ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

37 / 67
第三話 日常と決意

彩南町。もう日も暮れた頃。エンザ、モモ、恭子は三人並んで歩いていた。つい先ほどまで幡谷駅前の某ファーストフード店で食事を取っており、一緒に帰ってきたのだ。とはいえ家が別方向らしい里紗と未央はちょっと前に分かれているのだが。

 

「ところでキョーコさん。エンザさんの家にお泊まりって大丈夫なんですか?」

 

「何を今更」

 

地球のマスコミ関係を心配しているのかモモはそう尋ねるが、恭子はくすくすと笑ってそう返す。そしてピンッと自分がかけているメガネを弾き、ベレー帽とロングヘアのカツラを指す。

 

「なんのために変装してるって思ってるの? エンちゃんに迷惑はかけないよ♪」

 

「ホントかよ」

 

恭子の言葉に炎佐はぼそりと毒づく。

 

「ま、最近はこのメガネ少し度が合わなくなってきたんだけど」

 

「ん? それ小道具つってなかったか?」

 

「言ったっけ? ベレー帽とカツラは使わなくなった小道具を貰ったんだけどメガネは自前だよ?」

 

恭子はメガネをくいくいしながら呟き、その言葉を聞いた炎佐が首を傾げると恭子もどこかに食い違いがあったのか首を傾げ返す。

 

「ふふ。じゃあ今度エンザさんとメガネ買いにデートでもいかがです?」

 

「あ、いいねそれ♪ 行こ、エンちゃん♪」

 

小悪魔のように尻尾をひょこひょこ揺らすモモの言葉に恭子も悪戯っぽく笑って炎佐の腕に甘えるように抱きつく。

 

「へいへい。スケジュール空いたら教えて、なるべく空けるから」

 

炎佐も炎佐であっさりとデートを受け入れたのであった。

 

「……?」

 

と、炎佐は突然足を止め、辺りを見回す。

 

「どしたの、エンちゃん?」

 

「静かに」

 

首を傾げる恭子の唇にエンザは人差し指を押し当て、静かにするよう示す。

 

「……無数、いえ、連続した風切り音……それに打撃音、やや聞こえてくる苦しげな声……穏やかではありませんね」

 

「え、え? な、なに、通り魔?」

 

モモも勘付いたのかきつい表情を見せる。唯一気づけなかった恭子は一応宇宙人の血を引いているとはいえやはり一般人か物騒な単語に怯えていた。

 

「モモ、行くぞ」

 

「はい。お先に失礼します」

 

賞金稼ぎの目になったエンザの言葉を受けたモモはこくりと頷き、その背中に反重力ウィングを展開。一気に空へと飛びあがる。それと同時にエンザもデダイヤルから鎧を転送、着用してから恭子の手を引く。

 

「キョー姉ぇ、一緒に来て」

 

「あ、うん」

 

これから危険かもしれない場所に乗り込むとはいえやはり一緒にいるのに敢えて目を離すのは心配なのか。それを察した恭子がこくりと頷くとエンザはよし、と頷く。

 

「ふぇ、ひゃぁっ!?」

 

エンザはいきなり恭子を横抱き――所謂お姫様抱っこの形に持っていく。いきなりのお姫様抱っこに恭子の顔が赤く染まった。

 

「悪いけどモモについてかなきゃなんないから。しっかり掴まってて」

 

だがエンザは既に夜の闇に消えかけているモモを見上げており、赤くなっている恭子には気づいていない。

 

(お、お姫様抱っこなんて、ドラマでもされたことないよぉ……)

 

さらに恭子も恭子でそれどころではなくなっていた。が、エンザはやっぱり気づかないまま膝を曲げる。

 

「せいっ!」

「っ、きゃああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

そしてジャンプと同時に踏み切った足の裏を爆発させてさらに勢いをつけジャンプ。ひとっ飛びで近くの家の屋根の上に着地すると、その家に配慮してか今度は爆発によるジャンプ力のブーストをせず素の身体能力のみでジャンプ。次の屋根の上に飛び移るという芸当を繰り返しながらモモの後を追う。ちなみにお姫様抱っこに放心状態だった恭子はいきなりの大ジャンプに悲鳴を上げながらエンザにしがみついていた。

