと答える。それを聞いたV・M・Cメンバーもざわつき、その中から「アイドルのRUNちゃんを押し倒しているのを見たことがある」「俺が見た時は三年の天条院先輩だったな」という新たな証言が飛び出してきた。
「で、ではまさか、あの純情可憐なモモさんが……」
中島がそう呟き、妄想する。それは何故かスクール水着姿のモモがリトに溶けかけのバニラアイスキャンディーを無理矢理食べさせられ、モモが涙目になりながら許しを請う光景。
「おのれこの変態があああぁぁぁぁ!!!」
「お、落ち着け中島!! 変態はお前だ!!」
中島の怒号に対し杉村が酷い言いぐさでツッコミを入れる。
「そ……そうだな。ここにいる者も含め、幾多の男の誘いを拒み続けてきたガードの固いモモさんだ。あんな冴えない結城リトの言いなりになるはずがない……しかし……」
中島は自分に言い聞かせるようにそう呟きつつ、不安を隠せないでいる。
「大変だぁ! 女子の着替えが終わったのにモモさんがいない!!」
「何ィ!?」
その時V・M・Cメンバーの一人が血相を変えて駆け寄りながら報告。中島の声が響いた。
「おーい、モモ。ここにいるのかー?」
一方体育倉庫にやってきたリトは中にいるのだろうモモに呼びかけながら倉庫に入る。その時ガタンと音を立てて扉が閉まり、反射的に音の方を向いてしまったリトの腕を何者かが引っ張る。
「いらっしゃいませ」
「モモ!?」
彼の腕を引っ張って腕に抱き付くような格好になるモモにリトは驚いた声を出すが、彼女が「来るの遅いですよ~」と言うとつい「ゴメン」と謝ってしまう。
「つか、大事な用って……なんで体操服?」
リトは何故自分をここに呼んだのか、と一緒に何故モモは体操服なのかと問いかけるが、モモは何故かこっちの話を聞く様子もなくぽうっとした顔を見せている。
「……モモ? って、うわっ!?」
もう一度呼びかけた時、突然モモははっとした顔になるといきなりリトを体育倉庫に敷かれているマットの上へと押し倒す。
「ふふ……どうですか、リトさん。体育倉庫のマットの上で女子と二人きり。ハーレムの王としてこの状況にときめくものはありませんか?」
リトはそこで気づく。モモの言う大事な用、それはメアの事に関する事ではない。
「い、いや……俺は別に……ちょ、モモ!?」
目を逸らしながらモモの言葉を否定するリトだが、モモはリトの制服をたくし上げるとリトの身体を手で擦るように弄び始める。
「
手で弄ぶだけでなく、身体を密着させ、ぺろぺろとリトの身体を舌で舐めていく。
(う~恥ずかしい。起きてる時のリトさんにイタズラするのは勇気がいるのよね……でも、頑張らなくちゃ)
モモは恥ずかしさに負けないよう自分に言い聞かせる。リトの理性を崩壊させる事、それがリトの肉食化への一番の近道なのだと。
「うぅっ……モモ……」
リトも自分が何か変な気持ちになってきた事に気づき、なんとかモモを止めないとと思って彼女の肩を掴む。
「!?」
「……え?」
その時モモががばっと、どこか怯えたように起き上がり、その様子にリトも呆けた声を出す。
「……あ」
モモは起き上がった数瞬後に気づく。リトがその気になったのかと思い怯えてしまったこと、余裕がない事がばれたらリトがハーレム計画を拒絶するきっかけになりかねないこと。
「(ゴ、ゴマかさないと!!…)…す、少しはその気になりました?」
「い、いや、俺は……」
モモはくすり、と余裕綽々のような笑みを見せながらリトに尋ね、リトも赤らめた顔で言いよどむ。
『モモさーん!!!』
その時、その空気をぶち壊す大声が響いた。
「いたぞ!! ご無事だ!!」
「おのれ結城リト!! 力にものを言わせてモモさんをこんな所に強引に連れ込むとは!!」
「え?」
(なんで彼らが!? 尾行は気をつけたし、この倉庫の扉は誰にも開けられないようツタで厳重に縛っておいたはず……)
怒りに燃えるV・M・Cメンバーにリトは呆けた声を漏らし、モモは何故彼らがここにいて、しかも開けられないようにしたはずの扉が開いているのかと心中で呟く。と、彼女は蔦の切れ端を持っているメアがV・M・Cメンバーの後ろに立っていることに気づく。
(じゃああのコにつけられて……やられた!!)