 

 

 

 

 

「くく。いい格好じゃないか、金色の闇。おトモダチに弄ばれる気分はどうだい?」

 

彩南町のある公園。ヤミは以前転入した彩南高校の制服をボロボロにして倒れ伏すという宇宙最強の暗殺者の異名には似つかわしくない姿になっており、それを褐色肌の殺し屋――アゼンダが近くの壁の上に腰かけながら見下すように言う。ヤミは親友である美柑を人質――というか襲われて意識を失った美柑がアゼンダの念動波(サイコキネシス)によって操られているといった方が正しい――にされてしまい、ほとんど抵抗する事が出来ず一方的に甚振られていたのだ。そして今はその美柑に身体を弄ばれてしまっている。

 

「安心しなよ。しばらく楽しんだら最後のトドメは二人一緒に刺してやるから」

 

アゼンダはそう言い、左手に装備していた刃をぺろりと舐める。

 

「二人でイケりゃあ本望だろ?……天国にさ」

 

アゼンダはヤミを憎みと恨みを宿した瞳で見据えながら語る。昔自分はヤミに負けたことで殺し屋の地位を失い、闇の世界で迫害されて身も心もズタボロになったと。そこまで語った時、アゼンダの口元に嗜虐的な笑みが浮かんだ。

 

「そして今度はあんたのせいでその()が死ぬ!! 酷い話だよねェ! あんたと関わる奴は皆不幸になっちまうんだ!!」

 

嗜虐的な笑みを浮かべながら嬉々とした様子で語るアゼンダ。その言葉を受けたヤミが硬直する。

 

「勝手な事言うな!!」

 

だが、それを操られた美柑に一撃でKOされていたリトが否定する。

 

「美柑とヤミは不幸なんかじゃないぞ!! お前なんかと、一緒にするな!」

 

「なんだと……」

 

リトの一喝を聞いたアゼンダがイラついた目でリトを睨む。

 

「地球の坊や……どうやら先に死にたいらしいねェ……」

 

呟き、アゼンダは刃を構えリトの方に跳ぶ。リトは自分が気を引いている隙にヤミに美柑を連れて逃げさせるつもりだ。

 

「何!?」

 

だが、その前にアゼンダの左頬を何かが掠め、一筋の傷跡が彼女の頬に出来ると僅かな血が頬を伝う。リトの目の前に落下したそれは黒い薔薇だ。

 

「この足は爪、全てを引き裂き、灰塵と化す焔の竜爪――」

 

さらに上空からそんな声が聞こえる。なお一緒に「きゃああああ!!」という悲鳴が聞こえてきた。

 

「――飛竜爆炎脚!!」

 

「づぅっ!!??」

 

アゼンダの頭上から迫りくる炎の一撃、アゼンダは咄嗟にその場を飛び退くが、直後ドゴォンという衝撃音が聞こえ、先ほどまで彼女が立っていた場所では炎が燃え盛っていた。だが、その炎は一瞬で消え去り、白銀の鎧を纏った少年が中から姿を現す。

 

「エンザ! そ、それにキョーコちゃんまで!?」

 

「リトさん、ご無事ですか?」

 

「モ、モモ!?」

 

エンザの姿にリトが驚愕の声を上げ、その横にモモが降り立ってリトの安否を確認。ちなみに恭子は先ほどのエンザの蹴りに至る動きをある意味特等席で見ていたためか涙目になって「死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思った」と繰り返し呟いている。

 

「なんだい、あんたらは?」

 

「モモ・ベリア・デビルーク。デビルーク星の第三王女です」

「デビルーク親衛隊客員剣士、エンザ」

 

アゼンダの言葉に対しモモとエンザは名乗りを上げる。ちなみに恭子は名乗り前にエンザから降ろされ、今は彼の後ろに隠れている。

 

「……何の用だい? 関係ないクセに……あたしの顔に傷つけて、蹴り入れようとして、タダで済むと思ってんのかい?」

 

「「……関係ない?」」

 

アゼンダの言葉を受けたエンザとモモは異口同音に呟き、傷だらけになったリト、ボロボロのヤミ、操られている美柑へと順番に目を向ける。

 

「ここにいる人達は皆、私達の大切な人なんですけど?」

「こいつらに手を出した。俺達がお前に手を出す理由はそれだけで充分だ」

 

「……ふぅん。なら」

 

そう言った瞬間、ビシュッという風切音が響く。

 

「あんたらも一緒にいじめてやるよォ!!」

 

「モモ、下がれ」

 

四方八方から休みなく放たれる鞭、それをエンザはモモを守るように前に出て左手に握った青い刃の刀で全て防いでいた。

 

「おらおらどうしたァ!? 防戦一方かァ!?」

 

アゼンダが嘲笑うように声を張り上げるが、エンザはクスッと冷たい笑みを向けると鞭を受けつつ刀を振り下ろし、鞭を地面に叩き付ける。と同時に鞭が地面に貼りついたように動かなくなった。

 

「なっ!?」

 

「鞭の先端が地面に当たると同時に地面ごと凍結させた……これでお前の武器は使えない……まあ」

 

絶句した後慌てたように鞭を引っ張るアゼンダだがエンザは静かにそう言い、しかしこれ以上の戦闘は無駄だというように刀の刃を消してアゼンダに背を向け、そこで思い出したように振り返ってアゼンダに嘲笑のような冷たい笑みを向ける。

 

「お前、もう終わってるけどな」

 

「……!?」

 

彼が静かにそう言った瞬間、アゼンダの膝が折れ、彼女は地面に倒れ込む。

 

(なんだ……身体がしびれ……)

 

「後は任せたぞ、モモ」

 

「はぁい♪」

 

アゼンダは痙攣ばかりで全く動かない身体を不審に思い、エンザはすれ違いざまモモに呼びかけ、モモも満面の笑顔――ただし目が笑ってない――で彼の言葉に応える。

 

「リト、大丈夫?……美柑ちゃん達も、大丈夫そうだね」

 

エンザはリトの安否を確認しつつ、アゼンダが倒れたと同時にまるで操り人形(マリオネット)が糸が切れたように倒れた美柑を視認する。

 

「って、炎佐、いくらなんでも……」

 

リトは一人アゼンダと相対しているモモを心配する様子を見せる。が、エンザはそれに苦笑で返した。

 

「心配ないって……というか」

 

エンザはそう言い、モモに視線を向ける。

 

「モモ、マジギレしてるから……下手に止めたらこっちにまで飛び火するよ。とりあえず今の内に美柑ちゃんとヤミちゃんを救出してくるよ」

 

長い付き合いで分かっている。とでもいうようにそう言い、彼はすたすたとヤミ達の方に歩いていく。アゼンダの前に立つモモの後ろには巨大な花が生えていた。

それからアゼンダはモモの呼び出した植物――キャノンフラワーというジュダ星由来の鳳仙花の一種。拳大の種子を砲弾のように放つ危険指定種であり、その種子の威力は地面を軽く抉る程もある――による攻撃で気絶させられて惑星保護機構に連行され、彼らは帰路についた。

 

 

それから数日の時が過ぎ、炎佐は上機嫌な恭子と共に人通りの多い街を歩いていた。

 

「えっへへ~♪」

 

「ご機嫌だね」

 

上機嫌な恭子に炎佐はそうとだけ返す。と、恭子は「うん!」と大きく頷いた。

 

「エンちゃんが新しく選んでくれたんだもん。これ、大切にするね!」

 

にこっと笑みを浮かべながら、恭子は赤いフレームのアンダーリムタイプのメガネに手をかける。レンズ自体は当然恭子の視力に合わせたものだがフレームの方は炎佐が選んだものを購入したのだ。その反応に炎佐は大袈裟だな、というように苦笑する。

 

「さてと、用事が済んだからってのもなんだし。もう少し街を見て回ろうか」

 

「もちろん!」

 

二人は話し合い、デートの続行を決めるとそのまますたすたと歩き出した。

 