「結城リト! モモさんから離れろ!!」
モモはメアに尾行されたことに気づき、中島がそう叫ぶと共にV・M・Cメンバーが銃を構える。
「撃てー!!」
「わ、ちょ、いててててて!!」
「リトさーん!!」
中島の号令でリト目掛けてエアガンを連射、息をつかす暇も与えないBB弾の雨にリトが怯み、モモが悲鳴を上げる。
「はーははは! もう安心ですよモモさん! あの変態は我々V・M・Cが成敗します!!」
「や……やめて……」
中島の言葉にモモは震える声で呟く。と、強面のV・M・Cメンバーがリトを掴みあげた。
「ご心配なく! 二度とナメた真似ができないようじっくりと――」
その言葉が聞こえた時、モモの頭の中で何かがブチリ、と切れる音がした。
「じっくりと……何?」
モモから放たれる威圧感。それが空気を震わせ、中島のメガネにびしりとヒビを入れる。
「私は……いつもお世話になっているリトさんと大切なお話をしていただけですよ……リトさんは……あなた方が考えているような
そう言い、モモは中島達V・M・Cをギロリと睨む。
「リトさんに謝りなさい。今すぐ」
その瞬間、V・M・C全員が一斉にリトに向けて土下座した。
「うひゃーすごい殺気! さっすがモモちゃん♪」
「おい、メア」
体育倉庫の外でそれを観戦していたメアはモモの放つ殺気に歓声を上げる。と、その後ろからそんな声が聞こえ、メアはくるりっと振り返るとにぱっと微笑んだ。
「やほ、兄上♪」
「その呼び方はやめろ……ったく」
メアの呼び方に声の主――炎佐は呆れたように息を吐く。
「あはは、怒った?」
「今回に限ってはグッジョブと返してやる。モモのやつ、また変な事しでかそうとしたようだな」
リトとモモのイチャイチャを邪魔したのを怒ったのかと尋ねるメアに対し、炎佐はむしろ邪魔したことを褒めてモモがまた何かやろうとした事にため息をつきつつ、未だ黒い殺気に覆われる体育倉庫を見る。
「まあ、今回は大目に見てやるとするか。あいつらにもいい薬だろ」
「モモちゃんのファンクラブ?」
「おう。純真だの可憐だの言ってたが、モモのそんないい子ぶりっ子の表面だけ見てる奴らにモモの魅力は分かんねえさ」
炎佐はそう言ってメアに背を向けて歩き出す。
「テキトーに切り上げたら授業に遅れないよう気を付けるようにだけ伝えといてくれ」
「はーい♪ 任せといてー兄上♪」
炎佐の言葉にメアはそう言い、ひらひらと手を振って彼を見送った。
後日。炎佐は一応V・M・Cに対してリトに手を出さないよう一言釘を刺すため彼らがいるであろうモモの教室に向かう。
「モモ
やはり聞こえてきた中島の声。だが炎佐はその言葉の一部がおかしい事に気づき、教室を覗き込む。
「俺達ほんとバカでした! どうかお仕置きしてくださいモモ様!!」
そこにいるのは全員床に直接正座し、ハートマークを乱舞させながら「お仕置きしてください」だの「叱ってください」だの言い出しているV・M・Cメンバーの姿。どうやら何か変な趣味に目覚めてしまっている様子だ。
「「お前……こいつらに何したんだ?」」
ナナと炎佐が怪訝な目をモモに向けながら言葉を重ねる。
「あの、ほんとすいません……無実、主張させてください……」
モモも頭痛を堪えるように頭に手を当てながら弱々しくそう呟いた。
今回はV・M・C編。ちなみにアニメで中島の声聞いた時に「キリトだこいつちょっと何してはるんwww」と超笑いました。そういえばアスナ役の声優さんってララの声優なんだよな。
さてと、次回はシリアスにあの話に行こうか。それともサブヒロイン編、この前里紗いったから今度は御門かなそれとも凜かなと考えてたりしています。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。