「ん? あれ、恭子ちゃんに炎佐君?」

 

と、いきなり自分達に呼びかける声が聞こえ、二人は首を傾げながら声の方を向く。

 

「ああ、やっぱり」

 

「あ、どうも」

 

駆け寄ってきた男性に恭子がにこっと微笑みながらぺこっと一礼する。

 

「……?」

 

が、炎佐はイマイチ相手が誰なのかピンときていない様子を見せており、その男性は「あはは」と苦笑する。

 

「えーっと、君には俳優名よりも役者名の方が早いかな? ほら僕だよ、池綿」

 

「……ああ! どうもお久しぶりです。いつもキョー姉ぇがお世話になってます」

 

男性の名前――というか役者名――を聞いた炎佐はようやく合点がいったように頭を下げる。声をかけてきたのは恭子が主演の特撮ドラマこと爆熱少女マジカルキョーコの登場人物である池綿を演じている俳優だ。

 

「ほんと久しぶりだね、君最近見学来ないし。また遊びに来なよ、皆歓迎するし、特に恭子ちゃんなんて君がいるといないじゃ演技のキレが全然違うんだよ」

 

「ちょっ、余計な事言わないでください!」

 

池綿のにやにや笑いながらの言葉に恭子が顔を赤くする。が、池綿はクスクスと笑みを見せていた。

 

「本当のことでしょ? 炎佐君が撮影見学に来る日のリハ、全部一発オッケーだったのに。なんだっけ? 急にバイトに入らなきゃいけなくなったとかで来れなくなったと分かった後の本番。NGの数数えるのが大変だったよ」

 

「にゃー!!!」

 

池綿の大暴露に恭子は顔を真っ赤にしてじたばたしながら奇声を発する。

 

「ま、そういうことで。恭子ちゃんのためにも都合がついたら遊びに来てよ」

 

「あ、はい。都合が合えば」

 

池綿のイケメンな笑顔での言葉に炎佐も頷いて返す。と、周りから「ね、ねえあれって」とか「もしかして……」とかいう声と視線がくる。

 

「わ、やば。じゃ、じゃあまたね!」

 

「エンちゃん、逃げるよ!」

 

流石芸能人か、池綿は挨拶少なく二人から離れ、恭子も手慣れた様子でその場を離れる。

 

「あっぶなー……眼鏡だけじゃちょっとまずいかなぁ。ベレー帽持ってくればよかった」

 

池綿と話していた場所から離れ、これで大丈夫だと判断してから恭子はそうぼやく。

 

「あれっ、キョーコ!」

「エンザ!」

 

「「この声!」」

 

と、またも二人を呼ぶ男女の声が聞こえてきた。

 

「あ、ルン!」

「レン!」

 

声をかけてきたのはルンとレン。しかしメモルゼ星人の特徴である男女一体のはずが二人とも別々の身体で存在している。

 

「リトから聞いたよ。第三次性徴おめでとう」

 

「ありがとう」

 

エンザとレンはそう言って握手する。ついこの間、ルンとレンはメモルゼ星人独自の第三次性徴を経て成人の身体となり、男女別々の身体に独立したのだ。レンは「これで自由だー!」と喜んでいたし、ルンも「これで気にすることなく立派なアイドルになってリト君のハートをバッチリ射止めてみせる!」と決意を新たにしていた。

 

「ところで二人はどうしたの?」

 

「あーうん、ちょっと買い物に……最近地球だと私ばっかり外に出てたから、レンの服がね……」

 

「流石に敢えてルンの服を着る訳にもいかないからな。今は少ない地球風の私服と制服をきまわししてしのいでいるが、ずっとそうというわけにもいかないし」

 

恭子の言葉にルンは苦笑交じりに、レンは疲れた様子で呟く。言われてみれば確かにルンは私服だがレンは彩南高校の制服を着用している。

 

「あ、じゃあ私達もレン君の服選びに付き合うよ! いいよね、エンちゃん?」

 

「あ、ああ。別にいいけど……」

 

「うん、じゃあ決まりね! いいよね、レン!」

 

「あ、ああ……」

 

テンション上がった女性コンビに男性コンビは押されていた。

 

それから四人はあるデパートの洋服売り場へと移動する。

 

「ねえねえ、これとかレンに似合いそうじゃない?」

 

「そーだね。レン君かっこいいし、いいんじゃない? まあエンちゃんには敵わないけど!」

 

ルンの言葉に恭子もうんうんと頷く、がさりげなくドヤ顔でのろけるのは忘れない。

 

「……ふう。多少覚悟はしていたが、女性の買い物とは長いものだな」

 

「そうだな」

 

きゃいきゃいはしゃいでいる女性陣を見ながら、売り場近くのソファで休んでいるレンと炎佐はそう話す。

 

「レーン! 次こっち着てー!!」

 

「はいはい! じゃ、ちょっと行ってくる」

 

「おう」

 

ルンの声にレンは了解と返して炎佐に声をかけると彼女らの方に歩いていき、炎佐も大変だなぁと苦笑する。

 

「あ、エンザー。あなたの分も探したからちょっと来てー!」

 

「……は?」

 

前言撤回、炎佐も巻き込まれていた。

 

 

 

 

 

「……まぁ、これで一安心かな」

 

「なんで俺まで……すいません、プリンセス・ルン」

 

服を買い終え、レンはこれでひとまず服の心配はしなくてよくなったと安堵の息を吐き、炎佐は何故か一緒に服を買われ、奢られでもしたのだろうかルンに声をかける。

ちなみに現在レンは白色の髪と同色のシャツにルンが選んだ緑色のジャケットを着てシンプルな青色のズボンといういで立ちになっており、それぞれ単品ではシンプルこの上ないデザインだがレンはやけにかっこよく着こなしており、他に買った服を紙袋に入れて肩に担ぐようにしているポーズも様になっている。対して炎佐は恭子の選んだ赤色のパーカーを前のファスナーを閉めずに着てその下の紺色のシャツを露出、黒色のズボンをはいて何故かパーカーについているフードを被る格好になっている。

炎佐からの謝罪にも似た声かけを聞いたルンはふふっと微笑んだ。

 

「気にしないでいいって。キョーコにもちょっと出してもらったし」

 

「あ、そう。じゃあ大丈夫だな」

 

「ちょっとエンちゃん。私にお礼は~?」

 

ルンの言葉に炎佐が納得した様子を見せると恭子はジト目で炎佐を見る。

 

「ってかエンザ、なんでフードなんて被ってんの?」

 

「うっせーよお前ら三人と一緒に顔出しして歩く勇気なんてねえっての」

 

ルンが不思議そうに炎佐に問うと彼はそうとだけ返す。言われてみれば周りの女子からの視線はレンに集中、黄色い声を上げられており、恭子はそれらをちらりと見た後再び炎佐に目を向ける。

 

「エンちゃんも充分かっこいいと思うんだけどなぁ……まあ、競争率上がり過ぎても困るけど」

 

恭子は首を傾げながらぼやいた後、炎佐から目を逸らしながら聞こえない程度の声量でそうぼそりと呟いた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、私達はここで」

「また」

 

「ああ。またな」

「また撮影の時にね~」

 

彩南町の駅で炎佐と恭子はルンとレンと別れ、帰路につく。

 

「あ、炎佐さん!」

 

と、その途中で呼び止める声が聞こえ、炎佐はそっちを向くと今まで被っていたフードを外して笑みを見せる。

 

「や、美柑ちゃん」

 

てててっと走り寄ってくる相手――美柑だが、炎佐の前に立とうとすると何故か顔をやや逸らしてもじもじとした様子になる。

 

「どうしたの?」

 

「あ、いえその、なんだか普段と違ってかっこいいっていうか……あ、べ、別に普段がかっこ悪いってわけじゃないんですけど……普段よりもおしゃれっていうか……」

 

やや顔を赤くしてもじもじしながら呟く美柑。すると炎佐は「ああ」と納得したように頷いた。

 

「この服、ルンやキョー姉ぇが選んだものだから。現役アイドル二人に選ばれたんだし、そりゃ俺が選ぶよりはセンスあるんじゃないかな?」

 

「そう、なんですか……」

 

炎佐の言葉に美柑はやや複雑そうな様子を見せるが、次に思いついたように炎佐の手を握り、もう片方に手に持っている買い物袋を見せた。

 

「あの、これからうちで晩御飯にするんですが、よかったら炎佐さんと恭子さんもいかがですか?」

 

「いいのか?」

 

「はい。どうぞご遠慮なく」

 

そう言い、美柑は腕を絡めるようにして炎佐の腕に抱き付くと満面の笑みを浮かべる。

 

「……ははぁん」

 

その様子を見た恭子も何かに勘付いたように笑みを浮かべ、彼女も腕を絡めるようにして炎佐のもう片方の腕に抱き付く。

 

「おい、美柑ちゃんはともかくキョー姉ぇ、歩きにくい」

 

「別にいいじゃん」

 

炎佐のブーイングもなんのそのというように恭子はそう言い、むしろまあまあ膨らんでいる胸を押し当てるように抱きつく。

 

「だからやめろっつの……」

 

押し当てられる胸に炎佐はやや照れた様子を見せ、それを見た美柑は唇を尖らせて半目になってこっちもぎゅっと抱きしめるが、特に反応はない。

 

「……」

 

美柑は目つきを半目からジト目にランクアップさせつつ、炎佐を引っ張るように歩き出した。

 

 

 

 

 

「んまー!」

 

それから時間が過ぎて夕食時。恭子は恋敵美柑の料理に舌鼓を打っていた。今日のメニューはオムライスと唐揚げだ。

 

「でもいきなり悪いな、リト」

 

「気にすんなって。皆一緒に食った方が美味いしさ」

 

炎佐はいきなり夕食にお邪魔してしまった事をリトに謝るが、リトは笑いながらそう言って唐揚げを口の中に放り投げる。確かにララと恭子は姦しくだが笑顔で話しているし、賑やかな食事であることは間違いない。と、炎佐はナナの方を見て「ん?」と声を漏らす。

 

「はぐはぐ」

 

「おいナナ、頬にケチャップついてんぞ。拭いてやるから動くな」

 

「ん~」

 

オムライスを食べていたナナは頬にケチャップをつけており、炎佐がツッコミを入れて近くにあったティッシュでケチャップを拭う。ナナもまるで猫か何かみたいに声を出しながらケチャップを拭われるが、炎佐がティッシュをゴミ箱に放り捨てた辺りではっとなる。

 

「こ、子供扱いすんじゃねー!」

 

「あーはいはい悪かった悪かった」

 

ふしゃーと猫が威嚇するように声を上げるナナだが炎佐は慣れたようにあしらっており、その横のモモがくすくすと笑う。

 

「炎佐さん、唐揚げのお代わりいかがですか?」

 

「あぁ、ありがと。美柑ちゃん」

 

続いて美柑が唐揚げのお代わりを炎佐に渡し、炎佐もお礼を返す。

 

「あ、あれ? 美柑、それ俺の……」

 

なおリトがそんな事を言っていたが美柑は兄を睨んで黙殺していた。

 

それからまた少し時間が過ぎてリトの部屋。夕食の間に何故か恭子がリトの家に(正確に言うならばララの居住区)に泊まる事になり、その流れの中で炎佐もリトの家に泊まらざるを得なくなってしまっていた。

 

「なんか、ララが悪いな」

 

「今度はこっちが返すよ。気にすんなって。キョー姉ぇも楽しんでるみたいだし」

 

今度はリトが謝るが炎佐は笑いながらそう返し、用意された客用の布団に寝っ転がる。二人とももう寝るつもりらしく、リトもベッドに寝転がっていた。

 

「……そういえばさ、リト」

 

「ん?」

 

炎佐がふと何かを思い出したようにリトに声をかける。

 

「リトって、ララちゃんの事はどう思ってるの?」

 

「っ!?」

 

その言葉にリトは硬直した。

 

「あ、ごめん。別に深い意味はないんだけど……リトは西連寺さんが好き、なんだよね?」

 

「……ああ」

 

確認を取るような炎佐に対し、リトはこくりと頷きそれを肯定する。

 

「でも、ララちゃんのことも……」

 

「……」

 

続けるような彼の言葉にリトは沈黙。だがその表情を見た炎佐は察したように頷く。

 

「ララはさ、俺にとっては妹みたいなもんなんだ。妹が変な男に捕まりそうになったら、俺は命を賭けてそいつと戦い、守る……だから、正直に言うとリトがララとくっついてくれれば俺は嬉しいんだ。リトは俺が地球で二番目に信頼してる地球人だからさ」

 

「一番はキョーコちゃんってか?」

 

「ご名答」

 

二人は互いに軽口を叩く。だが炎佐の顔はどこまでも真剣だった。

 

「もちろん、リトがララよりも西連寺さんを好きだっていう気持ちも尊重する。無理にくっつけなんて言わない……」

 

炎佐はそこまで言うと起き上がり、リトに向かって片膝をつく。

 

「リト、俺は君の優しさという名の強さを、信念を、志を知っている。ララや西連寺さん、皆を泣かせないのならば、俺は君がどんな選択をしてもそれを支持する。君がその志を貫く限り、俺は君を守ると誓おう」

 

「炎佐……」

 

片膝をついて頭を下げ、しかし真剣な目を見せるエンザと普段と違う姿に困惑するリト。と、炎佐は柔和な笑みを口元に浮かべた。

 

「まあ、固い言い方になったけど要するにさ……リトはリトらしくいてくれって事だよ」

 

「……ああ、分かった。正直、同じことちょっと前にレンに言われたからさ……ララの事はどう思ってるんだ、女の子を泣かせるような真似はするなよってさ……まあ、うん」

 

リトは何か納得したように頷くと、炎佐に手を差し出す。

 

「炎佐。俺、迷ってばっかだけどさ……これからもよろしく頼むぜ」

 

「ああ」

 

リトの言葉に炎佐も頷きながらその手を取り、二人は固い握手を交わすのであった。




ToLOVEる最新刊にてついにリトとネメシスの魂を超融合!(遊戯王感)があったけども……やべえなこれ、意外とうぜえ(情報だけは入手してたので超融合先を炎佐にしようかと画策していた)、しかもこれストーリーの流れ的に融合先の変更は難しそうだな、リトの決意に水を差しそうだとかとかそういう意味で。
あぁ、あとキョー姉ぇひゃっほい……つか恭子コンタクトだったのか、やべえな設定練り直さないと。(作中でも言い訳させた)
とまあそれはさておき今回は最初の方、前回の話のすぐ後の時間軸です。なお基本的に時間軸は原作に準拠しますが、必要のない部分は話の流れで多少捻じ曲げますのでご了承ください。(今回で言うと原作ではヤミとアゼンダの戦いは美柑とヤミが制服姿である事から平日であることは明白だが本作では話の流れ上休日になっています……いえ、前回の話を書いてる段階では直後の時間軸で続きを書くとは思ってなかったので……)
でもってその後は恭子とのデートだったりルンとレンが同時に出てきている、つまり分離している事で原作の方のストーリーもまあまあ進んでいることを暗に示し、最後はリトとのコンビで締めました。

ちなみにアゼンダとのくだりでエンザがしれっと名乗った「デビルーク親衛隊客員剣士」の称号ですけど、これぶっちゃけただのノリです。いえ、一応エンザはギドからの依頼として「ララ達三姉妹及びララの婚約者候補でありデビルーク王後継ぎ候補筆頭である結城リトの護衛」を受けているんですが、デビルーク親衛隊であるザスティン達とも連携してるもののエンザ自身はもう正規の親衛隊じゃないって事でとりあえず箔付けで名乗らせてるだけです。
まあ無印時代は「俺、賞金稼ぎ静養中」「ララ達守ってるのは友達だから、ギドからは小遣いもらってるだけ」と苦しく言い張ってたのに比べれば「デビルークに雇われ動いている」と自ら名乗るだけ多少進歩はしたんでしょうが。

さて次回はどうしようかなっと。では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。